平成26年度講座内容
【特別講座:鹿児島編1】グローバル経済への日本の対応と鹿児島
- 講師
- 葉山 薫氏 (株式会社島津興業代表取締役社長)
- 場所
- リバティークラブ (鹿児島県鹿児島市千日町15-15)
- 放送予定日時
- 平成27年1月31日(土) 6:00~ 7:00歌謡ポップスチャンネル
12:30~13:30 ホームドラマチャンネル
※以降随時放送
葉山 薫(はやま かおる)
株式会社島津興業代表取締役社長
鹿児島県出身、一橋大学卒業後、東京銀行(現 三菱東京UFJ銀行)入行、同行専務取締役ニューヨーク駐在、同行並びに東京三菱銀行副頭取、ユニオン・バンク・オブ・カリフォルニア取締役会長を経て、2008年 株式会社島津興業代表取締役社長。
講義内容
1990年代に日本の高度成長が終わり、バブル崩壊の処理に追われました。そして、日本は明治維新、終戦に次ぐ3つ目の変革期を迎えたと言われました。
ソ連のゴルバチョフのペレストロイカ政策を契機に、89年にはベルリンの壁が崩壊、東西ドイツの統合が実現しました。91年にはソ連邦は解体し冷戦構造は終結しました。これによって、人・物・金の国境を越えた移動が活発になりました。所謂グローバル経済への突入で、その後日本の対応が問われることになります。(グローバル経済の用語は昔のポルトガルとかスペインの大航海時代にも適用できるかも知れません。)
ソ連邦の崩壊により、米国の一極支配が始まり、米国は世界に向けて市場主義経済と民主主義の伝播を図りました。この内、民主主義の伝播はアラブの春の挫折が示すようにスムーズに行かず、未だに異なる政治体制が共存していますが、市場主義経済の方は、中国と雖も自国の利益になるとして、ちゃんと取り入れて自国の経済発展に生かしています。 グローバル化の走りは先進国から途上国への生産基地の移転です。安い賃金を求めての国際分業です。移転の目的は当初は第三国向けの輸出用の生産でしたが、途上国の経済発展による国民所得の向上で次第に進出先の国内市場が重視されるようになります。そして、途上国を卒業した新興国という言葉が登場しました。 新興国の代表がブリックスです。これはアメリカの投資銀行のゴールドマン・サックスの造語で、最初はBRICsとSは小文字でしたが、今ではBRICSと大文字です。最初は、ブラジル・ロシア・印度・中国の四カ国からスタートし複数を表す小文字のSでしたが、その後サウスアフリカを加えた五カ国となり大文字のSに変わりました。
世界経済発展の為、WTO(世界貿易機構)が包括的貿易自由化交渉を進めてきました。しかし、「ウルグアイラウンド」に次ぐ「ドーハ・ラウンド」は先進国と途上国の対立で交渉は頓挫しました。代わりに、地域経済共同体が形成されました。北米のNAFTA、欧州のEU、東南アジアのASEAN、南米大西洋岸のMercosur、南米太平洋岸のPacific Allianceなどです。この他、気のあった国同士が2国間でFTA(自由貿易協定)やEPA(経済連携協定)を締結し貿易・投資の促進を図っています。
このような状況のなかで、TPP参加交渉が進行中です。先般の北京でのAPEC総会で
習近平はAPECの全メンバー参加の経済圏FTAAPを提唱しました。これは理想論で相当時間を要すると思いますがTPPへの牽制球であることは明らかです。ロンドンエコノミスト誌は、オバマ大統領はTPP参加をアメリカ国内雇用促進の為と言っているが、肝心なのはアジア諸国が経済面で米国が頼りになれるかを中国との関係において注視している事だと書いています。
企業はグローバルな市場を対象に業績を伸ばす戦略を練っています。一方、政府は国内経済あってのグローバル経済ですから、企業と政府の利害は必ずしも一致しません。生産基地の海外移転によって、国内の雇用は減少し、国際収支の構造が変わります。現に日本の貿易収支は、赤字に転落しました。それから企業の海外進出で国内での税収は減る恐れがあります。企業は国際的な租税戦略を駆使して節税に努めますので、租税回避地などを巡り国側との攻防が展開されています。
経済グローバル化が進む中で世界の政治経済情勢はどのように変化したでしょうか。
先ず、2008年の米国の投資銀行リーマンブラザーズの破綻を取り上げます。世にリーマンショックと言われ、その影響は米国内に留まらず欧州に波及しました。金融のグローバル化で、欧州の銀行は米国の金融証券を多く抱えていました。自国の格付けの低い中小企業への融資を敬遠し、格付けの高い米国の金融証券を選好しました。格付けが低いと貸倒引当金を多く積む必要があるからです。ところが高格付けの金融証券が焦げ付き被害に遭い欧州経済は打撃を受けました。リーマンショックで欧米の経済は停滞し、元々不冴えの日本と合わせ先進国経済の長期停滞が懸念されました。
先進国経済をどう立て直すのか。厳しい財政の中では金融緩和に依存するしかない訳です。問題は銀行が貸す気になるかです。金融当局はこれまで公的資金で銀行を救済してきました。然し、財政が苦しい中救済には限度があり「too big to fail」の概念は修正を余儀なくされました。そのため当局は増資による自己資本の充実を指導し、自己勘定での裁定取引を制限しました。それから企業の格付けを厳格にして、必要な貸倒引当金の積み増しを指導しました。こうした規制の強化は銀行の融資態度を慎重にさせる恐れがあります。
グローバル経済の本質は国際分業です。物を安く、良い物を作れる所で作って、それを世界中に販売すれば、世界全体の経済効率が上がるという考えです。その結果はどうしても弱肉強食、優勝劣敗という事になり、所得の格差が拡大しています。これは先進国・途上国共通の問題です。先進国の景気停滞が当然新興国や途上国にも及んでおり、折角先進国との所得格差が縮まりつつあったのが、今はストップが掛かっている状況です。
米国では大衆が一握りの金持ちを象徴する金融街で「Occupy Wall-Street 1 to 99」というデモが発生しました。
米国一極支配で1990年台は幕開けしましたが、現在では米国の求心力は低下しています。一方欧州も纏まりを欠き外交交渉の舞台は大国の主導権を欠くGゼロの状況です。
但し、米国経済の回復により、経済面では中国と米国の2人勝ちという状況です。米国の回復を象徴するのがシェールガス革命です。シェールガスを誘因に化学工業の進出が増加しています。加えて、製造業の国内回帰も起こっています。途上国との賃金格差の縮小が直接の要因ですが、米国の場合はアジアからの輸入に掛かる高い運賃も計算に入っていると思います。その点アジアに近い日本と事情が異なると思います。さらに、日本や欧州と違って移民の流入もあり人口増加を続けています。株価も先週末高値を更新するなど好調に推移しています。しかしながら軍事面では、イラク・アフガンの戦争の後遺症があります。オバマ大統領も米国は世界の警察官ではないと言明しています。加えて予算上の制約から歳出の強制削減(sequester)が実施され、例えば太平洋にいる航空母艦の活動に制約がかかる可能性が指摘されています。そして、先般ヘーゲル国防長官が辞任致しましたが、オバマ政権下での3人目の長官辞任です。一説には、イスラム国への地上軍投入を巡る意見の相違が原因との事で、ホワイトハウスと国防省との関係に憶測が飛んでいます。
欧州はドイツの一人勝ちの状態ですが、ギリシャの通貨危機などで経済は停滞しています。それに、ウクライナの問題が加わりました。民族独立運動からも目が離せません。
中国にとっては、民主主義におけるポピュリズムの横行と国論不統一やアラブの春の挫折などは共産党の独裁体制堅持の絶好の口実となるでしょう。勿論中国も香港の民主化運動、台湾の統一問題、少数民族の問題などを抱えています。
冷戦終結後の米国の思惑とは違って、中国は異なる政治体制の共存、経済面では国家資本主義を掲げています。習近平は最近「中国の夢の実現と偉大な栄光の復活」をモットーに米国との太平洋二分論を唱えています。一方、米国はアジア重視に政策転換していますが、対中国協調を前面に出しつつ、中国の南シナ海への侵出を牽制するという、綱渡りの政策を進めています。エコノミスト誌は11月15日号の表紙にBridge over Troubled Waterを標題の下にオバマと習近平が太平洋を挟んで対峙する絵を掲げています。
シェールガス革命の話に戻りますがエコノミスト誌は12月6日号の表紙にsheikhs v shaleの標題でサウジの王様と米国の採掘業者が背中合わせに睨みあう絵を掲げています。今、石油価格は、6月頃に比べると約40パーセント下がっています。先般のOPEC総会で原油価格の下げを食い止めるための供給削減は見送られました。その理由がシェールガス対策でした。エコノミスト誌の記事によるとシェールガス採掘の採算分岐点は65ドルから70ドル位いとのことで、原油価格の下落によってシェールガス開発をストップする業者も現れました。(原油価格の下落は米国経済全体としてはプラス面も大きく、一方ロシア・イラン・イスラム国には打撃です)
中国の話に戻りますが、世銀とIMFから成る戦後の国際金融体制への不満が表面化しました。世界銀行は米国人が総裁、IMFの専務理事は欧州人、出資比率も変わらずと言う事で、中国は経済力に見合った扱いを受けていないとの不満から、先般北京でのBRICSの会合で世銀の向こうを張って新開発銀行を創設し緊急の資金枠を設定する事を決定しました。加えて、アジア各国を中心にアジアインフラ投資銀行AIIBを設置することを発表しました。今日本が総裁を出しているアジア開発銀行(マニラ本店)と競合関係が生じます。中国の戦後国際金融体制への挑戦で今後の各国の対応が注目されます。(IMFの増資案を米国議会が承認を渋っています。米国の出資比率が低下し拒否権を失うのが理由です。2015年3月EU主要国がAIIBに参加意向表明し、日米に動揺が走りました。今後の対応が注目されます。なお、中国はAIIBで拒否権は求めないようです。)
一方ウクライナ紛争で、ロシアは経済制裁で弱っており中国への接近を深めています。ロシアは中国に天然ガスを供給します。欧州への天然ガスの供給が減るとの懸念からです。決済通貨は人民元です。ロシアは米ドル依存を減らしたいのだと思います。米国のドル資金凍結を恐れているかも知れません。先般、ロシアが香港ドルに資金移動しているとの報道に接しました。続報がないので、大きな規模ではないと思いますが、なぜ香港ドルかと考えますと、香港ドルはドルと固定しており価値の減耗を左程心配する必要がないと言う事でしょう。かかる状況から新たな冷戦かとも言われていますが、ロシアと中国の関係はそうは言っても呉越同舟ないしは同舟異夢ではないかなと思います。過去にも中国とロシアは対立の歴史があるわけでして、今でも中央アジアに相当中国は経済進出しています。恐らくこれはロシアを刺激していると思いますが、中国は米国とも仲良くしたいでしょうから冷戦にはならないと思います。それでも、日本の領土問題への影響を考えると両国の動きからは目を離せません。
次に経済化に対する日本の対応です。
90年代はバブルの崩壊の事後処理、具体的には設備・雇用・債務の3つの過剰の解消に取り組みました。お仕舞に、1997年から山一証券や北海道拓殖銀行が破綻して、都市銀行と長期信用銀行の整理統合が進み、90年代は失われた10年「lost decade」と言われました。今では失われた20年と言われますが、未だ終わったとは断言できません。lost decadeの表現は、80年代に過剰な対外債務に苦しんだ中南米諸国に対し用いられました。
現在株価は上昇していますが、1989年末の日経平均最高値3万8,915円には遠く及びません。日本のデフレ経済は15年続いています。デフレ経済下での経済の動きは名目GDPで見るべきだろうと思います。名目GDPのピークは1997年の第二・三四半期に架けての年率換算約520兆円ですが、2010年から2013年に架けては、470兆円から480兆円台で動いています。80年代末の名目GDPが470兆円ですので、この20年間名目GDPは殆ど増加していません。
それから日本はなまじ経済大国としてWTOの包括的な貿易自由化の原則論への拘りが強かったのではないかと思います。このためFTAとかEPAの2国間協定締結に韓国などと比べて出遅れている感じが致します。加えてTPP交渉は難航しています。
ここに「ガラパゴス化する日本」という2010年に出た本を持参しました。内容を要約します。ガラパゴスとは南米エクアドルの沖合に浮かぶイグアナやウミガメなどの絶滅危惧種が生息する孤島です。つまり、現状のままでは日本は衰退すると懸念しています。日本の企業は人口1億2千万の国内市場に専念し、洗練された日本の消費者が好む高品質・高機能の製品を作っているが、世界標準の取得に無頓着であり、今後の日本の人口減少を考えると、外に目を向ける必要があると注意を喚起しています。現に、価格競争・市場調査などで韓国の企業に負けているし、日本の商慣習は日本独自のもので、若者も海外に出たがらない鎖国体質だと指摘した嘆きと警鐘の書です。
然らば現在はどうなっているでしょうか。
アベノミクスで思い出すのは、鄧小平の先富論です。彼は1980年代に改革解放を唱え各地に経済特区を作りました。経済特区に内外から企業を誘致して先行する企業を生み出し、それを梃子に経済全体の底上げを図る考え方です。成金も奨励しました。安倍内閣はtrickle downという言葉を使っています。政府が景気回復を図るのは理解できます。今回それに用いる道具は金融緩和による円安誘導と企業に対する賃上げ要請です。円安で株価は確かに上昇しました。しかし、円安の効果には明るい面もあれば、暗い面もあることに留意すべきです。円安の顕著な効果は外国人の観光客の増加です。新聞報道によれば外国人観光客の日本での消費額が日本人観光客の海外での消費額を上回ったようです。日本からの海外旅行客は1,600万人ぐらいですから、海外からの旅行客より多いと思いますが、中国人の爆買いで一人当たりの消費額が外国人の方が多いのでしょう。
アベノミクスの第一・第二の矢は時間稼ぎで、真価を発揮するのは第三の矢と言われています。ですが、第三の矢の具体策については色んな意見があってコンセンサスが採りにくいのではないかいう気が致します。また第三の矢は中長期的施策でしょうから、即効性は期待できないのも悩ましい所でしょう。
私は日本の潜在成長力を押し下げる構造要因が四つあると思っています。
先ずは人口減少です。生産人口は1995年がピークでした。総人口は2005年に初めて減りまして、その後少し持ち直して2008年から減少が続く状況になっています。これによって国内の需要が縮小して、いろんな面で縮小に伴う歪が生じます。「集約化」がキーワードだと思います。市町村統合が進んでいます。日本創成会議が2040年には消滅可能性のある都市が約半分の896と発表しました。増田寛也氏編集の「地方消滅」が参考になります。
コンパクトシティは流行語に近いと思いますが、鹿児島市が正にそうです。病院やショッピングなど利便性が高く現にマンションは増え続けています。周辺から人が集まってきているのだと思います。
企業の統廃合が進んでいます。M&Aも活発です。その反面日本へ進出してくる海外の企業が非常に少なく、経済の縮小均衡に繋がっている感じです。
金融庁は昨年あたりから地方銀行の合併統合を推進しています。
次に、企業の海外進出です。製造業に始まり今やサービス産業にも及んでいます。この前新聞を読んでおりましたら、日本の製造業でほぼ3分の1が海外に出ているということです。それから自動車産業の国内販売は、全体の売上の中の20パーセントだと、だから8割は海外だということが出ておりました。一方製造業全体での海外生産比率は、43パーセントに達しています。これによって産業の空洞化や雇用の減少が進んでおり、鹿児島県でも何件か例があったのはご承知の通りです。これに伴い国際収支が悪化し、貿易収支は赤字になっています。その反面、海外からの配当金や利子などの所得収支が増加し、経常収支は黒字を維持しています。しかし、経常収支もいずれ赤字になるとの見方をあります。
企業の海外進出と国内需要の減少を併せ考えると国内の設備投資は中々伸びません。ただ、海外の進出には、カントリーリスクが伴います。特に日本の場合は軍事力のバックアップがなく企業自身でリスクを負う覚悟が必要です。また、米国などで懲罰的な賠償金を課せられる例が起っています。下手をすると企業の生き死に関わります。
次に財政赤字です。海外では以前から日本の財政状態はunsustainable持続不能と言われています。国の予算の約半分を借金に依存しています。国の予算は約95兆円ですが、補正予算を加えると100兆円になります。それに対して今年の税収は景気上昇で増加し51兆円と予想されていますが、2008年は38兆円でした。ユーロ圏では、ユーロの通貨価値を維持するため、加盟国に財政規律を課しGDP対比の財政赤字の上限を年間3パーセント、残高で60パーセントと設定しています。仮に日本がEU内にあるとすると、ユーロには加盟できません。政府は財政再建を先送りしている感じです。
政府は2020年のプライマリーバランス(基礎的収支)均衡を目標に掲げています。新聞では達成は黄信号と報じられていますが、赤信号に近い感じです。今後の国債の円滑な消化も心配です。銀行は国債の保有残を減らしています。今後の金利上昇による保有国債の評価損発生の懸念からで、そのリスクは金融当局も認めています。銀行が減らした分は日本銀行が肩代わりしています。日銀は財政法で国債の引き受けは禁じられていますが、市場からの買い上げは許容されます。日銀は量的緩和の手段として国債を購入し市中に資金を供給している訳ですが、日銀の国債保有額は今や年間80兆円の純増で年間の国債純増額の倍に達し、健全性に論議を呼ぶところです。それから、年金基金(GPIF)が国債への投資比率を減らして株式への投資比率を引き上げました。日銀もETF(株価連動投信)を買っています。これも株の購入と同じ効果です。さらに、かんぽ生命も株買いに加わり、実質PKO( price keeping operation買支え)ではないかと囁かれています。
次に、人手不足の問題です。生産人口は1995年から減少に転じました。然し、デフレ経済の下で供給が需要を超過する需給ギャップが存在する状況で人手不足は表面化しませんでした。ところが、ここに来て需給がバランスする状況になり人手不足が顕現しました。公共事業の遅れも目立ち雇用のミスマッチが発生しています。第一次産業、技能職、サービス業の接客部門などに顕著な影響が出ています。
敢えて二点付け加えます。
一つは、日本の経済が成熟し衣類・家電製品など過去の蓄積があり需要が飽和状態に近いことです。それからもう1つは、中国問題が影を落としていることです。私の若い頃「もはや戦後ではない」という言葉が流行致しましたが、今は「未だ戦後は終わらず」の感が拭えません。同じ敗戦国でも、EUの中でのドイツの存在感の大きさと対象的です。
日本の今後の対応について、鹿児島も念頭に2-3感じることを申し述べます。
1つは攻めの農業で、現にその方向に進んでいると思います。具体的には、大規模化と輸出の促進です。企業の参入と、そのための規制緩和が必要だと思います。JAの活動実態を知らず無責任に発言するのは慎むべきでしょうが、農家が個々に輸出するのは無理でしょうから、JAが輸出公社の機能を期待したいところです。実行済みならご免下さい。
企業の対応としては、内需縮小により企業間競争が激化しますので、自社製品のブランド力を高めること、経営の合理化で不採算部門の整理と新規事業の開発による事業の再構築、輸出や外国人観光客など外需への取組みなどを挙げたいと思います。日本は国際比較において新陳代謝の不活発さが指摘されています。不採算企業がいつまでも残り、ベンチャー企業が少ない等です。
レジメに若者の雇用促進と書きました。今、女性の登用や外国人の採用が叫ばれていますが、若い男性に職を与えることもこれに劣らず大事だと思います。少子化の防止にも大切な要因です。グローバルに活躍できる人材と国の土台を守る産業の担い手となる人材の増強です。後者の為には、技能職の養成と専門教育の充実が求められます。例えば、農業への企業参入は大規模経営や機械化、近代的な経営手法を通じ、それら改善を容易にすると思います。また、雇用のミスマッチを解消するには、職業上の差別を無くす事が大切で、親御さんを含め社会の意識改革が望まれます。
観光業に従事する者として、外国人観光客の取り込みは重要なテーマですので、一言申し上げます。外国人にはホームページやフェイスブックを含む事前の情報発信をきちっと行うことや彼らのニーズを汲み取り商品サービスの向上を図ることが大切です。細かいことですが、お菓子の包装紙とか町の看板など随所にローマ字表示が認められますが、外国人には理解できません。英語表記を徹底すべきだと思います。外国人が日本で困るのは言葉が通じないことです。日本人が外国語に不得手なのは、植民地の経験がないこと、日本は技術力を誇る経済先進国ということで相手に教える立場だったことが原因かとも思いますが、今や売ってやる立場から買ってもらう立場に変わったことを悟り、真剣に語学力の向上に取り組む必要があります。
最後に、日中関係です。中国とは隣国としてこれからもずっと付き合わざるを得ないわけで関係改善は日本にとって非常に大事なテーマです。日米同盟の堅持が前提ですが、日本独自で局面を打開していくという覚悟が必要です。米国も先程申し上げた通り中国との友好関係を望んでおり、皆が仲良くやろうよという基本的態度ですから、一方的に日本に肩入れすることは望めず、協力に限界があるのではないでしょうか。
その点、気になるのは米国内での日本の存在感が薄れてきているとの懸念です。私の最後の米国勤務でも多少感じていましたが、その度合いが進んだようで、日本の発信力を相当強めていく必要があるいと思います。
カリフォルニア選出の米下院議員にマイク・ホンダという日系人がいます。彼は州議員時代に対日謝罪法案をカリフォルニアの州議会に提出し、下院議員になってからも下院に同様の法案を出しました。私はロスアンゼルス在勤時に彼と会い、同法案提出を諦めるよう頼みましたが、聞き入れられませんでした。彼の選挙区は中国人が多く住むサンノゼ地区でした。今でも反日運動に関与しており、先般韓国の朴大統領とソールで会談しました。今は亡きダニエル・イノウエという、ハワイ出身のお爺さんがいました。彼は第二次世界大戦中に日系人だけの442連隊の一員として北部イタリア戦線に従軍しました。勇敢な442連隊は苦戦していたテキサスの部隊を助け日系人の名誉挽回に貢献しました。彼はその戦争で片腕をなくします。彼は議会内で誰もジャップの蔑称は発しなかったと私に話して呉れました。彼への尊敬の念からです。彼が居なくなり反日をやるような人が残っている現実に危機感を抱いています。それ故、日本の発信力を強めていかねばなりません。ご承知のように、学者にしろ、外交官にしろ、留学生にしろ、中国と米国との人的交流は日本より遥かに活発です。従って米国世論を動かすには、相当に頑張らないといけないということです。日米友好関係の維持に努めるのは当然ですが、日中関係改善は自力でやる覚悟が要ると思う所以です。
時間が参りましたので、終わらせて戴きます。年寄りの危機感を汲み取っていただければと思います。ご静聴有難うございました。