平成26年度特別講座:鹿児島編4:~長期存続企業から学ぶ企業の進むべき道~

岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾

平成26年度講座内容

【特別講座:鹿児島編4】老舗の教え
~長期存続企業から学ぶ企業の進むべき道~

講師
神田 良氏 (明治学院大学経済学部教授)
場所
リバティークラブ (鹿児島県鹿児島市千日町15-15)
放送予定日時
平成27年3月21日(土) 6:00~ 7:00歌謡ポップスチャンネル
12:30~13:30 ホームドラマチャンネル
※以降随時放送

神田 良(かんだ まこと)

明治学院大学経済学部教授

昭和28年生まれ。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了後、明治学院大学経済学部専任講師、助教授を経て、教授。その間、英国アストン大学大学院に留学。大学では、経営戦略論、経営組織論、労務管理論、Business in Japan(英語で日本のビジネスを講義)を教える。また、東レグループ経営スクール主任教授等、企業での管理者研修にも関与している。

講義内容

神田先生:
今日のお話は、基本的には東京商工会議所でやっている調査をベースにした形の話であります。これをやったのは、そもそも東京は昔から江戸ということでありまして、長期存続企業が非常に多いと言われるわけです。もちろん京都とか名古屋とか金沢とか、いわゆる小京都というところも多いわけですけれども、やはり数からすると東京が多いと言われるわけです。その中で、商工会議所は中小・中堅を中心とした形の経営に関して、いろいろな知恵を学ぶところという位置付けもあると思うわけです。そこから、我々は多くの企業が潰れていくことに対して、「何かお役立ちができないか」という問題意識を持ったところであります。「長く生きている企業から、彼らのやっているビジネスのやり方を学ぶことによって、より長期存続につながる確率を高めることができるのではないか」と思ったわけです。 調査をしまして、まずは、いくつかの会社の社長に話を聞きました。そこから、「あっ、こういったやり方じゃないか」という仮説を出しまして、それを質問票調査で投げました。 従来のこういった老舗の研究というのは、大体は老舗しか対象にしていませんでしたから、老舗ではない企業と比べて、「一体どこが違うのよ」ということは、必ずしも明確には言えなかったわけです。今回は、創業1年目から400年くらいまでの全ての企業を対象にして調査をしました。今回の調査では7,000社ほどに質問票を送りました。これだけの回答がありまして、100年以上の企業とそれ未満の企業という形で分けました。大体1割が100年以上で、われわれが言うところの老舗というものです。それ以外の9割が老舗以外で、非老舗とここでは呼んでおります。

インタビュー調査等でいろいろ分かったのは、どうも老舗または長期存続企業というときに、その会社が提供しているサービスとか品物は、その会社しか提供できないものではないわけです。多くの場合は、他の企業も同じようなものをいっぱい提供しています。けれども、その中で長期に生きてきたというのは、何かが違うのだろうと思うわけです。

その違いというのが、他の企業にはない、その企業らしさというのがあります。つい、他ではない、その企業の商品とかサービスを求めてしまうというのが、ご愛顧ということの意味だと思うのです。そういったところがあるのではないでしょうか。つまり、個性、「らしさ」というものが市場に伝わって顧客に伝わって、それがあるが故にお客さまがずっとついてくるという、ある種の循環ができているのではないかと思うのであります。一体、そういった、「らしさ」というものは、どうやって作り込んでいるのかと思ったわけです。

その中心になっているのは、やはり志なわけです。「うちの企業は、どういう会社でありたい」のか、「創業以来、どういう志を持って生きてきた」のか、「それをベースにして、どういった形で今後も生きていきたい」のかという、ある種の志です。これが中核にありまして、それをベースにした形でビジネスを組み込んでいきます。または関係性を作っていくことではないかと思うわけです。従って、真ん中に、「志のマネジメント」ということを申し上げたのです。

100年以上続くというのは、ある種の継承でありますが、志の継承、事業の継承、家族・創業家の継承というものが、やはり連動することになると思うのです。中でも志の継承というものが、大きな役割を持っているのではないかと思います。志がありましても、それを具体的なビジネスにどう落とし込むかということは、次のポイントでございます。

それが、ここで言うところの「強みづくりのマネジメント」です。他社と比べて、「どこが、わが社の強みであるべきか」というところを考えたマネジメントをやっています。これが「強みづくりのマネジメント」です。商いの仕組みづくりと申し上げていいかと思います。その仕組みづくりというのは、基本的に申しますと、やはり1社ではできないわけです。ある会社が長く続くというのは、必ずしもその会社が単独で生きているわけではありません。いろいろなところと関わりを持って生きているというのが現実でございます。むしろ、その関わりを作れないからこそ、駄目になってしまうと考えるべきです。そういう意味で、「関わりのマネジメント」というのは、もう1つのポイントではないかと考えるわけであります。

そういったマネジメントの仕組み、運営に対して。具体的にやっているのは、やはり人なわけですから、「人づくりのマネジメント」ということも、欠いてはならないことではないかと思うわけであります。

さらには、老舗というと、恐らくその企業が生まれた地域の中で、ずっと育まれてきているわけであります。その地域に根差していない企業というのは、残念ながら、その企業を越えた形で存続することも難しいと思われます。つまり、特定の地域で愛されない企業が、それを越えた形で広い世界で愛されるということは、絶対あり得ないわけであります。

その意味で、その地域に基づいた縁をうまく活用していくということも、やはり長期存続の1つの仕様ではないかと思いまして、それが「活縁のマネジメント」という言葉で表現したものでございます。

この5つの要素をうまく絡ますことによって、恐らくその企業らしさに基づいた形で、長く生きていくことが可能ではないかと考えたわけでございます。さて、どういう形で老舗と老舗以外は違うのかということですが、質問票で投げました5点で、どう思うかというところをその当主に聞いているわけであります。従って主観的な尺度でありますが、数が多いわけで、ある意味からすると、ある種の客観性を持つのではないかと思っているわけでございます。

最初、いわば志というときに、経営理念とか社訓とか社是といったものがあるに違いないと思ったわけであります。よくよく調べてみますと、やはりどこの会社も、社訓というのは創業時から持っておられるわけであります。それからすると、要するに社訓があるだけでは何の意味も持たないということであります。

では、どういった形の内容を詰めればいいのでしょうか。よくビジネスではドメインと言いまして、生存領域ということを言われるわけですね。「うちの会社はどういったところで生きていきたい」のか、それを明確にしなさいというのが戦略論で言うところでございます。つまり、「うちのビジネスはここまでやります」という事業の範囲をはっきりさせます。これが1つ、重要であるというわけですが、実はそれはそんなに意味はないわけで、新しい会社もやっていることであります。

違いはどこにあるかというと、実はこの赤字で示した仕入先や顧客との関係づくりについて、何かひと言述べています。これをベースにしながら、当主は、創業以来こういった考え方を持っていますので、今の時代に合わせて、どういうふうにこれを実践するか考えながら行動しています。そういったことが重要になってくるということです。老舗というと、どことなく秘密の技術があるようなイメージがあります。それも実は、それに関する何かひと言を設けているということも、やはりあるわけです。

ポイントはどこにあるかというと、単に秘密の技術を持っているだけでは強みでも何でもないわけです。むしろ、それをお客さまとか仕入先とか、その関係の中と「つくり」の中で、この技術というのは、「どうあるべきか」というところを明確にして、それをまた強化しようという志を持っているというところが、実はポイントになってくると思われるわけであります。 「実際に、どういう形で経営方針に生かしておられるか」ということを聞いたのが次のポイントでありまして、それをするときに、やはり全てベースになるのは、自分たちの持っている理念に対して非常に真摯に向き合っていることであります。

つまり、全ての点において、創業以来の社風・社是というものを、より積極的に経営に生かしていくことを志しておられますし、なおかつ、それをできるだけ明示化または共有化するところに力を注いでおられるというところであります。実際、それを具体的に、経営方針にどういった形で活かすかというときに、のれんと言われるような形で、自社が持っているブランドイメージというのでしょうか、または培ってきました、「ここだけは曲げたくない」というような、ある種の価値観をベースにしておられます。それと齟齬(そご)しないような形で、商品づくりとか、店の名前とか、全体的に見て、そのブランドの一貫性というか整合性というものを、のれんをベースにしながら、守っていこうという動きをされているわけであります。

もう1つは、ここの会頭もそうだと思うのですけれども、老舗の企業というのは比較的、何代目というところで、多分その地域の会社の集まりの中では、かなりそれなりの地位を持たざるを得ないという形になるのではないかと思います。つまり、業界活動等の中心的な形になると思うのです。そこでも役割を果たしながら、会頭がおっしゃったように、自分のためだけにやるのではなくて、むしろ地域のためにやりながら、それが最終的には自分の会社に返ってくるというような形の行動パターンを持っておられます。

その意味では、「自社だけがいい」というような自己的というか、利己的というか、そういった概念を持っておられません。それがむしろ、周りから共感をもって愛顧されるところにつながっているのではないかと思うわけです。

もう1つ、実は、これは万国共通でありますが、長く生きている企業というのは、財務的に言って、非常に保守的であります。銀行の借入をやって、ぼーんと、何か大きく成長しようということは、戒めとしてやりません。むしろ、自分のキャッシュフローの中でできることを着実にやっていって、その結果として規模が大きくなっていくという考え方で、動いている方が圧倒的に多いと考えられます。

こういったことからしますと、老舗というのは冒頭に申し上げたように個性です。らしさということです。つまり、「個性づくりのマネジメント」というのが非常に上手いのではないかと思ったわけです。

「個性づくりのマネジメント」というのは、今、理念等で申し上げたように、個性を作るということがポイントの1つであります。それはどういうことかと言いますと、恐らく今申し上げたように理念がちゃんとして、それに基づいた形でビジネスを仕組み込んでいきます。これにぶれがないということは、いわばその個性をずっと、ある意味で表現してきているわけです。これはある意味の「個性づくりのマネジメント」でございます。

もう1つ、重要なことは個性を薄めないマネジメントであります。つまり、規模を追わないことです。多くの場合は、本業を中核としながら、その本業をベースにした形で亜流とした多角化をしていくということをやっております。つまり、「この会社というのは、このビジネスで成り立っているんだ」ということが、非常に明確であります。

個性をちゃんと大切にして薄めないという意味で、本業を重視しながら財務的にリスキーなことは一切しないという形で、個性を薄めないというマネジメントを執っています。この個性づくりと個性を薄めないという2つのマネジメントが、どうも重要ではないかと思われるわけであります。

さらに、強みづくりに関してでございますが、やはりみんな作っているものは、そんなに差はないわけです。ただ、微妙なところにいくつも違いを見いだそうとします。作り込もうとしています。つまり、小さな差別化のいわば集合体で、どうにかビジネスの骨子を作り込んでいくといった発想で動いておられるみたいです。

大体、世の中であるものが成功したら、みんながまねをするわけであります。商品などを作った途端に、みんなリバースエンジニアリングという形で当然分解しながら、「どこが秘密だ」というような形で、すぐ作り込んでしまうわけです。これというのは、すごくまねをされやすいわけですけれども、そういったものをうまく作り込んでいくためには、小さな仕掛けがいっぱいあるわけです。

つまり、分解しただけでは分からない、ある種の強みというものがあるわけです。外からは見えないような、でも内部でやっている小さな違いの積み重ねというのが、ある意味では、外からするとまねをしにくいわけです。これが積み重なることによって、実はその企業のある種の強みになっているというのが、どうも彼らの発想で、一般的に、競争戦略でも模倣困難性というときに使われる概念であります。つまり、外から見て非常に見にくい小さな差別化の集合体です。1個の差別化でやろうとしたときに、大体それのまねをされたら終わりです。ところがいくつかあると、なかなか、まねをしにくいということが一般的に言われるものであります。

もう1つ、これは製造業が中心だと思うのですけれども、やはり仕入先との関係を中心にしながら、彼らが持っている素材の知識といったものに非常にこだわっております。つまり、製品として出したものはすぐ見えるわけですけれども、それを作り込むまでに仕入先との関係で、どんな素材をどういう形で調達して作り込むか、これはなかなか難しいことであります。

ここに実は秘密があって、いろいろ複雑な仕入との関係を作り込むことによって、まねをしにくくなるというポイントも、1つあるということになるわけです。「社会的な複雑性」と、われわれが言っているものでありますが、こういったものを意図的に作っておられます。それは言ってみれば、外からでは見にくいわけです。つまり、仕入というのはバックヤードです。フロントヤードではありませんので、見えないところで、かなり強みを作り込んでいくという発想を、どうも持っておられるのではないかと思うわけです。

それは、まさにもう1つの物語性ですね。この歴史に培った自分たちの思い入れというものを、商品やサービスを提供するときに嫌らしくないのですけれども、そこはかとなく表現するという形で、お客さまにある種のつながりというのか、対置を結ぶというやり方をずっとやっておられます。これがなかなかまねのできないところで、長期的に、お客さまがご愛顧という形でつながっていくポイントになっているのだと思うわけであります。

もう1つ、企業というのは、当然のことながら変わらなければいけません。変わらないと絶対に生きておりません。では、ころころ変わればいいのかというと、これもまたうそであります。せっかく、「企業のここが好きだ」というのがころっと変わったら、これはもうご愛顧という概念ではなくなってしまうわけです。長期的に変革を常に考えるのですけれども、急に変えないからこそ、ちゃんと小さな変革を仕込んでいくことがポイントになってくるわ けであります。

そういった発想で、ずっと漸進的な変革をします。また、しようとする志を持っておられることが、どうも彼らの変革のマネジメントの要諦ではないかと思うわけであります。
さて、「関わりのマネジメント」で、もう1つ。顧客との関係づくりで、「新しい会社と、違いはどこにあるのかな」というところであります。老舗というと、どことなく、「この商品に関しては、うちが一番知っているんだ」というイメージがございます。つまり、「お客さまより、われわれのほうが知っているんだ」という立場ですけれども、なかなか面白い逆の部分を持っておられるということです。

某呉服屋さんに言わせますと、お客さまで、特定のある種の呉服にかけて、すごい知識を持っておられる方が多いそうです。そのときに、販売員がなまじっかな知恵で、「こうですわ」と言った途端に、これはもう信用を失ってしまうわけですね。むしろお客さまの話を聞いて、「そうですか」という形で、勉強することが重要だと言うわけです。しかも、そういうお客さまは、他のところに関しては、知識はそれほど厚くないわけです。それに対しては、補ってあげることによって、実はいい関係づくりができるとおっしゃっています。これはなかなか、言い得て妙かなと思うわけです。

老舗が培ってきたイメージからしますと、「かなり知識を持っているんだ」とか、「情報を持っているんだ」と思うわけです。これを、嫌らしくすぐ前面に出して、「これが分かんない者は駄目だ」という態度をとっていないということであります。そこが老舗らしさと言うべきではないかと思うわけです。

もう1つ、自社の持っている製品が使用される場に関して、非常に敏感になろうとしています。どういう形で使われるときが一番いい使われ方かと考えながら、商品・サービスを提供しているということであります。それも、期間を長くすることを、いわば最高の形で使っていただけるところをできるだけ長くするということを考えます。銀座の靴店の方ですけれども、日本で言えば明治時代に初めて靴が来たとき、初めて日本で靴を作り始めたということをやっています。やはり高い靴でありますから当然のことですけれども、僕が履くような靴ではありませんので、高い分、要するにできるだけ長く使っていただくという、リペアも含めた最高の状態を保つ形の顧客関係を作り込んでいくということをされているわけです。これは、ある意味で私が申し上げる商標を演出することになると思います。

もう1つ、仕入先との関係でございます。仕入先というのは、基本的には、どちらかというとお金をわれわれが払うほうであります。一般的には、お金をもらうときは、人間というのは頭を下げるわけでありますが、お金を払うときには、どちらかというと頭を下げないというのが常でございます。ところが、老舗の人たちというのは、その原材料がなくなったら、自分たちの商品の強みがなくなってしまうわけですから、かなりそういう人たちとの関係というものを強く結んでいこうと思われています。

そこが、全く新しい企業とは違う生き方であると思うわけです。大企業で言えば、どちらかというと、絶えず、「何パーセントのコストダウンをしないと、切りますよ」というような関係を作り込んでいるわけですけれども。そういった発想ではないということで、一緒になって自分たちの最終顧客に対して、「パートナーとして、何かしていこうよ」という、「長期的な環境を作り込む」というのが、彼らの基本的な発想でございます。

教育でございます。従業員の教育に関していろいろ聞いたのですけれども、実は大きな差はございませんでした。大体のところ、日本の企業では、OJTを中心にしながら人を育てていきます。これが一般的なことで、われわれのサンプルの中でも、ほぼ全く差がございませんでした。唯一、差がありますのは、やはり歴史的なものです。自社がよって立ったところについて、「わが社の歴史」で、伝統を従業員に知らしめるというところが、唯一、違っていました。

それは、自分たちのある種の歴史に対する重さです。これを知りながら事業を展開することに対して、経営者だけではなくて、従業員の隅々まで、そういったことを知ってもらわなければいけません。それに基づいた形で動かなければいけないというところを意識されています。それが如実に表れていると思うわけであります。

あと、後継者があります。これは圧倒的に違いました。長期存続企業は、基本的にはやはり同族企業が多いです。かつて、われわれ経済学の世界でいくと、同族経営というのは、どちらかというと時代遅れと考えられてきました。ところが、これをファミリービジネスという片仮名で言えば違うのかということですけれども。ある人の調査によると、ファミリービジネスというのは、実は非常にいい業績を持っておられるということです。むしろ昔の遺物ではなくて、ビジネスのスタイルとしては、ファミリービジネスというのは、なかなか良いやり方だということです。

つまり、株主のことしか考えないで、短期的な四半期ごとの利益を追うようなことをしなくていいわけです。むしろ、三方良しではないですけれども、長期的にいろいろなところを考えながら、ビジネスをどう仕込んでいくかというのを考え得るのです。つまり、短期のそういったプレッシャーを考えない意味で、あるちゃんとした志を遂げるような形のマネジメントができるといったプラスの側面を持っているということが、研究の中で非常に見えてきているわけであります。

その1つは、創業家でずっとビジネスをつなげていくという、この期間が違うわけです。要するに、タイムスケールが全く違うわけです。つまり、大企業で言えば、3期6年というのが大体●ではないですか。大体2年で3期あるというのが普通です。その経営者にとっては6年あります。ある意味では、重要なタイムスパンになるわけです。ところが、創業家があって同族経営では、6年なんて大したことないわけです。多くの場合は、先代と当代がずっとビジネスをやりながら、何十年もかけて、お互いに切磋琢磨する環境を作っておられるわけです。つまり、時間軸が全く違う中で、ビジネスを考えるという良さがあります。その意味からすると、長い時間をかけて体系的に後継者を作り込んでいくというやり方に、どうもたけているのではないでしょうか。実際にわれわれのやった調査でも圧倒的に、後継者育成に関しては若い企業と全く違いを見せたということでございます。

地域業界との関わりでございます。既に申し上げましたように、非常に業界活動に対しては積極的でございます。もう1つ、地域価値を非常に認識しておられます。たまたま僕が調査しましたのは、東京の銀座とか中央区ではございます。ただし、僕はこういったところ付近の特質ではないと思っています。老舗がずっと長期に生きていくということは、その地域の中でその企業が必要とされている年限がずっと長かったことでございます。その意味は、その地域の中に溶け込んでいるということがあるわけです。

東京の中心でも、老舗の社長によく聞いてみますと、例えばですが、氏神とかあるわけです。生活基盤の中で、その会社は氏神代表をしたりするという形で、ビジネス付近ではない形の関わりをずっと持ってこられるわけです。そこがやはり重要で、そういったところを非常に意識されているわけです。だからこそ、その地域が廃れることに対しては、非常にある種の悔しさを持っておられて、「これはどうにかしなければいけない」という形の活動をされておられるわけです。

僕はそこが非常に重要だと思っているわけです。その地域の再創生とか、いろいろ言う方がおられるわけですけれども、やはりそのとき、地域のこういった長く生きようと思うビジネスが、その地域の中でちゃんと生きていけるというところがない限りは多分無理だと思うのです。よそから来た企業がぱっと逃げていくことをビジネスハンティングと言うのですけれども、ハントして、「こっち来てよ」、けれども、その人たちは逃げたわけです。そうではなくて、アメリカでやりましたのは、エコノミックガーデニングというものです。ガーデニング、つまり育てるようにということです。樹木を育てるように長く、その地域のビジネスを育てていかないと、本来は、地域のためにはならないということをおっしゃるわけです。

そういう視点からしますと、実は老舗企業というのはずっと長く生きていくわけで、その関わりをうまく活用しながら、どういう形で地域の中の経済を活性化するかと考えるべきです。それが多分、非常に地域の個性に合っているはずなのです。だからこそ、よそとは違う意味の、ある種の魅力ができるはずでありまして、それをベースにしながら、規模は大きくなくても、その地域なりの面白さや魅力が長期存続企業と一緒になって実現されて、評価されていくというのが地域活性化の1つのポイントではないかと、今、思っているわけであります。

さて、今までのお話でいきますと、一つ一つの項目にして、どこが違うかということをやってきました。ただ、いくつかの項目を聞いているのですけれども、実はそれらの行動が、今のところ無関係という形で一つ一つ来ているわけです。よくよく考えてみますと、そんなことはあり得ないわけです。いくつかの行動があるとき、それは多分非常に密接に関係しているわけですね。

その関係とはどんなものかと、取りあえず、後継者に対してもいろいろなことを聞くわけです。これは、それを考えただけです。でも、多くの場合は、それがうまく連動しているからこそ、結果的に後継者が育っているということになるはずです。では、その関係はどうなっているかということを調べるべきだと思ったわけです。

いろいろ関連はあるけれども、その中で重きのある順からやるというのが、考え方としては非常にいいのではないかと思うわけです。そういったことを分析できないかと思いましたら、因子分析というやり方がありまして、これを見ますと、そういったことを提供してくれるものであります。数値の話はあまりしたくありませんけれども、具体的には、こんな数値の羅列の世界になるわけです。

申し上げたいのは、こういった形で関連すると思われる、「経営理念に関すること」という質問がありまして、やるわけですね。これを因子分析にかけますと、右のような数字が出てきます。その一番下に52.3パーセントと書いてありますけれども、要するに、この経営理念に関する行動に関して、いろいろな、それをどうやっているかという説明をします。 説明できない部分というのもあるのですけれども、説明できるであろうというところが、この場合では52パーセント、「これで説明できますわ」という話になっているわけです。 数値が羅列されていますけれども、そのポイントが高いほうが、よりプライオリティーが高いというものになっています。

その中でも、どれが一番重要で、どの順序でやればいいということを示してくれるという形になっています。これに基づいた形で、われわれはチェックリストを作ったわけです。つまり、これをベースにして、「お宅の会社はこれをやっていますか?」、「次にやりますか?」と順序立ててやってくだされば、ひょっとしたら老舗と同じような形の経営スタイルができて、長生きする確率が高まるのではないかというアイデアでございます。

それに基づいた形で、順番等を示したものがこれであります。もう数値は全く意味がありません。経営理念に関して因子分析にかけてみると、実は1つの因子しか出ませんでした。つまり、全部連動しているわけです。経営理念に関して、いろいろな行動があるのですけれども、これは連動してはじめて意味があるというふうに言い換えていいかもしれません。

この調査は、先ほど申し上げた1割の老舗だけのサンプルです。9割はやっていません。老舗だけが対象になって、彼らの行動の中で、こういった関係がどうあるかを見たところでございます。これから見てお分かりの通り、老舗にとって経営理念というのは、やはり相当こだわりを持って、それをベースにしながら経営をしているのが見えるというふうに思えるわけです。しかも、恐らく、この順番を見ると、「どういった手順でやるべきか」ということも、示唆しているのではないかと考えるわけです。

つまり、「『理念に立脚した経営を心掛けることがポイントですよ』といった意識を持って、行動していますか」ということが、何と言っても最初で、それを経営者が自分の言葉で、果たして、社員に対して表現して共有させるということをしていますかということです。

理念というのは、言ってみれば、かなり抽象的なものであります。抽象的だからこそ意味があります。つまり、解釈しなければいけない部分が相当あるわけですね。でも、そこから離れてはいけません。現状を見ながら、これをどう解釈したら一番いいのか常に考え、過去や将来を見まして、どう実践していくかということを常に考えるのは経営者の役割であります。

従って、それを社員に対してちゃんと説明しまして、自分が腹に落ちて納得しているかというところも含めた形で、これを前面に出していくという行動が、多分求められていると思うわけです。しかもそれを、将来もちゃんと継承していくということであります。明示化と言って、文章にするというのは、実は最後であります。老舗と言われるところでも、前の調査で言えば、理念を明文化しているのと明文化していないところがあるわけです。 ただ、文章にはしていないけれども、自分たちの信念として持っているということで、大体3割くらいずつが、明文化している・明文化していないという形になっているわけです。 ですから、必ずしも文章にしなくてもいいのですけれども、それをちゃんと持っているということが重要であると思えるわけです。

経営方針です。まず、やはり自分たちが持っています、いわゆるのれんですね。「わが社が一体どういった主義主張を持っていて、それがどういう形で社会に受け入れられているのか」というところだと思いますけれども。それをちゃんと考えていて、それが商品にちゃんと体現されていることがポイントになるわけであります。

多くの老舗を見てみますと、その老舗ながらの長期存在企業ながらの商品とかサービスが、1つは絶対あるわけです。「あの会社では、これですわ」というのがあるわけです。これが代表的な、その会社のある種のブランドイメージにもつながっているわけです。そこの部分は、時代とともに強化していくということを心掛けておられます。そこにぶれがないというところが、どうやらポイントになってくるのです。

これが最初の部分であろうと思うわけです。それをベースにしながら、実は事業の継続性を重視するというところになります。事業を継続するというのは、こういった個性にこだわって自分たちなりの差別化をするというところがないときに、「うちは事業をどうにか続けていけばいいんだ」というのは、あり得ないわけです。むしろ最初に、自分たちの個性やこだわりというものをちゃんと考えながら、「これをどうするか」というところが、もっとポイントになっているのです。その結果として、その関連性を含めた形で、ある種の保守性というのが出てくると考えるわけであります。

冒頭で申し上げました、「規模を追わない」ですけれども、「規模ではなくて利益だ」、「売上ではなくて利益だ」というのは、どちらかと言うと、最後のほうにあるということです。こういった長期存在企業のビジネスの作り込み方は、原材料や作り方にこだわるということからすると、比較的小姿になるというのが見えているわけです。しかも、原材料等からすると、多くのものをわっと入れ込んで、これを作り込んでいくという大量系にいくのは、なかなか難しいわけです。そうすると、規模はむしろ追えないというところがあるのではないでしょうか。

付加価値は、強みを作るというところであります。これは既に申し上げましたように、やはり素材ですね。これの優位性というのに非常にこだわっておられます。それが最初に来るということです。つまり、われわれが最初に考えましたのは、秘伝の技術とかが最初に来るのではないかと思ったのですけれども、どうもそうではないようです。技術は、そのもの単独で考えているわけではなく、むしろ、こういったバックヤードの素材にこだわっていました。それを表現できるような形、そこから個性を導き出すといった経営の仕方をしているというのが、どうやら一番大きなポイントになっているのではないかと思うわけであります。

しかも、そういったことを、そこはかとなく、いわば物語にして伝えるということがあります。和菓子などは典型的だと思うのですけれども、味とか感触とか、いろいろなものがあるわけです。それというのは、全て素材をベースにしながらやってくるわけであります。それがあるからこそ、その店の独特なものが出来上がってきます。しかも、ネーミングも含めまして、そういったこだわりを表現する形で提供することによって、単なる素材ではなくて、そこになる思い入れというものも含めて、顧客が買い求められるという態勢を作り込んでいるのです。これは彼らの価値づくりのポイントであると考えられるわけであります。

今のような素材とか、そういった物語性を担保するためにも、技術というものが重要でこういったものを磨いてきているのです。それが彼らのプラスアルファというか、要するに、付加価値を作る基本的な考え方であろうと思うわけでございます。

さて、変革であります。老舗というと、基本的には、どちらかというと伝統を守りながら、その中で変革をするというイメージでございます。ところが、この分析結果から言いますと、むしろ変革のほうが重要であります。彼らにとって重要性が高いのは、むしろ変革のほうでありまして、守るというのは2番目であります。つまり、これだけ長く生きてきているからこそかもしれませんけれども、やはり変えるというところに、非常に意識を持っておられるというふうに思えるわけです。そこを日常的に、「変革をどうするか」と、ずっと考えておられて、なおかつ、そのポイントとして、やはり世代が変わるときというのは、変革のポイントになると考えられるわけです。

考えてみれば当たり前のことですが、先ほど申し上げましたように、老舗の当主というのは比較的長い期間、事業を担当して経営にあたっておられますので、当主に従って経営幹部もずっと成長してきているわけで、その価値観にいわば共振している人たちが、トップのほうにずっといるわけです。これをすぐに変えろと言いましても、残念ながら、これはなかなか動きません。やはり世代が変わるときに、多少なりとも変わるときをチャンスとしながら、少しずつ仕込んでいくという形にはなると思うのですけれども、ある種のチャンスになるということは、多分組織論的に見ても、故あることかなと思うわけです。

その場合も、実はポイントがありまして、「じゃ、すぐ変わります」というのは、下手なやり方であります。やはりそこでも、ちゃんと時間をかけながら少しずつ変えていきます。ご愛顧しているお客さまにとっては、そんなに大きな変化はないけれども、気づいてみましたら、やはり当主が変わった結果、ビジネスの仕組みとかいろいろなものが、「あっ、変わってきつつあるんだな」というふうになることが、どうも彼らのやり方ではないかと思うわけです。恐らく、こういったことを考えるのも、実は2番目の、「伝統の遵守」ということがあるわけですけれども。

要するに、「うちは、これだけは変えちゃいけないんですよ」というものがあることが、むしろ逆にいいわけですね。つまり、実は、「それ以外はいいんだ」ということです。それを、「さあ、全て変えてみましょうか」とか、「何か変えましょうか」というときに、実はこれほど難しいことはないわけです。何を変えていいか分からないわけです。応用編は別として、「これは守ってくれよ」というのがあるからこそ、安心して違うことを考えられるわけです。

その意味で、この老舗のやり方というものは、守るべきものがあるからこそ、最初に変えるべきものをとりあえず考えながら、徐々に入れ込んでいくことが可能になってくるのではないでしょうか。これが、ある意味では、大企業とは違うやり方ではないかと思います。ファミリービジネスのいいところは、やはりこういった長い期間で、変革というものを導入していくことが可能であるということです。これがやはり重要であると思うわけでございます。

さて、「顧客との関係」であります。これは既に申し上げましたように、やはり対話を非常に重視しているということであります。これも、順番が非常に面白いと思いますのは、やはりお客を認識します。「うちの固定客層って、どんな人たちなのよ」という認識がちゃんとあります。これをベースにしながら、でも、アナログな形で対話することを重要視しています。やはりお客さんと対峙するというのは、非常に情報量が多いわけです。今のネット上で何かをいたしたとしてもそっけないわけですね。

でも、一緒に議論するとか、お話を聞くというのは、しぐさや言葉の抑揚など、いろいろなことを含めた形で、その場では聞けないいろいろな情報が詰まっているわけであります。これを感知した形で、自分たちでどうしていくかということを常に考えていきます。お客さまに対して、どういうことをやったらいいか考えていくという、その仕組み・仕掛けを最初に、一番重要だというふうに考えています。

それによって、お客さまに対して、その消費の場を理解して、あるものを提供していくことが、彼らのスタイルではないかと思うわけです。つまり、何遍も申し上げるようですが、やはり一番のポイントというのは、自社の商品・サービスというものが使われる場です。消費の場をちゃんと把握するというところが、ポイントではないかと思うのです。

老舗は、そんなに大量生産をしているわけでもないですから、割と固定的な部分のお客さまに、深く付き合えるという状況を作り込んでいるわけであります。例えば、消費の現場を知るというのは、先ほど申し上げた靴の話ですけれども、日本に靴を導入したときに、多分西洋の靴をそのまま入れればいいわけです。けれども、彼らの足の形状・大きさは全く違うわけです。つまり、日本人の足に合った靴を作らない限り、これは無理なわけです。そのとき何をやったかというと、日本人の足を全部計測したわけです。日本人の足に合った靴を作るということをされたわけです。これが実は圧倒的に、彼らにとって消費の場を知るところのポイントになっているわけであります。

これは、実は非常に、自分たちの商品サービスに対してコアになる情報です。これをちゃんと把握するというところは、今ではビッグデータとか言っているわけですけれども、実はそんなことを言わなくても昔からやっているところは多くあるわけです。つまり、消費の場を知るというのは、何かキーになる情報があるわけです。それをちゃんと作り込んで、またはそれをちゃんと把握して、それで何か自分たちの技術を考えるという仕組み・仕掛けを作るというのが、1つのポイントになると思うわけです。

もう1つ申し上げると、例えば、古いところでいくと、仏具とか仏壇とか、そういうものがあ りますね。これは僕もそうですけれども、皆さんはどうか分かりませんが、僕は長野の山奥から出てきた人間でありまして、東京留学いわゆる核家族というやつですね。例えば、僕が死んだときに息子が僕に対して、葬式をどうやっていいか少しも分からないのです。つまり、私の宗派を知らないわけです。自分でもよく分かっていない部分があるのですけれども、宗派に合わせますと、「どういった段取りで仏事を進めるのだ」と、案外分からないのですよ。

彼らは、仏事コーディネーターというのを考えたのですね。つまり、「何の宗派であると、どういう形でいわゆる催事を執り進めなくてはいけない」といったノウハウも含めた形で、お客さまに提供するのです。つまり、仏具の状況になると分からないというのが、残念ながら今の状況なのです。でも、昔からの知識を一緒に提供することによって、仏様とか神様を祭るという行為に対して、その満足度を上げることが可能だというのが彼らのアイデアであります。そういった意味の消費の現場を知りまして、それに対峙するというやり方が、彼らが言うところの対話というエッセンスではないかと思うわけであります。

そのお客さまのお話を聞くというのがポイントですけれども、情報量の多さというのは、残念ながら一方的に聞くだけでは駄目なわけです。こちらも出すことで、情報受信と発信のバランスを取らなければいけないというのは、一般的に言われることであります。従って、発信もしなければいけないというのが次の話でありまして、それ故に、場合によっては、お客さまに対して自分たちの持っている情報を提供していくことが、もう1つの考え方です。それが市場の開拓につながっていくという話になるわけです。

さて、仕入先との関係でありますが、これはやはり、「一緒に学んでいこう」というスタンスが多いようです。つまり、常にビジネスに関する情報を交換しているという環境を作っているわけです。会社そのものではなくて、ここで見るように、生産・市場・商品という直接ビジネスに関わることですけれども、仕入先とちゃんと情報を交換しながら、最終顧客に向かって一緒になって成長していくという関係づくりをすることが、彼らのマネジメントの1つであろうと思うわけであります。

さて、従業員です。これは、因子としては1つしか見つかりませんでした。つまり全てが連動しているという形であります。僕が面白いと思いましたのは、「順番に、ある種の意味があるのか」ということで、最初に来るのはやはり定着化なわけです。このことの意味は2つあると思うのです。中小・中堅というのは、残念ながらそれほど多くの若者が喜んで来るわけではないという、ある種の労働市場環境があるからこそ、これが重要であると考えておられることが1つです。

もう1つは、老舗というものは持っている技術とか伝統が非常に多いですから、これを教育するのにとても時間がかかるわけです。それも体系的にやるわけではなく、比較的OJTが中心ですから、時間をかけて育てていかなければいけないわけです。そうなりますと、やはり長く居てもらわないと困るわけです。

今言いました2つの意味で、実は従業員の定着化に非常に心を砕いておられます。それから、非常に時間軸の長い中で、こういった従業員に対して、長くかけて育てていきまして、なおかつ、その技術を教え込みながら仕事を少しずつ覚えさせ、一人前に育てていきまして、プロの職人さんというか、従業員を作っていくというスタンスを持っています。これはやはり違うのかなと思ったわけです。そういう意味では、これも長期的存続企業の一つの特質ではないかと思うわけであります。

後継者であります。これはもう完全に、先ほど申し上げましたように、圧倒的に違うやり方をしていると考えられるわけであります。最初に来るのは、やはり計画的・体系的な育成ということであります。つまり、最初に経営方針をちゃんと継承することから始めるわけであります。面白いのはやはり、今事業継承をして、息子さんたちが商売を継がないことの一番のポイントは、おやじさんの苦労を見ているからと言われるわけですね。すごい苦労をしまして、資金繰りとかいろいろなことをやっていまして、「こんな苦労をするんだったら、サラリーマンになったほうがいいや」みたいなことがあるわけですね。

ある社長が、「それは厳に慎まなければいけない」と、「意図的に自分の仕事の面白さを息子に告げようとしてるんだ」とおっしゃっておられます。仕事の面白さを意識して伝えながら、継承を促すということを、どうも意識的にされて、それだからこそ、次の人が、「まあ、継いでみようかな」という形になるのかと思ったわけであります。ポイントは、「社内に入ってから、どういう形で回していくか」というのが一番重要で、それを体系的にやっているのが、どうやら彼らのポイントになっているのです。老舗の人たちのお話を聞くと、すぐに自分の会社に入ってこないで、大体は一遍外に出るということをやるわけです。外の血を吸って、それから入ってくるという形です。

僕はどちらかというと、「まず外に行って、違った視点で自分の会社を見るのが重要かな」と思ったのですね。でも、どうやらそれは2番目の要素で、むしろ、「自分たちの培ってきたビジネスをちゃんと知る」というのがポイントです。そのときに、蓄えた外の知恵で、これがどうかということを考えるという、ある種のベースも加えておいたほうがいいというふうになっています。そういう意味では、どう考えても、内部で育てる仕組みというのが、どうやら老舗の基本的な特質ではないかと思ったわけでございます。

最後に活縁でございます。これは面白いことに地域価値のほうが上にあるのですね。個別企業の問題ではなくて、まず地域を先に考えているわけです。これは僕の想定とは違いました。僕は、もう少し利己的に、自分たちがいろいろなところで、他業種とか他の人たちと学ぶことによって、自分のビジネスのプラスになると考えて、案外いろいろ動いているのかと思ったのですけれども。どうも分析の結果からしますと、そうではないようです。そんな小さい志ではないということが見えてきました。

つまり、そちらのほうです。本当に、「地域をどうするか。それが巡り巡って、自分たちの会社の価値につながってくるんだ。業界の中でも、『うちだけいい』というのではなくて、業界として育っていくことによって、初めて自分の会社の位置付けも変わってくるんだ」という発想を持っておられます。これがやはり違うところかなと思ったわけであります。

今後の方針についても聞いてみました。これも面白いのは、今は老舗つまり長期存続企業というのは、日本の市場がシュリンクしてしまっているものですから、新たなものを考えないといけないというところで、海外に目を向け始めています。これは、すぐに成果が出るかどうかということは、まだ分かりません。それほど海外ということに対しては、すぐ出てくるということはかなり難しいことであります。ただ、今はクールジャパンとか、2020年に向けてということで、日本がもろ手を挙げてやろうとしていることもあるわけですけれども。それからしますと、やはり海外に目を向けることも、一つの在り方ではないかと思うのです。

さて、最後に少しもう1つ。実は老舗というのは変革と伝統、革新と伝統というべきだと申し上げました。つまり、変革のマネジメントというのは、かなり重要なポイントではないかと思うわけであります。そこの意味で、実は昨年から始めたのですけれども、要するに長期存続、「老舗の革新のマネジメントとは、どんなものかな」ということを、もう一度そこに焦点を絞りまして、「勉強しようや、調査しようや」ということをやり始めました。

つまり、老舗としての企業特性がありまして、規模もあるでしょう。これは案外、「規模が効いてくるかな」と思ったわけです。結局、会社として、変革に対して非常に積極的な企業風土を持っているところもあれば、そうでないところもあります。なおかつ具体的に言いますと、大体その会社の商品・サービスはコアなものです。これに対して、どういった変革を遂げてきたのでしょうか。つまり、「新製品・新サービスをやってきたから、うちは残っている」と考えているのか、「いや、改善でやってるんです」、または、「いや、守っているから、やってるんです」というような、ある種の基本的なスタンスの違いがあるでしょうと思っ たわけであります。

先代までのいわば変革のいくつかのやり方をどう認識していて、当代では何を変革して将来どういったことを変革したいのかということについて、いろいろ聞きました。一応、変えるというところに焦点を絞って、やってみたわけであります。これはサンプルをちょっと。先ほど、「90年は老舗じゃない」とおっしゃったのですけれども、これは60年以上も、「ちょっと本当か」という自分なりに疑義があったものですから、「少し年度を広げてみましょう」という形で調査しました。つまり、60年から400年以上のサンプルであります。変革のときに、「1つのやり方ではないな」と思ったわけです。先代までの変革と当代の変革というので、17項目と20項目を聞いているわけです。

そうしますと、5点法ですから、それぞれに対して平均点が出るわけです。それぞれの平均点の上と下という形で、グループを作ると4つになるわけです。

つまり、先代もそうですし、当代も比較的、相対的には変革をそれほどしなかったと思うグループです。これが、言ってみれば、伝統をどちらかというと重視するグループです。その逆は、先代も当代も変革を非常に進めているというパターンになります。あとは、先代までは変革しなかったけれども、今はしなければいけないという状況になりまして、当代は変革にスタンスを変えていったという、変換へ移動する形です。もう1つは、今までの先代までの変革をちゃんとベースにしながら、どちらかと言うと、それを定着していく形でそれほど大きな変革をしないという、この4つのパターンがあるのではないかと思ったわけであります。実はそれについて、今いろいろ分析をしているというのが現状であります。

ただ、面白いのは、この4つのパターンで平均の存続年数を比べてみました結果、分かったのが、存続年数には差がありません。つまり、どのパターンでもいいのですけれども、どのパターンをやったから、より長生きするということはないわけですね。つまり、どのパターンも、生き延び方としては同じということが分かりましたので、どうも1つの解ではなくて、いろいろなやり方があるということを一応発見したと思うわけです。

もう1つは、やはり同族経営という、いわば創業家の所有と経営のレベルが高いほど、伝統重視型に傾向が行くという形ですか。それは規模にも表れていまして、規模が比較的小さいところは伝統重視型になっています。規模が大きいところは、どちらかというと変革を定着するところが、割と今、規模の相対的に多いところになっています。今の段階で、どういうことが言えるかということですが、老舗の変革の一番のポイントは、創業家が自分たちの経営をどういう形で、創業家のいわば影響で、所有と経営に対してどういった関与の仕方をするかという意思決定の程度によって、実は変革のパターンが変わってくるのです。

もう1つは、規模に対して自分がどういった意思を持っているかです。つまり、「小規模・中規模でいい」のか、「いや、やはり規模は大きくしたい」のかという、規模に対するスタンスですね。この大きな2つの要素によって、どうも変革のパターンが違ってきているのではないかと思うわけです。いずれにしても、それが創業者・創業家のある種の志に基づいた形で、変革のパターンというのは、今のような変数をベースにしながら変わってくるのではないかというのが、今この分析から分かったことであります。

さて、以上のような形で、一応、私の話というのは長期存続の話でありました。基本は、地方の中でも、中小・中堅の方が長く経営を続けてくださるために何か役に立てば、僕にとっては、一番こういった研究をしたことの意味になると思っているわけであります。
そういう意味では、今回ここにお呼びいただいて、そこに少しでも、ある種の慨意というのでしょうか、ヒントを皆さんに提供できたとしたら、望外の喜びであります。
拙い話ではありましたが、これで私の講演を終わりたいと思います。ありがとうございました。