平成29年度第2回講座:「詮議(対話ロジー)と三角ロジック ~甦れ、平成の薩摩!そして、さらなる飛躍を!!~」(実践編)

岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾

平成29年度講座内容

【第2回講座】

「詮議(対話ロジー)と三角ロジック

~甦れ、平成の薩摩!そして、さらなる飛躍を!!」(実践編)

講師
浜岡勤氏(国際ディベート学会 元理事長/東京海洋大学『ディベート講座』特任講師/『伊勢神宮』『南洲翁遺訓』『日新公いろは歌』翻訳者)
場所
岩崎学生寮(東京都世田谷区北烏山7-12-20)
放送予定日時
 平成29年8月5日(土)12:30~13:00 ホームドラマチャンネル(実践編)
平成29年8月6日(日)06:00~06:30 歌謡ポップスチャンネル(実践編)
※以降随時放送
詳しい放送予定はこちら(ホームドラマチャンネル歌謡ポップスチャンネル)

浜岡 勤
(はまおか つとむ)
国際ディベート学会 元理事長
東京海洋大学『ディベート講座』特任講師
『伊勢神宮』『南洲翁遺訓』『日新公いろは歌』翻訳者

昭和15年(1940)鹿児島県串良町生まれ。東京大学薬学部製薬学科卒。神田外語学院「ディベート講座」非常勤講師、東京海洋大学「ディベート講座」非常勤講師を歴任。現在、鹿児島同学舎「DESK」(ディベート講座)講師。「伊勢神宮」「南洲翁遺訓」「日新公いろは歌」翻訳者。

講義内容

浜岡:
じゃあ皆さん後半を始めましょう。ワラントがレンズであることを常に思い出して欲しいと思います。

「詮議」=「薩摩ディベート」というものを説明してきましたけど、今回は世の中でいいと思われているものをどんどん取り入れます。西洋のディベートの手法を取り入れています。

ディベートというのは言葉を使う知的スポーツ、知的ゲームです。ちょうどピンポンとかサッカーのようなイメージです。肯定側から始めて、否定が答えて、それでやり取りする中でどちらかがパッと勝負を決める。そういう言葉のゲームだと思ってください。

ディベートには基本なルールが5つあります。
まず論題は必ず1つ。2つ以上やるとごっちゃになりますから。論題というか討議するのは常に1つ。そして、肯定と否定に分かれます。
使うのは言葉で、当然ルールがあります。進行時間とかやってはいけないこと、嘘を言ってもしょうがないです。
それから基本的にフェア。両方フェアでなきゃいけない。隠し玉でドンとやるような人も中にはいますが、それは無し。全ての情報をオープンにしてください。
最後に審判が必ず勝ち負けを言うんです。引き分けはないです。

世の中でディベートと形がよく似てるのが、裁判ですね。検察がこの人は犯人である、懲役何年にしようと言う。そうすると弁護側はいやその人は違うとか、いや量刑をもっと下げてくれとか、最後に裁判官が判決を下す。裁判官=審判になります。

具体的なディベートの進め方は、一つの論題に対して「立論」「反対尋問」「反駁」という3段階があるんですね。「立論」というのはなぜそうなのかを論理的に説明する。「反対尋問」という役割があって、立論に対して反対側から徹底して質問。そこではまだ取っ組み合いは絶対にしません。これでデータが出そろいますから、最後のまとめが「反駁」出揃ったデータをもとに自分達の意見をもう一度主張する。最後に審判が判断を下して、必ず勝ち負けというか、審判に対してちゃんと論理的に訴えた方を勝ちとします。

<串焼き4個刺し>
これは「立論」の構成なんです。“言葉の定義”をして“現状はどうなっているか”を言って、“プラン”を言って、その“メリット”があるっていうの。これが「立論」の基本形。だから4個なの。串は「ワラント」。だからワラント、ワラントが必要と言ってきました。レンズなの。自分の見方。これを相手にはっきり示さないといけない。自分のワラントはこれだというものを示すことが大事。特に異文化の人とやる時には。

ディベートの試合でも、その論題に対するワラントは何か、基本的考え方は何か。それで肯定側は定義、現状分析、プラン、メリット。否定側というか、検証側は「そうだ、そうだ」と肯定したら始まらないから、肯定側の意見は絶対に違うという考えの基に同じく言葉の定義、現状分析、プランアタック、デメリット。要するに相手をやっつける事を考える。これは頭で分かってても、実際に使わないと覚えられない。

今日は具体的に「詮議」をやりましょう。ディベートの手法を使った「詮議」。だから勝ち負けの議論は当然入りますが、勝ち負けで終わらないのが「詮議」だというふうに僕は定義しています。今日はごく一般的な論題で、『朝食に和食を勧めるか、洋食を勧めるか』。これでやりたい。

ナレーション:
「詮議」はいわゆるグループでの話し合いですが、一人一人意見を言う前に和食派と洋食派に分かれてディベート方式で意見をまとめ、その意見を聞いた上でグループ討論に戻すという「浜岡流詮議」。

浜岡:
やり方はディベートの方式でやります。ただ、今日は肯定・否定じゃないです。和食派・洋食派。それぞれ、立論3分、反対尋問2分、反駁がまとめで3分以内。これでディベートの方式が終わります。

ただ、今回進めているのは「詮議」なので。詮議では恐らくお互い言い合った後、グループで車座になって議論したんだと思うの。それは松下村塾の議論の仕方でもあるし、大阪の緒方洪庵先生の適塾の方式であったろうと思うんです。それを今回は取り入れたい、と思います。

ナレーション:
各チーム意見をまとめて和食派の立論からスタートです。

和食派立論:
まず皆さんに確認してもらいたいことがあります。先ず、なぜ、朝ごはんを皆さんが食べるのかというと、朝ごはんは一日の好スタートを切るために重要なものなんです。そのためには動くための十分なエネルギーが必要なのと、朝ごはんを食べ過ぎてお腹や体が重くなって動きにくくなることを避けることが大切なわけです。そのバランスを、両方とも兼ね備えてるのは、やっぱり和食なんです。

洋食派立論:
洋食派として意見を述べさせていただきたいんですけれども、まず大前提としては和食派がおっしゃったように朝食というのは一日の活動を行う上で必要なことであるというのがまず大前提なんです。でも、皆さん忙しい生活を送られていると思うんですよね。朝起きるのがだるいとか、その前日の夜も夜遅くまで仕事や勉強をしていたとなると、朝起きてから手の込んだ食事を作るのはちょっと疲れるし、それだったらもう少し寝ていたいと思うことも多いと思うんです。そういう時に洋食だと準備が簡単なんです。時間がかからなくて済む。

ナレーション:
共に朝食は一日の好スタートを切るために重要なものをワラントにして、和食派はエネルギー摂取のバランスの良さ、洋食派は時短を優先してメリットを述べました。反対尋問を終え、最終的にまとめた意見、両者の反駁です。

洋食派反駁:
よろしくお願いします。今から洋食派の反駁をさせていただきます。第一に、今まで話がいろいろあったと思うんですけど、現実に即して皆さんに考えていただきたい。最初に一日のエネルギーを保つために朝食が必要だという話があったんですけど、皆さん朝食を食べなくてエネルギーがなくて困ったということありますか。そんなにたくさんじゃないと思うんですよね。実際よく考えてみると、逆に朝食食べる時間がなくて朝食食べずに学校に行って困った人はいっぱいいると思います。朝寝坊して学校に間に合わなかった人もいっぱいいると思います。だから大事なのは、最初その一日のエネルギーを取るためのことよりも時間のほうがぼくは大事だと思います。実際に困っている人はそれでたくさんいると思います。

それから二点目なんですけど、最初の和食派の立論の中ではご飯とパンの比較があったんですけど、ご飯とパン以外の具材についてはどうなのかというところが私は大事だと思います。例えば小松菜を味噌汁に入れてビタミンを取られるという話を伺ったんですけれども、例えば洋食であったらパンにちょっとレタスを洗って切って添えて、トマトを洗って切って添えたらずっとたくさんのビタミンが、味噌汁の中の小松菜よりもたくさんビタミンが取れると思うので、その点で洋食は和食に比べて栄養の面でも優れているというふうにぼくは考えています。ぼくの主張としてはまず、洋食を勧める理由としては朝時間が取れることの方が非常に大事である、更に洋食は和食と比べてもそん色ない程度に栄養を取ることができる、この2点が洋食を勧める大きな理由であります。

和食派反駁:
和食派から反駁をさせていただきます。最初の朝食は一日の活力となるという意味で言えば、そうですね、洋食でも和食でも同じように一日の活力にはなるんです。ただ洋食派が反駁したように、確かに栄養価はそん色ない程度に和食と同じぐらいに取れるんですけど、ただ洋食は和食と比べて油分とか糖分とかちょっと取り過ぎるんじゃないか、というのがあるんですね。

例えば先ほど反対尋問でご飯とパンでカロリーがパンのほうが高いんだったらパンをちょっと食べればいいみたいな話があったんですけど、そのパンのカロリーって結構油っていうのが多いんですよね。米は油で炊く人っていないと思うんですけど、同量の米とパンに含まれている油分の量というのを比べると、やっぱり主食としては米のほうが有能であるという結論に、僕は達しました。

時間ですが、その100年前とか、味噌汁を一から作る時代だったら洋食派の主張は正しいんですけれど、今はインスタントとかありますし、あとは作り置きとかありますよね。前の日の夜に作って冷蔵庫に入れておけば、今は冷蔵庫という便利なものがあるんで、それを出してきて、あとご飯よそってみたいな感じですれば、時間の面も解決できるとは思うんですよ。和食の方が生活習慣病などの予防には、有効なのではないかと思います。

浜岡:
立派です、ありがとうございました。ディベートだとここで勝ち負けをやってそれで終わるんですね。ちょっと決を取ります。
人間ってやっぱり感情の生き物だから、納得した/してないで物事を決めるんですね。

それぞれの3者の流れを通して、自分は和食派に納得させられたと思う人はちょっと手を挙げてください。和食派が5人。じゃあ洋食派に納得させられたなと思う人は残り?そうすると洋食派が勝ちで終わるわけ。

だけど、僕は自分がディベートのプロとしてやってきて、「詮議」ではちょっと違うなと思っています。ここでグループでの話し合いになるんです。まだ言い足りなかったことを確認するとか、その後やっぱり和食にするかとか、やっぱり洋食がいいかとか。

現実の生活で、僕は毎日洋食です。自分自身は和食がいいんですよ。健康とか、酵素を摂ったりとか、いろんな意味があります。ただ、私のワラントは『カミさんに従う』というワラントなんです(笑)。家庭の和のために、カミさんの意見に同意するっていう基本姿勢があると洋食派なんですよ。こういう解決の仕方もあるな、と思っています。

「詮議」はそんないろんな要素を入れて、皆でこのグループとしては結論こう持って行こうよというふうに決めればいい、と思うんです。
僕がまとめた今回のこのテーマにあたって、実はこれだけメモ書きしてるの。一つは朝食をどう位置づけるかというのがありますね。今回は「一日のエネルギー」って取られたんですよ。朝ごはんを一日のエネルギーと捉える人は何人います?結構いますね。その他何を考えますか?ぼくがメモしたのは“スタートアップ”という位置づけなの。要はエンジンのかけ始めぐらいに位置づけすれば、割とバランス良くさらっと取るべきじゃなかろうか、という考えになるんです。

もう一つは観点。考えるポイントを挙げて議論するとすごく分かりやすい。まず一つは健康。健康の為には朝から酵素を取るべきです。だって人間の体は何万種かの酵素からできていて、腸の中には5万種類、1兆個の微生物がいる。

それから費用。かける費用。今、パンを作ろうと思ったら麦を輸入しないといけないわけ。あとは料理準備の時間がどうかという事。

もう一つはビジネスで海外に行った時に、最近は外国でも和食がわりと食べられるんだけど、昔は全くそんなのなくて、現地での生活にすぐ慣れるために、日本でも洋食を食べていたほうがいいよな、という考えもあります。

それからグループでディスカッションしている中で、どうして毎日洋食とか毎日和食に決めないといけないの?っていう発想もあると思います。ワラントに変化をつけたり、ワラントをここで新しく生みだしたら、“3日に1回は洋食”にしようとか、そういう議論になるんですね。グループでやるのは新しくアイデア入れることだよね。意見を大いに変えて相手のいいのは入れればいいと思いますよ。ここで新しく出てくるのは“和洋折衷派”(笑)。新しい考えがここにもう一つできるの。どうですかね?池田さん。

池田:
和食の方が、時間がかかるというイメージが強いので、その話が出てたなと思ってます。確かに味噌汁を一から自分の取りたい栄養素を考えて野菜を入れて作るよりも、さくっとサラダを作ったほうが早いのかな、と思いました。そうしたら時間がない時ほど洋食、時間がある時ほど和食にすればその時間を短縮したい、というニーズも栄養価が高い朝食で好スタートを切りたい、というニーズも埋めれるのかなと思いました。

浜岡:
仲さんのご意見どうですか?

仲:
そうですね、個人的には、僕はいつも朝は時間がないので、パンを焼いて食べるだけになります。あとはおにぎりを握って食べるだけとか。一つに絞ってなにかを食べることが多いので、他に野菜とかを入れてとかいう考えがなかったので、和食はちょっと面倒だなというふうに思いました。

浜岡:
おにぎりは和食とするんだろうね。そこも定義をはっきりさせたら。なんか和洋折衷の感じがしますね。上片平さん、どうですか?

上片平:
話を聞くと和洋折衷の案がいいのではないか、と思ってます。自分としては、朝はご飯を食べたいというのはあるんですけれども、今の世間の好みとしてはどちらかというと洋食が好みという人のほうが多かったりしますし、実際に家族を持ったりすると家族の中で2つ作るというのは大変だったりします。僕の考えとしては、和洋折衷という形で、ご飯を軸にしながら、おかずであったり栄養素の中で「洋」というものを入れていくのがいいのではないかなと。

浜岡:
税所さん、どうですか?

税所:
自分は結構朝が苦手で、たまにご飯を抜く日もあるので、とりあえず和食・洋食関係なく何かを食べようという意見に至りました。

浜岡:
最後、朝倉さん、どう思いますか?今グループでお互いやってもらった議論ね、考えてみれば和洋折衷派が出てきちゃった。

朝倉:
僕はどちらかというと洋食が好きなほうでして、洋食派に入ったんですけれども。ディベートとして議論する中では「和食」か「洋食」で結論を出さなきゃいけない。でも今回は「詮議」ということでそういった意味ではより昇華できる答えを探すことができるという意味ですごい勉強になった、と思っています。

浜岡:
実際に議論をする時には、本当なら事前に栄養価だとか輸入の金額とかいろんな事を調べるんですね。今回はたまたま短時間でできるテーマとしてこのテーマを選んで議論して頂きました。
こういうことが考えるということの基礎でして、今日の前半・後半を合わせて何が大事かというと、やっぱりワラント(レンズ)なんですよね。

自分の視点。自分の視点を広げるっていうのかな、もうこれしかないって考えると考えの幅が狭くなるんで、考えのダイナミックレンジを広げる。これは、さっき書いたように肯定と否定どちらも考える事で一つの真実に近づくわけだから。
真実に近づくためには肯定・否定の事実の幅をうんと広げているほうが実際は選びやすいんです。あるいは周りを説得・納得させやすいと思います。

今日はこういうチャンスをいただきまして、自分で一生懸命準備して用意したつもりです。いったんやってみるとまだまだ反省点がいっぱい出てきて、これをどこかで生かしていきたい、という風に思っています。今日は本当どうもありがとうございました。