平成28年度第1回:戦略をやりきる組織づくり ~より存在価値のある企業になるために~

岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾

平成28年度講座内容

【第1回講座】 戦略をやりきる組織づくり
~より存在価値のある企業になるために~

講師
平尾 貴冶氏(株式会社シー・シー・アイ取締役/組織開発コンサルタント)
場所
リバティークラブ(鹿児島県鹿児島市千日町15-15)
放送予定日時
平成28年09月24日(土) 12:30~13:30 ホームドラマチャンネル
平成28年09月24日(土) 06:00~07:00 歌謡ポップスチャンネル

※以降随時放送
詳しい放送予定はこちら(ホームドラマチャンネル歌謡ポップスチャンネル)

平尾 貴冶
(ひらお たかはる)
株式会社シー・シー・アイ取締役/
組織開発コンサルタント

(株)シー・シー・アイ 取締役/組織開発コンサルタント。百貨店(そごう)に17年間勤める中で、内部で経営破たんを経験。仲間たちとも離れ離れになり、「絶対に会社は継続させなければいけない」という強いオモイを持つ。現在は、約4万人の大企業から従業員9名の中小企業に至るまで、企業文化と戦略遂行を結び付けた組織変革に挑んでいる。目指すのは「内部者が自律的に変革し続ける組織作り」である。

講義内容

◇岩崎芳太郎塾長のお話
岩崎塾長:
この政経マネジメント塾は、人材育成ということでいろいろなことをやってきています。例えば「民主主義」という日本語があります。これは英語で言うと「democracy」ということでありますけれども、「democracy」と「民主主義」は一緒なのかどうなのか?同じように、野村監督が「野球」と「baseball」は違うと言ったことがあります。

日本語、もしくは日本の文化構造というのは、非常に吸収をしやすい。吸収力が強いというふうに一部の社会学者が言っています。ですので、少なくとも大和朝廷時代からずっと平安時代、鎖国をしている時代でも外国からの思想や文化など、そういうものを非常に多く吸収しています。それが結局この国の強みになってきているわけでして、その中の1つが、日本語という言葉の強みなわけです。

例えばここで「戦略」などの単語が出てきます。そして、皆さんは当たり前のようにその単語を使っていますけれども、「戦略」というのは、先ほど民主主義を訳したように「strategy」という英語に訳したわけです。戦略に対応する言葉としてよく使われる言葉が「戦術」という言葉がありますけれども、英語に訳すと「tactics」と訳すわけです。
では、皆さん、戦略とはどういうことを言うのか、ここで明確に答えられる人間がいますか。英語で言う「strategy」と日本人が使う「戦略」という言葉に、野村監督が「野球」と「baseball」は違うと言ったように差があるのか、ないのか。実際に「strategy」ということを考えた国の人たち、その人たちが考えているものと、同じものを前提にわれわれは行動したり、ものを考えていたりしているのか?本当に皆さんはそこまでものを考えるときに、行動をするときに、深いところで考えながら論理を積み上げていくのか?ということだと思います。そういうところを頭に入れて、ぜひ聞いていただきたいと思います。
先ほどから申し上げていますように、政経マネジメント塾としてはいろいろな側面からの人材の育成というものを考えています。ただ、人材育成には意外と共通性がありまして、政経マネジメント塾で1つの重要な方針を打ち出しています。「郷中教育の現代的復活」です。

何回か聞かれた方もいると思いますけれども、郷中教育において「義を言うな」、最近の鹿児島でいえば、議論をするなという形で悪い意味で使われてきたこのフレーズ。実際は本来の郷中教育においては、「詮議を尽くして決したら、義を言うな」ということなのです。本来の郷中教育の「義を言うな」というフレーズ、そこにはある種の郷中教育の本質があるということを、皆さんに人材育成の一環として強調してきているわけです。すなわち「義を言うな」というのは、決したら、コンセンサス(意見の一致、同意)とディシジョンメーキング(意思決定)の前に戻らないで、決したことに準じて行動しなさいということでして、言い換えれば、その前は徹底的にコンセンサスを形成するために議論をしろということ。それが郷中教育の本質であります。それには、ともかく人材の育成から始めないことには何も多分変わらないと思います。

そして、その人材に一番必要な資質は、「自助心」「自立心(自律心)」、そして、裏付けのある「自尊心」です。自立心というのは、自力で立つというものともう一つ、自分で自分を律するという2つを申し上げています。最後に多分相関関係にあると思いますけれども、原点にやはりプライド、これは先ほどから申し上げるように裏付けのある自尊心というもの。自助していない人間の、自立していない人間の、そして、己を律していないプライドなんていうのは嘘のプライドです。裏付けのある自尊心というものを強く持つ人間として、地域のためになる人材として、なるべく自分なりに努力をしていただきたいというお願いをして、お話を終えたいと思います。

◇講義「戦略をやりきる組織づくり~より存在価値のある企業になるために~」

平尾先生:
そもそも組織というものは生き物と一緒で、外側の変化に合わせて内側を変化させながら生き残っていかなければいけません。そうしたときにやはり内側の人が主体的に自ら変革し続けるということが、組織が生き残るために一番大事です。そう思ったときに、「組織開発」という観点では、企業文化、風土まで含めて主体的に変化し続ける、外圧ではなく内側から変化し続けることを大切にしていますので、やはりこれからの変化の大きな時代にはとても必要になるものだと思っています。

弊社CCIというのは、今年でまだ創立30年ですけれども、やりたいことは今日のテーマと同じ「戦略をやり切る組織づくり」です。先ほど塾長からあった戦略とはなんぞやというところも、これからこの2時間でできるだけ皆さんと考える時間を持ちたいと思いますが、ワンフレーズで言うと戦略をやり切る組織づくりとは何なのだろうというのが一番のテーマです。

2000年のちょうど今と同じ7月の暑い時期に、入社して16年目で社内の内部として企業破綻を経験しました。私はこのときに大きく3つのことを学びました。
1つは、会社というのはつぶれるのだなということを学びました。これはわれわれ人間の体と一緒で、こうやって元気でいると、死ぬことはないと思ってしまうではないですか。下手すると病気することもないのではないかと思ったりするのです。しかし、われわれに確実に寿命があるように、企業も努力をしない限りは必ず寿命が来ます。その寿命の訪れというのは、実は中にいる人間にとっては1時間ぐらい前までわかりません。現実に私は1時間前まで、記者会見をやる前まで分からなかったのです。ある日突然死が訪れることがあります。それが1つ目です。

2つ目として、最近よくワークライフバランスという言葉を耳にします。仕事と人生、私生活をどうやってバランスを取ってより良い豊かな人生を送るかという、とてもいい言葉です。ただ、現実に企業破綻を経験してみると、ワークライフバランスというのは本当に奇麗事なのだなと思いました。ワークライフバランスという考え方を否定しているわけではないのですけれども、仕事が吹っ飛んだ瞬間に全てが、自分の全人生が吹っ飛ぶということを学びました。

3点目は、会社は経営者1人でつぶすものではないのだということも学びました。これは、恥ずかしながらそのときは気が付かなったのです。企業破綻を経験して何年もたって、自分がこういうお仕事もやらせていただいて、いろいろなことを総合的に考えたときに、決して経営者1人でつぶしたのではない、私も含めた全員の手でつぶしていたのだなということを、後からとてもそれは痛い思いとともに学びました。
先ほど塾長のお話にありました、「詮議を尽くして決したら義を言うな」。つぶれる会社、破綻する会社はその真逆を多分やります。詮議を尽くしません。決した後に義を言います。総論賛成・各論反対のような感じですよね。正々堂々と「いや、このやり方は変えたほうがいいんじゃないですか?」と言うと、空気を読まないやつと思われます。そういう空気の中、みんなで一緒になって崖からバスを落とすように会社はなくなっていくのだなと。その大きく3つを学びました。
ですので、そういった経験を基に本当にやりたいことというのは、競合や株主などの外圧によって変えられる組織ではなくて、内側の人が自分の持っている価値によって、ちゃんとビジョンを持ってそれを統合して、まさに詮議を尽くして統合して、それで内部者で変わり続ける組織というものをつくるお手伝いをしたいというのが、今の私の目標観です。

今日の目標観と進め方です。大きく3つあります。1つは、変革期における戦略をやり切る組織のつくり方を学んでいただきます。この「変革期における」というのがとても大事です。どういうことかというと、変革の時代と変革ではない時代は組織のつくり方が全く違います。これを結構同じものと考えていらっしゃる方が多いというのもあるので、ここはすごく強調しておきます。

2点目、組織の実行力を上げる生産的な会議のあり方を体験的に学ぶということです。大体最初に皆さんの不平不満として出てくるのが会議の話です。「会議が多い」「会議の意味がない」「あんなものやっても仕方がない」「時間の無駄だ」となります。では、時間の無駄ではない生産的会議とはどういうことかを今日はワークしたいと思います。

3つ目、そういった戦略をやり切る組織づくりに対しての皆さまそれぞれ自分自身のスタンス、立ち位置をどう置きたいかというのも考える2時間にしたいと思っています。

今日の進め方ですが、体験学習形式をやります。今の時代は体験から学ぶ組織をつくっていかないと役立たなくなります。なぜなら過去に正解のないことをやっていかなければいけないからです。過去に正解があって、そこに合わせてそれをもう少しリソースを多く投入したり、時間を投入すればもう少し数字が上がっていくという時代は、知識学習方式で良かったのですよ。でも、今は答えのない中で、答えがないというのは過去にもないし、作り手にもないし、供給側にもないし、下手をしたらお客さまにも答えがないわけです。だから、われわれ自らが体験してそこから学ぶ、それを学びにしていってそれを共有して、また時間がたったら場合によってはその学んだものを学習棄却して、捨てて、新たな学びをするというサイクルをつくれることが、とても今後の企業運営に大事だと思っています。

そういうことで、戦略をやり切る組織のメカニズムを最初にちょっとお話をします。最初に組織のパラドックス、組織の中にある矛盾の話をします。戦略をやり切ろうと思ったときに、どういうことが邪魔をしているかと思っていいかもしれません。すごく単純な話で、上司、部下で単純に見ているものが違う、話していることが違うということをまとめたものです。

欲求、情報、権限と分けたときに、まず上司はどういう欲求があるのかというと、「重要なのか」「インパクトが、影響力がどれぐらいあるのか」というのが重要です。部下は切実感が重要です。「いや、お客さまに怒られちゃって大変なんですよ」「もう時間がないんですよ」という切実性です。

次に、上司が持つ情報は2次情報など、フィルターが掛かって加工されたものです。これはいくら「俺は現場を回っているぞ」「俺は部下と話をしているぞ」といっても、やはり本当に第一線にいる方とは、どうしても1次情報、2次情報の差は出てきます。報告を受ければ何らかのフィルターが掛かります。対して、部下が持つ情報は生情報です。

当たり前のこととして、上司には権限があります。部下には権限はないです。ということは、部下の持っている切実性や生情報は、権限がないからとても社内に回りづらいということです。上司の聞きたい話は、部下は話してくれません。部下の聞きたい話は、上司は話してくれません。部下の持っている情報のほうが鮮度は高いけれども、それを組織内に伝える権限は持っていないので、当然のことですが、上司はどれだけ本気の傾聴ができているのか、本気でどれだけ部下の話を聞けているかというのは、このパラドックスを破るためには大事な部分です。

当たり前と言えば当たり前の話です。当たり前なのだけれども、私もサラリーマン経験がありますから分かるのですが、人は上に立てば立つほど、職位が上がっていくほど、切実感のある生情報がだんだん消えていきます。しかし、不思議なもので職位が上がれば上がるほど、ちゃんと聞けている気になってくるのですよね。何でなのか分からないのですけれども、上になればなるほど、メカニズムとしては聞けなくなっているはずなのに、「俺は課長でみんな知っている」「部長でみんな知っている」と思いがちです。1つこれはお伝えする分です。

もう1つ、先ほどは「ミクロでの上司、部下との間」ですけれども、「マクロで組織の中にギャップを生み出している変化」とはどういうことかをご説明します。
これは日本の名目GDPの推移です。先ほど戦後のお話も塾長からありましたが、1955年は8兆3,695億です。別に数はメモを取られなくてもいいと思うのですけれども、感覚をつかんでください。それが10年間で32兆8,660億です。これだけの伸びだけでもすごいですよね。それが1990年、バブルのはじけるときは442兆7810億です。その後は500兆のところを行ったり来たりですよ。一番新しいやつで500兆3,800億というGDPの推移があります。

こんなものは皆さん新聞でよくご存じだと思うのです。大事なのはここからで、50倍にまで上がっていった1955年から1990年までと、それ以降ここまでのところを赤い線で分けました。ここで何が言いたいかというと、この左側と右側で全く日本の形が変わったということです。日本の形が変わった、日本人の考え方が変わった、企業の戦略の成功パターン、失敗パターンが変わったということです。

どういうことかと申しますと、この50倍まで上がってくる途中は、過去もしくは市場に答えがあるのです。だって、ちょっとずつちょっとずつ良くなるのです。自分のサラリーも上がる、世の中の全体も上がる、いろいろな電化製品もいいものが出てくる、海外旅行にも行けるようになる、ちょっとずつ良くなるわけです。そうすると、過去に学ぶことが一番大事、特にそれも割と近場の過去に学ぶことがとても大事な時代でした。だからこそ論理的に分析した結果こそが最良の戦略でした。頭のいい人が重宝されました。それは学歴社会になりますよ。頭良く暗記して、それを分析して、伝えられる人がとても企業にとって重宝されます。戦略も論理的な分析の結果がとてもいい戦略と言われました。

日本型人事の三種の神器というものがありました。これはアメリカ人のアベグレンという方がおっしゃったのです。日本が高度成長したときに、何で日本はこんなに強いのだろうかとアメリカ人が研究したときに、日本独自の労務管理の仕方があるのだという結果です。1つ目は終身雇用制、2つ目が年功序列制、3つ目が企業内労働組合です。この3つともアメリカにはないわけです。新卒で入ってそのまま定年まで勤める、まず定年制などということがあまり海外では見ないことですから、そういうものがなかったのです。それから、年功制で1年たったら給料が上がって、2年目は1年目よりもまた高くなってということも普通は考えられません。企業内組合というものもないのです。海外ですと、トラックの運転手さんの組合や俳優さんの組合という業種ごとです。でも、それを日本は自分の組織の中でやっています。要はとても家族的な経営をやっています。それがとても日本の、特に技術を下支えするメーカーを強めている原因ではないかと研究されました。

ところが、1990年を境にどうなったかというと、もう過去にも市場にも答えがない状態です。曲線を見れば分かるように、そんなところに答えはありません。そうなると、論理的に分析した結果よりも納得共有できるものが最良の戦略になります。だって合っているか、合っていないか分からないのです。今までにないことをやらないといけない、合っているか、間違っているか、分かりません。そうなると納得していないものは怖くてやれないですよね。まさにやり切れない、やり切ることができなくなります。だから、最良の戦略でそれが合っているかどうかは分からないのです。でも、納得共有できるものが最良になってきたということです。
それから、当然のことながら日本型人事というものは崩壊しています。これもちょっと誤解のないように申し上げておきますけれども、私は年功制が悪くて成果主義にしなければいけないと別に思っていないです。ただ、現実として日本型人事を維持するのはまず難しいと思います。

一昨年、うちのコンサルタントの仲間で、タイの日系企業の工場地帯に行ってきました。私は恥ずかしながら、それまではタイにあれだけいろいろな工場を出しているというのは、人件費対策だと思っていました。当然人件費は安いです。でも、では技術が日本人より劣るかといったら、実は相当高い技術を持っていました。私は板金関係の所に行ったのです。どうして技術が高いかというと、あちらの方々は本気で覚えるのですよ。なぜなら、貧困を抜け出すには日本企業で働くのが一番手っ取り早いですから。だから、日本人の技術者から教わったことは1ミリも変えずに学びます。日本人の若い技術者というのは、ちょっとやりだすと「じゃあもう僕なりのアレンジがあります」と言うのですけれども、もう本当に言われたとおりです。服装もです。例えば帽子のつばを前にしてかぶるといったら絶対横などにはしません。暑かろうが何だろうがきちんとかぶります。完璧にマスターしたいからです。だから覚えが早いのです。びっくりしたのは、自分たちで自主的に夜に残ってQC (Quality Control:品質管理) 活動もやられていました。

最大にびっくりしたのは、礼儀がいいのです。工場の中でみんなすごく忙しくしているところにわれわれが入っていくではないですか。そうすると、忙しく歩いている人がぴたっと足を止めて、われわれ日本人に日本語で「こんにちは」と言って行くわけですよ。これはちょっとびっくりして、日本の工場でもちろんあいさつをする方はいますけれども、外部から来た方にぱちんと足をそろえてあいさつをするというのは、あまり見たことがありません。

そうすると、技術は別に悪くない、QC活動等の主体性も持っている、礼儀も正しい、そのうえ給料が10分の1です。どうやってわれわれはそこに勝つかという話ですよね。
だから、成功のセオリーが変わったのです。1990年までは変えないこと、考えないことが成功のセオリーでした。余計なことを考えるな、俺の背中を見てやれと。あるいは過去のやり方にきっちり学びなさい。でも今は、変えること、考えることが成功のセオリーですよね。例えば企業の営業会議を見ると、一昔前は「こういうことを今期やりたいと思います。」「おまえ、それ大丈夫か。成功するのか。」「大丈夫です。これは前期にもやりましたから」と言ったら通ったのです。今は「前期にもやりましたから」と言ったら「ばかやろう!」と言われます。「何でおまえ、去年やったことをもう一回やるんだ?」というふうに変わっています。
ただ、ここであらためて組織の中にギャップを生み出すマクロの変化として見たときに何が言いたいかというと、今の20代の人間は、1990年から前のこちらの世界を知らないわけです。だから、今の若い人というのは、もう絶えず答えのない中で自分達はやっていかなければいけないと思っているわけです。

私は1960年代生まれです。今、いわゆる管理職になっている皆さんも多分そのぐらいの方がほとんどだと思います。そういう方々も頭では答えのない時代に入っていると分かっているのですけれども、自分の記憶の中に、細胞の中に、右肩上がりのこの記憶が強烈に入っているのです。自分の子ども時代を思い出しても、ちょっとずつ何か豊かになる、ちょっとずつ何かおいしいものが食べられるようになる。そうすると、頭では今は違うのだと分かっていても、どこかでコツコツと地道にやっていればちょっとずつ生活が良くなるはずだ、ちょっとずつ業績が良くなるはずだ、ちょっとずつ自分も豊かになるはずだと思い込んでいます。コツコツやることは否定していないです。とても大事です。大前提だと思います。でも、コツコツやっていれば絶対良くなってくるというのは、もうこれはかつての迷信だと思います。そういう若い人とのギャップが、決定的なマネジメントにおけるギャップをつくり出しているなと私は思っています。

これからベクトルを揃える会議実習をやります。
まず何でそういうことをやりたいかというお話をします。今よくダイバシティとインクルージョンだという言われ方をします。ダイバシティはよく前から言われるではないですか。女性をどう活性化するか、場合によってはいろいろな国籍の方をどうやって集めるのかなどです。価値観や見方の多様性がどこの企業もすごく必要だと言われます。それはそうですよね。答えが過去にない以上は、いろいろな柔軟な考え方ができる人を抱え込んでいる企業は強いです。だからダイバシティとよく言うのです。

でも、一方でダイバシティ一辺倒になって失敗している企業がいっぱいあります。そこでもう一つ、インクルージョンです。一体性や統合性が同時にないとただのわがまま集団になるわけです。「変わり者がいっぱいいるけれども、一向に動かないな」になるわけです。そうすると、これを両方やらなければいけません。
マネジメントというのはリソースの最適配分です。そうですよね。人、物、金をどこにどういう優先順位で入れるかをどう最適にやるかというときに、戦略をやり切る組織の前提として、正解がなくとも優先順位を最終的には決定する必要があるのです。昔、ピーター・ドラッカーは、間違った優先順位でも、優先順位がないよりはましであると言い切っていました。私もそう思います。優先順位がないところに戦略もくそもないと思っています。

だから、今回皆さんとやりたいのは、価値観という一番正解のないものの優先順位について、違いを話し合って統合していく会議にチャレンジしていただきたいなと思っています。コンセンサスは全員の合意です。ここでごめんなさい、また片仮名を使ってしまいました。実はあえて日本語にしたくなかったのです。なぜかというとコンセンサスは全員の合意なのですけれども、先ほどの塾長のお話ではないのですが、われわれ日本人が全員の合意といったときに頭に浮かぶのは大体多数決なのです。第1に多数決、第2に職責の高い人による決定になるのです。これは意味をなさないのです。最後に最終決定者が決定をするのはいいのです。ただ、まさに先ほどの詮議を、いっぱい議論をやるというときに、人が多いからといって多数決で合っているかどうかは分からないのです。それこそイギリスのEU離脱みたいになってしまうわけです。あれはどちらが正しいか分かりません。多数決なのでただ人が多かっただけなのです。職責も上の方が、あるいは経験の長い方が本当に合っているとは限らないわけです。そこの誤解を招かないために、全員の合意ではなくてコンセンサスという言葉を使いました。コンセンサスを通して多様な価値観を受容し、自己理解と他者理解をするというのが目標の1つ目です。

2つ目は、価値観を統合していくときに生じる「今・ここ」での出来事、つまり雰囲気やお互いの関わり、起案、進め方などを考えていただきます。ちょっと2番目は難しいので、後できちんと終わった後にご説明をします。この2つが目的です。

<調査票の記入>

ナレーション:
7つの項目についてより本質的な価値観だと思うものから順に番号をつけていきます。まずは個人で決めて、次にグループでコンセンサスをとるというものです。

平尾:
何でこんな抽象的な話し合いをするのだということを、もうちょっと説明したほうがいいと思うのです。これは実際の私の体験です。ある事業で非常に業界のシェアを取っている会社でした。その根幹になる事業が成熟化していくのが見えていたので、新しい事業を立てなければいけません。ところが、新規で入っていった事業はことごとく失敗をしていました。あらためてもう一度役員の中でちゃんと事業戦略を立て直そうと、外部も入れてちゃんとやろうということでわれわれがお手伝いに行ったのです。
話し合っていると、皆さん頭がいい方なのでちゃんと論理的にはいろいろな戦略の話をするのですけれども、どうもフワフワしていました。
「役に立つ、ためになる」というような事が企業理念だったのです。では、誰のためになりたいのかという話を途中でしたのです。そうしたら、ある方はこう言いました。「うちはもともと小売りから始まっているのだから、当然お客さまのためだろう」と言いました。ある方は言いました。「いやいや、ちゃんとお客さまのためになるには、従業員を第一に考えなければ駄目じゃないか」と言いました。ある方が言いました。「いやいや、君たち、何言っているの?うちは上場して株主の方にちゃんと評価してもらわなかったら、従業員の幸せもお客さま満足もないんだよ」と言いました。

さあ、どれが正しいでしょうと言ったら、正解はないのです。正解はないのですけれども、それがずれたままずっとやっていたのですよ。だから、新規事業をやろうとしたときにリソースの配分がぐちゃぐちゃなのです。結局そこの企業のお手伝いは、その日もう夜中というか、明け方までかかって価値観の優先順位を話し合いました。「合っている間違っている」ではなく、うちは何を1番にして、2番目は何にしてと考えるかをやらない限り、ロジックの話にいかないのです。数字の話にいかないのです。だから、私はこういう抽象度の高い話し合い、合意というのは、実はすごく大事だと思います。価値観の部分です。
ですので、これから皆さんには話し合っていただいて、一番右側の欄のグループの決定というものを話し合っていただきます。本当の全員の合意を取るために、皆さんの原体験をそれぞれ出しながら、「ああ、そういう話を聞いたら、確かに俺と違うけども、こっちが大事かもしれない」ということをどれだけ真剣に話し合えるかです。

<グループ討議>

ナレーション:
各グループ、活発な議論の末、優先順位が決まりました。

平尾:
すごく大事にしてほしいのは、まず今のここの場で決まったプロセスを大事にしてください。先日、あるベンチャー企業の方と話をしたときに、そこが今約30人なのですよ。今4年目で、創業からのメンバーに言われたのですけれども、「平尾さん、30人になったら大企業病が始まりました」という言い方をしていたのです。30人になるまでは、結構みんなが何の担当をしていようが、「私の会社は」という考えで、人の担当だろうが何だろうが一緒くたに考えていたのが、30人を超え始めたら、「私はここからここまでのところで、私の価値観はこうだ」というものをもう完全にセパレートになっていったという話を聞きました。例えばこのメンバーが1つの会社だったら、これをまたさらに一致させなければいけないというのが、実はベクトルをそろえるということになります。

ベクトルをそろえるマネジメントのこつとして、価値観統合の意味とバリューマネジメントがポイントです。バリューマネジメントというのはこういう価値観、バリューを合わしていくマネジメントのことです。
あらためて価値観統合の意味というものですが、これはまさに私が勤めていた会社がつぶれたのと同じぐらいの時期につぶれたあるとても巨大な企業さんです。ちょっと今日はテレビがあるので企業名は出さないのですけれども、その時期に破綻をして、大きなニュースになった企業の元副社長が言っていた言葉です。「自分たちのことを振り返って、経営方針の根幹を、徹夜してでも議論してこなかった。そういう後悔をものすごくしている」という言い方をしていました。

これは深い話だなと思うのは、経営方針の「根幹」なのです。経営方針の「枝葉」は多分話をしているのです。数字の話、ステップの話、あるいは機構の話はしているのだけれども、根幹はまさに今皆さんが話している話です。「何のために俺たちはそもそも働いているのか」「この会社は何のためにあるのだろう」「この組織は世の中にどういうことがしたくてあるのか」というのが多分「根幹」です。
それを徹夜してもというのが、これも1つのポイントで、要はリミットを外して、この時間の中で決めましょうという話ではなくて、本気で掘り下げて話したことがなかったということを言っていました。これをしなかったこの会社はどうなったかといったら、今のわれわれの常識で見たら本当に分かりやすい戦略のミス、戦略のミスとも言えないぐらい、戦略ですらないようなことをしてしまって破綻していった会社です。同じような時期にです。

だから、変革期における戦略策定、特に実行段階に関わるのですけれども、そもそもの見方や価値観の違いをどれだけ真摯(しんし)に話し合って、統合していったプロセスがあるか。一言で言えば「青臭い議論」をどれだけしたかというのが、私はものすごいポイントだと思います。今の話だって青臭いではないですか。こんな話をしている暇があったら「数字を上げる方法を考えようぜ」と考えてもおかしくないのです。でも、「いやいや待てと、これは何のためだ」というのが、本当にそれが話せるかどうかです。出だしの政経マネジメント塾自体の目的の話で、塾長がお話しされた、本当にわれわれで地域を発展していこうとしたときに、われわれは何をもって発展させるのだ、何でこれを、そもそも何で地域を発展させたいのだというところの話ができていないと、多分それは成し遂げられない話なのだと思います。

これが1つのポイントです。価値観を統合するというのは、1990年から前は多分必要のない作業だったと私は思います。それでも本当はしたほうが良かったし、していた企業もありました。していた企業はバブルに踊らされなかった企業です。でも、少なくとも今90年からこちらに来たときに、答えがない中で、納得した戦略しか最良の戦略と言えない時代に、経営戦略のコンセンサスを突き詰めていない企業の戦略には何の意味もないと私は思っています。これが実は価値観統合の意味です。

それからもう一つ、では、その価値観を統合していく、バリューマネジメントをしていくときの考え方をお話しします。今は同じ言語の日本語で皆さんは話していたではないですか。なぜ同じ言語で話し合っていても本当のコンセンサスが取れないかという理由です。
例えばAさんが「コンプライアンスは大事だよね」と言葉を発信しました。それでBさんが受信して「そのとおりだよね。やっぱりコンプライアンスは今の時代大事だよね」と言いました。では、この裏側で何があったかというと、Aさんはコンプライアンスという言葉を自分の心の辞書で引いているわけです。俺の思っているコンプライアンスはどういうことかなという辞書があって、それから引き出したコンプライアンスという言葉でコンプライアンスは大事だと言っています。その辞書というのはAさんの原体験から起きています。その方が働いてきた、あるいはお客さまや上司や部下とやりとりしたことで作られたAさんオリジナルの辞書からコンプライアンスという言葉を引いて、「コンプライアンスが大事だよね」と言ったわけです。Bさんは「そのとおりだね」と言ったって、Bさんも同じように自分の原体験からしたBさんオリジナルの辞書でそれを受けています。

分かりますか?これは今日何度も塾長が言った、言葉をちゃんと突き詰めているかという話の意味は、多分こういう話なのだと思います。それぞれが辞書を持っているのです。こうやって同じ地域で、あるいは同じ会社、同じ職場の方がいらっしゃっても、それぞれの原体験を語らない限り、記号のやりとりだけになるということです。こうした価値観の話は特にです。そもそも「価値がある組織とは何だ」という、そこを話したかどうかです。

話していたグループもありましたけれども、価値ある組織といったときに自分の辞書で引いている価値ある組織は多分それぞれ違いますよ。では、それはどのような体験から価値ある組織だと思っているのかを言わないまま話を進める。あるいは、特に人間関係なんて、どういう人間関係がいいかは人によって全然違います。それは、論理的に、あるいは国語辞典的にどうこうではなくて、自分の生きてきた、自分の原体験から人間関係はこういうことを良好というのだよということを言わないで多分話をしても、バリューマネジメントはできないのです。これは1つベクトルをそろえるときのこつの部分です。

もう1個、ここからが多分皆さんが今まであまり触れていない概念を話します。コンテンツとプロセスの概念ということを話します。これはすごく戦略をやり切ることを考えたときに大事なことなので、ある意味これだけ持って帰ってくれればいいぐらいの今日の大事な話です。
コンテンツとプロセスという目でわれわれは組織開発のコンサルタントは企業を見ます。組織を見ます。氷山モデルによくなるのですけれども、氷山というのはご存じのように大体体積の9割ぐらいが水中に埋没していて、1割ぐらいが上にあります。上に上がって見えている部分を「コンテント」と言います。コンテントは、そのままcontainer、内容物です。だから「What」、仕事の内容的な側面で何が取り組まれているか、何が話されているかということです。今の話し合いで言ったら、最初に出てきた7つの項目はコンテントです。こういう議題です。それに対して一人一人が決めて出してきた意見もコンテントです。最後に皆さんがこうやって結論を出したのもコンテントです。目に見えるものです。

ところが、組織というものはややこしいことで、この下にプロセスというものがあるのです。このプロセスがなかなか日本語で訳しづらいのです。普通にプロセスというとA行程からB行程や、A過程からB過程ということを言いますけれども、ちょっとそれより広くて、コンテントを生み出す間に起こっている出来事全て「How」です。どのように、仕事で言えば売上というコンテントを上げるためにどのような売上の仕方をしたのか、どのような経営ビジョンを決めて、どのような計画を立てて、どのような役割分担をしてやっていったのかというのもあるし、もう少し気持ちの部分で言うと、どれだけ本気でやったのか、どれだけ真剣だったのか、どれだけ連携をしたのかという、仕事の過程に起こっていること全てが「How」です。どのような気持ちでどのように参加して、どのような課題や仕事が進められているのかということです。

先ほど言ったように、課題達成に直接関係する機能面でのタスクプロセスというものがあって、これは例えば誰が時間管理をしていましたか、誰が進行をしていましたかというようなプロセスもあります。もう一つ、ここが厄介なのが、集団を維持していくための心理面でのプロセスというのもあります。本気でやっているのか、あるいは、研修だから架空の話だとやっているのか。本当にここで何かを持ち帰ろうと思っているのか、取りあえず呼ばれたから来ているのかというようなことによって、いろいろな心理的なプロセスが動くわけです。

われわれが組織開発で見るときにとてもプロセスを大事にして、これは言い換えるとアンダーテーブルと言ったりするのです。テーブルの下です。要はテーブルの上ではとても論理的にロジカルに話が進むわけです。例えば営業部長がいて、営業係員がいて、「君たち、今期の予算はまだ3割足りないぞ。本気でこの後の何カ月間を頑張ってやれ」と言います。下の人間は「はい」と言葉をそろえて言います。でも、テーブルの下で何が起こっているかというと、下の人間は、「いや、そもそもこんな無茶な目標を決められてやれるわけないじゃん」と思っています。あるいは上の人間も「こいつら返事だけいいけど、きっとやらないだろうな」と思っています。実は表面に見えない、コンテントに見えないところでいろいろなことが動いて、結局これに従って物事が決まるのですよ。プロセスに従ってということです。

もうちょっとプロセスのところを細かく言うと、特に人の動きのプロセスを見たときに、「行動」と「意識」と「感情」という3層で見ます。どのような動きをしているのかというプロセスがあって、その動きのベースになっているのは、どのような意識や意図があるのかというのがあって、その意識や意図を生んでいるのはどのような感情があるのかということです。

もうちょっと具体的に言うと、例えば部門と部門が連携できているという「行動」を取るということは、意識の中で部門の連携をすることでわが社は価値を上げることができるという「意識」があります。では、その意識は何の感情からなのかといったら、この仲間が好きだ、俺はこの仕事で価値を出したいという「感情」があるからなのです。逆もしかりです。連携ができていないという「行動」は何かといったら、連携を取らなくても仕事は進むはずだ、うちの会社は仕組みで動いているからという「意識」があるのです。その意識の後ろに何の感情があるかといったら、俺はあいつらが嫌いだ、あいつらを信用しないという「感情」があって、結果的に感情で動かされます。プロセスの深いところで動かされます。だから、われわれはすごくプロセスを大事に見なければいけないわけです。

われわれは今・ここというhere and nowをすごく大事にします。組織、組織の本質は、実は今この場にあるのです。戻ったらどうとかではなくて、ここで話している話し方、聞き方というものに皆さんの本質的な良さもあるし、本質的な課題もあったりします。今言ったようなものはプロセスなのです。

<講義の振り返りアンケート>

ナレーション:
ここで、各自討議に対する打ち込み度と結論に満足している度合いを1から7段階にして振り返ってもらいました。
最終的にグループ内で、それぞれのメンバーがどの段階に丸をつけたかを全員で認識してもらいました。

平尾:
プロセスを見るという感覚を皆さんに持ち帰ってほしいので、今の材料を使ってほしいのですけれども、例えば、「討議に対するあなた自身の打ち込み度は?」といったときに、1班を見ると7段階のうち7から4まで付いています。そういうときに組織論からいったら何を見るかというと、まず4や、あるいはそれより下の3を付けた人がいたとしたら、その人は当然「頑張ってください」ですよね。「次はもっと言い切れるように、聴き切れるように頑張ってください」というのがあるのだけれども、それ以上に大事なのは、7を付けている人がいたら、その人は誰が4だかをやっている最中に分かっていたかどうかです。高いほうを付けた人はやっている最中に、誰だかが低いところに付けた人なのかが見えていたかどうかです。

次に大事なのは、見えているのだったら、この30分の中でどうしてその人を引き出せなかったかなのです。これはよく起きるのです。特に、自分が言い切ったと思っている人は、自分が言い切っているからみんなも言えているだろうと思ってしまうのです。ふと後ろを見ると誰も付いてこない状態になります。
あと、もっと大事なのは、「グループ全体の打ち込み度は?」といったときに、結構皆さんはばらけていますよね。この班は4から6までばらけている、こちらも4から6まででしょう。こちらは割と4、5に、でも5班は2から5までです。そういう形でばらけるわけです。これは何がポイントかというと、自分個人は打ち込めたか、打ち込めないかといったら、正直にばらけてもおかしくないですよね。でも、グループといったときにグループは1個なのです。その1個を見たときに、例えば5班を見たときに、2をつけた「ほとんど駄目ではないかと思っている人」と、5をつけた「まあまあいいではないかという人」もいるわけです。同じ職場の人がそろっているのに。これが実はすごく問題なのですよ。

結局分かりやすい例で言えば、職場の5S運動、職場の美化をやりましょうといったときに、「この職場はきれいだよね。ピッカピカだよね」と思っている人と、「これは相当汚いよ。やばいじゃん」と思っている人が、そこを一致させないまま月曜日の朝に掃除をしましょうといったってきれいになるわけがないではないですか。まず俺たちはイケてるのか、イケていないのかがそろわない中で、プロセスなんて良くならないわけですよ。

「グループ全体の打ち込み度は?」がばらけているというのは、混合チームである3班、4班の方は、ご自分の出身によって違うのはある程度仕方がないかもしれないですけれども、1班、2班と5班がそろっていないのは、ちょっとこれは最後に反省会をしたほうがいいかもしれません。あと、「結論に納得している度合い」も、これも結構皆さんばらけたではないですか。こういうことが起きているということなのです。
本当は、こんな点数を付けないで、会議をしながらこれが皆さんのアンテナに入っていれば一番いいのですよ。誰か納得していなさそうだなといったら、「誰々さん、ちょっと何か不服な顔をしているけど、大丈夫?」と聞けるかどうかなのです。世の中にリーダーシップ論やマネジメント論は山ほどあるけれども、どのようないい褒め方、叱り方、指示の仕方を覚えたって、今この瞬間に乗っている人、乗っていない人が見極められなかったら、どのようなロジカルシンキングを持とうが、そんなスキルは使いようがないですよね。ということをこうやってプロセスから学んでほしいのですよ。これはすごく大事な部分です。

われわれは組織開発の考え方として、自分自身がこうやって組織やチームで見たときに、それは金魚鉢のように外側から見て、「ああ、盛り上がっているな」「何かいまいちだな」と評論家のようにするのではなくて、自分もその中に何らかの渦を起こす要素の1つだという見方をするのです。ですので、「USE OF SELF」という言葉をよく使います。USE OF SELFというのは、文字どおりわれわれコンサルタントが外部から入るときも、「コンサルタントである自分自身を道具としてどういうふうにそこに投げ入れるのだ?」ということを問いますし、皆さんのように内部者として組織を良くするときもUSE OF SELFです。自分自身をどう使うのかです。人ごとではないのです。これが本当に大切なことです。議論を尽くして決まったらものを言わない。その代わり、議論を尽くすときは十分にその中に自分自身の存在も入れるということが「USE OF SELF」だと思います。
これから皆さんに模造紙をお配りしますので、この問いに関して話し合って発表できるようにしてください。

<各グループ発表>
以下の問いに対する各グループの発表。
①今日1番の学びは何だったでしょうか?
②職場に戻って学びをどのように実践につなげたいですか

平尾:
拍手で聞いていただきたいと思います。

5班:
今日の1番の学びですが、価値観・意見が違う中で1つの合意形成を図るプロセスの重要性を学ぶことができました。
2番は、先生が見ていただく中で、相手の目を見て活発な議論を交わす、これを会社のほうへ持ち帰って、皆さんとまた相談をして、いいところを磨いていきたいと思っています。以上です。

平尾:
ありがとうございました。素晴らしいです。ぜひ実践していただきたいと思います。
では、次にやりたいところ、お願いします。

3班:
われわれは今日いろいろ学びを得たことを書いていく中で、一番やはり重要なのはベクトルの合わせ方など、そういうところになるかと思います。ただ、それを引き出すために今後どうやって展開していくかというと、ここに書いているのですが、先ほど出てきた「青臭い議論」をさらに推し進めて、深掘りして「泥臭い議論」を活発化していくと、おのずとこういうものが出てくるのではないかという結論に至りました。以上です。

平尾:
ありがとうございました。素晴らしいです。

2班:
今回の学びでは、個々がそれぞれ価値観を合わせることの重要性をまず認識することが重要だと考えました。
2番の持ち帰って学びたいことなのですが、今回2班は管理職でチームを組みました。われわれそれぞれ部下がいますが、まずわれわれが相手の価値観を意識しながら、一方的にならないように会話をすることが最も帰って実践したいことの1つだと思いました。以上です。

平尾:
ありがとうございました。今、出ていましたけれども、多分部下の方は本当にこういう価値観を上に言うのは難しいと思いますので、これはおっしゃるとおり努力をされるのが素晴らしいと思います。
次はどこにいきましょうか。

4班:
今日の1番の学びということで、みんなが発表したものをまとめずに全部羅列して書きました。ディベートの必要性、そして、原体験を基に話をすることで納得してもらえること、そして、プロセスが大事だということ、討議・統合の難しさ、大切さ、そして、人が組織につながり、組織が人をつくる、感情を含めた青臭い議論をとことんすべきだということを本日学ばせてもらいました。
2番は持ち帰って、おのおのでまた事業に伝えていくということで決定しました。ありがとうございます。

平尾:
ありがとうございます。では最後です。1班にお願いします。

1班:
普段の会議より非常に生産的な会議が今日はできたのかと思っています。
われわれは、まず初めにはプロセスの重要性ということで、日ごろやっている会議は結構総論で話をすることも多いですので、そういうおのおのの価値観をどれだけ各自が掌握して、その会議の中で理解すること、統合することの難しさというものを感じました。
2番目は、自分の価値観を具体的に表現し、組織としての価値観を理解すると、ちょっと何と表現をしたらいいか分からないのですけれども、今日はあまり時間がなかったところもあって、私自身もあまり傾聴できていなかったところもあったので、帰った後、一人で一方的に話さずに、より生産的な会議をするためにはこの価値観をちゃんと主張して、そして、組織の決まった価値観をちゃんと自分も認識して、今後の業務に当たっていければと思っています。そういうことで以上です。どうもありがとうございました。

平尾:
ありがとうございました。
それぞれすごく素晴らしい発表をしていただきました。最後のグループで、自分の価値観を表現してとありましたけれども、多分一番のベースは自分自身が自分はどのような価値観を持っているかをちゃんと認識できているかです。やはり若い方に聞くと、「そもそも上の人が何を考えているか分からない」というのがすごく多いのですよ。「そもそも上の人は俺たちにいろいろやれと言うけれども、あなたは何がやりたいのですか」と実は問いたいのだということをよくいろいろな企業の若い方が言います。まず自分自身が自分の価値をしっかりと見詰めることが第一歩かなと今の話を聞いて思いました。
では、以上をもちまして私の時間を終わらせていただきます。本当に最後まで真剣にお付き合いいただきましてありがとうございました。どうもご清聴ありがとうございました。
(拍手)