平成28年度第3回:「慶應義塾大学ビジネス・スクールinいぶすき」

岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾

平成28年度講座内容

【第3回講座】慶應義塾大学ビジネス・スクールinいぶすき

場所
指宿いわさきホテル(鹿児島県指宿市十二町3805-1)
放送予定日時
平成28年11月5日(土) 12:30~13:30 ホームドラマチャンネル
平成28年11月5日(土) 06:00~07:00 歌謡ポップスチャンネル

※以降随時放送
詳しい放送予定はこちら(ホームドラマチャンネル歌謡ポップスチャンネル)

講義内容

◇岩崎会頭のお話

Q.スクールを鹿児島で開催した意図は?

岩崎塾長:
2018年が明治150年ということです。明治維新という大きな日本の転換の革命を起こした人たち、その人材はどこで育成されたかというと、各藩の藩校もしくは私塾、そういう所での教育を受けた人たちが、時代に対応してそれぞれの価値観で動いていって、起こったのが明治維新です。結果として、この国はそういう藩校や私塾で育った人たちが、日本という国の近代国家の枠組をつくっていったということが、私の人材という観点からの明治維新の解釈であります。
そういう意味において、逆に今の日本が考えなければいけない人材育成の方法というのは、やはり地方の人材を地方の発展のためにどうしたらいいのかというようなことを考えられる人材を、まずはつくっていくということです。

ちょっと語弊があるかもしれませんが、この国の教育システムにせよ、全てが中央集権型の国家体制となって、すなわちそれは150年前に明治維新によって中央政府が形成された以降、教育システムがナンバリングされた大学があり、東京大学を頂点としたそういう教育機関のヒエラルキーがありというような形で現在に至っております。それはそれで長所もあるのですが、最初に申し上げたように、本当の人材育成というのは、やはり足元のことをどうやっていったらいいのかと考えること。そして、そういうものを積み上げていったときに初めて、この国の人材といいますか、自分の故郷のことを、自分の周りのことを、家族のことを、コミュニティーのことを、それらのことを考えて何かをマネジメントしていくとか、物事を解決していく、今で言えばソリューションしていくというような人材となるのです。こういったことを習得できない人間が、国がどうだとか、地球がどうだとか、そういう所ができるはずもないわけです。

そういう意味では、今は「地方創生」とかそういう言葉で言われている、また、人口減少の中で地方がどうやって生き延びていくかというような危機感が叫ばれている中で、真に地方をどうしていくかという人材づくり。そういう足元のことを考えられる人材をつくっていく、そういう原点に戻らないと、逆に言えば、この国の行く末というのは危ういものではないかというふうに思っております。

その中で、現実はやはりレベルの高い人材育成の教育とか、そういう手法を持った教育機関というのが地方にはなくて、やはり東京に集中しているということです。今回、慶應義塾大学ビジネス・スクールにお話をしたら、鹿児島まで出てきて鹿児島の人材育成に協力してもいいですよということでしたので、そういうご厚意にすがって今回の鹿児島でのビジネス・スクールを開催させていただきました。

当政経マネジメント塾は、2018年の明治維新150年を意識しながらの人材育成、しかも地域の人材育成ということを考えている中で、慶應義塾大学ビジネス・スクールにお手伝いをお願いした大きな理由の1つは、福沢諭吉先生の考え方が地方主権型の人材育成を、地方から行わないといけないというものだからです。

一般的に慶應というと「慶應ボーイ」と言われて、都会のハイカラな学生さんが行く大学だというふうに世間は認識していますが、福沢先生が作った時代の、福沢先生の慶應義塾の創設の意図の中には、明治維新で近代国家になった日本において、民主主義とかそういう実学の世界とか、そういう啓蒙的な人材を、地方の富裕層からいっぱい塾に通わせて、その人間が多くを学び、そして、出身の地元に戻っていって、日本全体を欧米の国に負けない近代国家につくっていくのだという思いの中で作られた大学だというのが、私の認識です。

やはり先ほど申し上げたように、現状の日本の教育システムは、どうしても偏差値型になり、そして、東京に良い教育機関が集中しています。地方の人たちは、高校を出たら東京の大学に行って東京で就職したりして、地方には帰ってこないという、そういう地方にとっては決してプラスではない循環。これを少しでも良くするという意味では、福沢先生の考え方に従い、どういう形でもちょっとずつでも、そういう地方を意識した人材育成ということを実行していけば、まだまだ日本の地方が未来を諦めるということがなくて済むのではないかと思っているところです。

ナレーター:
慶應義塾大学ビジネス・スクールとは、いったいどのような学校なのでしょうか。

◇齋藤先生インタビュー
Q.慶應義塾大学ビジネス・スクールとは?

齋藤先生:
当初はハーバードの先生を日本に招聘して授業を行っていました。慶應義塾大学に協力するという形で経営者に対する教育というのが日本に持ち込まれて、その流れを引き継いで現在に至るのが慶應義塾大学ビジネス・スクール(KBS)です。

現在はMBA(経営学修士)プログラムとして、毎年約100名の学生をフルタイム(全日制)、いわゆる所属していた企業を一旦辞めて、2年間フルに勉強に集中するという学生がいます。現在では、国内で多くの学校や企業によってビジネススクールが開校されていますが、その多くはフルタイムではなく、パートタイムと言われるように、働きながら平日夜間を中心とした形式で学ぶというスタイルが多いです。しかし、我々はそうではなくて、フルタイム形式で2年間経営について集中して勉強していただくというプログラムを長年に渡って継続してきました。

それに加えて、2015年4月にはExecutive MBA(EMBA)というプログラムも新たに開設しました。そうは言っても日本の場合、一度企業を退職して、ビジネススクールで学ぶということは適さないという声もあります。このプログラムは、働きながら学んで、きちんと学位も取得したいという方、特に企業で中核ミドル層の方へ向けて、実務経験15年相当以上という条件を設け、基本的には土曜日中心のカリキュラム構成で経営を学び、MBAの学位も取得するというものです。現在は、学位プログラムとして、全日制MBA、EMBAの2つのコースをKBSでは提供しています。

Q.鹿児島での開催について

齋藤先生:
我々の学校は横浜にありまして、どちらかというと日本の大企業を事例としたケース教材を扱うことが多いです。ただ、その一方で、福沢先生の分権論にもありますが、地方は非常に重要であるという認識を持っています。

日本には、一般的に約150万社といわれる企業があるわけですが、その多くは地方に所在があり、我々は地方に対する貢献というものができていないのではないか、ということを認識していました。そういう中で今回の機会というのは非常に有難い機会でして、我々にとっても、地方の経営者に対する教育であると同時に、地方の経営者から今回の議論を通じて、地方独自にどういう問題があるのか、どういうことを考えているのか、ということを学ばせていただきました。そして、我々自身の経営理論を深め、どういうことを今後経営者教育として提供していけば良いのかということを深く学ぶことができ、大変素晴らしい機会であったと思っています。

KBSは、慶應型ケースメソッドという教育方法を採用しています。ケースメソッドというのは、まず実際の経営に基づいた事実が書かれた「ケース」というものがあります。それを皆さんに予習の段階で読んでいただいて、その中から自分自身で問題を認識し、それについてどう考えるかを、徹底的に思考を巡らせて、さらに授業当日には、他の学生や教員も交えて、ディスカッションを行います。

なぜケースメソッドを行うかといいますと、我々の考えでは現実(事実)が最も重要で、現実があって、そこに経営理論が付随しているということです。まず、現実をベースに考えるということに重点を置いているため、ケースメソッドという方法を採用しています。ケースメソッドと反対の考え方はレクチャー(講義)といわれる形式で、経営理論を教員が学生に教えるという一方通行での授業形式です。我々は、そうではなく、ケースメソッドの手法を用いて、学生と教員の間で、双方向でディスカッションを展開する授業形式です。

ケースメソッドで特徴的なのは、まず受講生や学生の皆さんの間で、少人数のグループ単位で討議をいただくということです。それを経て、クラス全体で討議を行います。そうすることによって、より学びや気づきが深まり、多面的に様々な視点から物事を見ることができるようになります。

今回のクラスでもそうですが、皆さんのバックグラウンドは様々です。業界や業種も違います。例えば、営業の方、組織の人事を担当されている方、経営企画職の方など、多種多様な方が集まると、やはり1つの「ケース」に対する見方というのが異なってきます。ですので、そこで様々な角度からの見方や見解を他の人から聞くことによっても学ぶことが可能です。しかし、多種多様な方々が集うということは、意見や考え方も様々ということですので、そこで教員が意見を整理し、ケースおよび授業をリードしていきます。そうすることによって、より深い学びを得ることができます。

ナレーター:
明治維新で活躍した鹿児島の人材は、議論を重んじる鹿児島独特の教育制度によって輩出されたと、岩崎理事長は話します。

Q.鹿児島独特の教育制度について
岩崎塾長:
鹿児島に関して言えば、ご高尚の方も多いのですが、いわゆる「郷中教育」という特殊な教育形態をとっております。そういう郷中教育の中で育った人間が、西郷・大久保という形で象徴されるわけです。私の理解する郷中教育というのは、西洋社会における人材育成のシステムとして幾つかの手法論がありますが、非常にそれに似通ったものではなかったのかというふうに考えています。ブレーンストーミング、ディベート、今回のビジネススクールのメインの手法となっているケーススタディー、あとはワークショップ。いろんなそういう手法を通じて人材の能力を開発していくということが、西洋ではだいぶ前から定着しています。北欧のデンマークとかスウェーデンでは、小学校の頃からそういう育成をしています。

郷中教育において「議を言うな」という言葉があって、最近でも鹿児島では使われています。現代の鹿児島で「議を言うな」というのは、「議論をするな」というふうに表層的にとらえられております。ただ、ずっと私が申し上げきたのですが、実はこの郷中教育の「議を言うな」というのは、その前のフレーズがありまして、「詮議を尽くして、決したら議を言うな」ということです。すなわち「議を言うな」というフレーズだけとらえると、さも「議論をしてはいけない」というふうに取られるわけですが、ポイントはその前の「詮議を尽くす」という所でありまして、あくまでも私見ですが、郷中教育というのは、お互いに教え合って議論をして人格形成とか世の中を学んでいくというのが郷中教育であったのではないのかというふうに考えています。

そういう意味では、そういう今申し上げたディベート、ブレーンストーミング、ケーススタディー、そういうものに非常に近い形で、鹿児島においては幕末の頃に幼少期からそういうロジカルシンキングとか、コミュニケーション能力とか、逆に言えばその反対として長幼の序みたいな、秩序の中でも議論をするみたいな、そういうことを学んでいくような形で人材育成がなされていたのではないかと、私は思っています。

日本はやはりどうしても画一的な知識偏重型の教育で、一定の年齢に達したならば、急にそういう方法論を押し付けられ、議論さえままならないというのが現状だと思います。特に地方ではですね。民主主義であり、いろんな価値観があり、グローバルな世界の中でいろんな宗教があり、いろんな人種がありという中で、徹底的に議論を尽くしてコンセンサスをつくらない限り、次の行動に移っていけないというふうに思っています。

私は社内でよく言うのですが、「会して議さず、議して決さず、決して行わずであってはならない」。ひょっとしたら今の日本の社会がこれだけ停滞しているのは、会して議していないことが多く、議しても決さないことが多く、決しても行わないことが多いという意味ではないでしょうか。会して議せる人材、議して決することができる人材、そして、決したことを行動することができる人材、やはり鹿児島において、そして、今の日本の地方においては、そういう人材を地道につくっていくことが必要なのではないのかなというふうに考えています。

ナレーター:
そして、今回の研修プログラムには、「鹿児島からアジア・世界へ向けて」という共通テーマが設けられました。

岩崎塾長:
この日本は、特に地方は、グローバリズム、国際化というのを、どうやって受け止めて、どうやってこなしていくのか。グローバル化ということで、今までの日本の価値観とか社会システムが全て悪だみたいなことが叫ばれて、従来、日本が守ってきたそれなりに素晴らしい社会システムが崩壊したことによって、非常にひずみが出ました。それは特に中央と地方の格差ということで、ひずみが出ています。その起こってしまったことを嘆くのではなく、今までのわれわれの1つの教科書的な思考パターンを変えた形で、やはり国際的な人材育成をどうしていくのかというのを考えていかないといけないのではないのかなというふうに考えています。

実際にこの番組を放送しているテレビ局の名前も「インターローカル」という私がつくった造語です。インターナショナルというのは、国家間の関係のことをいい、国際という意味です。私はだいぶ前から、国際ではなくて、地方同士が国境を越えてネットワークをつくることが一番必要だと考え、「インターローカル」という概念の中で活躍できる人材育成、それが地方にとっての将来に対する担保ではないかというふうに、私は考えている次第です。

齋藤先生:
グローバル化の観点で考えたときに、地方・ローカルからの発信もしくはアクションしていくという方向でも良いと思います。しかしながら、まず起点として非常に重要なことは、グローバルというのは自分の外にあるという前提を認識しておくことです。やはり自分の目線だけで考えるのではなくて、外からの目で見て、自分がどう見えるか、を考えるということがグローバル化の第一歩だと思います。

ですので、今回もグローバルという観点よりも、客観的に自分を見ること、さらにもし外国から見たらどのように見えるのか、そういった視点が鹿児島の魅力を発展させるという意味でも、非常に重要ではないかと思います。そういった客観的な視点、外からの視点の重要性を学んでいただきます。

◇各講師の先生のお話

1)村上 裕太郎先生(会計)
村上先生:
会計分野は、経理や特定の部署の人は詳しいですが、経営トップ層、あるいは他の戦略部門などに知識や知見が届いていないという問題があります。全ての人、現場レベルでは、例えば工場の技術担当、営業担当などにも必要な会計知識があると、私は思っています。それは私の教材を1から学ぶようなことではなく、重要な数字に着目して、各自がその数字を向上させるためにどうすべきか、ということを考えてもらうことです。個々の職務レベルに応じて、重要な数字があるので、そこに注目してもらいたかった。それが今日の内容です。

皆さんには導入部分として、その重要さ、もしくは自分たちでも何とかできそうだと感じてもらう。レベルの高低ではなく、可能な限り重要な部分だけに論点を絞って、これだったら自分たちでもできるぞ、というような自信を少しでも持っていただくことが狙いです。

2)齋藤 卓爾先生 (財務)
齋藤先生:
財務というのは普段触れられない方は全く触れられておらず、特に財務部門に配属される機会が相対的に少ない日本企業の中では、触れたことがないという方が多いです。財務とは、意思決定を求められるという側面よりも、どちらかというと投資について考える、もしくは事業を考えるという側面が非常に重要になってきます。ただし、経営者はバランスシートで考えると、左側だけではなく右側の誰がどこから資金を持ってくるかということを考えなければいけません。ぜひ今後経営を担う可能性のある方には、そういう意見や捉え方もあるということを多面的に知っていただき、今後の様々な施策の検討に生かしてもらえると良いと思います。

3)岡田 正大先生(総合経営)
岡田先生:
今回のプログラムは、KBSの特に経営戦略の領域でMBA課程でおおむね3カ月程度かける内容を、1日で鹿児島の経営者もしくは経営者候補の方々にお伝えしたいという、ダイジェスト版になります。
一般的に言えば、いかに企業が競争力を獲得するかということ、特に海外へどう進出していくのか、ということも意識しており、日本市場を越えてさらにビジネスを拡大していく、そこで何が必要かということを議論するのが趣旨です。
それこそ西郷隆盛や篤姫ではないですが、近代の日本の礎を築いた人たちが、ここ鹿児島から輩出されています。そういう非常に興味深い地域です。このセミナーの趣旨でもあるのですが、日本の市場のみならず、さらに海外へ進出していく拠点としても、鹿児島の精神というものを大切にしながら、それをぜひ発揮していただきたいと強く思っています。

4)余田 拓郎先生(マーケティング)
余田先生:
やはりマーケティングの可能性は非常に大きいと思っています。それを正しく理解する所から実践が始まると思います。そういう観点でいくと、マーケティングのフレームワークをご理解いただくことと、マーケティングを実践する上で、どういう点に注意するべきか、という点を議論したいと考えています。
マーケティングという名称自体は皆さん共有されて、広く知られていると思うのですが、それが具体的にビジネスの現場で活用されているかというと、そうではないと思います。そういった意味でいくと、大企業に限らず中小企業も含めて、マーケティングの可能性をきちんと把握して、それを企業の中でフルに活用していただきたいと思っています。

これはブランドに関しても同様で、グローバルな市場の観点から考えると、マーケティングやブランドというものを活用せずに成長を図ることは、今では考えづらくなっています。ぜひその中身を理解していただいた上で、できることから社内で活用していただければと考えており、それが今回の趣旨になるかと思います。

ナレーター:
研修は三泊四日で行われ、実在する企業の実際の財務諸表から経営状況を読み解いたり、投資戦略や政策における意思決定、マーケティングやブランド戦略などについて、グループやクラスで討議しました。

◇受講者インタビュー
A:
普段なかなかこういう勉強をする機会がないので、実際にケーススタディーとかで学ぶことが非常に勉強になりました。自分の考えだけではなくて、いろんな自分で気付かないような斬新な意見を聞くと、なるほどなと思うような気付きは結構ありました。

B:
どうしても一人で勉強してしまうと、自分の答しか出ない所が、非常に大勢の方たちからいろんな意見、それからそれが出てくる方向性、そういうのが非常に多くて、「こういう考え方もあるのだ」とか、「こういう見方もあるのだ」とか、そういう部分がお互いにいろんな意味で出てきたので、すごくありがたく感じている所です。

C:
私は行政マンですけれども、行政マンにとってもマーケティングですとか、今回学んだビジネススクールのカリキュラムが非常に重要であることを痛感しました。特に立場が違ったり年代も違う方々と同じ課題に向き合って、同じように苦悩して議論し解答を導き出したというのは、非常に大きな経験になりました。

◇講義を終えて
齋藤先生:
今回は受講者の年齢、業種も様々で、金融機関の方から酒造メーカーの方までいらして、そういう意味では非常に多面的な議論ができたのではないかと思っています。それから、おそらく経営者の方もいらっしゃいますし、様々な企業の組織に所属している方もいらっしゃるということですので、その観点から考えても、様々なレベルから、様々な角度で1つのものを見ることができたのではないかと思っています。非常に素晴らしい議論ができ、面白かったと思います。

もっと言うと、いわゆる東京の大企業と中小企業とでは見方が異なってきます。大企業の方が優れているかというと、そうではなく、実は中小企業の方の方が、社員一人で多くの業務を担当しなければいけないということです。その意味で、大企業に所属している方に比べて、実は多面的に物事を見る機会やその経験がある方々が多いということを、改めて認識させられました。

◇グループ発表

ナレーション:
また今回のスクール期間中に、鹿児島からアジア、そして世界へ向けた観光プロジェクトを企画するという課題が出され、グループごとに発表が行われました。

<グループ1>
1-A:
新しい鹿児島の魅力を体験してもらい富裕層のリピーターを増やす、ここがポイントですね。もう1つは、そういう鹿児島県の有名観光地、わが社も指宿・霧島がありますが、その辺の有名観光地だけではなくて、離島も含めていろんな地域の、ワンランク上の鹿児島の魅力というものを発信して、結果的に鹿児島県全体の需要が高まればいいなというのが1つの目的です。

いわゆる旅行エージェントと何が違うのかという所なのですが、基本的にはお金の流れを変えてみました。一般的ないわゆる企画旅行みたいなエージェントさんが作っているものというのは、いろいろなオプション旅行があると思うのですが、例えば60万円のパッケージがあったときに、実質は手数料を何パーセントか引いて、これがエージェントに入るという仕組です。われわれが今回考えているのは、ある種高単価な商品を提供する側には、基本的には手数料をいただかない、いわゆる負担を掛けないということが1つのミソです。もちろん実費はいただくのですが、われわれは今だいたいオーガナイズする料金として10万円をいただこうかなと、これが実際にわれわれの収益源になります。

1-B:
あと補足としまして、今回われわれが企画を考える上で、地方創生というのもポイントとして考えました。鹿児島の観光地というと、鹿児島市内には有名どころが幾つかあるのですが。これから本当に大隅のほうとか垂水とか、いい観光素材がたくさんあると思うのですが、そういう所はあんまりメジャーになっていないので、皆さんは行かないということがあります。なので、このコンシェルジュが、そういう地方の田舎のほうの素晴らしい観光素材というのを掘り起こしてPRすることで、地方創生にもつながっていくというような所も狙いとしては考えています。

岩崎塾長:
アジアの世界の金持ちが鹿児島にわざわざ来るだけの価値を見出す地が、今日現在鹿児島に存在するのか?しないのか?

1-A:
そういうハードも含めて、まだまだ都心部とか観光地に追いついていない状況だけれども、何かきっかけとしてそういう接点を持たないと先には進まないので、そういう高単価層を得るためには、起爆剤的な部分でone by oneのプッシュ型でちゃんとやっていかないと駄目なのかなというふうには思っています。

<グループ2>
2-A:
鹿児島といえば温泉がやはり有名であります。調べたところ、大分に次いで2位の源泉数であるということでした。これを掛け合わせて何をするか。おしぼり自販機という自販機を作ります。3秒温泉、これは何かといいますと、おしぼりを自販機で買って、それを顔に当てるだけで、3秒間で鹿児島の温泉がイメージできるというようなものになります。

このおしぼり自販機をどういう所に置くかということですが、上野とか新橋とか、東京エリアのサラリーマンが集まるような所に置きたいというふうに考えています。そして、今度は大河ドラマが西郷隆盛になると思いますが、それをイメージしたような自販機、これは木の枠を付けただけですけれども、こういうものを用意することによって、「あれは何だろう」ということになります。

例えばPRもこれからしていくと思いますが、西郷さんの格好をした人たちを雇って、自販機で買ったおしぼりで顔を拭いているというようなパフォーマンスをするとか、恐らくテレビでもだいぶ話題になると思います。鹿児島に旅行客を増やすためにポスターやCMというのもつくると思いますが、そういうものよりも、これをすることで話題にもなるし、なおかつ1本100円で売ろうと思っています。収入も期待できる広告戦略ですね。元も取れるかもしれない、元も取れるであろうというような形で、しかも話題性にはなるというような広告戦略になります。

実際におしぼり自販機は、普通の自販機で100円でおしぼりを売っている所があります。調べましたが、頼めば作ることもできるし元も取れるようにできます。付加価値として、例えば温泉から出てくる湯の華を入れることによって、温泉成分を実際に入れることもできるみたいです。また、例えばおしぼりに紙を入れてアンケート機能を追加して、例えば鹿児島のイメージを聞くとかアンケートにお答えいただくと、何千人に一人鹿児島旅行をプレゼントというような形もできると思っています。

Q.各地の温泉、例えば草津だったり、北海道だったり、もちろん別府もそうですが、そういう所が当然まねて出す恐れがあるんですよね。そこに対する対策みたいなやつを、何かお考えになられているのでしょうか?

2-A:
逆にチェーン展開できると考えています。鹿児島だけではなくて、鹿児島にはちょっと申し訳ないのですが、各地の温泉ですとか旅館と組んで、逆にお金を払ってもらえれば、これをそのままそっくり展開しますよというような形でマージンだけいただくという方法もできるかなと思っています。

Q.投資計画はどうなっていますか?まず立ち上げるのに、自販機自体30万円ぐらいすると思うのですが。

2-B:
収支計画でいうと、1本当たり15円の利益が出るというふうに考えています。それは、原価から計算してということです。自販機のリース料が月額1万5,000円、光熱費が2,000円としたところで、1日当たり40本販売できれば、ランニングコストをカバーできるというふうに考えています。

<グループ3>
3-A:
ビジネスモデルとしましては、ホームページを開設しまして、そこで私どもが作成した鹿児島の観光体験プランを選んで、それぞれホームページ上で申し込んでもらうという形になります。実際に体験した富裕層の観光客が、SNSで発信することによって、新たなインバウンドを誘引する、それを期待して行います。まずはホームページの周知ですが、県や市町村のホームページに何とかリンクしてもらえないかなという、そこはちょっとなかなか難しい所があるのかもしれないですけれども。

鹿児島にいる留学生と書きましたが、ここは鹿児島に住んでいる外国人、大学の先生だったり、今も在住の方だったり、各国から来ている人たちです。特に大学はアメリカも含めてオーストラリア・アメリカといろんな国から来ていますので、この方々に無料体験の招待をして、それを母国の友人や知人とかに発信してもらいます。年間6,500万円、その10%がうちの売上です。あとはホームページに協賛してもらう所から50万円程度の広告収入をもらって年間700万円の売上、それがSNS伝えで1.2倍ずつ5年程度は集客が伸びていくのではないかという勝手な試算ですが、試算の下に収支を出しました。

Q.人件費の計上が、あまりにも低い(550万円/年)ような気がしているのですが、何人ぐらい雇用されるのですか?

3-A:
最初は2名です。

Q.1人225万円ですか?

3-A:
そうですね。

Q.その人たちで情報収集をするわけですか?

3-A:
そこの所が広告費も若干多めに取っていますので、そこら辺からも情報収集を含めて広告費という形で入れている部分もあります。

Q.ホームページという媒体に依存すると、どうしてもホームページ自体は発信力がないですよね。そこら辺を入口としてどういう形で訴求させていって、展開として掲げる要素があるのかなというのを、ぜひ聞きたいのですが。

3-B:
鹿児島にいる外国人にまず無料で体験してもらって、そこから友達とか家族とかに発信してもらうということです。とにかくホームページでもないと海外から知る手段がないし、説明する手段がありません。向こうへ行って説明することはできませんから、さしあたりホームページしかなかったかなということです。

<グループ4>
4-A:
早速プロジェクトの内容ですが、まず目的は上段に記載のとおりで、奄美大島を高級リゾート化して観光客を増加させることで、雇用創出と観光マネー獲得を図るという目的です。そのためのプロジェクトの概要としては、奄美大島に高級コテージ型ホテルを建設して有名外資系ホテル等を誘致します。ここまでをお膳立てすることで、この目的を達成していきたいと考えています。

ホテルターゲット像のイメージとしては、4人用コテージ10棟ほどのホテルを建設するということと、宿泊の費用としては一泊1コテージで、シーズンの販管としてはだいたい10万円から20万円の範囲の中での価格設定を考えています。ターゲット像としては富裕層か、もしくは中間層のたまの贅沢利用を見込むイメージでいます。

まず、上段の真中をご覧ください。ここにわれわれの会社がありまして、われわれの会社は上段左側にあるように、県内企業からの出資と、あとは右側にある奄美群島振興開発基金からの建設費をいただきまして、ホテルを建てたいと思っています。先ほど申し上げたホテルです。この真中にある黄色い高級コテージ型ホテルというものを建設し、ここに有名外資系ホテルを誘致します。その外資系ホテルに対してホテルの提供と運営委託を行い、一方で賃料等を得るという形で、企業としては事業を行っていきたいと考えています。それによって奄美大島ないしは県にマネーと雇用をもたらすという、おおむねこういうイメージで考えています。

Q.奄美だと天候があんまり良くないというイメージがものすごく強いのと、あとは街もちょっと中途半端だというところがあるので、そこにアジアの方を呼び込むという意味では、少し力強さをあんまり感じないかなというのが正直な所です。

4-B:
都会的な煩雑さとか、そういうものは期待しないという人を対象にしていますので、近隣に都市部がないというのは、多分あんまり制約にならないだろうと思います。ご指摘のとおり、天気についてはどうしようもないです。ただ、短期の滞在ではなくて、中長期の滞在を前提にしていますので、その滞在の中にはきっと素晴らしい天候に恵まれた日も出てくると思いますので、ぜひ良かった点だけを宿泊のお客様には記憶にして帰ってほしいなと思っています。

<グループ5>
5-A:
グランピングという言葉の意味ですけれども、グラマラスとキャンピングを組み合わせた造語で、ぜいたくだが手軽に楽しめる高級キャンプのことです。提供するサービスは、鹿児島県内無人島でのグランピングサービスの提供です。高級テントでの宿泊にしました。そして、食事付です。この食事は、全て鹿児島が誇る高級食材です。例えば鹿児島黒牛ですとか、鹿児島黒豚で構成しています。あとはバーベキューのインストラクターやシェフ帯同サービスというものもあります。ターゲットは、少人数のグループ、記念日など特別な日に利用してもらうイメージです。夫婦の方ですとか、カップル、ファミリー、女子グループなどを想定しています。主体は民間企業です。ポイントですが、無人島でしか見ることのできないビュー、雄大な自然の中での高級キャンプ体験、鹿児島の食材をふんだんに使用した料理、手ぶらでキャンプが楽しめるとか、あとは多彩なオプション、生簀で魚を釣ってそのまま食事を楽しめるといったものをポイントに上げています。コンセプトは、「非日常」、「時間・文明からの解放」、「自分だけの時間」、「手ぶらでGO」、「家族との最高の思い出」などというのを考えています。
基本的に携帯電話は預かります。

岩崎塾長:
現代社会において携帯電話を取り上げるということは、1つの売り側のセールストークにはなっても、そういう、消費者側の人間が致命的にマイナスを被るような商品を買うかどうかという意味では、僕はかなりネガティブですね。
それから2つ目は、基本的にはグランピングというのは、バーベキューを夜にするものでしょう。夜に桜島が見えるかどうか知っていますか?それからもっと言うなら、60万人都市の鹿児島が、クルーズ船を沖に出したときに、どれぐらい貧弱な夜景か知っていますか?基本的には、長崎がナンバーワンの夜景ということで、そこそこなのかもしれないですが、鹿児島の夜景は実に貧弱ですよね。

5-B:
今回のこちらに関しては、夜景は特に押し出すポイントにはしていません。逆に言うと、ガスのランタンとかを島内にいろいろ設置して、ある意味島内の雰囲気と、また夜であれば、そういうものを消して満天の星空を眺めると。晴れが前提の話ですが。真っ暗闇の中で、恐らく波の音だけが聞こえるという、そういう空間になるかと思います。そういう雰囲気を楽しんでもらうというのも、なかなか家族とか、カップルでできるというのはなかなかないのではないかなと思います。

<グループ6>
6-A:
事業フレームとしては、鹿児島の観光情報や物販の情報を、ワンストップで一覧できるアプリを開発提供するということです。アプリの構成としては、観光客の視点に立った地元ならではのお得情報を満載するオリジナルの情報掲載ページ。そして、既存の観光関連情報サイトをジャンルごとに交通整理したポータルページと、2層で構成したいと考えています。

そして、もう1つは、収益を補完する事業として外国人を顧客対象とする鹿児島の事業者の既存ホームページの翻訳サービスおよび多言語対応ホームページの製作サービスを提供したいと考えています。会社の設立は資本金500万円で考えたいと、そして、地元の企業さんから出資をお願いしたいと考えています。売上の粗の単価ですけれども、アプリのほうに情報を掲載いただく企業さんからは1社1万円、そして、ホームページの製作を1社10万円、これはボリュームでまたいろいろ出てくると思うのですが、入口の所で10万円で考えたいと思います。そして、既存ホームページを翻訳するサービス、これは1ページ1万円で考えました。

岩崎塾長:
無料の情報だとかは、外国人的にもグローバルスタンダードでは大したコンテンツではないと思います。現実にアプリを無料にしているからこそ、事業リスクの問題で最初は小さくという気持は分かりますが、小さく産んだまま小さく育って死んでいくみたいな感じです。僕がもしそのビジネスモデルをやるのだったら、本当に夢を高く設定して、外国人が鹿児島に来て鹿児島のことを知りたいのだったら、幾らか払ってダウンロードしなさいと。そのダウンロードをした外国人としない外国人では、同じ鹿児島に来て3日間過ごしても、得られる情報とかいい場所とかが全然違うぐらいのつもりで作れば上手くいくんじゃないかと思っています。
あえて無料アプリを想定しているのだったら、逆に言えばアプリは想定しないで、普通のサイトにしておくほうがいいのではないかなと思います。

6-A:
自信のなさからハードルが低い所からいきましたが、今のお言葉を糧に、ぜひ有料アプリで検討したいと思います。

岩崎塾長:
その場合は、すごくハードルが高いですからね。

6-B:
まずはスタートして。今いただいたアイディアで、有料でも見たいページを作っていけるかどうかです。これはただ割引するだけではなくて、どうしたら見てもらえるかを、特にサービス業の皆さんと一緒に考えたいと思うので、よろしくお願いします。

◇岩崎塾長総評

岩崎塾長:
本来は大学院としてやっている経営者養成のためのケーススタディーです。これをわざわざ鹿児島まで来ていただいて、特別講座というのを4日間やってもらいました。それは当然日頃の通常の授業ではない講座でして、やはり地方で、特に鹿児島でこのビジネス・スクールを岩崎育成文化財団が開催したその目的は、中央と地方の格差、グローバリズムの中でどうやって地方は国際化していくのか、人口減少あるいは流出問題の中でどうやってわれわれは人材を確保して発展していかなければならないのかということを考えたときに、この特別講座をどうしてもやっていただきたいと思いました。

各6チームの発表に関しては、先ほども個別に申し上げましたので、あえて申し上げません。ただ、ちょっと残念なことを申し上げます。当たり前とは言え、皆さんは観光に絡んだことで、だいたいが鹿児島を世界に発信するとか、地域起こしみたいな話でした。
本当に僕は1チームでもいいから、例えば大島紬をエルメスに持っていって、バッグを作って世界中で大島紬のバッグを売ってみたかったとか、川辺仏壇の彫金技術で何かをやってみたかったとか、もしくは香港では佐賀牛のほうが有名だが、さらに言えば神戸ビーフや松坂牛を全部ひっくり返して鹿児島黒毛和牛で何かを仕掛けてみたかったとか、もう少しいろんな産業分野に関して、皆さんがアイディアを出して突っ込んでいただきたかったと思います。

変な言い方ですが、岩崎グループというのは、半世紀以上前から観光をやってきて、観光のリーディングカンパニーとしての自負、それなりの事業体を持っていますので、当然鹿児島県が発展するためには観光が重要だとは思っています。ただ、皆さんに特別講座でも若干指摘させていただいたように、意外と観光というのはビジネスとしてのビジネスモデルというのは成り立ちにくいのですよ。そういう意味で、私は「広義の観光」という造語を作りました。

いわゆる「広義の観光」というのは、例えば北海道の観光というのは、行って奇麗な景色を見て旅館に泊まってご飯を食べて、それで売店でお土産を買ってくるだけではないですよね。一番象徴的に言うと、函館で言えばウオーターフロントに行って、もちろんお土産も買いますが、宅急便で買った物を山ほど送って、そして、帰るとそこにダイレクトメールが来るというようなことになっていくわけです。世界で一番観光地というと、皆さんはハワイとかを思い浮かべるでしょう。でも、現実的には観光客が一番来る場所は確かパリだったと思いますが、金額的に売上が高いのはニューヨークですよ。

「MICE」という言葉をご存知かどうかですが、「Meeting(会議)」「Incentive(報酬)」「Convention(学会)」「Exhibition(展示会)」、これが今日本にとっては重要です。観光というと、学会とかそういうのもあるのですよね。日本の重役は会社のお金でファーストクラスには乗りますが、自分のお金ではせいぜいビジネスにしか乗りません。お医者さんも同じような世界でして、実は観光といったときの普通の人が旅行で行くみたいなマーケットよりも、「MICE」というマーケットが大きいわけです。

われわれ鹿児島が観光1つを考えても、今申し上げたように他の産業、観光としての総合産業ですから、先ほども幾つか投資話があったのですが、実際はあんなものでは済みませんよ。あれよりゼロが1個2個大きくないといけません。実際にわが社は種子屋久の観光開発に250億円投資していますよ。まだ元は取っていません。そういうのをどうやって元を取るかというと、先ほど言ったように宿泊代だけでは取れませんよね。そういう意味では非常に重要なことですが、観光という皆さんの産業イメージの中でのビジネスモデルでは、本当の意味においてはちょっと残念だと思いました。今後は、ぜひ地域の観光を考えるときに、今の和牛などのことまで観光だと思うような感覚で、そういうビジネスを考えていただきたいなというふうに思って聞いていました。

繰り返しになりますが、地方は今から大変な時代の中で、国際化とか人材育成とかいうことなしにはやっていけないと思います。この4日間の経験を生かして、皆さん一人一人が今から頑張っていただきたいというお願いと、ここでの経験を一人でも多く皆さんの周りの方に話していただきたい。先ほど先生もおっしゃったように、日本人は良さも持っていますが、ある共通の弱さみたいなものもあります。取りあえずは、われわれはまず議論をする手法を学んで、フリーに議論をする精神風土をつくっていかないと次には進めないのではないかと思い、わが政経マネジメント塾はこういう催しをしています。今後もいろんな催しをしていきますので、どしどし参加のほうをお願いしまして、最後の言葉に替えさせていただきたいと思います。
(拍手)