平成29年度第1回講座:「詮議(対話ロジー)と三角ロジック ~甦れ、平成の薩摩!そして、さらなる飛躍を!!~」(理論編)

岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾

平成29年度講座内容

【第1回講座】

「詮議(対話ロジー)と三角ロジック

~甦れ、平成の薩摩!そして、さらなる飛躍を!!」(理論編)

講師
浜岡勤氏(国際ディベート学会 元理事長/東京海洋大学『ディベート講座』特任講師/『伊勢神宮』『南洲翁遺訓』『日新公いろは歌』翻訳者)
場所
岩崎学生寮(東京都世田谷区北烏山7-12-20)
放送予定日時
平成29年7月22日(土)12:30~13:00 ホームドラマチャンネル(理論編)
平成29年7月23日(日)06:00~06:30 歌謡ポップスチャンネル(理論編)
※以降随時放送
詳しい放送予定はこちら(ホームドラマチャンネル歌謡ポップスチャンネル)

浜岡 勤
(はまおか つとむ)
国際ディベート学会 元理事長
東京海洋大学『ディベート講座』特任講師
『伊勢神宮』『南洲翁遺訓』『日新公いろは歌』翻訳者

昭和15年(1940)鹿児島県串良町生まれ。東京大学薬学部製薬学科卒。神田外語学院「ディベート講座」非常勤講師、東京海洋大学「ディベート講座」非常勤講師を歴任。現在、鹿児島同学舎「DESK」(ディベート講座)講師。「伊勢神宮」「南洲翁遺訓」「日新公いろは歌」翻訳者。

講義録

<浜岡氏インタビュー>
Q.対話ロジーとは?

浜岡:
対話ロジーの基は、鹿児島で38年間、英語学校を経営されている南徹先生。先生の教育方針の中で、英語を学ぶうえで4つの対話が必要だと言われています。

一つ目が自分との対話、Dialogue Withinというんですけど、それは「人間とはいかなる生き物だ」から始まって、「自分」とは何か。要するに自分を通して考える能力を鍛えるんです。

二つ目が他人との対話。それはチームワークをつくるためにすごく必要。その対話を重点的に、英語を通して鍛えます。

三つ目が自然との対話。自分たちは生かされているということへの気付きなんでしょうね。それで英語を勉強する。

四つ目は、英語を勉強した後、当然、外国の人と相手しますから、異文化との対話を大事にしようというのがあります。みんな違って当たり前っていうのに気付かせるんですね。

その4つの対話を中心として、38年間、英語教育をされています。その考えと「詮議」というものがすごく結びつきます。「詮議」をしておかないと、「対話」を自分で鍛えようと思ったときに、一工夫が必要になると思います。

Q.本日のポイントは?

浜岡:
「詮議」というものは一言で言うと人間を大きくするのです。それを今日、伝えたいと思います。人間を大きくっていうのは、他人から何か言われたときに、けちをつけられたと思わずに、違う意見を素直に受け入れて、それをさらに大きくしていく。そのためにはやっぱり自分がしっかりしてないと。だから、I am OK、You are OKの、そういう関係にならないといけません。ですから、今日は器を大きくするとか、I am OKの状態を一人ひとりつくってもらいたい、そういう思いがあります。

<講義:詮議(対話ロジー)と三角ロジック>
浜岡:
皆さん、こんにちは。

一同:
こんにちは。

浜岡:
浜岡と申します。今日、講義をさせて頂くご縁を頂いて、因縁みたいなのを感じるのです。僕は58年前、実はこの岩崎寮に奨学金をもらいに来ていました。それから4年間、毎月20日ごろだったと思うのですけど、千歳烏山の駅で降りてここまで歩いてきていました。

僕の背景をちょっとお話ししますけど。僕は(鹿児島県の)串木野中学で断トツの1番でした。どんなに成績が悪くても3番ぐらいでした。でも、ラ・サール高校に入ったら、鳥取からも来てる人もいたし、英語もネイティブ並みにペラペラな人もいる。僕にとってみれば、周りが勉強できる奴ばっかりで。いったん自分で、「俺はなんでできないんだろう」と思い込んで、そういうレンズで周りを見だしたら、すべてが否定され、できないと思うわけです。

これが最初で最後の挫折。その後の挫折はあったかもしれませんけど、たいしたことはなかったです。今でもそうですが、そのときの体験から学んだ事は、「何事も自分が納得できるまでやる」。それと、「競争は一切しない」。だから勉強も自分が分かるまでやる。それがずーっと続いてるんです。今でも。だけどその体験が、今日僕をここの席に立たせてくれています。

今日のテーマは「詮議(対話ロジー)と三角ロジック」です。絶対に受けないと損ですよと言っています。論理を徹底して鍛えるのです。

まず「詮議」とは何かを説明しますね。「詮議」という言葉を聞いたことある人もいると思います。よく鹿児島では、「義を言うな(異議を言うな)」って言うじゃないですか。横田さん、知っているでしょ。「義を言うな」って言うの。僕は同学舎では、大いに義を言えって教えているの。ただし、論理的に義を言えって言うの。

もともと詮議ではルール上いろんな議論して、決めた後は異議を言ったらだめなの。それがいつの間にか、あまり論理が強くない先輩方が頭ごなしに「義を言うな」と言っているのですよ。

「詮議」は、意訳をすれば「薩摩ディベート」です。要はとにかく何かものを言って討議をするのですよ。ディベートはあとできちんと説明しますけど、言葉でやりとりをする言葉の決闘、試合をして勝ち負けを決めるのですよ。今日は最後に応用問題で、「朝食に和食を薦めるか、洋食を薦めるか」という論題で皆さんに「詮議」をやってもらいます。その中でディベートの方式を取り入れます。是非、やってみたいっていう人は手を挙げてくださいね。

今はそうじゃないかもしれないですが、薩摩の武士は交渉上手と言われていたのですよ。なぜかというと、先輩が後輩を指導して「詮議」をする事で論理的思考を徹底して鍛えたの。

それは薩摩独特の文武両道の教育システムがあって、これを「郷中(ごじゅう)教育」といいます。その「郷中教育」の中で、“文”の中心鍛錬の方法として「詮議」を行い、“考えること”を徹底して鍛えていました。

では詮議の始まりはどこなのかといいますと、1595年、文禄・慶長の役といいますか、いわゆる朝鮮の役が8年間ぐらいありますよね。薩摩の武士たちの有能な人間はみんな行ってしまって、残ったのは10代の若い男の子か、病弱な人。要するに戦争に行けなかった人たちだけが残ったのです。そうすると、風紀が乱れたり、緊張感がなくなってしまう。

そのような状況で、留守を預かっていた家老・新納武蔵守忠元(にいろむさしのかみただもと)がこれはまずいと思い、青少年の集団である「二才咄(にせばなし)」というものを作った。「二才咄」というのはグループというふうに考えてください。二才(にせ)のグループ。15歳以上の青年たちのグループを作って、各員がそれぞれのグループ内でお互いに切磋琢磨(せっさたくま)しなさいと。そのグループ内で各員がその切磋琢磨すべき内容を、「二才咄格式定目(にせばなしかくしきじょうもく)」として定めました。

ナレーション:
新納武蔵守忠元が定めた「二才咄格式定目」は、郷中教育の規律の原点にもなったと言われています。二才とは元服後の15歳から25歳までを指し、咄とはグループのことで、青少年が守るべき決まりについて定めたものです。

浜岡:
二才咄格式定目は10項目からできています。よし、じゃ横田さん、その第1項目、読んでくれる?ちょっと大きな声でね。

横田:
はい。第一に武道をたしなむべきこと。

浜岡:
おお、立派ですね。漢文の勉強していた?

横田:
いえ、学校の授業の範囲でしかやってなくて。

浜岡:
そう。はい、寺原さん、2番。

寺原:
かねて士の格式、油断なくいたし、ギジヲウガツ……。

浜岡:
ん?かねて士の格、油断なく。穿議(詮議)いたすべきこと。
ここで詮議が出てきます。

ナレーション:
400年以上も前に定められた、この「二才咄格式定目」、10箇条を解読すると、ご覧の通りです。武道を修練し、分からないときは自分勝手な行動をせず話し合って行動する、忠孝の道に背かないなど、日常守らなければならない規約を定めました。

浜岡:
詮議掛けの問題は沢山あります。まずひとつ、「親の仇(かたき)に溺れてるところを助けられた。汝(なんじ)はいかがいたすや」。前田さん、何て答えたでしょうか。

前田:
ありがとうとお礼を言った。感謝した。

浜岡:
感謝しただけ?
当時の答えは、一応お礼を言え、お礼を言った上で、やっぱり忠孝の道だから、親の仇を取るのが筋だと言って、断って殺せって言われたみたいですよ。

<「三角ロジック」とは?>
浜岡:
「詮議」とは、「薩摩ディベート」というのをお話しましたけど、世の中で良いと思われているものはどんどん取り入れます。今回はディベートの手法を取り入れています。どうして三角ロジックをやるかっていうと、物事って漫画とか図で描くほうが分かりやすいのですよ。

ディベートの基本になる考え方はギリシャのソクラテスとかの時代、紀元前5世紀ぐらいに生まれた三段論法で、三角ロジックというのは三段論法が基本になっているものです。

三段論法では大前提(Major Premise)。次が小前提(Minor Premise)。それから、結論(Claim)となります。具体例としてソクラテスの例があって、大前提=“人は死ぬ”。小前提=“哲学者・ソクラテスは人である”。従ってそれを結んだ結論は“哲学者・ソクラテスは死ぬ”となります。

これだと非常に覚えにくいので、ディベート用語に置き換えて、大前提を“ワラント(Warrant)”、小前提を“データ(Data)”、結論を“クレーム(Claim)”っていうふうに表します。

そうすると、さっきの例を三角ロジックで書くと、ワラントが右下“人は死ぬ”。データは左下“哲学者・ソクラテスは人である”。そして天辺がクレーム“哲学者・ソクラテスは死ぬ”というふうになります。これは常に頭においてください。いろんな場面でとても便利です。三角で表せばいいの。要するに結論は2つからなる。すべての結論はデータとワラントからなります。

ナレーション:
三角ロジックの構造例をもう一度見てみましょう。大前提の論拠、ワラントとして“人は死ぬ”。データとして“哲学者・ソクラテスは人である”。よってクレーム、主張は“哲学者・ソクラテスは死ぬ”と言う論理が成り立っているのです。

浜岡:
すべての結論はデータとワラントからなります。なぜか。ここにCTPの原理って書きましたけど、Creative Thinking & Presentationの略で、僕の造語です。

アメリカのディベートの本に書いてあるオリジナルはCriticalです。Critical Thinking & Presentationってなっている。Criticalにすると、日本語にするとあちらこちらに嫌味を言う、皮肉を言うっていう印象があるので、もっと前向きにしようじゃないかと思って造った言葉です。

<CTPの原理>
浜岡:
それで、このCTPの原理とは“真実は1つ。事実はたくさんある”という原理になります。どうしてかを言います。ワラントはさっきの三角形の右下にありましたが、本当は透き通ったレンズなんです。データは混沌(こんとん)として何にも分からない。ただ透き通った、その水晶玉(レンズ)を通すと答えは1つなんですよ。

実際に見せましょうか。直径10センチの水晶玉。今日、詮議の象徴っていうか、レンズであることを皆さんに体感してもらうために持って来ました。ガラス玉じゃなくて水晶玉、本当に透き通っているから。
物事が何であれ、黙って座ればピタリと当たると言う、水晶玉を通すと答は1つ。それをThe Truth、真実といいます。

だけど、一般の人はそれができないから、玉を半分に割るんです。半分に割って、データをまず用意して、YESの論理だけ、NOは全然考えない。それだ、それだと言って、結論を見るとたくさんの事実が出る。だから事実はたくさん。Factsでsが付きます。
肯定側の論理があるのならば、当然否定側もそれは違うっていう、NOの論理があります。それも結論が出るから、事実。これがクレーム。

ナレーション:
ある物事を肯定的に考えるという論拠を持つと、そこには肯定することを前提で物事を見た事実が複数出てきます。
また、否定的に考えるという論拠を持つと、そこには否定することを前提で物事を見た事実が複数出てくるのです。これを両方の側から物事を考えていくと、真実が1つ出てくるというわけです。

浜岡:
この図では場所取るから、クレームを上に持っていくと、さっきの三角形になるでしょう。クレームはデータとワラントの2つからなります。詮議をやる意味は、この肯定と否定を同時に考える訓練をするの。

僕は肯定と否定がすぐ分かる練習・訓練をして、こうやってトレーナーとなるまでに、4年ぐらいかかりました。例えば、今の世の中ではビッグバンはあったって言われているの。だけどビッグバンはなかったという説もある。ビッグバンがあった・なかったを同時に論理付ける訓練、おそらく3年ぐらいかかると思います。

これはデータとワラントがあって、一般的にはビッグバンはあったと言われている。だけどなかったっていう説もある。これらを同時に考えるのです。“ある”に対して、“違うんじゃない?”という意見。それを悪魔の代弁者(Devil’s Advocate)と呼んでいます。常にNoを言う人を想定していたほうがいいという事。

従って皆さんの目的は、このレンズのように両方を同時に考えられる人になってもらいたいのです。そうすると当然器が大きくなるじゃないですか。違う考えを入れるのだから。あらかじめ自分の半分を助けてくれる、Devil’s Advocateを常に求める姿勢があるのだったら、誰かにけちをつけられたなんて思う事はないんです。

<三角ロジックと演習問題>
浜岡:
僕の体験から、ワラントが分からない。ワラントっていうのをきちんと理解するために、問題集をいっぱい作りました。全部オリジナルです。まず最初は簡単、だんだん難しくしています。

練習問題の1。クレーム、データ、ワラントは何かを判断し、不足する部分を補い、三角ロジックを作ってください。結論は、データとワラントからなりますよと言っています。この問題をちょっと解いてみてください。

ナレーション:
ここからは三角ロジックの演習問題です。クレーム、データ、ワラントは何かを判断し、不足する部分を補い、三角ロジックを作ってください。

練習問題1)
図の三角形の残りの角度、角Cを求めてください。データ、ワラント、クレームを書き込んでください。

浜岡:
はい、その通りです。これが三角ロジックの基本中の基本。

ナレーション:
角A=80度。角B=30度から引き出される答は角C=70度。なぜ、そう考えたのか。それは三角形の内角の和が180度だという論拠があるからです。これがワラントです。

浜岡:
この問題、やさしいでしょ。答を求めるんだけど、ワラントって定義とか公理とか、要はレンズなの。
さあ、次の問題。

練習問題2)
“夕焼けの翌日は晴れると言われている。今日はきれいな夕焼けだった。この文章から、クレーム、データ、ワラントは何かを判断し、不足する部分は補い、三角ロジックを作ってください。”

ナレーション:
さあ、皆さんも一緒に解いてみてください。クレーム、データ、ワラントは何かを判断し、不足する部分を補い、三角ロジックを作ってください。

・夕焼けの翌日は晴れると言われている。
・今日はきれいな夕焼けだった。

浜岡:
おお、これでいいと思う人、いる?全員?おかしい。1人ぐらい違う人がいてもいいと思いますよ。
これ、データ2つなの。“昔から夕焼けの翌日は晴れると言われている”これはデータです。

ワラントは何でしょう。レンズと考える、自分の視点なのだから。
詮議は応援を求めてもいいのね。要は話し合いだもの、だって。グループで考えるのだもの。

ナレーション:
仲間で考えた結果、ワラントは、“昔の人の言うことはほぼ正しい”という回答を導き出しました。

浜岡:
いいですね。昔からの言い伝えは大体合っているっていうふうに考える。全部正しいというわけではない。昔からの言い伝えは大体合っているというレンズで見るの。

ナレーション:
この問題のワラントは、“昔からの言い伝えは大体合っている”。これを論拠に、“夕焼けの翌日は晴れると言われている”“今日はきれいな夕焼けだった”というデータと合わせると“明日は晴れると予想できる”という結論が導かれます。三角ロジックが成り立つのです。

ワラントをもう少し理解するために、問題をやってみましょう。

・英語はもっと必要になる。
・英語は世界の8割の国の共通語である。

この2つの文章から三角ロジックを作ってください。

ワラントは“多数が少数を制御するという数の論理が働く”。データは“英語は世界の8割の国の共通語である”。クレームが“英語はもっと必要になる”。そしてまたこれが新たなワラントとなって、“従って日本でも英語教育に力を入れなければならない”というクレームが導き出されます。こうして論理は展開していくのです。

浜岡:
ここまでで、質問はありますか。前半をこれで締めますけど。まとめると、論理は三角形で表せる。クレーム(結論)は、データとワラントの2つからなる。ワラントはレンズである。これだけ覚えてもらえばいいです。