2019年度【第6回講座】「カラダから学ぶコミュニケーション」

 

岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾

2019年度講座内容

【第6回講座】「カラダから学ぶコミュニケーション」

場所
(一財)岩崎育英文化財団 岩崎学生寮(東京都世田谷区北烏山7-12-20)
放送予定日時
2020年3月28日(土) 12:30~13:30 ホームドラマチャンネル
2020年3月29日(日) 06:00~07:00 歌謡ポップスチャンネル

※以降随時放送
詳しい放送予定はこちら(ホームドラマチャンネル歌謡ポップスチャンネル)

 

 

羽地 朝和 (はねじ ともかず)
株)プレイバック・シアター研究所 所長/一般社団法人日本能率協会 専任講師/日本心理劇学会 常任理事/秩父看護専門学校 講師(人間関係論) 防衛大学校理工学部卒業後、社会産業教育研究所に入社。
米国エサレ研究所、オメガ研究所にてTA(交流分析)、行動科学、体験学習を学び、大手企業から中小企業までを担当する人材育成コンサルタントとして活躍。
また、精神科クリニックでメンタルヘルス不調者の心の治療を行っている。大学や看護専門学校においては、人間関係論、心理学、コミュニケーション論の授業を受け持つ。
社会活動として、コミュニティづくりの即興劇プレイバック・シアターの指導をミャンマー、韓国、フィリピンで行い、日本とアジア各国の若者の国際交流活動を通じての人材育成にも取り組んでいる。ビジネス業界、学校教育、臨床領域、国際交流で幅広く活躍する人材育成コンサルタント。
オーハシ ヨースケ
演劇家/株)プレイバック・シアター研究所専任講師/チェスター大学(英国)教育学科(アレン・オーエンズ教授)/インターカルチャラルアートプロジェクト特別講師(2006~)
1982年 早稲田大学文学部演劇専攻卒業
その後、言葉を使わずに体の動きだけで伝える不思議なお芝居「身体詩」を確立し、世界24カ国・50都市を駆け巡る。
1995年 第7回カイロ国際実験演劇祭(エジプト政府主催)の「BEST ACTOR AWARD」を受賞。
「言葉に頼らない演劇」という分野で世界を渡り歩き、大きな演劇賞を受賞する姿が注目を浴びる。
2000年 英・チェスター大学の教育学博士である。アレン・オーエンズ教授と「演劇教育を応用したコミュニケーション・トレーニング」の共同研究を開始。
2006年 日本の文化庁の新進芸術家海外特別派遣支援を得て、アレン・オーエンズ教授の「インターカルチャラル・アート・プロジェクト」を発展させ、現在は、専門学校や大学、セミナー、学校訪問等で、この研究成果の普及活動を始めている。指導した人数は1万人以上。役者だけではなく、学生や社会人、ビジネスマンも含まれる。

 

 
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講義内容

羽地:これから始める講座は、「カラダから学ぶコミュニケーション」というテーマで講座を行います。さて、なぜ今コミュニケーションをわれわれは学ばないといけないんでしょう。私も自分の会社を経営したり、またいろんな企業での研修をやっておりますが、やはり一番大きなテーマはコミュニケーションです。さあ、このコミュニケーションは職場の中の上司と部下のコミュニケーションもあれば、お客さまとのコミュニケーションもある。場合によってはチームの中でのコミュニケーション。これそれぞれ重要なんですが、だんだんだんだん若い世代がネットによるコミュニケーションは慣れていても、なかなかフェース・トゥ・フェースのコミュニケーションが取れない。もしくは世代間によってさまざまの思いや考えが違うので、ジェネレーションギャップからなかなかコミュニケーションがうまく取れないなどという課題をいろんな所でやっぱり耳にします。

 そういう意味では、改めてコミュニケーションについて学ぶことがビジネスの領域では非常に重要になってきていると思うのですが、このコミュニケーションをただ頭ではなく、しっかりと体験を通して学ぶ。自分の実感したものとして学んでいくということを狙いとして、この講座を企画いたしました。本日の狙いは、相手との関係を構築するコミュニケーションを養い、人間力を磨き、自分の思いを伝える力、相手の思いを聞き出す力を体得するという狙いです。

 

羽地:それでは始めましょう。皆さん、おはようございます。

一同:おはようございます。

羽地:「カラダから学ぶコミュニケーション」ということで、きょうはこの講座を通して、実際の体験を通してコミュニケーション、その大切なところを一緒に学んでいきましょう。きょうここにいる皆さんはもちろん日常からコミュニケーションはもう取っていると思います。さあ、そのコミュニケーションの普段は意識をしていないところ、何気なくやっているところを今日は少し立ち止まりながら、さまざまな体験をして学んでいきましょう。

 プログラムとしては、「コミュニケーションをカラダから学ぶ」、「コミュニケーションの原則」、そして「はなしを聴きだすスキル」。前半はオーハシヨースケさん、そして後半は私羽地が担当します。

 

オーハシ:オーハシヨースケです。さあ、皆さん、右手を出してください。右手を出してください。オーハシヨースケ。せえの。

一同:オーハシヨースケ。

オーハシ:ありがとうございました。私、必ずワークショップをやるときこうやって始めるんですよ。人の名前を耳で聞くだけじゃなくて体でやると、体に入ってくるんだよね。小学生なんか、中学生なんかとワークショップをやるときって、こうやって「オーハシヨースケ」なんてやると、廊下ですれ違ったときに必ずみんながやってくれるの。「オーハシヨースケ」。

「カラダから学ぶ」ということと、それに対局にあるのは頭で学ぶ、ということです。きょうは、「カラダから学ぶ」ということは、「感じる」という力を使ってコミュニケーションを学ぶ、ということなんです。考える。考えるって、つまりIQとか知能的。そういうことじゃなくて、感じる力。人間には感じる脳というのがあるんです。この感じる力というのがコミュニケーションのとても大切な部分なんです。

昔から子どもたちはどうやってコミュニケーションを学んでいたか。ちょっとそれを見せますね。昔から、いいですか、五味さん。こんな手遊びをやって学んでたんです。例えば、こんなんがあります。五味さん、とーん、とーん、とーん、とーんってやってみてください。「とーん、とーん、とーん、とーん、三月三日のもちつきはぺったんこん、ぺったんこん、ぺったんぺったんぺったんこん、たーん、たーん、たんたんたん、たんたんたんたんたんたんたん」。なんてこんな、こんなことって誰か知ってる人います? 聞いたことある人、いない? います? これ、日本全国に同じような歌があるんですけど、これちょっと難しいバージョン。でも、こんなの皆さん、知らない? 「アルプス一万尺、小槍の上で」、こんなのやったことある? ありがとう。どうもありがとうございました。

 こういうことでコミュニケーションを学んだのね。ということは、これ、すごく一番大事なことは、まず言語情報何もないよね。一番大事なことは、当たり前過ぎてみんな、げはって言うかもしれないですけど、相手がいるということです。相手がいないとできないことなんです。実はこうやることよりも、たん、たん、たん、たんって、相手が入るタイミングをつくってあげてる。この相手が受ける、受け取るタイミングをつくってあげてるということがコミュニケーションの一番大事なことなの。これをCall & Response。皆さんで言ってみましょう。せえの。

一同:Call & Response。

オーハシ:そうですね。受けて答える、受けて答える。必ず受けますよって言うと入れますよ、受けますよ、というのがあるから成り立っていく。これが当たり前のようだけど、実は一番大切で、一番できていないことなんです。コミュニケーションがうまくいかないと、みんなどうしても、「ちゃんと自分が言えたんだろうか」とか、「自分の思いをどうやって伝えたらいいんだろうか」とか、どうしても自分がいかに伝えるか、というほうばかり考えてしまうのですが、実は自分がうまく受け取るほうがまずできていないんじゃないかな、と考えてもらうと、すごくその後スムーズにいろいろと進んでいきます。

 じゃあ、コミュニケーションの練習。いつもどんなことから始めるか、というのをやってみたいと思います。加藤君、ちょっとここに出てきて。いいですか。これから皆さんで握手ゲームというのをやります。握手ゲーム。やったことある人。いないね。これから私がとーん、とーん、とーんってやります。とーん、とーん、とーんの中で何回加藤君の手を握るか。ちょっと手を出して、皆さん、やってみましょう。いいですか。1回はとーん、とーん、とーん。2回はとーん、とーん、とーん。3回はとーん、とーん、とーん。とーん、とーん、とーんやりますので、加藤君、私の目を見てると、私が加藤君の手を何回握るか、目の中に出てきます。出てきた。

加藤:出てきてないです。

オーハシ:ほら、出てきたでしょ?

加藤:2回。

オーハシ:いや、それ言っちゃ駄目ね。いいですか。今、私、決めました。私の心を読んで、私が握るだろうなと思う数を握ってください。私も加藤君が何回握るかなって、目の中に出てきました。お互い相手が握るだろうなと思う数を握り合うんです。それがゲームです。いきますよ。お互いに目と目を見合います。目の中に数字が出てきました。いきますよ。せえの、とーん、とーん、とーん。合わなかった。

 じゃあ、これみんなでやりますよ。じゃあ、2人組になって見ましょう。今みたいに立ってやってみましょう。いいですか。相手の目の中に数字が出てきますよ。いいですか。相手が握るだろうなと思う数を握ってください。いいですか。相手の心を読むんですよ。いきます、せえの。とーん、とーん、とーん。合った人。はい、拍手。皆さん拍手。(拍手)

 すごいね。ちょっと加藤君、来てくれる? 実はコミュニケーションって、今こうやって握手して、相手が何を考えてるかなって目と目を見合ったよね。ここに立つことがコミュニケーションの本質なんです。こうすると、もうこの時点でものすごく大切な、一番大切なことを伝え合っているのです。何を伝えているかというと、友達になりましょうって伝えているのです、ここは。加藤君、そこにいてください。私がほんの少しだけ下がります。全然違うでしょ?

加藤:全然違います。

オーハシ:全然違う。この差って、ちょっと感じてもらいたいんですよ。2人組になってみてください。いいですか。じゃあ、まず握手をしましょう。その距離です。その感じ。どちらかがちょっとだけ一歩下がってみてください。どうぞ。じゃあ、一歩近づいてみて。ほら、どうですか。すごい違うでしょ。じゃ、逆の人もやってみましょう。一歩だけちょっと下がってみましょう。中村さん、一歩下がったらどんな感じになりましたか。

中村:近いときと比べると、顔の細かいところが近いほうが見えるので、下がったほうが親近感を少し感じるなと思いました。

オーハシ:親近感を感じた。向坂さんはどうでしたか、一歩離れたら。

向坂:遠くに行ってしまうみたいな感じでした。

オーハシ:行ってしまうみたいな感じ?

向坂:はい。

オーハシ:どうでしたか、甲斐君。

甲斐:離れたときに少し話しづらいです。

オーハシ:話しづらい。

甲斐:話しづらくなってしまうのかな、という印象です。

オーハシ:なってしまうのかなって感じ。

甲斐:はい。

オーハシ:つまり、一歩前に出ていると話しやすい感じだった?

甲斐:そうですね。比較的という感じではあります。

オーハシ:比較的話しやすい感じだった。どうでしたか、寺師君。

寺師:一気に離れるとほんとは一歩だけなんですけど、それ以上に距離を感じて、急に他人、今会ったばかりの関係に戻ってしまったかのような感じです。

オーハシ:一歩離れると他人になってしまった?

寺師:はい。

オーハシ:でも、その前、一歩前だったら?

寺師:また、ちょっとまた知り合いの知り合いぐらいの、話すには何も支障がないような関係に戻った気がします。

オーハシ:ありがとう。どうでしたか、五味さんは一歩下がったら。

五味:下がると、最初近い所から始めているので、避けられたのかなみたいな、そういう感じがします。

オーハシ:避けた?

寺師:いや、全く。

オーハシ:避けていない。そんなふうにも感じた。

五味:はい。

オーハシ:これ、私、世界中で1万人ぐらいの人にいろいろ聞いているの、これ。一番多く出てくるのが、ほんの一歩下がっただけなんだけど、一番多く出てくるのが壁ができたとか、それから膜が張ったとか、それから冷たく感じられたとか、もちろん親近感とか、話しづらくなったとか、あと寂しくなったとか、そんな言葉が出てくるんです。

 じゃあ、今度はこんなことをやってみましょう。加藤君、また。今度、さっきこれ、握手しましたね。一歩離れたら、こんな感じになって、こんな感じに戻りましたね。この半分ぐらい中にぐっと私が入ってみます。この距離の半分ぐらい。入ってみますよ。どんな感じ?

加藤:近いです。

オーハシ:近い。今、「近いです」っていうか、「近いです」だけじゃなくて、彼は体が引いてたよね。これをちょっとやってみてください。いいですか、今握手して、もう一回今の2人組で握手してみて。いいですか。握手の手を置いて、どちらかが今の距離の半分ぐらいぐっと入ってみてください。どうぞ。ぐっ。どうですか、甲斐君。

甲斐:加藤君とはもともと友達だから、そこまで嫌な感じはしなかったのですが、知らない人だったらプライベートスペースに入ってこられた感じがして、ちょっと引いてしまうと思います。

オーハシ:ちょっと引いてしまう。どうでしたか、中村さん、彼女がぐっと入ってきて。

中村:初対面なので、すごいぐいぐいくるな、となりました。

オーハシ:ぐいぐいくるな。どうでしたか、寺師君。

寺師:プライベートな自分のパーソナルスペースに入ってこられると、親密な関係じゃないのに緊張とどきどきで。

オーハシ:緊張とどきどきした。今みたいに、今みんな自分の中に言葉を探してくれましたよね。体で感じたことを、今自分が感じたことは何だったのだろう、というふうに言葉を探してくれて、自分の言葉でそれを言ってくれる、ということが実はコミュニケーションの練習には一番大切なところなんです。

 もう一つ、強烈なのをやってみたいと思います。加藤君、もう一回出てきてください。私がもしこうやって向いて、こういう角度で加藤君に話したらどうですか。加藤君、きょうは協力してくれてどうもありがとう。どんなふうに感じた?

加藤:自分に至らない点があったのかな、というふうに感じました。

オーハシ:いやいや、そんなことはない。私はほんとに真心から、加藤君、ほんとにどうもありがとう。同じことをもう一回言ってみます。加藤君、ほんとにどうもありがとう。

加藤:やっぱり悪いことをしたのかな、と。

オーハシ:悪いことをしたように感じる?

加藤:感じます。

オーハシ:ありがとうございます。ちょっとこれもやってみようか。1人が斜め90度を向いて、ちらっと相手を見る。どんな感じになるか、ちょっとやってみてください。今の2人組でやってみましょう。立って、1人が90度を向いてください。相手をちらっと見ます。目だけでちらっ。随分違う。顔はあまり向かないほうがいいかもしれない。じゃあ、今度は逆の人がやってみます。ちらっ。甲斐君、どうでしたか。

甲斐:自分がする、となったときはちょっと相手を遠ざけてるような印象になって、自分がされたときは今から怒られるのかな、と。

オーハシ:今から怒られるのかな、という感じがした。怒る気持ちはありましたか。

加藤:いえ、ありませんが、どうしても表情が硬くなるというか。

オーハシ:表情が硬くなって、そういうふうになってしまった。寺師君、どうでしたか。

寺師:僕のほうが目線も上なので、僕がこうやっていると上から見下している気持ちにさせているな、というのもありますし、逆にされていると、何か自分が悪いことをしたのかなとか。

オーハシ:悪いことをしたのかな。そんなふうになってしまいますね。私、今、いろんな所でコミュニケーションのレッスンをやっているのですが、よく病院でやるんです。今、これを一番やっている人は誰かというと、お医者さんなのよ。昔、お医者さんって、患者さんと対面して話してたじゃない? ところが、今だんだんお医者さんがパソコンを見ながらこうやって患者さんと話すようになったのね。そうすると、今皆さんが感じたような印象を患者さんに与えちゃってるので、先生急に冷たくなった。そうすると、それも、じゃあ先生に患者さん役になってもらって、私が「どうですか、この角度でこうやって見ると」ってやってあげると、初めて本人が自覚するわけ。「これはすごく印象が良くないですね」って。実際、自分の体で感じてみないと、コミュニケーションの感覚ってなかなか分からないんです。

 じゃあ、もう一つ最後に、加藤君、もう一回出てきてください。じゃ、今度、加藤君、座ってみてください。この角度で、こんな位置関係で言ってみます。ついでに私、腕を組んでみます。加藤君、きょうは協力してくれてどうもありがとう。どんな感じ?

加藤:すごく偉そうな感じです。

オーハシ:偉そうに。どちらかが座ってみてください。立っているほうの人が腕を組んでみましょう。今の2人組です。どんな感じになるか。さあ、こんな感じになります。じゃあ戻って、逆にやってみましょうか。ちょっと聞いてみましょう。どうでしたか、下のほうになると。

中村:すごく怒られている気分になりました。

オーハシ:怒る気持ちはありましたか。

向坂:ないです。

オーハシ:全くない。全くないけど、怒られている感じがした?

中村:はい。

オーハシ:どうでしたか、甲斐君。

甲斐:僕が座っているときなんですけど、本人にはそういう自覚はないと思うんですが、心なしかしかめっ面をされているような印象。

オーハシ:印象ですよね。

甲斐:はい。

オーハシ:実は今言ってくれたことが一番大事なんです。本人にはその気持ちはないのですが、甲斐君が下になっていると、しかめっ面をされているように感じられる。どうでしたか、寺師君。

寺師:自分が実際小学生とか中学生に戻って、担任の先生にすごく怒られているような雰囲気というか、そういうのを思い出されて。

オーハシ:なってしまった?

寺師:はい。

オーハシ:これ、例えば、向坂さん、ちょっといいですか。そこに座ってみてください。例えば子どもが迷子になって泣いていた。泣いています。向坂さん、泣いてみましょう。そうすると大人が「ねえねえ、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫? ねえねえ、ねえねえ、ねえねえ、大丈夫?」と、こんなふうに来たらどんな感じがしますか。

向坂:ものすごくおおきな声で、怖い感じがします。

オーハシ:怖い。私、大きいですからね、声が。でも、もし私がこう来たらどうですか。「ねえ、大丈夫?」って下からこうやって見てあげたらどうですか。

向坂:すごく私に何か言ってほしいんだな、という感じがしました。

オーハシ:言ってほしいんだな。これ、必ず子どもがいると、子どもの目線より下から話をしてくれる場所があるんだけど、知っていますか。ディズニーランドなんです。こうやって、下からこうやって話してあげると、この位置関係がまず第一の言葉になって、「あなたのことをとってもリスペクトしてますよ」という、そういうメッセージを伝えているのです。そうすると、この後話す私の言葉が全部この子のために言ってあげている言葉になるんです。同じことを同じ気持ちで言っても、この角度から言うと全く違う意味になってしまうのです。このことがすごく大事なんです。つまり、立っている位置関係とか相手に対する目線の角度とか、実はこれがコミュニケーションの第一の言葉なんです。だから、さっきの手遊びなんかだと、ちょうど手遊びができる距離感って、友達になれる距離感なんです。近過ぎない。近過ぎもしないし、遠過ぎもしない。そういう空間ができるんです。

 これ、ここが一番先程から皆さんに感想をずっと聞いています。なぜずっと皆さんに感想を聞いているかというと、暗黙知。せえの。

一同:暗黙知。

オーハシ:これ、誰か聞いたことありますか?マイケル・ポランニーさんが言ったコミュニケーションとかを学ぶ上で一番大事なことなんです。言葉ではうまく説明できないけど、私たちが持っているスキル、そのことを暗黙の知恵だ、無意識のうちに知っている知恵。例えば、大工の棟梁(とうりょう)がかんなでこうやって引きますと、0.何ミリの薄いかんなくずが出たりします。今どうやってどういうふうにやったらそんなふうにできるんですかって本人に聞いても、本人はうまく説明できないと思います。そういうふうに本人はうまく説明できないけども、でもみんなが知っている知識、そういうもの。実はもう皆さんは子どものときからその知恵とか知識を蓄えているんです。コミュニケーションの教科書にはよくこんな図が出てたりして、近接距離とか、固体距離とか、社会的距離、パブリックスペースとか公衆距離とかいろいろ出てくるのですが、こういうのを頭で学んでも、全くコミュニケーションの具体的な、使うコミュニケーションをうまくいくようにする、という、そういうふうな役割を果たさないですよね。

 ということで、まずコミュニケーションの一番大事なことは、よく教科書では非言語的なコミュニケーションが、コミュニケーションの9割、7割から9割占めますよ、と書いてあるんですけど、でも、実際にそれを自分の体でもって体感して、それを自分の言葉でもっていろいろ表現していかないと、自分が使えるようにならない、ということです。そこが一番大切な点でした。

 コミュニケーションの原則、というのをものすごく簡潔にまとめてくれているのがピーター・ドラッガーの『マネジメント』という本の中にたった4語でコミュニケーションとは何か、というのを表現してくれています。コミュニケーションのことを本なんかで勉強しようと思うと、ほんとに1冊ぐらいコミュニケーションっていう本があって、それをばーって読んでみると、読み終わって結局よく分からないっていうような感じによくなるんですけど、ピーター・ドラッガーはたった4つでまとめてくれています。コミュニケーションとは知覚であり、期待であり、要求であり、情報ではない。言ってみましょう。コミュニケーションとは。

一同:知覚であり、期待であり、要求であり、情報ではない。

オーハシ:すごい端的なんです。最初にコミュニケーション、受け取ることが大切なんだ、受け取ることから始まるんだっていう話をしました。知覚でありっていうのはどういうことかというと、まさにそのことなんです。こんな例があります。シベリアのツンドラ地帯、マイナス30度のすごい寒い中、針葉樹林が倒れます。針葉樹林が倒れました。どんな音がするのか。皆さん、音を出してみてください。いきますよ。せえの。

一同:びしびしびしびし。

オーハシ:答えは、音しません。音ないんです。何で? マイナス30度のシベリアのツンドラ地帯にそれを聞く人がいないんです。音って聞く、つまり耳があって初めて音なわけです。つまり、受け取る人があって初めて、つまり、それを知覚する者があって初めて何かが伝わる、ということがあるわけです。つまり、聞いている人がいない、受け手がいない、ということは、その音は存在しないんです。そのことを言っているのです。見る人がいないと、何をやっていても見ている物、というのは存在しないことになってしまうわけです。いつも受け手が主役なんです。

 次の期待であり、というのは、常に受け手は何かを期待してます。これすごく大切なこと。期待していること以外は見えもしなければ聞こえもしません。私、お芝居やっているんですけど、前衛的な演劇やってるんです。身体表現やっているんです。世界的な賞も取りました。その世界的な前衛の舞台をうちの母親が見に来ました。最初に言ったのはこういうことです。「おまえの芝居には何で歌と踊りがないんだい」って、そう言ってさっさと帰ってしまいました。うちの母親は踊りと歌を期待したんですね、お芝居の中に。そんな楽しいものを。それなかったんですね。だから、受け手にとっては、期待しているもの以外は見えもしなければ聞こえもしません。

 3番目。要求でありっていうのは、逆に発信するほうは相手に動いてもらいたい、何かしてもらいたいと思って発信しますよね、大概。例えば、信じてもらいたい。買ってもらいたい。体が動かなくても、心を動かしてほしい、感動してほしい。常に発信するほうは何か相手を動かしたいと思っているんです。だから、要求しているわけです。相手が動いたときに初めてコミュニケーションは成立するんです。

 情報ではない。これすごく重要ですね、現代では。私たちは今、情報の交流をするとコミュニケーションをしたように勘違いしますけど、ピーター・ドラッガーは端的に言ってます。情報ではない。情報とは依存関係にあるけれども、情報とは直接は関係ない。先程の子どものこういう手遊び見てみると、言語情報とかって何もないですよね。でも、あれはちゃんとコミュニケーションをしてるんです。受けて掛けて、受けて掛けてをずっとやり続けることがコミュニケーションなんです。これがコミュニケーションの大原則です。

 さあ、じゃあ今度はこちらが発する、ということをやってみたいと思います。言葉を発する。言葉を発するときに一番大混乱しているのがラングとパロールの違いなんです。そのことをちょっとこれからやってみたいと思います。さあ、どういうことをやるか。ちょっと見てください。AとBとAとBってずっとセリフが書いてあります。このセリフを2人でやってもらいたいのですが、じゃあ、向坂さんと甲斐君、今度いいですか。甲斐君そちらに、向坂さんそちらに。この2つのセリフがあります。じゃあ、このAとBのセリフを2人でやってみてください。気分が乗ってきたら、その感情にずっと乗っていっていいですからね。どうぞ、始めてください。

向坂:もういい加減にしてよ。私のこと何だと思っているのよ。

甲斐:言いがかりはよせよ。

向坂:何よその言い方。

甲斐:そっちこそ、何だよ。何でそんなこと言うんだよ。

向坂:私の言うこと何にも聞いてないでしょ。

甲斐:何だよ、偉そうに。

向坂:偉そうなのは、そっちじゃない。

甲斐:おまえこそ、俺の話聞いてなかっただろうが。

向坂:もうやめてよ。

甲斐:始めたのはおまえだろ。

向坂:変な言い掛かりつけたのはあなたよ。

甲斐:それはおまえじゃないか。

向坂:もうやめて。

甲斐:おまえこそやめて。

向坂:やめてやめてやめて。

甲斐:やめて。

オーハシ:どうもありがとう。2人は何している?

寺師:今痴話げんかをしている。

オーハシ:痴話げんかをしている。どうですか、2人は何をしています?

中村:けんかをしている。

オーハシ:けんかをしている。2人は何をしている?

加藤:言い争いをしています。

オーハシ:言い争いをしている。2人は何をしていますか。

五味:やっぱり恋人同士でけんかをしている。

オーハシ:恋人同士でけんかをしている。じゃあ、今度は椅子をくっつけます。ここに座ってください。

 ちょっと甲斐君、私がやること見てて。一言言い終わったら、相手の、大体肩が付くぐらいの距離で座って、ひとこと言い終わったら相手の肩をちょんってやって、にこっとしてみてください。やりますよ。はい。

向坂:もういい加減にしてよ。私のこと何だと思ってるのよ。

オーハシ:言いがかりはやめてよ。こんなふうに、ひとこと言い終わったら肩でちょんと付いて、にこっと相手のほうにしてみてください。やってみましょう。どうぞ。肩が触れるぐらいに座る。そこがポイントです。どうぞ。

向坂:もういい加減にしてよ。私のこと何だと思ってるのよ。

甲斐:言いがかりはやめてよ。

向坂:何よその言い方。

甲斐:そっちこそ、何だよ。何でそんなこと言うの。

向坂:私の言うこと何にも聞いてないでしょ。

甲斐:何よ、偉そうに。

向坂:偉そうなのは、そっちじゃない。

甲斐:おまえこそ、俺の話聞いてなかっただろ。

向坂:もうやめてよ。

甲斐:始めたのはおまえだろ。

向坂:変な言い掛かりつけたのはあなたよ。

甲斐:それはおまえじゃないか。

向坂:もうやめて。

甲斐:おまえこそやめて。

向坂:やめてやめてやめて。

甲斐:やめて。

オーハシ:どうでしたか。けんかをしている感じになりましたか。

甲斐:ただいちゃついているだけです。

オーハシ:いちゃついている。いちゃついて。どうでしたか。

向坂:照れ臭いです。

オーハシ:照れ臭い、そうですね。これ、最初皆さんがこれを読んだ、見た瞬間に、これを理解するときにどういう理解の仕方をしたかというと、ラング、書いてある言葉の理解の仕方をしたんです。書いてある言葉っていうのは、書かれている言葉は単語を付けていくと意味が出来上がっていきます。「私はあなたを好き。でも本当は嫌い。今日はちょっと好きよ」とか、付けていくと意味がどんどん変わっていきますよね。つまり、単語を付けていくと意味が出来上がっていくんです。書かれている言葉、世界中の書かれている言葉が単語を付けていくと意味がどんどん出来上がっていきます。でも、口から出ていっている言葉、パロール。今皆さんは読んだものを口から出しました。この口から出ていっている言葉のことをパロールっていうんですけど、このパロールのほうは第一印象が言葉に意味を全部付けていきます。だから、とんとやってにこっとした、この体の印象が言葉に全部意味を付与していくんです。だから、何だか分からないけど、この言葉をしゃべっていても、この印象の意味が出来上がってくるんです。ここがすごく大事なことなんです。つい私たちは書いてある言葉があったり、何か相手に話そうとしたときに、言葉を考えて、その言葉の意味が伝わるって思うかもしれないですけど、そうではなくて、それをどのように話すか、という、そのどのようにっていう第一印象が言葉に意味を全部付けていくんです。だから、そっちのほうの言葉が、意味が第一の言葉になっちゃうんです。

 じゃあ、今のをちょっとまとめてみましょう。普通、私たちはコミュニケーションというと何を言うか。何を言うかっていうことをすごく考えるんだよね。そうすると、一生懸命考えて何か言うんだけど、それが言ってあげて何を言うか、その内容が伝わってるかっていうと、実は今みたいに立っている位置関係がどうなのか。向かい合って、実は立って今の文章を読んだら、けんかみたくなるわけです。怒(おこ)ってるとか、怒(いか)ってるとか、そういうことが相手に伝わってるわけです。でも、さっきやったみたく、肩を寄せ合って、ちょんなんてやって、にこっとなんかやりながら、そういう位置関係でやると、とても仲のいい、お2人は仲がいいよねっていう意味がすごく伝わるわけね。つまり、どのように話すかでもって意味が180度変わっちゃう。実はコミュニケーションの本質って、どのように話すかなんです。でも、どうしても私たちは何を話すかのことばっかり考えちゃうんです。

 ラングとパロール。話し言葉は話してる人の第一印象が意味をつくっていきます。でも、ラングのほうは単語を付けていくと意味が変わっています。これがすごく言葉を発するときに大事です。ついでに、さっきAさんBさん、AさんBさんみたいにせりふを作ったりして、これはドラマのやり方ですね、せりふを作るってのは。ドラマのやり方を使うとよく学べました。なぜかというと、どのように話すかというのは国語ではなくて演劇の中で、ドラマの中でそれがよく学べるからです。

 「何を、どのように、なぜ」ってやるんです。ちょっと皆さん、これを覚えるようにやってみましょう。いいですか、手を出してください。せえの。「何を」できるだけ小さく。せえの。

一同:「何を、どのように、なぜ」。

オーハシ:こうです。相手を動かそうと思ったら、このなぜの部分をすごくしっかり意識するんです。なぜ私はこの人にこの言葉を投げ掛けるのか。これが強ければ強いほど、相手を動かす力が出てくるんですね、言葉に。これ、広告の文章を作るゴールデンルールっていうのがあるんです。それは、広告の文章を作るときに、相手を、つまり買ってもらったりしたいわけです。普通は「何を、どのように、なぜ」っていう順番に考えちゃいます。「こんなパソコンを作りました」、「何を」です。「これにはこんな機能、こんな機能、こんな機能、こんな機能がいっぱいあります」、「どのように」。「今だったら安いです」、「なぜ」買えるのか、今なのか。そんなふうにやると、あんまり売れません。

 このことを言った、ゴールデンルールっていうのを話した人がいるんですけど、スティーブ・ジョブズだったらどんなふうに言うか。「なぜ」から始めますって言うんです。例えば、「私は世界を変えたいと思ってる。世界は変わると思う」、「なぜ」です。「どのように」、「もしアフリカの少年がアメリカの大統領に直接電話ができたら、または1人のアフリカの少年が世界に自分の思いを発信させたら、世界は変わるんじゃないかと思う」、「どのように」。そして、最後に「私はこんな物を作ってみました。これを使うと」、iPhoneですね。「これを使うと、アフリカの1人の少年がアメリカの大統領に直接話ができますよ」。最後にまた「なぜ」の部分に戻ります。「世界を変えましょう」って言われると、私たちはこの物以上に彼が示した価値観を共有したいなと思うわけです。だって、そうじゃないですか。みんな自分が変わりたいと思ってるじゃない? そうすると、世界がもしこれでもって変わるんだったら、これを使って私も世界を変えたい、自分も変わりたいなんて思いで買うわけです。「なぜ」のほうがしっかりすると、言葉の力が出てきます。そして、そのことで相手を動かす力が出てきます。

 ということで、私のコミュニケーションの原則、締めたいと思います。ありがとうございました。

 

羽地:最後は「はなしを聴きだすスキル」。これまではコミュニケーションの原則を学びましたが、最後は少しスキルを一緒に学んでみましょう。スキルというのは繰り返し繰り返し繰り返し体験すれば誰でも身に付く、そういうものです。特に今回は話を聞き出すスキルに焦点を絞りましょう。コミュニケーションには大きく2つ要素があります。発信するという要素と受信する。ですから、最後の単元は受信するというところで、相手の話を聞き出すためのスキル。効果的に話を聞き出すということをやっていきましょう。特に僕はコーチングやカウンセリングといったことを仕事として行っています。さあ、コーチングやカウンセリングで実は大事なのは、相手の話を聞き出すための効果的な質問を使うというところが実は非常に重要です。

 さあ、皆さん、コミュニケーションを取るときに、質問を意識的に使っているでしょうか。場合によっては聞き出したいことによって質問を使い分けをしているでしょうか。大きく分けると質問には2つの種類があります。閉じた質問と開いた質問です。閉じた質問はイエスかノー、もしくは1つの単語で答えられる質問です。例えば、「きょうは暑いですね」「きのうは何時頃寝ました?」などなど、そういうイエスかノーか、もしくは1つの単語で答えられるのが閉じた質問。開いた質問はそれ以外のその人の意見や考えを引き出すための質問です。例えば、英語でいうとhowやwhyで聞く質問。「これについてどう思いますか」「どうやったらできるようになりますか」、これが開いた質問です。閉じた質問は、基本的にイエスかノー、はいかいいえか1つの単語で答えられるので、基本的に答えやすいです。答える側は反射的に答えられます。あまり考えずにさっと答えられるのが閉じた質問。

 一方、開いた質問は、その人の意見や考えを引き出すことはできるんですが、逆にその人の答える側が考えがまとまっていないと答えにくくなります。ですから、コーチングでもカウンセリングでも、もしくは一般の対話でも、まずは導入段階は相手が答えやすい閉じた質問から入るのが原則です。そして、徐々に何か言って「はい」、何か言って「はい」という対話がどんどんどんどん進んでいって、言葉のキャッチボールが活発になってきたところで、そろそろ相手の考え、意見がまとまってきたなという段階で徐々に開いた質問をされます。そして、開いた質問で相手が答えにくくなったなと思ったら、また答えやすい閉じた質問に戻る。これがインタビューや場合によってはコーチング、カウンセリングでも原則となります。

 ちょっとやってみましょう。これから2人、それぞれペアを組んで、今学んだ質問のスキルを使ってみようと思うんです。どう? ここまで頭に入りました? 大体分かった? まずは原則として閉じた質問。徐々に開いた質問。これをまずやってみましょう。そしたら、ちょっと一回2人でやってみようかな、2人で、2人で、2人で。じゃあ、どうぞ、いきましょう。

 さあ、そしてこれが基本形。閉じた質問から開いた質問、これが基本形で、次、応用形。応用形は3つだけ今回覚えて練習をして帰りましょう。1番は選択肢を示す質問、2番目が両極を示す質問、3番目が点数化する質問です。選択肢を示す質問は「AかBのどちらにしますか」「あえて選ぶと赤と白どっちのシャツがいいですか」といったものです。次は、両極を示す質問は、それのいいところと悪いところって聞きます。例えば、「この案の気に入ってるとこ聞かせて。気に入ってないところ聞かせて」、場合によっては「これを行ったときのメリットは何でしょう。デメリットは何でしょう」、これが両極を示す質問です。曖昧な状況の一番いいところと悪いところを聞くことによって、その人がその状況をどう捉えているかが明確になってきます。そして、3番目は、一番これ、使いやすいかもしれません。点数化する質問です。まず、点数付けてもらいます。そして、その点数のできてるとこは何でしょう、足りないここは何でしょうという聞き方です。例えば「これに対する満足度、100点満点で何点ですか」「70点です」「じゃあ、70点のうまくできてるとこはどこでしょう。あと30点、何があると良くなるでしょう」というふうに点数を付ける質問ですから、これは閉じた質問なんですが、その後開いた質問を組み合わせて、できてるところはどうして、足りないところは何でしょうと聞き出す質問です。

 さあ、この応用形、頭では分かったと思います。寺師さん、分かった? 頭では。理解できた?

寺師:はい。

羽地:そして、さっきの閉じた質問から開いた質問。そして、その中にこの応用形を入れて、またまた今度練習をしてみましょう。2人で相手のちょっと気になってること、困ってることを聞き出すという、少しミニコーチングの練習をしてみようと思うんです。

 誰か、やってもいいかなという人。寺師さん、いいですか。

寺師:はい。

羽地:じゃあ、皆さん、拍手を。寺師さん、ありがとうございます。(拍手)

 そしたら、ここに来ましょうか。ここに椅子を出してやってみましょう。これから5分間、僕は寺師さんのお話を聞かせてもらいます。よかったら皆さん見てますが、言いたくないことは言わなくていいし、もし答えられるようだったら答えてください。少しでも寺師さんの何か気になってること、困ってることに役に立つようなコーチングを5分間やろうと思います。いいですか。

寺師:はい。

羽地:寺師さんは今何年生?

寺師:今大学4年生です。

羽地:4年生。ということは、もうこの春に社会人?

寺師:そうなります。

羽地:ちなみに、もう就職先は決まってるんですよね?

寺師:もう決まってます。

羽地:ちなみに、ここ東京ですか、それともそれ以外の土地?

寺師:東京じゃない所で就職します。

羽地:聞いてもいい? どこで就職するの?

寺師:私、地元鹿児島なんですけど、その鹿児島です。

羽地:鹿児島で就職をすると。ということは、ここ東京から生活も変わる。そして、学生から社会人へと変わるということですね。どうですか、これから4月の新しい社会人としての生活、期待と不安、どちらもあると思うんですが、期待は100点満点でいうと何点ぐらい?

寺師:期待は80点ぐらいです。

羽地:80点。結構高いですね。不安は?

寺師:不安は残りの20点ぐらい。

羽地:20点ぐらい。じゃあ、いろんなこと聞きたいんですが、まずは期待の80点、どんなところが一番期待してますか。

寺師:自分がやりたかったことを実際に社会人でできるようになると思うので、そこの期待が一番おっきいです。

羽地:いいですね。やりたいことが、社会人でやりたかったことがまずできると。これが期待の80点。じゃあ、残り20点、不安があります。一番不安なことは何でしょう。

寺師:やっぱり右も左も分からない状態で社会人になるので、失敗することがあると思うので、そういうときにしっかり対処して乗り越えていけるかっていう不安がちょっと残ってる感じです。

羽地:右も左も分からない、失敗するかもしれない、そのときにその失敗をちゃんと対処できるか、乗り切れるかどうかが一番心配だということですね。仮にですけども、寺師さん、失敗するということは、どんなことが予測や想像できます?

寺師:仕事の、例えばきょうすべきことを、例えば行く現場があったらその現場を間違えたり、もしくはお客さまとか外部の方とコミュニケーションを取るときに、失礼なことをしてしまったりといった人間関係だったり、仕事上の業務ミスだったりっていうのが思い浮かびます。

羽地:そういったミス、失敗をするのが今ちょっと怖い、心配、不安があるということですね。周りの上司や周りの方々は寺師さんに一番期待してることはどんなことだと思います?

寺師:やっぱり1年目なので、若い力というか、何があっても元気に乗り越えていけるような、素直な素質が求められてるような気がします。

羽地:いろんなことを若さで、いろんなことを取り組んで、元気に乗り越えていけるような、そんな新入社員というか、社会人1年生の寺師さんを期待していると。そんな、もしも寺師さんが失敗することにすごく不安を持ってるとしたら、上司や周りの方は何て言うと思います?

寺師:最初は、昔は自分も同じような時代があったというふうに、自分の今の心境に寄り添ってくれるのかなっていうふうに思います。

羽地:周りの方がね。ぜひ寺師さん、これから社会人としてどんな職場でどんな上司の方々と出会ったり仕事をするかは分かりませんが、ぜひ全力でまずは取り組んで、いろんな人からいろんなアドバイスをもらったりして成長していただきたいなと思うんですが、今どうですか、先ほど20%不安があると言いましたが、その20%の不安、今改めて考えるとどのぐらい? あんまり変わらない?

寺師:でも、今こうやって話して、上司の方が僕の失敗に向けてどういうふうに、対処してくれるかっていうのも自分で考えることができたので、そうするとやっぱりまださっきよりかは不安が解消されたような気がします。

羽地:少しだけ社会人として、先輩としての僕のアドバイスは、失敗を恐れず、ぜひのびのびといろんなことにチャレンジしてほしいなと思います。じゃあ、ちょうど5分ぐらいなので、一回これで区切りますね。じゃあ、寺師さんどうもありがとう。どうもありがとう。

寺師:ありがとうございました。(拍手)

羽地:という感じで、5分間、質問を使って相手の悩んでいること、気になってること、もしくは成し遂げたいことを2人でインタビューしてみようと思うんです。基本は閉じた質問から開いた質問、そして答えにくくなったら閉じた質問。できれば先ほどの選択肢を示す質問や両極を聞く質問や点数化の質問を使ってみましょう。いいですか。Aさん、コーチをやる人、手挙げてください。じゃあ、Aさんは基本的に先ほどの質問を使って、Bさんのお悩み、気になること、もしくはこれから何か成し遂げたいなっていうことを聞いてあげてください。何も解決しなくて結構です。聞いてあげて、少し整理する。そのお手伝いをしましょう。Bさん、手を挙げてください。じゃあ、相談する人です。悩みや気になってること、これからやりたいことが明確になってなくて全く構いません。これからきっと5分間の対話を通して、Aさんとの対話で少し整理できるかもしれませんっていうぐらいで、聞かれたことに受け答えをしてください。じゃあ、5分ぐらいやってみましょうか。いいですか。じゃあ、どうぞ、いきましょう。

 それでは、まだまだ話たくさんあると思うんですが、まずどうですか、聞いてもらった側の人の感想を聞いてみようと思うんですよ。5分間、少し意識的に質問を使って話聞いてもらって、何か自分の中の変化があったかとか、率直にこちらは中村さんかな。どうでした?

中村:4月から社会人になるので、そのことについていろいろ聞いていただいたんですけど、自分でもあんまり整理が付いてなかった、なぜその会社に就職を決めたのかとかいうのが、話すことでまた明確になったかなと思いました。

羽地:話すことで少し明確になった。ありがとう。こちらは向坂さん。じゃあ、これ持って、どうぞ。

向坂:何を話すか決めてなかったんですけど、いろいろ聞かれてるうちに「仕事に関連することで何か困ってることありますか」って言われて、「仕事か」みたいな。新しくそこで考えるきっかけになった感じがしました。

羽地:聞かれる前は全く自分の中になかったのに、質問されることで少し考えるきっかけがそこで生まれたっていうことですね。

向坂:はい。

羽地:ありがとう。こちらは加藤さんかな。

加藤:自分も大学4年で春から社会人として働くので、いろいろ自分の価値観であったりとか、将来成し遂げたいこととかを改めて聞いていただくことで、自分の中で再確認というか、認識することができたのかなと思います。

羽地:素晴らしい。自分の価値観だとか成し遂げたいことが再確認できた。聞いてもらうことによって。どうでしょう、わずか5分ですけれども、意識的に質問を使って話を聞き出すことによって、いろんなことが明確になったり、整理できたり、場合によっては今まで考えてもいなかったようなことが出てきたり。これが実はコーチングでもカウンセリングでもやっていることです。よかったら、どうでしょうか、この質問、練習すればするほど誰でもうまくなります、この質問の力っていうのは。ぜひぜひ少し意識的にこの質問を使って人の話を聞き出すということを少しやってみましょう。それこそがまさしく聞き上手になります。

 それでは、これで聞き出すスキルは終了します。どうでしょう、少しでも質問っていうのは効果的なんだなと。練習すれば少しうまく質問を使えるようになると。聞き出せるようになるという実感が持てたらうれしいです。さあ、じゃあいよいよ、もう最後になりますが、ヨースケさん、どうですか、きょう一緒にやってみて。

オーハシ:今、最初に受けることから始めようという、具体的には受けるって今やったように人から聞くっていうことですから、その聞くっていうことがうまくなるとすごく発信するほうがうまくなります。言葉って非常にニュアンスの問題もありますから、そんなのをうまく使えるようになるといいですね。

羽地:確かに「どうして」なんていうのは、言い方によって「どうして」っていうのと、「どうして?」みたいなの、全然これ違いますよね。

オーハシ:違いますね。

羽地:その辺はまさしくラングとパロールで学んだところです。それでは、きょうの講座はこれで終了いたします。皆さん、お疲れさまでした。

オーハシ:どうもありがとうございました。

一同:ありがとうございました。(拍手)

 

 

オーハシ:学生の人たち、皆さん、参加者の人たちが非常に積極的に心開いてやってくれたので、とてもよかったと思います。ほんとに感じながら、体感するってのは、つまり感じながらやるってことがとても大事なんですけど、非常に感じて、それを素直に言葉にしてくれたり表現してくれたりしてきたので、とてもみんなの心の中や体の中に何かコミュニケーションに関するいろんなことが残ってったんじゃないかななんて、そんなのを実感できました。

羽地:普段は多分大学だとか研修なんかは講義が多いと思うんですよね。一方的に話を聞く。そういう学習に慣れ親しんだ、そういう人たちにとっては、多分初めは戸惑いがあったと思うんです、体験をしてみると。そっから何を気付きましたと。ただ、そこに非常に皆さん、体験から学ぶということに、早くその学習スタイルに慣れてくれたなということで、非常にそういう体験から学ぶ学習能力が皆さん非常に高い。これこそ社会に出ると一番大事で、マニュアルどおりにやるとか、決まったとおりにやる。上司から言われるとおりやることよりも、やはりその場で体験したことから自分で考えて、自分で次の行動を考えるという、そういう経験からの学習が非常に社会の中で大事なので、講座をやってて非常に楽しかったです。

甲斐:自分のこれまでの実生活を振り返ってみて、意外とそういうこともしてたんだなっていう再確認の機会になったなと思います。しかし、今回改めて論理立てて学んだことで、それをより意識して効果的に使える機会がこれから増えるのかなというふうには思いました。

中村:今まで自分の気持ちをどういうふうに伝えるかっていうほうばっかり私は多分考えていたんですけど、今回、自分が受け手としてコミュニケーションをどう取っていくかっていうことを重点的に教えていただいたので、新しい視点からコミュニケーションを学ぶことができて、すごく印象に残りました。

向坂:対話を深めていくみたいなほうに私はいつもいきがちで、なぜとかどうやってとか、そういうことばっかり聞く傾向にあるのですが、それぞれの質問にそれぞれの意義があって、使い分けていくっていうのは確かにそうだなっていうふうに思いました。

五味:どのようにして話すかっていうことで、結構伝わる部分が全然違うんだなっていうのを聞いて、私は逆に言語化がすごく苦手なので、話し方の熱意とかで何か伝わる部分があるんだったら、それはそれでよかったなみたいな感じで、ちょっとほっとする部分もありました。

寺師:質問の変え方だったりとか、あとはやっぱり立ち位置、目線の使い方で相手との関係性も自分から提示することになるので、そういったところにもできるだけ気を配っていきたいなというふうに思いました。

加藤:立ち位置であったりとか、質問であったりとか、声のトーンであったりっていうのは社会人として必要なスキルであるのと同時に、身に付けていなければいけないスキルでもあるので、そういった機会をきょう設けていただいたことは、ほんとにきょうありがたかったなっていうふうに感じてます。