平成21年度第2回:お弁当とお土産で学ぶ地方経済

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岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾 平成21年度シリーズ

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第2回:お弁当とお土産で学ぶ地方経済

講師
山本恭逸 先生(青森公立大学経営経済学部教授)
日時
2009年12月22日 13:00pm~14:00pm
場所
岩崎学生寮1Fホール(東京都世田谷区北烏山7-12-20)TEL: 03-3300-2600

山本恭逸 先生(Kyouitsu Yamamoto)

青森公立大学経営経済学部教授

青森市生まれ
明治大学大学院政治経済学研究科経済学専攻修士課程修了
77年、(財)日本生産性本部入職
98年、同職離職、青森公立大学地域研究センター主任研究員に就任
01年より、青森市雪国学研究センター主任研究員併任

担当科目: 地域キャリア形成論、調査と統計Ⅰ
専門分野: 交通計画、産業振興、観光等々の各分野の調査ならびにコンサルティング

講義内容

皆さんこんにちは。今日は「お弁当とお土産で学ぶ地方経済」ということで、身近なものから地方経済を見る視点を問題提起したいというふうに思っております。

1.地方圏経済と第一次産業

最初に地方の経済と一次産業についてお話ししたいと思います。

一次産業というと、日本全体でもわずかGDPの2パーセントとか3パーセントしか占めていません。ではわずかなシェアしか占めていないから一次産業は地域の経済にとって大事ではないのかというと、これは地域の経済という目から見ますと、また違った視点が見えてくるわけです。

それはどういうことかと言いますと。例えば鹿児島県を例にとりますと、鹿児島県の経済にとって農業というのは県内総生産、つまり鹿児島県の県民所得の内わずか4.4パーセントしか占めていません。これは日本の一次産業の占めるシェアよりもちょっと高い程度なんですね。わずか4.4パーセントなのに、なぜ大事なのかというところが問題なのです。

農業はわずか4.4パーセントしか占めていませんけれども、農業の生産誘発効果といいまして、農業に例えば10億円なら10億円の需要が新たに創出したときに、鹿児島県経済全体ではどのぐらいの需要効果があるのか、これを生産誘発効果というふうにいいます。これを見ますと県内総生産のわずか4.4パーセントしか占めていない農業と、大きなウエイトを占めています製造業、その中でも最も生産性が高いというふうに言われています電機とかエレクトニクスの産業と比較してみるとどっちが生産波及効果が大きいかというと、意外なことに農業のほうがはるかにエレクトロニクス産業・電機産業よりも生産誘発効果が高いんです。

つまりこれは何を意味するのかと言いますと、農業は地域の産業、地域の企業とのつながりが深いということなんです。つまり言い換えると、農業というのは地域の中で大変裾野の広い産業だということが大事なポイントです。

従って裾野が広い産業ですから、県内の生産活動を幅広く誘発するという経済構造にあるわけです。これに対して電機とかエレクトロニクスといった製造業は、確かに生産性は高いです。大変な付加価値を創造しています。しかし、製造過程で必要とする部品、あるいは原材料、そういったものの殆どが県外から調達していまして鹿児島県経済との結びつきが弱い、つまり生産誘発効果が乏しいということなんです。

確かに農業の占めるウエイトというのは低いんですけれども、なぜ生産誘発効果が大きいのかというと、地域の産業とそれだけ結びついているということなんですね。これは別に鹿児島県だけに限ったことではありません。大分県でもそうですし、長野県でもそうですし、新潟県でも同じことが起こっています。

だから地域の一次産業というのはウエイトは低いけれども、地域全体の経済、地域全体の企業との結びつきが強いがゆえに、地域の一次産業というのは無視できない存在になっていると、こういうことだと思うんです。ところがいま一次産業は鹿児島だけではなくて、全国で元気がありません。なぜ一次産業は元気がないんでしょうか。

2. 何故第一次産業は元気がないのか?

これについては一般にいまは一次産業は元気がないかもしれないけれども、将来いずれかのときには食料危機が訪れるという主張があります。本当に食料危機というのが訪れるのかどうか。

実は食料需給の研究の専門家に言わせると、殆どの方々が長期的に食料需給が逼迫する、つまり食料危機が起こるということは、まず可能性は極めて低いというのが専門家の見解です。ですから国のほうでも農林水産省は、いずれ食料危機が来るなんていうことは一言も言っていません。

むしろ農業団体であるJAの方々がおっしゃっている。専門家は必ずしも食料危機が起こるという状況を殆ど想定していません。特に冷戦が終ってグローバル経済化が一層進んだというふうに言われる中で、農業をはじめとした一次産品の多くがずっと供給過剰の状態で来ています。

従って農産物の価格がずっと低迷したままで、たまたま昨年(2008年)農産物の価格が高騰しましたけれども、これはむしろ投機資金が流入したための一時的な現象だろうというのが専門家の共通した見方でございまして、必ずしも供給不足のために起こったものとは説明されていません。

これから先はどうなのかというのは、確かに将来については分からないわけですけれども、供給過剰の状態がずっと続いていますし、これから先も続く可能性がある。つまり一次産業の殆どが供給過剰の状態が続いている。

つまり日本では米余りというふうに言われていますけれども、世界的に見ますと米の流通量というのは、麦に比べますと大変に量が少ないんです。世界的に小麦は流通しているわけですけれども、では小麦の需給が逼迫しているかというと、必ずしもそうではありません。

先ほども言いましたように、たまたま昨年(2008年)価格が高騰したのは、むしろ投機資金がこの穀物市場のマーケットに大量に流れ込んだということが原因だろうと思います。そういった世界的な動向は別としまして、国内の産地を見て気付くことは、いま大産地、つまりリンゴでも何の産地でもいいんですが、大産地ほど深刻な状況になっているのはなぜかということについて考えてみたいと思います。

確かに大産地を作りますといろんなメリットがありますけれども、いまはどうもいろんなメリットよりもデメリットのほうが大きくなっているんではないかというふうに思われます。なぜかと言いますと、大産地は殆どが供給過剰ですから、先ほど言った世界的な供給過剰だけではなくて、日本の中でも殆どの作物が供給過剰です。米だけではありません。果樹にしても然り、野菜についても然りです。もちろん野菜については季節的な要因で一時的に価格が高騰するということはありますけれども、全体的に量が不足するという事態が起こっているかというと必ずしもそうではありません。

例えばいま大産地で何が起こっているのかと言いますと、最近はデフレだということもありまして、大手の流通資本に入った大卒の2年目・3年目ぐらいの若い社員が前の年のチラシと比較して少しでも安くしようということで、産地の担当者を呼んで去年よりも安い値段で取引を要求する。つまりこれは交渉というよりも、一方的な要求に近いような状況です。

安い値段で、この値段で嫌だったら、いくらでも取引先は変更できるよ。おたく以外にもいくらでも安い値段で供給してくれる産地はありますよと言わんばかりの態度で、結局大産地ほど買い叩かれている、こういう状態が続いているんです。せっかく生産者が一生懸命頑張っても、場合によってはその生産コストすらまかなえないような価格での取引が強いられているといいますか、要求されているのが、いまの状況ではないかと思います。

従っていま一次産業をやっているところで景気のいいところ、特に大産地ほど買い叩かれているのがいまの状況ではないか。では大規模化すれば問題が解決するのかというと、これもまた必ずしもそうではありません。例えば北海道のある町で、町の耕地面積の8割を家族4人で超大型機械でもって蕎麦を作り、小麦を作り、しかもそれは有機農法として生産しているところがあります。それだけの大規模でやっていながら、では生産コストをどこまで落とせるのかというと、必ずしも生産コストが飛躍的に下がったわけでも何でもありません。

いまの農業の抱えている構造的な問題というのは、まさにマーケットのほうが供給過剰でありまして、グローバルな市場でも供給過剰であるだけではなく、日本の市場でも供給過剰だということで、買い叩かれているというのがいまの一次産業の現状ではないかと思います。

さらにそれに追い討ちをかけるように、昨今の不況でありまして。従っていままでは比較的高価格な品物がそこそこの値段で取引されていましたけれども、高価格な品物ほど、高級品ほど売れなくなってきているということで、1割ダウン2割ダウンという取引が多くなってきているのが特色のように思います。

では同じ一次産品でありますけれども、水産物はどうかと。この水産物は実はまだ土による農業よりももっとグローバリズムの影響を受けています。なぜならば日本の近海で獲ろうが、アフリカ沖で獲ろうが、海はつながっているわけですので、土のものはいろんな形で規制はありますけれども、海のものについての規制というのは殆どありません。海がつながっているというのが、その理由とされています。従って、農業よりも先に国内の水産業のほうがグローバリズムの影響を受けたというのが、いまの地方の経済を支えている一次産業が元気がない理由なんではないかというふうに思っています。

3.お弁当と地方経済

そこでいま一次産業の話をしましたけれども。まず皆さん方に一次産業というと、食と密接に結びついています。

ここにコンビニで売られているお弁当を2つ紹介しました。1つは「焼き鮭和風幕の内」という498円のコンビニのお弁当です。以前はこういう500円というのがコンビニお弁当の主流でありましたけれども、最近ではどうもコンビニだって値段が安くないと売れないということで、幕の内弁当398ということで398円の幕の内弁当も売られています。

例えばこの「焼き鮭和風幕の内」498円で紅鮭使用のお弁当、非常においしそうなお弁当ですね。このお弁当というのは、製造原価は幾らだと思うでしょうか。皆さん考えてみて下さい。498円で売られているお弁当の製造原価です。製造原価の中には、お米であるとか、鮭であるといったこういう食材費も入っていますし、この容器代も入っています。それからこの鮭を焼いたり、煮物を煮たりする調理する人の人件費も入っています。それから調理するときの光熱費も入っています。それから作ったお弁当を各コンビニなりスーパーの店頭まで配送する費用も全部含めて、製造原価は幾らでできているというふうに思いますか。498円です。その内消費税は24円ということになるんでしょうか。23円とか24円でしょう。はい、それでは林さん。

林さん(以下敬称略):
はい、だいたい350円かなあと思っています。

山本先生:
はい、350円。はい、いい線をいっていますね。じゃ、天野さんは。

天野さん(以下敬称略):
はい、わたしは300円ぐらいだと思います。

山本先生:
はい、ありがとうございます。他の皆さんもいかがでしょうか。例えば300円よりも高いと思う人、ちょっと手を挙げてみて下さい。はい。300円よりも安いと思う人。300円よりも安いという方が多いですね。実は一般的に、これは別に作っているベンダーの方に聞いたわけではありませんけれども、業界の常識としては220円~230円です。どう思います?

林:
質問なんですけど、どうしてそんなに安い値段でできるんですか?

山本先生:
はい、そうですね。何でこんなに安い値段でできるのか、これが実は今日の1番目のポイント。このお弁当を見るだけで、地域経済というものが分かってくるんです。

まずこのお弁当で、半分ぐらいをご飯が占めています。いま農家の方、特に米農家の方は「米が売れない、米が売れない」というふうに言っていますけども、米は売れないのかもしれませんがご飯は売れています。

コンビニに行きますと、お握り1個100グラムですよね。1個100グラムのお握りが売られている。つまりどんどん、どんどん売れています。では消費税も入れて105円、消費税抜きで100円で売られているお握り、100グラムですけども、ご飯としての値段がどのぐらいかということを考えたら、お米の値段とお握り1個の値段を比較してみると何倍になっていると考えられるでしょうか。

実はこういうところが、地方の経済が、というよりも地方の消費者が、地方であろうと大都市圏であろうと同じですよ、消費者が殆ど意識しない内に実はこういうものが日常生活の中に溶け込んでいる。あるいはここに紅鮭の切り身があります。すごく薄い切り身ですよね。こういう切り身を他に皆さん見たことはありませんでしょうか。

例えばこれを専門的な業界用語で言いますと、「業務用食品」というふうに言っています。業務用食品というのはどういうものかと言いますと。もともと業務用食品といいますのは、小学校とか中学校の給食から始まりました。

戦後昭和30年代に全国各地で小学校の給食を始めました。そのときに、例えば鮭の切り身、あるいはエビフライ、これが隣の子と大きさが極端に違っていたら喧嘩になってしまいますよね。だから同じ大きさでなければいけなかったんです。

つまり工業化社会というのは、わたしはこういうことだと思うんですけども。農産物、一次産品にも工業化社会と同じ規格化という、同じ商品を規格化する、同じサイズのものに揃える、そういう大掛かりな動きが工業化社会という社会の編成原理といいますか、そういう原理が一次産業のほうにも要求されるようになった。そういうもの、形がバラバラ、本来一次産業というものというのは全部生き物を相手にしていますので、大きさがバラバラのはずです。でもトマトを例にとっても、同じ大きさのもの、同じサイズのものを全部揃えていますよね。同じサイズのものを揃えてないと市場に出せない。キュウリにしても真っ直ぐな同じ大きさのサイズのキュウリでないと出せない。

つまり流通そのものが、まさに工業化社会の規格化という1つの大事な価値感でもって、一次産業の世界に全部入り込むようになった。水産業だって同じです。実際に魚を獲ったときに、大きさというのはみんなバラバラなはずです。でも大きさの揃ったもの、例えばイカならイカでも、大きさの揃ったものを発泡スチロールのケースに揃えることによって市場に流通させることができる。これがまさに規格化です。

そういう1つ1つのサイズの違うものを業務用食品という形で、例えば小学校の給食であるとか、あるいは病院の給食に提供する。隣の人と大きさが違わないようにしないとクレームが来るでしょう。小学生だと喧嘩になるかもしれない。そうしないために、実はまさに鮭なら鮭を標準化して同じ大きさで提供するようにした。これが業務用食品です。

つまりお惣菜については、これらの殆どが業務用食品を使っている。ところが価格に対する要求が非常に強いです。価格に対する要求が強くなると、国内の産地で対応できるところというのが殆どない。どうしても価格に対して消費者が敏感だということで、そうすると海外からの輸入した一次産品を使うようになる。ご飯の場合には比較的コストダウンが簡単です。1回に作るご飯の量を大量に作る。だからコストダウンが可能になる。

ところが惣菜については、まさに業務用食品を採用することによってコストダウンする以外にないわけです。しかも価格に対する要求が強くなってきていますから、国内の大産地といえどもなかなかこの業務用食品の世界に入り込むことができなくなっている。業務用食品については、標準化ともう1つ大きな動きがあります。味付けまで全部してしまう。

つまり例えばこの玉子がありますけれども、皆さん方は家庭で玉子を作るときは卵を殻から割って玉子焼きを作ると思うんです。業務用食品は、卵を殻から割ったりなんかはしません。もし卵を割る途中の過程で卵の殻がほんのちょっとでもこの中に混じっていたら、お客さんからクレームが来て大変なことになります。

従っていま業務用食品としてこの卵がどういう状態で市場を流通しているかと言いますと、「液卵」というふうにいいまして卵を割った状態で流通している。昔は丁度このぐらいの大きさの卵ケースに2段3段入った形で卵が流通していたと思うんですけれども、いまはそういう光景は殆ど見られなくなりました。

外食産業でも、そうです。卵がトラックに乗せられて運ぶという光景が殆ど見られなくなって、もっぱら卵を割った状態、つまり液体の状態で流通している。つまりわたしたちの知らないところで、どんどん、どんどん進化しているんです。これを進化と言っていいかどうか、人によっては考え方も違うと思います。

トラブルがあったら大変だ。例えば大阪に555という大変人気のある豚マンがありますけども。鹿児島産の豚肉なんですが、そこの会社に豚肉を卸している卸業者がどういう契約をしているか見せていただきましたけれども。もしその中に豚の毛が1本でも入っていたら、その卸会社はもう倒産するぐらいの大変な経済的ペナルテイを課せられるようになっています。

消費者の要求がそういうふうに高まれば高まるほど、本当に消費者が求めているのかと本当に首を傾げたくなるような方向にいまどんどん、どんどん逆に向かっている。これがいまの外食産業であり、あるいは中食産業の現状なんではないかというふうに思うんです。

いまお弁当の話をしましたけども、例えば皆さん方自分で調理をされている方もいらっしゃろうかと思いますけれども。カレーライスを1人前作るのと、カレーライスを10人前作るのとコストが10倍かかるのかというと、決してそうではないと思うんです。これが「規模の経済」というふうに言われるものです。「スケールメリット」というふうに言います。

つまりご飯も、少量を炊くよりも大量に炊いたほうがコストダウンできる。こういう煮物も、実は少量をやるよりも大量に作ったほうがコストダウンできる。場合によっては自分のところで調理するよりも、業務用食品を買ってそれを袋から出して提供したほうがいいものもたくさんあります。

そういう1つの例が、例えばポテトサラダがあると思います。実はこのポテトサラダについては、北海道のある農協が非常に力を入れていまして、国産のポテトを使っています。ところがポテトサラダといいますのは、冷凍しますとジャガイモもこんな大きい塊ですと繊維が壊れてしまう。だから業務用食品のポテトサラダといいますのは、ジャガイモの形を残さないように完全にマッシュポテトの状態で作られています。

それを冷凍なり冷蔵保存して、全国流通させている。でもこれなんかはポテトサラダの場合には、かなり国内産のポテトが使われているというだけでも経済効果は大きいでしょう。問題はそのポテトサラダが、現場でどういうふうに使われているかです。例えばポテトサラダを袋からそのまま出して提供している。よくホテルのバイキングの朝食なんかに、朝必ず出てくるようなものがありますね。ああいうものが、まさにそのポテトサラダ、業務用食品のポテトサラダです。それをそのまま袋から取り出して提供しているところもあれば、彩を良くするためにキュウリを千切りにしまして、千切りしたキュウリをかき混ぜて彩を良くしているところもある。

あるいはコンビニとかスーパーのお弁当ですと、キュウリを入れるんではなくて冷凍食品のグリーンピースとかコーンを加熱解凍しまして、それを一緒に混ぜると大変彩のいいポテトサラダが出来上がる。

こういう形で業務用食品をいろんな形で入れながら、組み合わせながら作る。だから1つの製造原価が半分以下でも十分採算がとれるという構造になっています。ではそこでそのお弁当は、先ほども言いましたように、ポテトサラダの場合には国内産を使っているケースが多いんですけれども、それ以外の食材の場合には殆どが国内の産地が競争力を持っていない。

従って実はわたしたちが知らず知らずにスーパーとかコンビニでお弁当を食べていたり、あるいはホテルに泊まって朝食でバイキング料理を食べる、こういう機会に食べるものの殆どが、実は業務用食品だということなんです。別にこの業務用食品が悪いというわけではありません。実はこの業務用食品というのはいまどんどん進化していまして、家庭で作るよりも非常に味がおいしい。しかも衛生水準には、ものすごく細心の注意が払われているというようなメリットもあります。

しかし、地域経済という目からいきますと、ではここで売られているお弁当の食材の内どれだけ国内産のものが使われているのかということを見ますと。お米は日本のお米でしょうけれども、それ以外のものは大半が海外からの輸入した食品が使われている。

つまり国内の産地ならまだしも、海外からのものでないと競争力をいま失いつつあるというのが、いまの一次産業の停滞にさらに拍車をかけているように思うわけです。これがいまお弁当の中から見た地域の一次産業の問題点ということになろうかと思います。

こういう問題は、実はお弁当の世界だけではありません。いろんなところで起こっています。例えば皆さん方は最近はよくテレビ通販なんかで、カニのしゃぶしゃぶなんていうのが非常に安い値段で手に入れることができますね。しかも昔のカニしゃぶと違って、カニの足の殻の部分を奇麗にとってあるはずです。実はあれは殆どがロシアで獲れたカニを中国に持っていって、中国で鋏で切り取って切り取った状態でもう1回冷凍して日本に輸入しているというのが殆どなんです。日本であの加工を日本人がやったら、とてもあの値段では提供できません。

別にカニの加工だけではありません。例えばデパートとかショッピングセンターで焼きたてのパンを提供しているところが最近は増えました。実はそういうところも会社によってはパンの生地を作るのは海外でやって、海外で作ったパン生地を日本にもってきて、日本のそういうショッピングセンターとかデパートの地下で焼いているだけというパンも実は多くなってきています。

つまり海外との関係でどうやって新しいビジネスモデルを作っているのかということによって、伸びているところと伸びていないところができてきている。これもやはり日本の国内の産地が競争力を失っている1つの例ではないかというふうに思うわけです。

しかも先ほど業務用食品の中でお話ししましたけれども、味がそこそこだというふうに言いました。例えばさっきのコンビニのお弁当も、作っているのは人件費の高い和食の達人であるとかシェフが作っているわけではありません。パートの従業員でもちょっと訓練すれば十分にできる、そういうレベルのものをどんどん提供するようになっている。最初は海外での加工というのは下味を付ける程度から始まりましたけども、いまはもう物によっては業務用食品と言いながら高級料亭の味と間違いたくなるほどの品質の高い物もたくさん出回っています。

極端に言えばわたしのように料理のへたな人間でも、高級業務用食品を仕入れて立派な器に入れて料亭風のところで出しても十分通用するぐらいのレベルのものも出来てきています。ホテルによっては、そういう和食を安い値段で提供しているところもあります。そうするといままで高い給料を払っていた和食の達人であるとかシェフの人たちを雇って料理を作らなくてもいいように、パートの従業員でもちょっと練習すればできる、そういう構造にどんどんいまなりつつあるんです。

例えばいま高級料理店の話をしましたけども、最近高級料理店の傾向はただ単に加熱するというのは基本ではなくなりました。調理の基本、加工の基本というのは、まず加熱というのが教科書的な理解でありますけども、最近はやっていますのは低温加熱というやつです。つまりよく言われるのは、湯たんぽのように高温でないものでも、ずっと手を触れているとやけどになったりしますよね。低温やけどと同じことが、実は低温加熱という形で食材のうまみを殺さない形で、うまみをそのまま生かした形で提供できる。こういうものが、実は高級市場の中では急速に広まっています。調理の仕方というのは基本は確かに加熱ですけども、その加熱をただ単に単純に熱を加えるんではなくて、どんどん新しいビジネスモデルができてきているというのが、いま外食産業、あるいは中食産業で起こっていることです。

4.お土産と地方経済

次に「お土産と地方経済」について考えてみたいと思います。

お土産にもいろいろありますけども、ここではお菓子を念頭に置きましょう。お弁当と同様にお菓子のお土産市場の中から地域経済の問題点を見出すこともできます。実はここでお土産に注目しますのは、ちゃんと理由があるんです。といいますのは、お土産というのは殆どが県外から来られた、地域の外から来られた方が買っていくのが基本だと思うんです。

もちろん中には地元の方が、これはおいしいお菓子だからというふうに買われるものもあるでしょう。家計調査を見ますと、例えば長崎の人はカステラを買っている。長崎の人はカステラを買って日常食べている。盛岡の人はせんべいを買って召し上がっている。これはやはり地元のものが地元の消費につながるということで、非常にいいことだと思いますけれども。それはそれとして、大部分のお土産というのは、外から来られた方がお買い求めになられるというケースが多いでしょう。

ということは、外の地域のお財布で買っていただくわけですから、地域の中での経済取引ですけれども、外の地域に移出したのと同じことが起こっているということなんです。例えばこの商品群を見て下さい。これは長崎の「長崎物語」というお菓子。仙台の「伊達絵巻」というお菓子。「博多の人」というお菓子です。いずれもバームクーヘンの中にあんを入れたり、生クリームを入れたりという形で作られたもの。外側の包装は違いますけれども、中味はもう殆どもう一緒と考えていいでしょう。殆ど一緒です。

つまりこの「長崎物語」というのは、1970年代に1番これが早く始まった。機械メーカーが主導でこういうお菓子を作りました。仙台の「伊達絵巻」という形で作る。「博多の人」という形で全国にこういう形で、皆さん方も旅行をされるとこのお土産を見たことあるなということを、そういう思いをしたことが何度かあると思います。

今度はそれから次の時代になってきますと、こちらにありますのが仙台の「萩の月」。いま1日10万個が売られているそうです。1日10万個、もう大変なヒット商品です。もともとはこれはTDAといういまのJAS、JALの前進のTDAが、仙台と博多に初めて飛行機を飛ばすというときに、この会社が積極的に機内のお菓子として採用してもらおうということで働きかけた。

あるいは歌手の松任谷ユーミンさんがラジオ番組の中でこの「萩の月」というのはおいしいよと言うだけじゃなくて、冷凍して食べるとおいしいよとか、冷蔵で食べるとおいしいよというような提案をしたとか、そういうふうに実はこの商品力がどんどん高まって、いまや仙台のお土産の定番になりつつある。同じことがこの「札幌タイムズスクエアー」というお菓子も同じです。「萩の月」と同じ機械で作られていると考えていいでしょう。

鹿児島の「かるかん」も、恐らく同じ機械で作られているだろうと思います。こういった実は機械の殆どが自動機械で作られているからといって、では自動機械を入れればいいかと。そうでは、ありません。実は同じ機械で作られているからこそ、原材料に対するこだわりがないと商品としての魅力をアピールできない、こういうことが言えます。

つまりこれはただ単に売れ筋の商品だというだけではなくて、地域の経済と結びついているというところが評価できる点だと思います。問題は実はここに紹介したようなお菓子がたくさん並べている。どこを見るかというと、見るポイントは裏の表示を見て下さい。販売者名というのは書いてありますけれども、ここには製造者名は書いてありません。こっちのお菓子は全部実は製造者名が書いてあるんです。それぞれ長崎でしたら長崎で作られている。宮城県で作られている。どこで作られているか。札幌で作られている。製造者名を見れば、札幌の業者が作っているということが分かります。

ところがこちらにあるグループのものは恐らく同じように全部自動機械で作られているはずなんですが、それぞれの地域用に作られている。函館なら函館用。長崎なら長崎用。観光地に行きますと、いろんなお土産があります。皆さん方観光地でお土産を買われるときに、どこで作られているとかっていうことを気にされる方ってどれぐらいいらっしゃるでしょうか。やっぱり少ないですね。どこで作られているのかというのは、すごく大事なことなんです。

同じように自動機械で作られていましても、この販売者名というのが地元の企業の名前、地元の住所が書いてあるものと、製造者名がちゃんと明記されているものとがあります。食品衛生法では両方を書いてあることが望ましいわけですけれども、どちらかが書いてあればいいというふうになっています。もしこれが地元の業者が作ったものであれば、地元の業者の名前を書くでしょう。販売者名と同時に製造者名も書くと思うんです。記入すると思うんです。

ところが製造者名が書かれていないということは、地域の外で大量に作られたものを、その地域バージョンとして包装だけ変えて作られたお土産のお菓子だと考えて差し支えないように思うんです。つまりこれらの殆どは地域経済に対する効果という点でいきますと、こちらのグループのお菓子とは違って地域の経済とあんまり結びついていない。なぜならば非常に値段も安いんです。ということは当然地域の原材料にこだわって作られたお土産ではないということですね。

では地域にどれだけ残るのかと言いますと、卸価格と小売価格の差額の分だけが地域に残る。お土産ですから観光で来られた方、あるいは出張で来られた方が買われるお土産だろうと思いますけども。

ではそれが例えば観光のために年間何百万人来ましたとか、よく観光統計では観光の入れ込み客数というのがよく言われますけれども、入れ込み客数イコール観光消費とは必ずしもつながりません。来た人たちがいまどういう状態なのか。例えばいくらお金を使ってお土産を買いましたと言っても、こっちのグループのお土産を買うのと、こっちのグループのお土産を買うのとでは、地域経済に対する波及効果が全然違うんです。

ですから地域経済という観点からだけいまわたしは申しあげています。こういうお土産を1つ見ても実は販売者名と書いてあるのか、製造者名と書いてあるのかというその表示を1つ見るだけで、実はその地域の観光に関する問題点というものが見えてくる。

地域の中でちゃんとこういうものが、地域の一次産業まで含めて波及しているのかどうか。今日は紹介しませんけども、北海道の「白い恋人」というお菓子があります。石屋製菓という会社が作っていますけども、これもただ単に輸入した小麦で作ったんでは商品を差別化できない。「白い恋人」という名前だけは北海道らしいんだけども、北海道産の小麦を使おうということで急速にそういう方向に移りつつある。こちらのほうは、ですから地域の産業と結びつきが強くなければできないということなんですね。

5.地域で経済循環を高める

最後にではこういうふうに一次産業がなっている状態で、どういうふうにしたらいいのかというのが結論です。

例えば大分県の大山農協が、地元だけではなくて福岡市内に有機野菜中心のオーガニックレストランを運営しています。そこでシェフとして働いているのは、大山町の高齢者のおばあちゃんです。高齢者こそむしろスローフードの一流シェフだという考え。おばあちゃんが家庭菜園で作った有機無農薬の野菜を持ってきて、ご自分で料理をされている。やはりそういうふうに長年作ってきた料理を提供する、こういう部分が大事だと思います。

2番目の動きは、価格競争の泥沼に陥らないようなものをいかに作っていくかです。その1つのモデルは、わたくしはプリンではないかと思っています。例えばスーパーに行きますと、安いプリンがたくさんあります。大メーカーの作ったものです。だけどケーキ屋さんに行くと、そのスーパーのプリンよりも倍ぐらいの値段のものがありますね。ところが最近観光地へ行きますと、原材料にこだわったプリンが1個380円、1個350円という値段で売られています。

つまり原材料にこだわるから、価格競争の泥沼に入らなくて済むんですよ。こういう世界をプリンに続いてどうやって作っていくのかということが、大事なんではないかと思います。消費者にとっては価格が安いということは確かにいいことでしょうけれども、だけどデフレ不況に象徴されるように低価格化というのは一時的には消費者の利益になっても、再生産できない価格水準かどうかということを考えますと、中期的には必ず消費者に跳ね返ってきます。

給料が上がらない、雇用の機会が失われるということにも当然なりかねない、ということを考えた地域経済の再生というものが必要になってくるんではないかなというふうに思います。

今日はこういうお弁当とかお土産という身近なものから地域の経済を考えていただきました。今日提起した問題を皆さん方日常の生活で、例えばこれから買物をされるときに今日お話ししたこと、こういう視点でもってまた地域の経済を見ていただければというふうに思います。どうもご静聴ありがとうございました。

質疑応答

長沢さん:
長沢と申します。先ほど業務用の食材を使って利益を取るというお話があったんですけれども。スーパーでわたしはお弁当のおかずとして冷凍食品を買うんですけれども、たまに通常価格の半額で売られているスーパーさんがあるんですけれども、スーパー・メーカーさんはどのぐらいの利益をその部分で取れるのかなと思いまして、質問をさせていただきました。

山本先生:
はい、ご質問ありがとうございます。常識的に考えて先ほどの弁当の例でも紹介しましたように、例えばコンビニではまだ賞味期限ギリギリになりますと値段を下げるということは必ずしも全国的にやっていませんけども、スーパーの場合ですと閉店間際になりますとお弁当の値段を下げますよね。半分に下げてではお店が損をしているかというと、決してそうではありません。

同じように冷凍食品だって半額にするというのは2つ理由があります。1つは在庫を一掃するために半額にしている場合と、もう1つは実は半額でも十分利益は出るんだ、恐らくそうでしょう、十分利益は出ていると思います。恐らく4割ぐらいは通常当たり前、3割4割が通常の卸の原価だというふうに言われています。ただその辺はどのぐらいの量の取引があるかによって、取引の量が大きくなりますと交渉力が増しますから当然減価率は低くなるでしょうし。3割に限りなく近くなるでしょうし、取引量が少なくなるとむしろこれは4割に近い数字になるんではないかというふうに思われます。こういうことで、よろしいでしょうか。