平成24年度第3回講座:自己実現を推進するためのポジティブシンキング

岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾
岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾 平成24年度シリーズ

【第3回講座】自己実現を推進するためのポジティブシンキング

講師
宮川 路子氏(法政大学人間環境学部教授)
青柳 浩明(岩崎育英文化財団 岩崎学生寮・事務長)
放送予定日時
平成24年12月 1日(土) 6:00~7:00他 ※以降随時放送

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宮川 路子

法政大学教授
日本産業衛生学会指導医

慶應義塾大学医学部卒業。専門は公衆衛生学、
特に産業保健。
大学において教育、研究を行う傍ら産業医としての仕事にも力を注いでいる。

青柳 浩明

安岡活学塾 専任講師
岩崎育英文化財団 岩崎学生寮事務長

1966年東京都生まれ 明治大学卒業
幼少時から論語、漢籍を学び、ビジネス現場で実践や指導をおこなう。
著書:「論語説法」(講談社)、「ビジネス訳論語」(PHP研究所)等

講義内容

青柳:
人材育成にかかわるポジティブシンキングについて視聴者のみなさんのヒントとなるようなお話を伺っていきます。

宮川先生とは「こころの超整理法」という本を書かせていただきましたが、いかがでしたか?

宮川:
この本の中には55の言葉を入れました。私が産業医として働いている間に心に止めておいた言葉。それを引き出してきて、あらためて書き綴ると自分自身が癒されるというか、感動するというか、言葉の持つ力に改めて気づかされました。

青柳:
自分の心を整理できた。

宮川:
そうですね、まさに超整理法ですので。

青柳:
論語はいろんな切り口で学びが得られるが、今回はメンタルヘルスということであの本を書きました。いろんな点で再整理ができたと。自分たち自身が。

宮川:
良い機会をありがとうございました。

「ポジティブシンキングはリーダーを目指す人にとってなぜ、重要なのか」

青柳:
早速ですがリーダー、指導者、経営者の方々はポジティブシンキングをよく身に付けているといわれます。ポジティブシンキングというとプラス思考ともいわれますが、リーダーを目指す方々にとってポジティブシンキングはなぜ重要なのでしょうか。

宮川:
同じことであっても、見方や考え方が違うとずいぶん感じ方が変わってくる。考え方をちょっと変えるだけですごく気持ちが楽になって生きていくのがスムーズになったりします。例えば、一つ例をあげてみますと、現代社会はストレスで満ち溢れていますので、睡眠障害を持っている方が結構多くて、眠れないという方がいらっしゃるんですけども、3時間眠ったとします。ポジティブに考える方というのは、3時間も眠れたからこれでもう大丈夫だ。

青柳:
3時間もになるわけですね。

宮川:
3時間であったとしても3時間も寝たからきょう1日元気に頑張れるぞと。きょうも元気に頑張れば、きっと明日の夜は、ぐっすり眠れるに違いないと考えることができるわけです。

宮川:
で、それに対して、ネガティブに考える人は3時間しか眠れなかった

青柳:
しか。

宮川:
ええ。同じ3時間でも全然違うわけですよね。

3時間しか眠れなかったから、どうしよう、こんなことでは病気になってしまうぞ、今日はどうやって過ごそうかなと思ってしまう。ネガティブな考え方をする人は、どんどんと不安に陥って、不安が不安をよんで、私はこれを「不安のおばけ」という風に言っているのですが、「不安のおばけ」がどんどん大きくなってしまうわけです。マイナス思考に陥ると、そこからマイナスの感情が湧いてきて、そしてマイナスの行動になってしまうと。

青柳:
(不安は)確かに最初は小さかったのに大きくなっていく。おばけが巨大な怪物みたいになっていく。

宮川:
自分の心が作り出してしまう。本当はそんなにたいそうなものでもないのにもかかわらず、ネガティブな考え方をしていると心が作り出していく。ですので、人生を生きていくうえで、ポジティブな考え方というのが重要になっていくわけです。

「ポジティブシンキングをした有名な人は?」

青柳:
ポジティブシンキングを体得した方で、私たちが知っているような有名人は?

宮川:
慶應義塾を創設した、福沢諭吉先生の言葉に有名なものがありまして、

 

「考えが変われば、行動が変わる。
行動が 変われば、習慣が変わる。
習慣が変われば、人格が変わる。
人格が変われば、運命が変わる」

 

という。

考えが変わると、最終的にその人の運命まで変えることができるという、そういう言葉を残されています。

青柳:
よく道は自分で開いていくものだという時に、スタートは考え方ですものね。

宮川:
まさにポジティブシンキングという重要性をおっしゃっているのだと思います。

「ポジティブに考えるための大前提! 体が健康!」

宮川:
ポジティブに考えるための大前提なのですが、やはり体が健康でないとポジティブな考え方ができません。体の健康を保つためには日々基本的なことをひとつひとつ努力して行っていく。例えば、バランスの良い食事を3食摂る、睡眠をとる、運動する、そういうことを積み重ねていくと健康な体が作られてそしてその健康な体によってポジティブシンキングするという基礎ができる。

青柳:
今伺っている注意すべきことは、睡眠、食事など基本的なことですよね。

宮川:
はい、そういったことをひとつひとつずつ積み重ねると前向きに、正のスパイラルに入って健康になって、考え方もポジティブに上昇していくことができるのではないかと考えるわけです。

青柳:
ポジティブになろうとしても、土台がしっかりしてないとポジティブシンキングも生み出しづらい。

宮川:
実は産業医として同じ事業所で20年以上勤務していますが、そうすると一人の方の健康状態をずっと時間を追って観察するということになります。

青柳:
そこの社員にしてみたら幸せなことですよね。

宮川:
ありがとうございます。それで一人の方がすごく肥満体だったのですが、その方が一念発起して痩せようとがんばった。そうすると体重が減るに伴って血圧が高かったのが低くなったり、脂質異常、コレステロールが高かったのが下がったりという風にすべてうまい方向に、健康な状態に体がなりまして、
で体だけではなく、その方と面談しましたら自分がこれだけ痩せられたということで、自信に満ち溢れていて、性格も変わってお仕事ぶりも変わられたという、そういう例があります。体の健康を作っていくということは、つまり心も変わる、思考も行動も変わるということに結びついていくのではと実感しました。

青柳:
なるほど、先ほどの福沢諭吉先生の教えの実践例となっているわけですね。

宮川:
まさにその通りです。ポジティブシンキングをしますと心も体も両方とも健康度が上がるということが、科学的にも証明されていますのでそういった意味で逆に健康になるためにポジティブシンキングをしていくということも重要であるということがいえるかと思います。

青柳:
先ほどの生活習慣というんですかね、食事とか睡眠とか、私たちは大きなことをしないとポジティブシンキングになれないと思いがちですが、先ほどの話ですと小さい、当たり前のことからやっていけばいいと。

宮川:
その小さなことをコツコツと一日一日積み重ねることによってそれがとても大きな力を生み出していくという。

青柳:
小さなことからコツコツと。いい言葉なんですね。

宮川:
そうです。はい。

「ポジティブ VS ネガティブ」

青柳:
ポジティブシンキングがその人の人生に影響を与えるというプラスの面はわかったのですが、ポジティブシンキングばっかりですと、車でいうとエンジンがまわりっぱななしで、オーバーヒートするような感じがするのですが、どうなのでしょうか?

宮川:
おっしゃる通り。そもそも人間はポジティブばかりではいられないし、ネガティブなところも持ち合わせているのが普通。

青柳:
そうですよね、私もどちらかというとネガティブな人間なので。

宮川:
そのネガティブさを持っているからこそ、ポジティブがいきる、といいますか、例えば、失敗体験があると成功したときにその喜びが増しますよね。ネガティブな面を持ちながらも、いかにポジティブな面を優位にしていくかということを目指してポジティブシンキングをおこなっていくのがよろしいかなと。

宮川:
私は医師ですが、病気をした医師はとてもいい優しいお医者さんになれるといわれています。自分自身が病気をして患者さんの立場に一度立つと、痛みとか苦しみとかをよく理解して、そして今度自分が治療者になった時に温かみのある治療を行うということがありまして。ですからネガティブな体験をポジティブに変えていくという。そういったことがみうけられるかなと思っています。

青柳:
確かに苦労されている方、苦労されたリーダーの方はすごく部下に対する包容力があるとか、同じ目線でみることができるということなんですね。

宮川:
人の痛みがわかるというか、人の気持ちを汲むことができるという。それはとてもポジティブな面ではないかなと考えています。

青柳:
ネガティブな体験をポジティブに変えていくということ。

宮川:
はい。それもひとつの例かなという風に思っています。

青柳:
ネガティブな面はそれはそれで、絶対悪ではないということですか?

宮川:
ネガティブを肯定しながら、ポジティブとのバランスを取っていくということですね。

青柳:
ネガティブな面が自分にあるなと思う方も、それは決して否定する必要はないのだと。

宮川:
それはおっしゃる通りです。

青柳:
お話を伺ってまいりまして、ポジティブシンキングが身に着く状態になると、不測の事態にも対応できる。人間ですから、焦ったりビビったりというのはあるのでしょうけど、かと言って行動も焦ったりビビったりしない、そういう人間になるために必要かなと・・・

宮川:
はい、基本的な考え方です。

青柳:
といいますと、それは古来日本で言われているリーダーに必要な心構えとしまして、知識、見識、最後に胆識と、よく日本人が『腹にすわっているね』とかいう時のそういう心構え、ものの見方、とも置き換えて言えることができますね。

宮川:
おっしゃる通りだと思います。

「ポジティブな状態を保つために…」

宮川:
ここでは二つのポイントに絞ってご紹介したいと思います。
ひとつは工夫や知恵を習慣化しておくということ。
二つ目はいざという時に備えておくということ。
同じようなものですが、二つに分けてご紹介します。

「ポジティブな状態を保つために…
工夫や知恵を習慣化しておく
-完璧を求めない」

宮川:
自分に完璧さを求めない
100%完璧であることを求めない、これが大事だと思っていまして。

青柳:
私などは父から手を抜くなとずっと言われ続けているが、それとは違う?

宮川:
頑張って、もちろん努力をするといことは素晴らしいことだと思うのですが、心を健康に保っていくためにはほどほどにしておくと。

青柳:
それは腹八分目みたいなことですか?

宮川:
そうですね、ごはんの場合は腹八分目ですけども、努力もおっしゃる通りで、 野口悠紀雄先生の「超勉強法」という本がありますが、大学の時に読んで、その中で野口先生が8割原則というのを提唱なさっています。物事は何でも完璧を目指すのではなく8割ぐらいを目標にしてそこを到達点とする、8割を目指して頑張るのが良いという、そういうお考えなのですが、100%を目指すということはすごく大変なこと。ハードルをあげてしまうと、いつまでも完璧ということがないので、その到達点に向かってずっとあがいてもがき苦しまなければいけなくなってしまいます。ですので、ほどほどの所でやめておく勇気というか、適当なところで切り上げる勇気を持つことが、心の健康のために大事だと。

青柳:
論語だと過ぎたるはなお及ばざるがごとし、行き過ぎやりすぎは決していい結果をうまないと。

宮川:
中庸が良い、ほどほどが良いと。

青柳:
そこに通じるわけですよね、8割原則というのは。

「ポジティブな状態を保つために…
工夫や知恵を習慣化しておく
-人と比べない」

宮川:
2番目に大事なこととして人と比べないということになります。私たちは人生で他人と競争して結果を出すということに慣れていますが、人と比べるということは本当に馬鹿らしいことで。たまたまそばにいる人と自分を比べて、どちらが勝っているかということ、例えば自分の子供がよその子供と比べて成長が早いとか、ご主人の出世が同じところに住んでいる人、社宅に住んでいる人と比べて遅いとか、たまたまそばにいる人と比べてもいいことは一つもないかと思います。人と比べてもし自分の方が勝っていれば優越感に浸るかもしれませんが、そんなに世の中うまくいくことばかりではないので、自分の方が劣っていると、いわゆる人の三毒「怒り」と「ねたみ」と「愚痴」ですね。これが生じてしまうことになるわけです。

青柳:
負けるまい、負けるまい、とポジティブにやっていたつもりなのに、逆にその三毒に自分が蝕まれていく。

宮川:
そうですね、ネガティブな思考に引きずりこまれてしまいます。

青柳:
確かに先生がおっしゃるように、私たちは自分たちが知れる社会というかサークル、ソサエティの中で比較しますが、外を見た瞬間にいかに自分が井の中の蛙だったかというのは、そういうことなのですかね。

宮川:
たとえばスポーツでも、スポーツはどちらかと言えば人と競争して結果を出すということが多いかもしれませんが、スポーツ心理学でいうと自分の一番の敵は自分であるという。

強くなるためには自分を鍛えていかに自分に勝つか、己に勝つかということが求められる。ですから自分の敵は自分だということを認識できるようになるとものすごく気持ちが楽になるはずなんですね。

青柳:
今先生がおっしゃった考え方は論語にもあって、
忮わず求めず何を用てか臧からざらん。
簡単にいうと、人は人、自分は自分、比べないのが一番いいというそういう教えなんですよ。

宮川:
まさにぴったり。

青柳:
私たちはどうしても自分に持っていないもの、特に隣の芝生は青いなどとよく言われる話ですが、結局そういうことですよね。

宮川:
はい。

「ポジティブな状態を保つために…
いざという時に備えておく
-話を聞いてもらおう」

宮川:
それでは2番目に、いざという時に備えておくということに関して、まず大切なことは話を聞いてもらおうということ。私たちが悩んだり困ったりしたときは誰かに話を聞いてもらおうということですが、結構頑張り屋さんの人だと自分一人で抱え込んで誰にも相談せずということがあると思います。

青柳:
人に話すのも何か恥ずかしいとか情けないとかそういう気持ちの時、確かにありますよね。

宮川:
ですけれども、問題があった時にそれを人に話すということによって、自分が抱えている問題を整理することができます。話すことによって整理をする。人に話をして、客観的な意見をもらうと、自分一人で考えていると視野が狭くなって、近視眼的な小さな考えにとらわれてしまう傾向が。

青柳:
それはわたしもよく感じていて、視界が狭くなっていく感じがしますよね。

宮川:
それを広げてあげるという効果もありますし、それから何よりも話を聞いてもらって、理解してもらったな、受け入れてもらったなという安心感につながるのではないかと思っています。

青柳:
いざという時に備えておくということからするとそういう時に備えて、話を聞いてくれる人を用意しておくということですかね。

宮川:
そうなんです、おっしゃる通りで、日本の会社でもメンター制度というのが 取り入れられるようになってきていますよね。

宮川:
そもそも、メンター制度というのはアメリカで始まった人材育成とか人材教育の分野で用いられる手法ですけれども、誰か信頼できる人に相談をするとして、その信頼できる相手をメンターと呼びます。メンターは特定な分野において知識や経験やスキル、人脈を兼ね備えていて、成功体験を持っている方がなることが多いです。会社でいうと管理職レベルの方ですけど、社員としては直属の上司の管理職ではなく、別の部署の管理職の方をメンターとして助言をもらうという形になっています。

メンターに助言を受けることをメンタリングというのですが、メンターとしては直接指示を出したりするのではなく、相談者に考えさせる、助言は与えるけれど自分で自立して成長していくのを促すという。そういう制度としてのメンターでなくてもご家族でも友人でも良いのですが、信頼ができて話ができる相手を日ごろから大事にしておくということが必要だと思います。

「迷い、悩んだとき
つらい状況に陥った時
人間関係で悩んだとき
物事がうまくいかないとき」

宮川:
誰でも悩んだり苦しんだりすることがあると思いますが、つらい状況におちいったとき、人間関係で悩んだとき、物事がうまくいかないとき、そういう時にどうすれば良いかお話します。

「迷い悩んだとき
つらい状況に陥った時
-ひとりで抱え込まない・弱音を吐く」

宮川:
大切なことは一人で抱え込まないということですね。つらいと、弱音を吐きましょうというものです。

青柳:
弱音は吐いていいものなのですね。

宮川:
はい。一人で悩んでいるとうつうつとして負のスパイラル、ネガティブな感情がずっと生み出されてしまって、そこから抜け出せなくなる。そういった時にできるだけ早めに、誰かに辛いけどなんとかして、と助けを求めること。これができれば楽になるはずです。

青柳:
でもそれって情けない、かっこ悪いと自分で柵をつくってしまう。

宮川:
ですから、企業戦士はほとんどこれができない方が多い。弱音を吐くのは負け犬になってしまうからいやだと。真面目な方ほど、責任感が強い方ほど一人で 頑張ろうと、なんとかして耐えようと思ってしまわれる。

青柳:
私の経験からすると企業戦士でなくても、自負心が強い人間でもないのに、抱えてずっといっちゃう人が多い気がしますが、そういう具体例は産業医として診ていてありますか?

宮川:
そうですね、責任ある立場に立たれていた方が、体の不調を訴えて私の所に来たのですが、最初はどこが痛い、つらい、心が苦しいというのではなくて、ちょっと体に異常がありますという話だったんです。よく話を聞くと、実は仕事も大変でご家族もご病気でというそういったことで苦しんでいらっしゃることがわかりまして、その方には思い切って休職をすすめました。休んでもらってご家族も回復されて、ご自分も元気になられて今はバリバリ現場に戻っています。

青柳:
一旦自分をリフレッシュしてリセットしてもらうということですかね。

宮川:
ですけど、その方が後からおっしゃったのは、助けてもらうなんて考えつかなかったと。そういうものは言わないものだと思っていた。気が付いていらっしゃらなかったんですね。助けてというのは決して負けることではないですし、つらいよと弱音を吐いて 助けてもらって、自分が元気になれば恩返しをすればいい

「迷い悩んだとき
つらい状況に陥った時
-大切なことは決めない」

宮川:
大切なことは決めない。その場で決めない。これも大事です。実はこれも頑張って働いている方に多い。自分がつらくなった時に不都合が出て来るとそれを自分の責任だという風に感じてしまってなんとかしたいと。なんとかするためには会社を辞めてしまおうとか、あるいは元気がなくなって家族に迷惑がかかる状況になると、落ち込んでいますので離婚してしまおうとか、そう言った大事なことを決めてしまう方がいらっしゃいます。ですけれども、心のエネルギーが低下しているときに大事な決断をすると、誤りであることが多い。あとから激しく後悔するということにもなりかねませんので、元気がないときには大事なことは決めないというのが鉄則なんです。問題が起こった時に上手に解決する法則として、判断遅延の法則というのがあります。

青柳:
判断遅延の法則ですか?

宮川:
はい。決断をするのを先延ばしにするということなのですが、先に延ばすといろいろな解決策を思いつきますよね。時間がたてばたつほど冷静になるのでより効果的な対策を生み出すことができます。ですから十分にいろんな解決策が出そろうまで判断を先延ばしにしましょうという法則です。

エネルギーが低下してしまった時には、大切なことは決めない。これがとても重要です。

青柳:
論語にもまさにその考え方の教えがあって、
人にして恒なくば、つまり、信念を持っていなければ、以って巫医(ふい)をなすべからず、というのがあります。信念、それが揺らいでいるときは、どんなにいいお医者さんでも占い師でも、アドバイスしても意味がないという教えなんです。まさに先生がおっしゃっている通り。自分が不安定なときは常に、普通の時は即断即決でやっている人も、不安定に入ったなと思ったらまさに判断遅延の法則に切り替えなくちゃいけない。それをしないで不安定なまま、即断即決をし続けると・・・

宮川:
過ちを犯す。

青柳:
違う道を選択して進んでいくというのは、おっしゃる通りだと思いますね。

宮川:
そうですね。大切なことだと思います。

「迷い悩んだとき
人間関係で悩んだとき
-人をゆるそう」

宮川:
まず大切なことは人を許そうということ

青柳:
人を許す。

宮川:
はい。何か自分に対してひどいことをした人を許すということは、ものすごく大変で苦労を伴いますね。私は修行のようなものではないかと考えているくらいです。

「ゆるす」という言葉ですが、「ゆるす」にはいろいろな漢字がありますよね。私の好きな「ゆるす」という漢字は「恕」です。

青柳:
お、ジョ。

宮川:
論語にもあるかと思いますが、思いやりの気持ちですよね。ゆるしというのは思いやりだと考えています。思いやりをもってゆるすのは相手に対する思いやりだけではなくて、自分自身に対する思いやりの心を持って、ゆるすということだという風に考えています。憎しみとか怨みを持っている自分はものすごく不幸なんですよね。人を恨むとか憎むということは過去に束縛されて自分自身の輝かしい未来を犠牲にしてしまっているのではないかと思いますので、自分をいたわって思いやるということのために、自分自身のために相手を許すというそのように考えていけばいいかなと。

青柳:
自分に何かひどいことをした人に対して、その人をゆるすというのはその行為はそこにとどまらず、実は自分を苦しみとか、束縛から解放してあげるということになるんだと。

宮川:
自分を解放するということで、まさにこれはダライラマ14世がおっしゃっている言葉なのですが、「許しとは相手を無罪放免にする手段ではなく、自分を自由にする手段なのです」と。人間関係で悩んだとき、たとえ憎い相手で あっても思いやりを持ってゆるしていこうということが大事なんだなと思っています。

「迷い悩んだとき
人間関係で悩んだとき
-ごめんなさい、ありがとうを言う」

宮川:
次に大事なことは、ごめんなさい、ありがとうをしっかり言いましょうと。ごめんなさいはなかなか言える人がいないです。子供の時はいえると思いますが。

青柳:
一般的にはごめんなさいというのは、自分の発言・行動が人に迷惑をかけたというのを認めること。ですから認めることができないからごめんなさいと言えない自分を正当化してしまう。

宮川:
ただ自分の心の中では分かっていますよね。自分が悪かったというのは。謝るのが遅れれば遅れるほど謝りにくくなりますし、取り繕えば取り繕うほど謝れなくなる。やはり人との関係を良好に保つためには何かあった時には間髪を入れず、ごめんなさいと謝るのが大事ではないかなと思っています。

青柳:
確かにごめんなさいを言えないばっかりに、ずっとつらい思いを重ねることは誰しもあるんじゃないですかね。

宮川:
では次にありがとうですが、感謝の言葉ですよね。人からありがとうと言われるとものすごくうれしいですよね。『ありがとう』と言う言葉はとても大きなエネルギーを言ってもらった人に与える、私はこれをありがとうのプレゼントという風に考えているんです。

このありがとうの効果を実感した例というのがありまして、糖尿病の患者さんだったのですが、糖尿病は食事療法をしっかりしなければなりません。血糖値が高いのでカロリー制限が永遠に続きます。奥様が本で勉強してカロリーを抑えた食事を作っていらしたのですが、食事を目の前にして、『こんなおいしくないもの食えるか』と憎まれ口をたたいてしまって、心の中では感謝しているのにありがとうと言えない。

青柳:
誰かにその気持ちをぶつけたいのは分かりますね、なんとなく。

宮川:
そうですね、食事制限ってつらいですものね。ですが、私が奥様にありがとうとおっしゃらなくちゃだめですよ、とお話をしましたら『なんとか頑張ってありがとうと言ったよ』と。それで奥様は喜んでそれから一生懸命に食事を作ってくださって、その方の糖尿病の具合もよくなった。一言のありがとうがきっかけとなって病気がよくなった素晴らしい例です。ありがとうという言葉は人と人との心をつなぐ大きな力を持った言葉ではないかと考えています。

青柳:
ありがとうは言われる方はもちろんうれしいですが、言ってる本人も気持ちいいものですよね。大体、ありがとうを言えなくなる時って、そのやってもらった事や言ってもらったことを当たり前のように思い始めると、それが減る。

宮川:
常に小さなことでも感謝しながら、感謝し、感謝されながら生活していけるととても幸せだなと思います。

青柳:
ポジティブシンキングで今日はやっていますけど、ネガティブな状況に置かれたときでもありがとうと言えたらポジティブと言えますよね。

宮川:
ネガティブな状況をポジティブに変えていくきっかけとなるような言葉としてもいいと思います。

「迷い悩んだとき
人間関係で悩んだとき
-人の立場に立って考えよう」

宮川:
自分がつらい状況に陥った時、人の立場に立つというのは、ちょっと難しいと思いますが。

青柳:
ハードル高いですよね。

宮川:
そうですね。でもそれができると状況ががらっと変わるということがあります。新聞に載っていた投書の相談ですが、ある人が自分の上司がいつもガミガミ言って、ストレスがたまって大変だと。なんとかならないでしょうかという相談が載っていました。回答者がその上司の方もストレスがたまって大変でしょうね、きっと上司の上司もその人にガミガミといわれているのではないですかと。

青柳:
視点がその人の立場になっているという事。

宮川:
そうですね。そのあとに相談者の声が再度載って「目からうろこが落ちました。」

宮川:
ガミガミ上司にあなたも大変ですねと声をかけたところ、いや~いろいろ言ってすまなかったねと態度が変わってうまくいったという例が載っていた。これを読んで、人の立場に立つということはすごいことだと感じました。人の立場にたつということは、想像力とか共感力がないとできない。そういった力がお互いの信頼関係を作りあげていく。相手の人と立場を変えるということは、相互理解、さらに客観的に自分のことも相手の事も客観的に見つめる良い機会になると思うんです。

青柳:
宮川先生の好きな言葉で、音読みだとジョ(恕)まさにそのもの。
「己の欲せざるところ、人に施すことなかれ」
自分がされたらいやだなと思うことを人にしない。人の立場はなかなか見えるものではないけれども、でももし自分がその立場だったらどう感じるかはわかるのではないだろうか。それをもって推し量って相手がどう感じるかを考えようというのが、「恕」に含まれる意味。まさにそのことですよね。

宮川:
つらいんだけども、ちょっと視点を変えて相手の立場にたつという余裕を少しもつと見方ががらりと変わって、その人との関係性も良いものに変わる。

青柳:
人間関係でもめたり、衝突が起こる最大の要因のひとつかも。相手の立場になってものを考えられない、自分の言い分ばかり言って結果何も変わらない、相手から反発も多くなってどんどん自分を押し下げてネガティブに。そうならないためにも相手の立場にたって考えるのは重要ですね。

「迷い、悩んだとき
物事がうまくいかないとき
-自分をほめてあげよう」

宮川:
まず自分をほめてあげようと。

青柳:
ほめてあげる。

宮川:
物事がうまくいかないときになぜほめるのか。良いところを見つけて元気づけるということですが、自分で自分をほめるというのは結構難しいと思います。自分の良いところを見つけるのは、簡単なようでも難しくて、なかなか実践はできないと思いますが、この言葉がすごく脚光を浴びたのは1996年のアトランタオリンピックで有森裕子さんの言葉で「初めて自分で自分をほめたいと思います」と、ゴールの後に語られて、その時の言葉がその年の流行語大賞に選ばれています。

実はこの言葉は松下幸之助さんのご著書の中でおっしゃっている言葉なんです。松下さんは「毎日の仕事の中で自分で自分をほめたいという気持ちになる日を1日でも多く作りたいものです」と、同じことをおっしゃっているのですが、ちょっとずつでも努力して頑張って1日の終わりによくやったなという充実感を得られたらそれは素晴らしいことだという意味なんです。ですので、何かうまくいかなくてもちょっとずつ努力をし続けていって、自分をほめてあげることができれば、それが長い間たった時にはそれが必ず問題解決へとつながっていくだろうと。

青柳:
先ほどの有森さんの話もよくわかる。「はじめてほめてあげたい」、ようは自分で何度も何度もああいう選手はもう限界と感じていたはずです。でもそれをまだいけるはずだと奮い立たせた自分をほめたいと。まさに問題は必ず解決できる、自分を成長させてくれるきっかけにもなるんだと。まさにポジティブシンキングできるといいですよね。物事がうまくいかないときに自分をほめるのは大変ですが、できないこと、うまくいかないことばかりが頭を駆け巡ってとても自分をほめるポイントを見いだせない。頭が混乱している状態。私は手帳に、恥ずかしながらこんなに私はえらいというのを20個、それは毎年書き換えていますが、うまくいかないなと思ったらそれを必ず見る。そうすると、頭は混乱していても目は読めますから。そうだったそうだったと・・・

宮川:
自分では気が付かなくても、人は自分が短所だと思っているところが長所だと思っていることがあります。神経質だと思っているところが、逆に細かくて気配りができるということもありますから、考え方を変えて自分の良いところをできるだけたくさん青柳先生のように書き出すといいと思います。

青柳:
見出そうと思ったらみなさん必ず持っているはずで、まさにネガティブにここは欠点だと思いこんでいるところは、出し方の問題だけだと思っています。臆病ととらえると、ネガティブに聞こえますが、誰よりも慎重である、誰よりもリスクヘッジをしてリスクを回避する能力があると書けば、ポジティブな定義ですよね。

宮川:
自分は自分の一番の味方ですから。自分がいいところを見つけないでどうするかと。良いところを見つけてほめてあげようと。その気持ちを大事にしていただきたいなと思います。

「迷い、悩んだとき
物事がうまくいかないとき
-問題は何かを考えよう」

宮川:
自分にとって今何が問題かを考えましょう。物事がうまくいかなくなっているときはすごく苦しいと思うのですが、苦しいどうしようという感情にばかりとらわれていると、原因となっている問題について客観的にとらえられないことが多いと思います。

青柳:
心の中は早く解決したいともがいている状態ですよね。

宮川:
そういう時は冷静になって何が問題なのかを一つずつ、紙に書き出します。

青柳:
確かに冷静になれというけど、難しいじゃないですか。確かに紙に向かうと。

宮川:
紙に書くと、一つずつは意外と大したことのないこともあり、それぞれに適切な対応法が見つかることもあります。どうしても自分だけで解決できないときは、メンターや家族、同僚など一緒に考えていければいいですが、問題というのは世の中に解決できない問題というのは、ふつうはない。

哲学者の森信三さんの言葉に「逆境は神の恩寵的試練なり」という言葉があります。越えられない試練はない。越えられるからこそ与えられているものだ。明けない夜はない、いろいろいいますが、与えられた試練を乗り越えることで自分が成長できると信じて、必ず解決できると信じて一歩一歩進んでいくというのが大事。一度に全部解決するのは難しいので、決して欲張らずに、少しずつ。

青柳:
よく言われるのは、どんなに複雑な状態に見える問題もひとつひとつ分解していくとシンプルになるよと言われていますよね。

宮川:
そのためにも頭を整理するために、紙に書いてみるという事と、人に相談する。それがとても大きな助けになります。

青柳:
今回は自己実現を推進するためのポジティブシンキングと題して話を伺ってまいりましたが、私たちはえてして、既成概念というか、こうなったらこうしなければならない、苦しい時はひたすら悩まなくてはいけない、我慢しなくちゃいけないから人にも言ってはいけない。自分で勝手に枠を。

宮川:
そうですね、とらわれていますね。

青柳:
とらわれていますね。でも、そうではないんだ。苦しいときは普通に相談してもいいんだし、厄介な問題に出会ったときは問題の中に自分を入れ込むんじゃなくて、ちょっと引いて必ず解決もできるんだと。

宮川:
どんどんどんどん、ネガティブに入っていくと、そこから抜け出れなくなりますので逆に引いて、楽な気持ちになって、ポジティブに思考を切り替えていくということが大事だと思います。それからはじめにお話しましたけど、ネガティブであることを決して否定しないで、それを認めながら、弱い自分も認めながらいかに少しでもポジティブな方向に考えるかというところに重点をおいていっていただいたらいいかなと思います。

青柳:
思い悩んでいる自分を否定するのではなく、引くのではなく、思い悩んでいるから相談しようと。

宮川:
思い悩んでいることを恥ずかしいことではない、それをちゃんと前面にだして、助けてほしいときは助けてとお願いして、そして1歩1歩力強くすすんでいけたらいいなと思う。

青柳:
それで進んでいけば人に影響力を与えるという意味でのリーダー、に近づいていく。その道を進んでいくために必要な歩き方といいますか。

宮川:
ですから決して、強いだけのリーダーではなく、弱さも持ち、非常に人間的な温かみのあるリーダー。

青柳:
なにか突拍子もない新しいことではなくて、きょう伺った話は。

宮川:
当たり前のことなんです。

青柳:
全部やろうと思ったら、すぐやっていけることですよね。

宮川:
でも気が付かない場合も多いということで。

青柳:
そうですよね、それだけ自分がとらわれている状態ということですよね。

青柳:
本日はどうもありがとうございました。

宮川:
ありがとうございました。