平成26年度第2回講座:~観光学にみる地域活性化のための統計利用~

岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾

平成26年度講座内容

【第2回講座】地域活性化システム論
「観光学にみる地域活性化のための統計利用」

講師
大井 達雄氏 (和歌山大学観光学部准教授)
場所
和歌山大学 (和歌山県和歌山市栄谷930)
放送予定日時
平成27年1月17日(土) 6:00~ 7:00 歌謡ポップスチャンネル
平成27年1月17日(土) 12:30~13:30 ホームドラマチャンネル

※以降随時放送

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大井 達雄(おおい たつお)

和歌山大学観光学部准教授

【専門分野】
経済統計(観光統計)、経営学(企業不動産マネジメント)
研究テーマ:観光統計、企業不動産マネジメント
【著書】
「第23章 観光地ブランドの評価」、大橋昭一編著『現代の観光とブランド』 同
文館出版 181-188 (2012 年度)、他
観光学評論、観光学術学会編集委員(2012 年度 ~2013 年度)

講義内容

大井:
  観光の統計でも、いかに指標化、数値化していって、それを観光競争に役立てていくかということが非常に求められているということです。その中で、本講義の内容としましては、地域活性化戦略における観光振興の重要性を若干お話ししまして、その中で、地域活性化において統計がなぜ必要なのかという話を簡単にします。その上で、観光統計の種類ということで、観光客数とか観光消費額、経済波及効果、観光産業の統計などがあるという話をします。そして、一部しか紹介できませんけれども、和歌山県を中心とした観光統計を、地域統計として観光統計の視点からしゃべりまして、最後に経済波及効果の計測の話を簡単にですけれどもしゃべりたいと思います。その上で、提案としまして、観光クラスターの構築とか、ビッグデータ、オープンデータの活用、構築の話を、今後地域を活性化する上で非常に大きな要因となっておりますので、その辺の話をしていきたいと考えております。

 少し古いデータなのですが、報告書ですけれども、国土交通省が2006年に地域活性化戦略というものを策定しておりまして、大きく四つ柱があります。一つ目が、地域の自立的発展を可能とする国土構造への転換ということになります。括弧で、地域ブロックの自立促進による地域活性化ということで挙げられておりまして、主に交通網、インフラ整備を中心に、県というよりは地域単位、より広い広域的な地域でいかに発展するかというシステムを、今後地域の方を含めて考えてくださいというふうに提案しているということになります。

 そのうちの3番目に、やはり観光、観光立国という言葉が存在しております。地域の交流人口拡大に向けた観光立国の促進。アジア等の成長活力の取り込みによる地域活性化というのが、今後地域を活性化していく上で必要な戦略として考えられ得るというふうに、国土交通省の報告書として挙げられているわけです。

 その中でも大きく3点あります。一つ目は、魅力ある観光地づくりです。やはり魅力がないと、観光地といってもお客さんは来てくれませんので、その辺の問題です。いかに地域の魅力を作っていくか、再発見していくかということが求められる。二つ目は、外国人観光客をいかに日本に来てもらうかということで、訪日促進ということです。今、安倍内閣のほうでアクションプログラムが策定されておりまして、オリンピックが行われるまでに訪日外国人旅行者数を2,000万人。昨年1,000万人を初めて超えたのですけれども、それを2,000万人にしようということで、数々の、ビザ要件の緩和とか、制度的なバックアップが行われています。その辺を含めて、外国人観光客にいかに日本に来てもらうかという話になっております。あと、3番のツーリズムの活性化ということで、1番とも関連するのですけれども、新しいツーリズム。観光行動というのは非常に多様化しておりますので、既存の観光行動ではなくて新しい観光行動。クールジャパン戦略と言われております、日本の良さをより再発見して、海外に伝えていこうということで、ニューツーリズムという言葉を報告書で使われておりましたが、その辺の課題についてぜひやっていこうということで、地域活性化戦略の中で観光事業というものが、非常に大きなウエイトを持って今後展開していくことになるという話です。

 一方、多くの観光地が観光地としてやっていく上でさまざまな活動を行っているわけなのですが、その上で、大きな課題とか現状について今どういうふうなことが言われているかということで、日本交通公社の報告書からちょっとお借りしてまいりました。一般的に言われていることなのですが、少子高齢化の進展による需要の減退です。生産人口が減っておりまして、実際に働き手が減っているということで、なかなか消費行動がうまくいかない。地域の生産、いわゆる定住人口だけではなかなか地域経済が維持できないという話に今なっているわけです。2番目は、都市への人口移動による地元企業の減少ということであります。1番とも関連するのですが、多くの方が地方から、東京や大阪を中心としました大都市に行ってしまう。実際に働き手の多くは都市部に行ってしまうということで、地域に残っているのは高齢者が中心になっているということが大きな問題としてあります。あと、観光客の国際化ということで、非常に多くの国で観光立国に向けた取り組みを行っておりますし、観光行動が非常に多様化しておりまして、多くの観光客が、さまざまな国の方が観光をするようになってきたということになります。こういうものも背景としては非常に大きな要因としてありうるということです。

 さらに海外旅行と競合の激化ということです。非常に観光行動が世界的にブームになる中で、日本国内の観光地をライバル、競争相手と考えてきた観光地も多いと思うのですけれども、そうではなくて、海外の他都市との競争が激しくなっている状況を迎えているということで、国内だけではなく海外の観光地の動向も把握する必要があるということになるわけです。

 そういう観光地を取り巻く環境は非常に大きく変化しているのですが、実際多くの観光地はどういうふうな問題を抱えているかというと、一般的に言われていますように、バブル経済崩壊後の負の遺産の清算ということであります。バブル期に、主にハード面、箱ものを中心とした観光開発、観光経営をやってきたのですけれども、それがバブル崩壊後、非常に地域にとって大きなマイナスになっているということで、このマイナスの生産をするのに、各自治体が多額の税金を使っているということがよく言われている話としてあると思います。あと、観光産業の企業努力の限界ということで、一つの観光産業、会社は頑張っているところも多いのですけれども、なかなか一つの観光企業では解決しない問題も多いということで、次に書いてありますように、観光産業間の相互連携や他産業の連携、地域全体との観光魅力の向上ということで、そういうもの目指しているということです。

 実際うまくいくかというとなかなか難しく、非常に多くのステークホルダー、利害関係者が居ますので、利害関係者の調整とか合意形成がなかなか難しいということで、やる気のある人がたくさん居ても足を引っ張る人が居て、地域でなかなかうまくまとまらないというのが現実としてあるということです。

 その中で、観光地経営の定義ということで、報告書では、観光地の持続的な発展を目的としまして、一定の方針、ビジョンを策定して、観光地を構成するさまざまな経営主体をマネージメントするための組織的活動が今後求められるのではないかということが言われているわけです。その中で、実際に観光地経営指標の分類と主な評価項目ということで、そういう観光地経営をする上でどういうふうなプロセスを経る必要があるか、図でまとめられているわけです。

 主に一つ目、1番で書いてありますように、その地域が持っている、その観光地が持っている観光地の資源性です。ストックの評価と書いてありますけれども、観光資源が一体何があるか。それに対して2番ということで、その観光地、その地域の経営力。一部の組織的活動ということで、さまざまな活動があると思います。商工会議所ですとか観光協会とかあると思いますが、そういうものが実際に各観光地の資源を活用したり保護したり育成したりしまして、そこで1番と2番がうまく重なり合って、相乗効果が発揮される、観光地経営としてうまくいくという話になるわけです。

 ただ、1番と2番がうまくいっても、外部環境というものがありまして、これは観光事業においてなかなか大きな問題になるわけです。今年みたいに冷夏になれば、実際週末に必ず雨が降ればお客さんが来なくなるとか、経済状況が悪くなるとお客さんが来なくなるとか、そういう外部環境ですね。観光ビジネスが他のビジネスよりも特徴的なところの一つとしまして、やはりこういう外部環境に極端に影響を受けるということです。これは、政治的な環境もあれば社会的な環境、経済環境、天変地異とかいろいろあると思います。この辺が非常に難しいというのが、端的に言いますと、観光事業はリスクを多く抱えているということです。

 実際に難しいのですけれども、結局最後は観光地経営の成果ということで、指標です。先ほども紹介しましたけれども、結局最後は数字で、特にお金で評価されるというのが今の状況です。観光に限らず各地方自治体の方は、成果というものの数値化を求められます。初めに言いましたように、見える化とか可視化です。特にその中でもお金です。経済効果で実際その事業は価値があったのかが求められるということです。

 これは、今後観光で地域活性化をしていく上で、現実問題避けて通れない話になると思います。やはり数字で実際に効果があったかどうかが求められるということになると思います。エビデンスという言葉をよく使うのですけれども、最近エビデンスで評価されるという時代になっているという話になります。

 実際お金という話もありましたけれども、どんな数値を見たらいいかという話です。そこにありますように、報告書からそのまま持ってきました。数字といってもたくさんあります。そこで、観光地経営の目的ということで若干紹介します。実際に目的、観光消費額の増加です。いわゆる観光客にお金をたくさん落としてもらうということを目的とするなら、実際に指標としてこういうものがありますよという話です。また詳しくは後で言います。あと、域内波及効果の向上ということであれば、右側に書いてあるような、指標というものが大事になります。雇用者数をみる事で地域の人が観光産業で雇われた人が増えたかとか、職が得られたかどうか、その辺の問題もあります。

 あと、観光の社会的効果の向上ということで、地域住民が実際に観光事業によって果たして市民生活が良くなったと考えるかどうかです。満足度の問題というのも挙げられます。さまざまいろんな指標というものが考えられるわけです。実際、各地域の方が何のために観光振興をやっているかということをよく考えて、指標を集める必要があると思います。経済波及効果を多くすることが目的であれば、観光消費額のデータを集める必要があると思いますし、観光客の満足度を上げることが目的であれば、そういう調査をする必要もあると思います。この辺が、制作の目的と指標がマッチすることが非常に大事になるということになると思います。

 では、一般的に観光統計、観光関連データと言われますと何があるかということで、観光庁にある観光統計調査というものは、主にこの5点が行われております。大きくその中で非常に主要なものと致しまして、1番目の共通基準による観光立国統計というようになります。一つ目は、これは観光入込客です。実際に観光施設や観光地にどれぐらい人が来たかということです。これを調査しようというのが入込客統計になります。これは一昔前まで各都道府県で、さまざまな都道府県オリジナルな作成報告で作られていたのですが、それはなかなか地域改革もできないということもありまして、今から5年ぐらい前に、これではまずいということで共通基準というものを策定しまして、これを各都道府県に遵守してもらおうということで、共通基準による観光入込客統計というものが行われております。

 二つ目が宿泊旅行統計調査ということです。これは、そこに書いてありますように、宿泊施設を対象に宿泊旅行の実態、延べ宿泊者数から実宿泊者数から、宿泊者数の人数、あと、外国人宿泊者数がどれぐらい居るかというのを調査しています。

 3番目が旅行・観光消費動向調査ということで、主に日本人を対象に、毎年実際にどれぐらい観光行動を1年間で行ったか。回数とか、その中で1回の旅行とか観光でどれぐらいお金を使ったかというのを調査しているということになります。これは、後でも言います経済波及効果の測定の、非常に大きなデータになっております。

 4番目が訪日外国人消費動向調査ということです。実際日本に来られる外国人の方を対象に、消費実態、国籍とか訪日目的とか、実際にどこの観光地で宿泊したか、実際にどれぐらい日本に来た旅行、観光で使ったかということを調査するというのが訪日外国人消費動向調査になっています。

 1番から4番までは主に需要側を中心とした調査なのですが、そうではなくて5番は観光地域経済調査ということで、観光産業と呼ばれている観光関連の事業所を対象に調査したものであります。その実態とか地域経済に及ぼす効果、どれぐらい雇用しているかとか、どれぐらい売り上げがあるか、そういうものを明らかにする調査として観光地域経済調査というのが今から2年前の平成24年に行われております。

 そのように、観光庁のほうは観光統計調査ということで国の予算を使ってやっているわけですけれども、そうではなくて、地域のほうも独自の観光統計調査を実施しております。大規模調査としまして、和歌山県観光統計調査ということで、多分5年に1回ぐらいされると思うのですけれども、実際に来られた方を対象に観光消費額とか満足度、和歌山県に来て和歌山県を観光して、どういうことをしてどれぐらい満足したかというのを聞く調査が行われております。

 一般的に言われていますように、日本の将来推計人口と高齢化率ということで発表されております。これは日本全国のデータですけれども、2040年には、2010年に比較しまして2,000万人ぐらいの人が減りまして、一方で高齢化率は36.1パーセントになるというふうに言われております。これを和歌山県に限定しますと、和歌山県の将来推計人口と高齢化率ですが、見て分かりますように、全国の数字よりも減少率、高齢化率が非常に高い、非常に悪いという状況になっております。見て分かりますように、高齢者の数というのが2010年から2040年にかけまして、その棒グラフの緑の幅というのは変化しないのですけれども、赤いところ、15歳から64歳の階層が大きく減少しています。若年層、0歳から14歳未満も減少傾向になっています。

 違うデータですけれども、先ほど紹介しました共通基準による観光入込客統計から引用しまして、関西圏にあります滋賀県、京都府、兵庫県、奈良県、和歌山県の県別の観光入込客数を、日本人の観光目的の実数をグラフで表しております。これを見ますと、兵庫県が一番人数が多いというふうになっております。人数だけであれですけれども、これを割合に直したのがこの帯グラフになります。先ほどの実数を割合に直したものがこれになります。そうしますと、和歌山県は一番下になるわけですけれども、他の都道府県との違いは何かといいますと、県内の宿泊者の割合が高いということになります。それが6.3パーセント。和歌山県に住んでいる方が和歌山県で宿泊する人の割合が高いということです。これは、非常に和歌山県は面積が広くなりますので、日帰りするには非常に難しいということがあると思います。実際に見て分かりますように、県内の日帰り客の割合が18.1パーセントになっております。県外の宿泊客も、他の都道府県に比べると大きいです。県内の宿泊客。一方で県外の日帰り客の少なさ、この辺に特徴が見て取れると思います。

 今度は県別の観光消費額単価です。先ほどと同じように、日本人の観光目的を対象に、1回当たりの消費金額のデータを観光入込客統計で調査しておりますので、その結果を紹介したものが次のようになります。これは和歌山県の場合平成24年のデータですけれども、県内の宿泊客が1回に使う金額というのは1万9,988円です。一方、県内の日帰り客が1回に使う金額が3,516円。県外の宿泊客が1回あたりに使う金額が2万5,060円。県外の日帰り観光客が使う金額が5,416円という金額になっております。実際に先ほどの入込客数と消費単価を掛け合わせまして、県に落ちる観光消費額というものが計算され得るということになりまして、日本人の観光目的の金額を見ますと、先ほど観光客数では兵庫県が非常に高かったのですけれども、消費額単価は非常に京都府が高かったということがありますので、ほぼ京都府と兵庫県の水準が並びます。

 あと、滋賀県、奈良県、和歌山県というのは、共通基準による観光入込客統計の結果ではほぼ同じということになります。ところが、後で経済波及効果の計算をする時に、ちょっとまた違うデータを紹介するのですけれども、別のデータでは違う結果になります。数だと兵庫県なのですけれども、1人当たりの単価になると京都府のほうが多い。それを1人当たりの観光客数かける人数で掛け合わせますと、京都府がちょっと兵庫県を超えるということです。この辺は、後でも話をしますが、やはり今後各地域の観光政策を行う上で、人数を増やすということも非常に大事なのですけれども、1人当たりの消費金額、主にいかに宿泊客を増やすかということが非常に課題になってくるということです。

 今から、観光消費による経済波及効果の計測についてお話ししたいと思います。実際に地域活性化のために一番よく使われているのは、この経済波及効果の計測になります。軽く読んでいきますと、経済波及効果というのは、ある産業に消費や投資などの最終需要が生じることによりまして、その産業の生産を誘発するとともに、次々と他の産業の生産を誘発することを経済波及効果と言います。観光消費の場合は、飲食店での食事とか、ホテルや旅館での宿泊、異動のための交通費というものが一つのきっかけとしまして、観光産業だけではなく、他の産業にも波及する、景気が良くなるということを意味します。

 具体的には、主に産業連関表というものを使って行っております。産業連関表ということで、和歌山県の産業連関表の見方と使い方から持ってきました。どういうものかといいますと、そこにありますように、私たちの日常生活はいろんなものを消費したりサービスの提供を受けること、いわゆる取引によって成り立っています。一方、このようなものやサービスを供給する側の産業では、他の産業から原材料を仕入れ、取引ですけれども、製品を作り販売することを繰り返しながら生産活動を行っています。こういうふうに、次にも書いてありますけれども、経済活動の状況を一つの表で表現しようというものが産業連関表といいます。最後に書いてありますが、一定地域の1年間の経済活動を表すということで、実際に各産業がどれだけ投入、インプットしたら、結果としてどういう産出、アウトプットができたかというものを、産業連関表というふうに言います。この産業連関表を使うと、実際にそう書いておりますが、新しく需要が発生した時に、その需要が経済活動としてどういうふうな影響を他産業に及ぼしたかということを計測することができるということで、この産業連関表がよく使われているということになるわけです。

 実際に①②③で書いてありますように、需要の変化による波及効果の測定、特定の施策による波及効果の測定とか、経済計画などを策定するための効果予測です。先ほども言いましたが、実際にこういう観光振興策をやった時にどれぐらい効果があるかということが、産業連関表を使うと分かるということです。

 表はこういうふうになっておりまして、主に次のスライドにありますように、この表をイメージしながら、縦方向と横方向の両方向で何を表すかだけ理解していただきたいと思います。縦方向というのは、読んでいきますと、買い手としての表頭の各産業が、生産管理に必要としたものやサービス、費用構成、投入を表しています。要は、買い手の立場からすると、どこからどれだけ買ったかを表すということです。横を見ると、各産業がどこの産業から何を買ったかというのが分かりますというのが、この産業連関表です。横の行方向は、売り手としての表側の各産業にとっての商品の販路を表しているというふうになります。そういうものを表しているのが産業連関表というものになるわけです。ですから、横のほうはどこへどれだけ売ったかを表し、縦がどこから仕入れたかを表しまして、横が実際にどれだけ売ったかを示すというふうになるわけです。

 直接効果と第1次間接効果と第2次間接効果というものがあるわけですが、直接効果というのは観光消費額でいうと、新たに観光客が来られまして、その方がどれぐらいお金を使ったか、食費にどれぐらい使ったとか宿泊費にどれぐらい使ったとか、そういうものが実際に直接効果としてカウントされます。それが、直接効果を実際に、例えばお土産を買うとなると新しく作らなければいけませんので、それを実際に作るとなると、新しく取引が発生する、生産が発生するということですから、それを第1次間接効果というふうに言います。実際にそういうあるメーカーさんがお土産品を作ったら儲かりますので、その結果、儲かった金額を従業員の賃金の上昇ということで所得が増えますので、その増えた分の金額によって他の経済活動、例えば服を買ったり、観光とは関係ない分野でも構いませんし観光でも構いませんが、そういうものが第2次間接効果としてカウントされるということになるわけです。

 そこで、後にも紹介するのですけれども、大事なのは自給率です。域内到達率も書いていますけれども。実際に新しい経済活動が発生した時に、地元の業者のどれぐらいその恩恵があるのかということを表しているのが自給率になります。そこにありますように、図でちょっと引用してきましたが、需要の増加があって、その分実際にお金100万円の消費があって、そのうち例えば50万円が地元の業者に落ちる、残り50万円はどこか違う、東京の本社のところに流れるとかいうことがあれば、実質50万円が増える。その50万円に相当する新しい生産が行われる。その生産に対して、原材料を仕入れたり人を雇ったりする。それがさらに生産活動を呼んで、所得の増えた分が実際に他産業へと需要が増えるということで、最後に総合効果ということで増えていくという話になります。

 これは各都道府県が公表しております、増えた分しか書いていない金額もありますが、各県の状況ということで、観光消費額、先ほど言いましたように、直接効果です。直接効果から総合効果ということで、直接効果がどれぐらい経済波及効果を生むかということを表しています。

 奈良県の場合、観光客が増えた金額しか書いておりませんが、特に大事なのは波及効果倍率ということです。奈良県の場合でしたら県全体で考えると1.47ですから、観光客が増えて観光消費が100万円増えることによって、県全体の経済活動から見ると147万円の経済活動が行われるということを表しています。和歌山県の場合は、そこにありますように、1.77倍ということです。他の都道府県と比べて高すぎるのではないかと思うのですが。1.77倍ということで、先ほど言いましたように、100万円観光消費が増えることによって177万円和歌山県全体に消費活動、経済活動が起きるということを表しているということです。やはり和歌山県の場合、1.77が正しいかどうかというのはまた吟味しなければならないと思いますが、非常に観光客が来て消費を増やしてくれると、和歌山県の人に多くの恩恵が、所得が増えるということが分かるということです。

 では、観光消費によって経済波及効果をいかに増やしていくかということが、大きな問題になるわけです。先ほども言いましたように、まずは観光客数を増やすということも一つの要因として挙げられると思います。やはり観光客が倍になると、その分だけ増えるということになります。もう一つは、先ほども言いましたが、観光消費額単価を増やす。1人当たり使ってくれる金額を増やすということも、経済波及効果を大きくする上で非常に大事になってきます。

 次に、先ほども簡単に紹介しましたけれども、自給率です。域内調達率とも言いますと言いました。それをいかに増やすかということも、非常に大事な話になるわけです。先ほど言いましたように、需要が増えても、観光客が地元の商店街でジュースを買うのとコンビニエンスストアでジュースを買うのでは、全然訳が違うわけです。コンビニエンスストアというのはフランチャイズ制ですから、売上、利益の一部は東京かどこか大都市の本社に流れていくわけです。そうなると、本来100円が県に落ちるはずが、一部の金額が外部に流れしまう。そうすることによって、損をしているという表現はあまりよろしくありませんが、本来残るべき金額が残らず、結局他の県外の業者が潤っているという形態になるという話です。

 それをいかになくすかということで、統計と密接に関連した話なのですが、観光クラスターという概念が一部の研究者を中心に言われています。観光クラスターというのは、ポーターという有名な研究者が産業クラスターという言葉を使って表現しているのですが、それを観光産業、観光市場で作れないかという概念であります。定義としてありますように、特定分野における関連企業とか、専門性の高い供給業者とか、サービス提供者とか、関連業界に属する企業とか、大学も含めた関連機関というものが地理的に集中していて、競争しつつ、かつ同時に協力しているという状態を産業クラスターというふうに言うわけです。そうすることによって、各観光関連の事業者が切磋琢磨することによって観光地全体の競争力も上がりますし、場合によってはイノベーションということで新しい商品が生み出されたり、新しい生産システムや流通システムができたりするということも考えられます。

 それを口で言ってもなかなか分からないので、観光クラスターの構造ということで、非常にラフに作りましたが、観光産業のマーケットがこういうふうになっているとしまして、観光産業の場合は、企業だけではなく行政とかさまざまなプレイヤーが存在しているわけですけれども、主に観光クラスターというのは、行政も入れるという考え方もあるのですけれども、飲食店とか旅行業とか運輸業とかその他産業とか土産店とか宿泊産業、こういうふうに居るわけですけれども、この連携を、この輪をいかに強めていくか、こういうのを観光クラスターというふうに考えていくわけです。そういうふうに、各業種、競争相手もありますが、そういうものが連携することによって、実際に域内調達率が上昇して、外部の業者に落ちていたお金が地域に残るということになりますし、先ほども言いましたけれども、観光地としての競争力、イノベーションが実現される可能性があるということになるわけです。そういうさまざまな利害関係者が協力することが非常に大事になってくる。そうすることによって、観光地として発展していくということで、先ほども言いましたけれども、地域の活性化のためには観光クラスターの構造というのはどうしても今後大事になってくるのではないかというふうに考えられます。

 先ほども言いましたように、コストを見ると、県外の業者のほうが安くていいものを提供するという構造もあると思うのですけれども、そうではなくて、地元の企業をいかに育てていくか。クオリティーが悪ければ問題があると思いますが、少々高くても地元の業者を育てる。そうすることによって地元でお金が回るということになりますので、その辺地元の業者をいかに育成するか、いかにそれを使って育てていくか、県外の業者ではなく地元の業者と取引していくかということが、域内調達率を上げる一つの大きな要因として考えられるということになります。

 観光客数を増やすとか消費単価を上げるというのも、観光クラスター、連携がうまくいけばそういう構造になり得ると思います。今後、地域活性化のためには、観光クラスターというものを重視していただきたいと思います。

 あと10分少々で、ビッグデータのお話をしたいと思います。これは、今後地域活性化をしていく上で統計情報というのが、先ほど紹介しました経済波及効果というのは今後とも大事になってくると思うのですが、それ以外の要因としまして、ビッグデータや、後でやりますオープンデータの役割というものが非常に大事になってくると思います。ビッグデータの話なのですが、あまり時間がありませんので簡単にやりますと、一般的に言われているのはこの三つのVを表現します。ビッグデータということで、Volumeです。非常にたくさんのデータが存在しているというのがあると思います。それが細かい頻度、ちょっとした頻度でどんどん、1日とか1時間単位でたくさん出てくる。Varietyということで、今まで扱える統計データというのは、統計というのは数字を扱いますので数値化されたものでなければできなかったのですが、数字でなくても画像データでも構いません。そういう三つの要件を備えたものをビッグデータというふうに言います。

 広義のビッグデータの概念ということです。城田さんによりますと、先ほど紹介しました三つのVの面で管理が困難なデータ、及びそれらを蓄積・処理・分析するための技術、さらにそれらのデータを分析し有用な意味や洞察を引き出せる人材や組織を含む包括的な概念をビッグデータと。人材です。後で時間があればお話致します。そういうビッグデータを扱える、統計処理を扱える人材というものが求められるということです。

 実際に、もう既にビッグデータを使った分析というものが、一部の市町村で行われております。簡単に紹介しますと、KDDIが携帯電話の位置情報を使いまして、それを観光とかに活用しようということで、実際にそこにありますように、三重県伊勢市とか埼玉県とか徳島県と協力しまして、データを収集して分析を行っております。そういうふうに一部の自治体で行われていたのですが、最近では観光庁のほうが位置情報を使いまして、観光行政、観光振興策に役立てないかということで、今、研究会を立ち上げております。その報告書を簡単に紹介したいと思います。

 試験的に、世界文化遺産登録された富士山エリアで見たところ、携帯電話のモバイルのデータを使って把握したところ、円グラフにありますように、数値は人数になります。そうすると、80キロから100キロ圏内です。80キロというふうに設定しているのは、富士山から見て80キロ圏内に住んでいる方は生活圏ということで、観光客に見なさないという一つの定義がありますので、それにしたがった概念だと思います。ということで、80キロから100キロ圏内の人が年間で929.8万人来られておりました。100キロから250キロ圏内に生活している観光客の方が319.8万人来られているということで、実際250キロ圏内の人がほとんど中心になっているということが、この位置情報データ分析から分かったということになります。ということは、近隣ではありませんが、ほとんど250キロ圏内ということであれば、マーケティングする時もその辺を中心にやるということも十分考えられる。その辺の非常に大きな資料になったということです。

 今度は、観光客が実際どこに住んでいるか、富士山から見て何キロ圏内に住んでいるかということと、日帰り、宿泊客の内訳です。何時間以上そこに居たかどうかで宿泊客かどうかを見るわけです。それで見た場合、当たり前ですが、距離が伸びれば伸びるほど宿泊客が多くなってくるのですが、500キロから750キロ未満になると、また宿泊客が減って日帰りになる。これは、要は別の観光地に移動している可能性があるということになりますので、そうであるなら実際にどこの観光地に富士山の後で行っているかということも、モバイルデータから分かるということになります。

 あと、富士山に来る前にどの市町村に寄ってきたかということをまとめたのがこのグラフになります。詳しい報告書の内容を見たい方は、参考文献を作っておりますので、ぜひ見ていただきたいのですけれども。そうすると、そこにありますように、浜松市から来られた方というのが1.1パーセント居る。静岡市から来られた方が1.8パーセント。富士山に来る前に静岡市に居たという方が1.8パーセント。東京都新宿区というのが一番右にあると思うのですけれども、これは1.9パーセントということで、なんで東京都新宿区かというと、これは夜行バスです。夜行バスのバス停が東京都新宿区にあるそうなので、そこから来ているということがある程度類推できるということです。実際に、こういうふうにどこから来ているか、どこに生活している人が宿泊しているか、宿泊していないか、あと、これにいわゆるICOCAとかSUICAのデータで、クレジットカードの情報と消費金額とか交通費の払い情報とかが分かれば、今まで分からなかったことが本当に観光データとして手に入って、分析できるということになっております。そういうふうに、本当に観光振興策もこういうデータを活用する時代になってきたということで、この流れはもう避けることができません。

 あと、オープンデータです。これは、意義だけ簡単に紹介しますけれども、行政が保有するデータを、誰もが第2次利用できる形式で公開しまして、社会が効果的に活用することによりまして新たな価値を創造する。一番統計を持っているのは行政ですから、その行政が持っているデータを、もっとみんなで使えるようにしようというのがオープンデータとしてあります。

 統計がいかに大事かということがご理解いただけたと思います。一部の統計しか紹介できなかったので、まだ具体的にはイメージが付かないかもしれませんが。先ほども紹介しましたように、データなしではなかなか政策も立ち行かないし、制作を企画することもできないということで、エビデンスの必要性が求められています。そうしないとなかなか人を説得できないという状況になっているということです。

 和歌山県の現状については簡単にしか紹介できませんでしたが、人口減少とか、地域経済が疲弊しておりまして、その中で観光に対する期待が非常に大きいということであります。一部消費額単価とか入込客数のデータを紹介しました。その中で、よく使われている統計としましては、経済波及効果の計測というものがよく使われております。それを上げるためにどうするかということで、多くの市町村では、日帰りではなくて宿泊観光客数をいかに増加させるか、そこに非常に躍起になっているということです。一方で、波及効果倍率の高さ、これが非常に言われていますように、これを認識しまして、観光客を増やすと地域が潤うのだなということが見て取れたと思います。

 その中で、先ほども言いましたけれども、観光客数を増やすということとか消費単価を上げるということも大事ですけれども、観光クラスター、地域内連携をいかに構築するか、地場産業をいかに育成するかということが今後求められるし、これがゆくゆくは観光客数を増やすことになります。消費単価を増やすことにもなります。この辺をぜひ今後、具体的にどうしなければならないかということを考えなければいけません。その上で、今後の展開としましては、ビッグデータ、オープンデータというものも避けて通れない。これを使わないと、今後本当に競争に負けるというぐらいに意味がありますので、ぜひ活用いただきたいという上で、そういうデータを扱える人材の育成が非常に大事になってくると思います。その辺話ができませんでしたが、この辺が求められるのではないかと思います。ご清聴ありがとうございました。