平成23年度第1回「ビジネスリーダーとはどんな能力を持った人か」

岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾
岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾 平成23年度シリーズ

【第1回講座】「ビジネスリーダーとはどんな能力を持った人か」

講師
済藤 友明 氏(東京理科大学大学院 イノベーション研究科 教授)
インタビュアー
坂口果津奈(フリーアナウンサー)
放送予定日時
平成23年12月 3日(土) 12:30~13:30(60分) ※以降、随時放送

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済藤 友明

東京理科大学大学院 イノベーション研究科 教授

1948年東京都生まれ 一橋大学大学院博士後期課程修了
工学院大学工学部助教授、東京理科大学経営学部教授を経て、現在 東京理科大学大学院イノベーション研究科教授
NPO法人日本モノづくり学会代表理事

講義内容

坂口:
ではよろしくお願いします。

済藤:
よろしくお願い致します。

坂口:
さて、先生は普段大学院で企業家論を教えていらっしゃるということなのですが、私はこの企業家論という言葉を初めて聞いたのですがどのようなものなのですか。

済藤:
そうですね、経営戦略論とかそういう言葉はよくお聞きになったと思いますけども、実はその企業家論というのは人を中心にしてものを考えるということで普通ほかの経営学は人が成したことの因果関係を分析するというわけですけれども、企業家論というのはその企業家その人に焦点を当ててその人がどのようなことをやりそれはどのような能力があったからその人ができたのかという、経営学の中ではそういう意味で人に焦点を当てている科目というのはこれしかないわけです。アメリカでは通常は「entrepreneurship」という形で、よく言われますように日本でもイノベーションが必要だ必要だと言われるわけですけれども、それはサラリーマン経営者ではなくてやはり企業家と呼ばれる人がイノベーションを起こしているわけです。例えば今日の話で言いますとスティーブ・ジョブズですね、最近お亡くなりになりましたが非常に天才的な人です。

坂口:
カリスマ的な経営者ということですね。

済藤:
ええ、そうですね。スティーブ・ジョブズはゼロからスタートして大企業の経営者になったわけですけども、彼は企業家としては典型的な人ですね。そうしますとやはり大企業の経営者で例えばGEの(ジャック・)ウェルチとかいるわけですけども、そういう人はどちらかというと管理能力に優れていて企業の利益を非常に高めるわけですけども、何か新しいものをつくるというような形でこの世の中に貢献しているというわけではなくて、企業家というのはそういう意味で言うと新しいサービスですとか新しいものをつくり出しているという、そういう人たちに焦点を当てているという科目です。

坂口:
今日のテーマがビジネスリーダーとはということなのですが、そもそもビジネスリーダーというのはやはりビジネスの世界のトップの人たちで、これは企業家とは違うのですか。

済藤:
そうですね、ビジネスリーダーと言う場合にはそれは企業家もビジネスリーダーになりますし大企業の経営者もビジネスリーダーですし、中小企業の社長もある意味でビジネスリーダーなわけですね。そのビジネスリーダーの中でどのような人たちに焦点を当てるか、今日私がご説明するのはそういうゼロからスタートした企業家でなおかつ大企業の経営者になったという、そういう意味ではディスイズビジネスリーダーということでビジネスリーダーにふさわしいということで今日はそういうテーマにしたわけです。

坂口:
先生は脳科学も研究されていらっしゃるということで企業家を脳科学から読み解くということもされていらっしゃるわけですよね。

済藤:
そうですね、どういうことかと申しますと今までの企業家の分析というのは企業家がどういうことをしたと、その彼がしたことが結果としてどのようなイノベーションを生んだというふうになっているわけですが、何か僕が思いますのはやはり企業家というのは人ですから人の能力があると。例えば経営学でわれわれがよく考えますのは組織というもので考えるわけですね。そうすると組織という能力があるのだと。ところが組織というのは人の集団ですから確かに組織としての能力、例えばよくプロ野球で言いますように実力のある選手だけいてもチームワークが取れてないといい成績が残せないと、それはいわゆる組織の能力をどういうふうにするかと考えるわけですけれども、やはりもっと個人的に考えますと彼が首位打者になったりホームランを打てるというのはやはり彼自身の能力があるわけですね。

そういう個人の能力に光を当てて考えてみた場合に今まではどういうことかといいますと、それが「entrepreneurship」という形で要するに彼がチャレンジ精神があるとか七転び八起ききしてもまだ起き上がるいうようなどちらかというとわれわれが通常で考える国語的な解釈しか今までされてこなかったのですが、それが脳科学のいろいろな成果によって実は経営学の中でも企業家という人にスポットを当てると脳科学が今まで出してきた結果を取り入れると非常に納得しやすい形でそれを説明できるのではないかというふうに思いまして、僕の場合にはそういう意味で脳科学の研究成果を企業家の能力に当てはめるという形でやっています。

坂口:
先ほどお話に挙がりましたスティーブ・ジョブズ、先生は彼をどんなふうに分析されていらっしゃいますか。

済藤:
そうですね、スティーブ・ジョブズは実は今日の話の後半でも出てくるのですけども、やはり彼の一番有名なステイハングリー、ステイフーリッシュ、つまり彼は自分に変に妥協するなと、自分の思い、それを100%出して人生を生きよということなわけですね。それはまさに企業家魂そのものなのですね。それと最近皆さんよく言われますけれどもスティーブ・ジョブズは実は日本の禅ですね、それを非常に信奉したわけです。禅はどういうことかというといわゆるシンプルイズベストなわけですね。そうすると彼がiPodだ何だという形でああいう斬新なものを開発するわけですが、その源はもっとシンプルにできるだろうと、無駄なものはどんどん排除しようという、それはやはり彼が禅というものを非常に心から愛していたという、そういうところとつながると僕は思っています。

坂口:
どうやったらああいう人物が出来上がるのかというか、そういう脳科学でも分析ができるということなのですよね。

済藤:
そうですね、ですから多少の分析はできるのですけども、じゃあその分析をしたことによって自分もそれが身に付くのか、これはまた別の話なのですね。

坂口:
でもそこが一番知りたいところであるのですけどね。

済藤:
ですからみんなそう思うのですけども、簡単に分析したからすぐそれが自分で使えるという特効薬的なものというのはなかなか人間の育成ということでは難しいというふうに思っていただかないと、ノウハウ的にそれをすればすぐ明日風邪が治るというような形でやはりわれわれの研究成果というものをそういうふうに見られると非常にがっかりされるというふうに思いますけど。

坂口:
そうですね、でも今日はせっかくですので先生から少しでもヒントを頂きたいなというふうに思うのですけれども。

済藤:
われわれ経営学の分野から言いますと企業家でありわれわれにとって先生と呼ぶべきだと思いますが、1人目は日清食品のチキンラーメン、カップヌードルを開発なさった安藤百福さんですね。2人目はホンダですね。ホンダといいますと本田宗一郎さんが非常に有名なのですが、実はホンダの実際の経営をなさった方は藤沢武夫さんという、ちょっと知らない方もいらっしゃるかもしれませんが彼を取り上げてみたいと思います。3人目はまだ現存して今JALの会長をやられている稲盛和夫さんですね。3人の非常に日本が誇るべき企業家の方々の事例をちょっとひもときまして、彼らがビジネスリーダーになったのはどんな能力を自分自身で開発し身に付けたのかという、そういうことを少しご説明したいと思っています。

坂口:
すごく興味がありますけれども。

済藤:
ありがとうございます。

坂口:
先生がおっしゃっているキーワードの中に快、不快、それから損得勘定というものがあると思うのですが。

済藤:
これは快、不快といういわゆるフィーリングという感情ですね。それと損得といういわゆるアカウントの感情ですね。人間というのは実はそういう損得という理性で考える世界と、実は感情で好きだ嫌いだというところで考える世界がございまして、これは脳科学で常識になっているわけですが、そういう中である出来事の時にわれわれは意志決定あるいは判断をするわけです。そのときにどうしてこのような意志決定をしたのか、それを脳科学の1つの事例で言いますと、なるほど落とし込むと快、不快という感情と損得という感情がまるで赤コーナーと青コーナーのボクサーのような形で結局結論が出ているのだという、そういうことをちょっとご説明したいと思っています。

これは実はハーバードビジネスレヴューという経営学で一番権威ある雑誌に書かれている論文なのですが、実験経済学で最後通牒ゲームというのがございます。どういうことかというと例えば私が10ドル持っていると、それであなたにそのうち何ドルかを差し上げると。それでそのときにあなたがその額でOKですと言えばあなたも私もお金をもらえると。つまり私は10ドルのうち1ドルあげようが2ドルあげようが5ドルあげようがそれは私の自由意志なわけです。あなたの方としては当然ただでもらえるわけですから、いや、例えば5ドルもらえばうれしいなと思うし1ドルだっていいじゃないかと、こういう経済学の最後通牒ゲームという実験があります。

坂口:
それで何が分かるのですか。

済藤:
そうですね、あげる方としてはなるべく少なくあげたいと思いますし、もらう方としてはなるべく多くもらいたい、それは人間の常ですね。その実験経済学の結果は実は2ドルとか3ドルだとそれを拒否するという実験結果が出ています。それはどうしてかというのは相手のけちんぼうぶりに腹が立ったということですね。そうすると通常われわれが考えますのはただでもらえるのだから1ドルだって納得するよね、人間ってそうじゃないかな思うのですが、実際にそれをゲームの理論として実験をさせてみると多くの人がやはり2ドル、3ドルだと冗談じゃないと、つまり自分が拒否すれば相手ももらえないわけです。

坂口:
そしたらもっともらえるだろうといういろいろな思いが、心の葛藤といいますかそういう感情が生まれるのですね。

済藤:
ええ、そこで分かったことは結局人間の意志決定というのは快、不快というフィーリングの部分、つまり感情の部分と損得という理性の部分、要するにこれの葛藤でどちらかが勝つのだと、こういうことが分かったわけです。

坂口:
では先生次のキーワードなのですけれども経験と知識ということですがこれはどういうことですか。

済藤:
そうですね、日本語で書くと非常に簡単です。実はここで言う経験と知識というのはこういうふうに考えています。経験というのは自分がまさに実践して感じ記憶として自分に残っていること、これを経験というふうに考えています。知識というのは大学で先生から教わるようなものですね。われわれの社会人大学院もそういう意味では知識を与えているわけです。ですから簡単に言うと座学、人から何か教えてもらう、そしてその知識が体系化されている。つまりわれわれは実際に中、高、大学というふうに学んだときに確かに中学生は中学生なりの教え方があって高校生は高校生なりの教え方がありそれは知識なわけですね。それに対して経験というのは人から教わるものではなくて自分が実際に肌で感じ、そして頭で理解したことですね。そういう経験と知識というのは実はこれが企業家のある意味の能力を決める非常に重要なポイントになっているということを少しご説明したいと思います。

実はこういう例を出すと一番分かりやすいと思うのですが、アスリートと企業家の能力というものをちょっと比較したいなと思っているのですが、われわれはアスリートは当然のごとく体力的に優れた人が当然いい成績を残しますよねと思うわけですけども、実は日本語で心・技・体という言葉を聞かれたと思うのですが、心・技・体の心(シン)、これは要するに感情あるいは精神なわけですね、技(ギ)というのは技ですよね、体(タイ)というのはいわゆる体ですよね。実は日本語で言う心・技・体というのはこれは何が一番重要かというそういう順序を出しているのです。それでちょっと皆さんにびっくりされるかもしれませんが、実は心が一番重要なのです。

坂口:
順序とおっしゃいましたか。

済藤:
そうです、順序ですね。

坂口:
心・技・体の順になっているということですか。

済藤:
そうなのです。だから闘争心が一番重要だと。闘争心の弱い人はいくら技があり体力があってもこれは駄目なのだというのがこの心・技・体という考え方なのですね。ここで経営学的な視点で言うと実はもう1つ重要なことがあってそれはモチベーション、簡単に言いますとやる気ということです。先ほどのスティーブ・ジョブズの話で少し触れたわけですが、スティーブ・ジョブズの考え方というのは好きな仕事を探せということなのです。でなければ人生ってつまりませんよねと。そしてその仕事にのめり込んだら自分が納得するまで妥協するなというのが要するにステイハングリーであるしステイフーリッシュなわけです。人から見るとばかじゃないのかと、出しておけば十分マーケットで売れるのだからそれ以上やることはないでしょうというのが実はスティーブ・ジョブズの考え方です。

それに対して後から実は稲盛和夫さんの話のときも少し触れたいと思うのですが、稲盛さんは非常にいいことをおっしゃっているのです。それは仕事を好きになれと言っているわけです。つまりスティーブ・ジョブズのように好きな仕事を探しているならば一生青い鳥は見つからないよ、そんな人は1万人に1人もいないでしょうと。稲盛さんのような考え方がやはり現実的に生きるためには僕は重要だと思いますけども、ただその2人の共通点は結論としては仕事を好きになるということなのです。

坂口:
確かに仕事を好きになるというのは重要なことなのですがなかなか自分の好きな仕事に就くということがまず大変で、それを見つけることが大変なのですよね。でも稲盛さんの言葉で言うとなった仕事を好きになれということなのですね。

済藤:
そうですね、自分に与えられた仕事を天職だと思って頑張りなさいと。昔からよく言いますように石の上にも3年と。そういうときに実はわれわれが考えますのは先ほどの企業家の例ですと、例えばわれわれがいつも思うのはやはりスティーブ・ジョブズにしろビル・ゲイツにしろみんな頭が優秀だったのではないのと、つまり頭の優秀な人はビジネスをやっても成功するのだというふうになるわけですね。そうすると企業家においての体というのはいわゆる知能なわけですね。だからその知能は僕から言わせると心・技・体で言うと体になるので実は一番下の部分だと。一番上の部分は実はやはり気持ちですよね。そして真ん中の部分が技ですよね。この技というのは実は経験によってしか獲得することができないのです。

最近ある新聞でハンマー投げの室伏さんのお父さんが言っていましたが、体力って重要ですよと、しかしハンマー投げを投げる感覚ですね、この感覚がやはり優れてないといい記録は出ないわけです。その感覚を磨くというのは先天的なものではなくて実は後天的なもので練習によって十分パワーアップできる、レベルアップできるというのですね。これはまさにビジネスも一緒で、ですからI坂口で知識を学ぶよりはビジネスの世界に入って経験して技を磨く、つまりビジネスの感覚、感性を身に付けるということの方がより能力としては重要であると。今その中でじゃあ知識がゼロでもいいのかとなりますよね。そんなことはなくてわれわれが知識知識と言うのは僕らの世界では形式知というわけですが、つまり形式知というのは言葉に表現できて相手の人に説明できます、これは形式知、つまり表に出てくるということですね。もう1つそれとは別な世界の知識がありまして、これは暗黙知というわけです。つまり自分はこの体の中に身に付いているのだけども、それを言葉によって説明できないという、そういう知もあるわけです。それを僕らは暗黙知というわけです。

経験によった知識というのは実はいろいろな状況に対してかなり状況対応的にその知恵を生かすことができます。今知恵と言ったのですが、実は知恵と知識というそういう言葉の差をわれわれは理解しなければいけないのですが、さっき言った座学はあくまで知識なのです。だから知識というのは1対1の関係しか利用できないわけです。だから組み立て家具がありましたと、これで書棚をつくりますと。それはこれとこれとこれという形で組み立てればこれができました、しかしそれ以外のものはできない、それが知識なのですね。知恵というのは自分で経験したものですからそこでまた自分がいろいろ考えて応用が効くわけです。それがレゴのような積木をつくるのと同じであるという、こういう説明をすれば少しご理解いただけるかなというふうに思います。

坂口:
ではここからは先生が先ほど3人の方を挙げていただきましたが、まず企業家の安藤さんから少しご紹介をお願いしたいのですが。

済藤:
そうですね、安藤百福さんというのは僕は非常に尊敬しています。最初はいわゆる義務教育しか出られなくて、それでおじいさんの呉服屋を手伝ったという、そういうところから彼はビジネスの世界に入っています。最終的には日清食品という非常に素晴らしい。

坂口:
チキンラーメンをつくられた方ですよね。

済藤:
そうです。それでやはり彼の素晴らしいのは48歳になって初めてチキンラーメンをつくったと。

坂口:
48歳だったのですか。

済藤:
そうです、その前に彼も非常にビジネスの社会で成功しているのですね。成功しているのですけども当時のいろいろな日本の戦争の経緯だとかがありまして、うまくいけば何か失敗、失敗というよりも彼自身の問題ではなくてやはり政府との関係で財産を没収されたりして実はけっこう七転び八起ききなわけです。それは当然企業家というのは一筋の経験でいくわけではなくて、われわれがある意味で想像を絶するような経験をしてそれを乗り越えて初めて成功するわけですね。ですから例えばいろいろな語録があるのですけれども、僕が好きな言葉は人生に遅過ぎるということはない、いつ始めても遅過ぎることはないと。もう1つは彼自身立派なのは自分はチキンラーメンだとかカップヌードルというのを開発したわけですが、やはり彼がチキンラーメンを開発するためにはそれまでの48年間の人生が必要であったという、こういうくくり方をするわけですね。

坂口:
もう自分にとってはこれまでの苦労もすべてが必要だったということですね。

済藤:
ええ、そういうことですね。これは後で成功したからそういうふうに言えるのかというふうな考え方もありますけども、当時の彼の心情としてはやはり今まであって、どういうことかというと彼は途中で食の世界に行こうかなと思ったのですがそれをちょっとちゅうちょしたのですね。それでもう全部財産がゼロになってやはり自分はこれだという形で一気にそこで研究に没頭したわけですね。そういう意味で言うと今までの自分の人生の浮き沈みの48年間がまさにチキンラーメンを開発させたのだということですね。

例えばもう1つ言いますと、彼がチキンラーメンを開発する時に要するに集中力とはどういうことなのかというときに彼はこういう言葉を言うわけですね。それは血尿を見た時だという、そういう自分の経験があるからこそその1年間という非常に短い時間でチキンラーメンを開発できたという、それが彼の言葉なわけです。実は彼の自伝を読むとそういうことが書いてあります。最も新しい言葉をピックアップしたいと思います。例えばそれは本当に彼の魂から発せられた言葉というふうに僕は考えているわけですけども、先ほど言いましたように人生に遅過ぎるということはないと。それと人生の苦しい経験が常識を越える力を発揮させてくれたと。あるいは財産を失った分、その経験が血となり肉となったという、こういう3つの言葉をピックアップしました。

坂口:
すごいですね。

済藤:
そうですね。僕はそこに生きるエネルギーの強さだとか、あるいは忍耐力だとか、あるいは勇気だとか、楽観主義だとか前向き思考だとか、そういう形で彼の言葉をくくりたいなと。今言ったような5つ、6つの言葉を一言で言うとじゃあ何なのか、これは非常に簡単ですね、精神力ですね。

坂口:
精神力ですよね。

済藤:
そうですよね。

坂口:
ただの楽観主義者ではないですよね。

済藤:
ないですね。やはりこれはわれわれの並みの精神力ではないよねということですね。その精神力をもう少し見てみますと苦から楽へと持っていくときには実は一番苦しいわけですよね。しかしその苦のものを楽へと持っていくというのはこれはやはり精神力ですよね。今の安藤さんのビジネス人生を振り返るとそういう苦を楽に持っていく力、実はこれは理性なのだろうかというとそうじゃないよねと、やはりこれは精神力ではないのかなと。次に出てくる藤沢さんだとか稲盛さんはじゃあどうなのでしょうかという、そういうことも少しご説明したいと思います。

藤沢さんの場合は彼はまた安藤さんとは違ったタイプなのですね。災いを転じて福となす、そういう仕事をすることが経営者なのだということですね。失敗したからこれで何かしおれてしまうのではなくて、失敗したらばそれを今度成功に持っていく、これが経営者たる者の仕事ではないのかと。もう1つはこういう言葉があるのです、いわゆる企業家というのは一種のばくち打ちだという。じゃあばくち打ちとは何ですかと。

坂口:
どういうことですか。

済藤:
簡単に言いますとつまり浮き沈みがあるわけです。

坂口:
いい時もあれば悪い時もあると。

済藤:
それで彼は悪い時に従業員をどういうふうにモチベーションを落とさせることなく引っ張っていくかというのが彼の非常なマネジメントの傑出したところなのですね。具体的な話を申しますと、例えば例のマン島TTレースで1位から6位まで独占したという話なのですが、それはちょうど昭和29年の話で、実はその時にホンダという会社は倒産寸前なのです。給料の遅配が行われる寸前だったのですね。その時に藤沢さんは今まで社員に対してホンダは世界一の会社なのだと言っていたわけですね。それが明日給料日の時に給料が遅配だとこれはどういうことなのですかと、従業員は一気にモチベーションが下がりますよね。そうした時に従来から今までしたようにわれわれホンダはマン島TTレースに出て世界一のオートバイ会社なるのだという宣言を従業員の前でするわけです。

坂口:
そういう時に。

済藤:
そういう時にです。そういう時にできる、つまりそれがある意味のばくち打ちなのですよね。つまりそうですよね、ポーカーってありますけどポーカーフェイスってありますよね。いい手が来たときにニッコリしたらこれも駄目だし悪い手のときにガクッとしたらすぐやられますよね。先ほど言いましたように仕事に失敗したときにどうするのかというと、もうこれは駄目だからほかのものに行こうやというふうに考えますよね。つまりこのAという経営戦略が失敗したのだからこれはもうゼロにして今度はBという経営戦略に行きましょうという考え方を普通取るわけです。藤沢さんはそのときにそういうふうに安易に乗り換えをしないわけです。まず失敗したこと、これはなぜ失敗したのかと彼はすごく反省するわけです。それは1人部屋にこもって反省するのですね。そこから冷静になって問題の根本を見つけるわけです。なぜ失敗したのか、どこが間違っていたのかと。それから彼はこうしようというアイデアを出すのです。そしてそれをものの見事に大胆にやるわけです。

これは彼の哲学なのですが松明は自分で持つという言葉があるのです。これは人に頼るなと。実はちょっとびっくりされるかもしれませんが、ホンダは国内でもそうですし海外でもメーカーなわけですね。そして例えばアメリカでオートバイを売ろうといった時に当然当時のオートバイメーカーも自動車メーカーも商社さんを通して売るわけです。ホンダみたいにゆとりのない小さな企業にもかかわらず商社を最初から使わずに従業員、当然藤沢さんが信頼する従業員、社員を派遣して独自の流通網をつくらせるわけです。それは松明は自分で持つという彼の考え方は、要するに松明を持っている後の人に付けば道に転ぶこともないしけつまずくこともないのでこれは安心だよねと、しかしそれは人の後を追っているだけでそれでは自分のものはつかめないのだと、自分で松明を持って自分で転びながらそういう暗闇を進むことによって初めて自分の道が開けるという、こういう考え方を持っていた人なわけです。そういう意味で先ほどの安藤さんと同じように彼の魂から発せられた言葉ということで言いますと松明は自分で持って、そして企業家、起業者は一種のばくち打ちだと、そして災いを転じて福となすという、これが経営者の仕事ですと。今の3つのフレーズが藤沢さんを物語る言葉ではないかと思います。そうすると今の3つのフレーズを先ほどと同じようにある言葉に転換してみると松明は自分で持てですから自力本願ですね。それと胆力ですね、これは度胸です。

坂口:
度胸が必要?

済藤:
度胸というとちょっとばくち打ち的になるのでわれわれの言葉としては胆力という言葉を使います。それとある意味で忍耐、そして藤沢さんの場合には反省心、それと自分が経営者としての責任感ですね。それで今の藤沢さんも安藤さんと同じように何かつらいことがあったらばそれをどういうふうにハッピーな方に持っていくのか、そこが重要な経営者としての仕事ですよねという考えが非常に明確になっているのではないかと思いますがどうですか。

坂口:
そうですね、やはり苦しい時があるからこそ成功があるというか、そこをどうやって乗り越えるか。普通だと先が楽しいというのが見えないとなかなか頑張れないというのがあると思うのですが、そこの精神力ですよね。

済藤:
そうですね、それはまたまとめて言いたいと思いますが、稲盛さんはまた稲盛さん独自の考え方がございまして、彼は鹿児島大学を卒業して自分の思った就職先がみつからずに京都にあった松風工業というどちらかというと給料を遅配したような当時の会社なのですがそこに行ったわけですね。最初は当然ふてくされるわけです、こんなところでは人間はやる気にならないと。彼は辞めようかというふうに思うのですがいろいろあって結局辞められませんでした。そうした時に彼がじゃあここで頑張るしかないと、彼の非常に有名なことは心の持ちようを変えるという、つまり自分の気持ちを変えなければしょうがない、これが非常に重要なことでしてわれわれは感情でつらいだとか面白くないとかありますよね、さっき言いました自分の今与えられた仕事がつまらないと。そのときに人間って2通りしますよね、つまり与えられた仕事がつまらないのだから自分が面白い仕事に転職しようと、これが1つですね。もう1つはその与えられた仕事がつまらない、でもこの与えられた仕事はもう変わらないと、そしたら変えるのはどちらか、自分の気持ちを変えるしかない。現実的には人間は自分の気持ちを変えた方が早いのです。僕はこれがすごく稲盛さんらしい言葉だと思います。

彼は結局自分の気持ちを変えて今度は非常に真剣になってホルステライトというものをつくる実験に集中したわけです。そうすると非常にいい結果が出てきたのですね。それから彼は自分の人生の考え方を変えていくわけです。先ほど言いましたように好きな仕事をするか仕事を好きになるかという、先ほどのスティーブ・ジョブズですね。僕は稲盛さんのこの言葉を聞いた時に、あ、これだなと思ったのですよね。僕なんかもそうだと思いますけども若い人がやはり真摯になって耳を傾けなければいけない言葉だと思っています。

あとはこういう非常に面白い話があるのですね。実はKDDIとIDOの移動体のマーケットの分け方の話し合いがあった時に稲盛さんの方はソニーの盛田さんだとかウシオ電機の牛尾さんだとか名だたる財界の人と組んでいたわけですね。片一方の方はトヨタ自動車をはじめとするところで、当然両社とも自分のおいしいところを取りたいと思って一応言うわけですよね。稲盛さんはその時になぜか自分から降りてしまうのです。つまり何かというとこの両社がいがみ合ってけんけんがくがくしたらこれは一向に収まらないと、ということは移動体通信のマーケットの配分が決まらなければ永遠にお客さまに迷惑を掛けると。要するにじゃあ僕が少し退けばといいますか、自分が欲を出さなければそれでまとまるのならという形で彼は譲ってしまうわけですね。それで後で役員会で報告するわけで、その時に盛田さんとか牛尾さんに、おまえまんじゅうのあんこを人にあげて皮だけ持ってきてあなたどういう考えなのと、こう言われたわけですね。その時に稲盛さんが明言を吐くのですね、皮でも食っていれば死ぬことはない、そしてこの皮を黄金の皮に変えればいいではないかと。普通こんなふうに切り返せませんよね。こういうところが実はやはり稲盛さんたる彼の人物のすごいところですね。これは結果はどうなったかというとあんこを譲った方はだんだん調子が悪くなって最終的には稲盛さんの会社がそのあんこを譲った会社をM&Aして結局彼は最終的には勝つのです。

それで稲盛さんの言葉を先ほどの企業家2人の人と見比べますと1つは心の持ちよう、つまり仕事を好きになるということですね。もう1つは先ほどのマーケットシェアの配分の時に譲ったように情けは人のためならず、これは実はサイバネット工業という会社を彼が引き受けた時の話なのですが、彼自身はずっとセラミックでやってきたのでセラミック以外の技術分野には実は行きたくなかったわけです。ですからその時は損得で言うと、いやちょっとお荷物だよねと思ったわけですが、後からたつと実はこの会社が非常にいい技術をつくり始めるのですね。情けは人のためならずというのはどういうことかというと実は後から自分の方に戻ってくるという、こういう考え方を彼は常に持っているわけですね。その考え方は自分の利益を前面に出すのではなくてまず他人のためにやりなさいと、そうすれば必ず後で自分のところに返ってくるという考えですね。

そういう今の稲盛さんの言葉、フレーズを短くまとめると感情を変えるですね。つまり現実を変えなければ自分の感情を変えるしかない。それと楽観主義ですね。あるいは先ほど言った情けは人のためならずで、要するに自利を捨てるということですね。それと忍耐だとか勇気だとか度胸ですね。そういうものも1つで言うと結局稲盛さんは理性で何か状況判断をうまい形でしてうまい経営戦略を立てたので今の京セラがあるということではなくて、まるっきり理性なんて考えなしに自分の経験から出てきてここは情けは人のためならずとかそういうところで彼は行動して結果として今の京セラをつくり上げるのですね。そういう意味で言うと彼の能力のベースは理性、知識ではなくてやはり精神力、それも経験から出た精神力だし、そして今言ったように稲盛さんの場合も苦を楽に変える、やはりこういう精神力の持ち主であるというふうに思っています。

坂口:
今の3人の企業家の皆さんは本当に精神力がいかに大事かということがよく分かったのですけれども、そのビジネスリーダーたちの能力の源というのはどのようなところにあると先生はお考えですか。

済藤:
そうですね、なぜ企業家ってそのような苦しいことばかり打ち明けるのですかね、ちょっと疑問に思いませんでしたか。

坂口:
そうですね。

済藤:
人間というのも動物なわけですよね。動物にとって何が一番重要な目標か、最大目標は何かと。これは非常に簡単で言われてみると、ああそうなのですかと。

坂口:
何ですか?

済藤:
生きることなのですよ。これはやはりわれわれが生きて初めて種を発展させることができる。死んだ途端に終わりなわけですね。じゃあその生きるためにはどうしたらいいのかと、危険なこと、怖いこと、そういうものをいかにかいくぐるかですよね。例えばサルがヘビに出会ったときにもう二度とああいう怖い思いはしたくないというとそれを記憶に残しておかなければいけないわけですね。

坂口:
生きる力という感じですね。

済藤:
そうです。そういうことを前提にして3人の共通点は際立った精神力ですね。それはどういうことかというと当然人間ですから理性があるわけですが、そういう理性の働き、判断よりも感情の方でその理性をコントロールするといいますか、自分がパンと出てきたその感情を優先して行動しようというふうに彼らの脳は動いているというふうに思います。それは簡単に言いますと動物脳ですね、つまり大脳皮質ではなくて大脳皮質の中にある大脳辺縁系だとか大脳基底核という、そういうところがやはり活性化してその大脳皮質をどちらかというと抑えるような形なのかなと思います。先ほどの精神力ですね。もう1つあるのは際立った経験値ということですね。

われわれは常に経験経験と言いますよね。じゃあ経験というのは何なのだろうと。だから国語の辞書で言う経験ということではなくで実は脳科学のベースで考える経験というのは記憶なのです。

坂口:
経験が記憶?

済藤:
そうですね、自分が経験したことが記憶に残っているわけです。だって自分が経験しても記憶に残らなければ、だからわれわれは経験した経験したと言うけども、実はそれは自分の記憶として残っているということですね。そうすると自分が経験して勝った負けたという形であの時はああいうふうに判断し意志決定し行動したということが記憶として残っていると、それをもう1回使い回してうまくその環境の変化に対応していこうとこういうことだと思います。

坂口:
先生、先ほどから経験というものがいかに大事かというお話をされていらっしゃるのですけれども、その一方で企業家の社会の中にはMBAというものが一時期とてもはやった時代もありましたよね。

済藤:
そうですね、今でもはやっていますね。

坂口:
それは経験とはどういうふうに見てらっしゃいますか。

済藤:
そうですね、面白い経営学の学者がいましてカナダのマギル大学でミンツバーグという人がいるのですが、この人は今のMBAスクールの教育方針を徹底的にたたくのです。2005年彼が書いた本に書いているわけですけども、彼が言うのは要するにビジネススクールというのは分析だけだと、分析というのはサイエンスであるしロジックであるし出てきたことはみんな、形式知だからそれをどういうふうな理屈でしょうかとけんけんがくがく議論してこれだよねと、それはそれで1つの結論として正しいと、しかしビジネスというのは先ほどの組み立て家具ではございけども実はそんな一面的なものではないのだよと。

彼はいわゆるビジネスリーダーになるためには3つの要素が必要だと言っています。彼の英語で言いますとクラフト、アート、サイエンスというのです。クラフトというのは経験なわけです。だからまず一番重要なのはビジネス経験をしていることを持っていることだと。じゃないと考えるベースがないではないですかということですね、だからクラフトだと。

その次が重要なアートですね。この場合のアートというのは自分がビジネスを経験した中で例えば先輩と話すあるいは大学の先生と話してもいいのですがある程度の知識は必要だけどもこれだという感性、感覚がなければいいものはできません。それはどういうことかというと今いる自分のこの世界の中で本質が見えてくるのです、それはその人の感性とか感覚なのですね。それはまた経験でしかそれを見つけることができない、ですからミンツバーグの言っていることはMBAというのは確かにそういう25~26の学生さんに知識として教えるにはそれはそれ以上のことは教えられないと、しかしそれをもって自分はビジネスの社会でこれからエリートとして仕事ができるのだと、それはもう真っ赤な誤解だということです。今言いました感覚、アートのところなのですが、実はこれはいくつか分類できるのですが1つは直感、直感も実はアートなのですね。僕は大学で説明する場合には例の将棋の羽生さんの言葉を引用するのですが、相手が手を打ちましたと、その時にこちらがどういうふうに返そうかといったときに80通りの手が瞬間的に浮かぶというのです。そんなことって僕らは理解できませんよね。

坂口:
一瞬にして80手?

済藤:
一瞬にしてですね。その80通りの中から瞬間的に3通りが見えてくると、だからそれはもう無意識の世界なのですね、無意識の中でパーンと意識で2~3通りが出てくるわけです。

坂口:
3通り残すということですね。

済藤:
そうです。その3通りがまず出てきてそしてその3通りのうちどれがいいかなとそこから読みが始まるわけです。つまり先ほど言いましたように読み、ロジカル、論理というのは直感の後に来るわけです。これをしないと将棋指しとしてはこれはもういわゆるトップのクラスに入れません。

坂口:
まず直感が働くことが重要だということですね。

済藤:
そうです。それはだから小さい時からこうやって実践的に真剣勝負があるし練習をする場合もありますが、それだけ経験を積んでいろいろな手を打っているから見えてくるという、そういう意味で今までの話をちょっと視点を変えてみるとどうなるかと。1つは僕が言ったことは快、不快という感情、情動、それと損得という感情、これがせめぎ合いをしてどちらかが勝つというふうに言いましたね。それは最後通牒ゲームではそうなのですけども、われわれは実際生きている時に実は快、不快で行動する場合もあるし損得で行動する場合もありますね。だから一概にどちらがいいということは言えないと思いますが、例えば一番いい例として鹿児島の方だとよくご存知だと思いますが西郷隆盛と大久保利通といますね。

実は西郷さんというのはやはり快、不快というのを重んじて生きていた方かなというふうに僕は理解しています。大久保利通は実は彼はかなり剣道だとか上手ではなくで学問だとかそういうことには非常に優れた才能を持っていたらしいのですね。そういう意味では彼はどちらかというと損得ですね。損得って自分のポケットマネーに入れるということではなくて今のこの体制はどういうふうにすれば国のためになるのかと、そういうふうに彼は損得でやったわけですが、鹿児島県民なら皆さん分かるように当然のごとく最終的には西郷さんが得をしているということだと思いますね。

もう1つは養老孟司先生ですね、一時期バカの壁で非常に一世を風靡しましたね。養老先生の考え方も実は今僕が言ったような企業家の人生とちょっと比べるとある程度同じようなことが言えるのかなと。養老さんのテーマというのは都市と田舎ということですよね。彼が言うのは都市というのは意識化された世界だ、つまりすべてが意識でつくり上げられ、そして意識でその都会というものは行き渡れるのだと、だからああなればこうなるという、だからわれわれはそういう意味では非常に機能的に都会で暮らせるわけです。ところが田舎というのは自然であって、自然というのはこれはもう対処のしようがない、つまり365日対処のしようがないということではなくて何十年に一遍とかいろいろな問題が起きて、それはわれわれは対処のしようがないし、それはわれわれは頭の中で計算もできないわけです。そうすると自然を相手にするというのはこれはどうしようもないよねと、どうにもならない。

そういうことを考えますと都会というのはデジタルで新しくて意識ができてみたいな、そういう一連の流れが出てくる、それは意識化された社会、形式知の社会、そういうふうに思えるのですね。ところが田舎の方は自然を相手にしているのでそれは意識できない世界がたくさんあります。

坂口:
すぐ出ていってしまう人たちも多いと思うのですが実はそうではない、脳科学的に動物脳で言うと田舎の方がということになるのですね。

済藤:
そうです。ですから僕は脳科学者ではございませんので脳科学の研究成果を利用して日本でビジネスリーダーとして成功している人の能力を見ると、これはわれわれは人間ですからどうしても都会、デジタル、新しい、田舎、アナログ、古い、ダサい、だから都会に行こうと。要するに都会は理性脳しかないわけですよ。われわれはその理性脳同士で頑張ってなんとかなると思っているけども、それは先ほど僕がしつこく説明しているようにビジネスリーダーを見る限りはですよ。

坂口:
ちょっとびっくりしました。

済藤:
そうですか。

坂口:
先ほどの稲盛さんのお話ではないのですが、自分の好きなことにもし就けなければ自分の今やっている、与えられていることを好きになりなさいというお話がありましたよね。ということはつまり今自分がいる地方だったり田舎だったりするところをまず良さを知って好きになるところから始めるということですよね。

済藤:
それを世間一般の話に惑わされて、要するに都会には宝がある田舎には何もないと、だから都会に出ていこうというのは本当にもったいないと。

坂口:
もったいないことだったのですね。

済藤:
むしろ田舎でできること、田舎にしかないもの、それこそがまさに重要な宝であると。だからそれは簡単に言いますと本人だけの責任ではなくてやはり僕ら大人だとか今そういうふうにこの世の中を考える人たちがやはりそういう方向性を与えてあげる責務があると僕は思うのです。そういう意味ではこういう「政経マネジメント塾」のようなところでもそういうような発信をして、やはり田舎にこそ何かできるものがあるし地方でなければできない、地方だからこそ輩出できる人材、それは何かという、僕はそういうことが非常に価値があることであるというふうに思っています。

坂口:
先生から見れば都会よりも地方の方が新しい魅力的なところだということですね。

済藤:
そうです、つまり絶対デジタルよりはアナログなのですと僕は思います。

坂口:
先生、今日は本当に面白いお話が聞けてうれしかったです、ありがとうございました。

済藤:
そうですか、どうもこちらこそありがとうございました。