平成25年度第5回講座:ミーティングマネジメントとケーススタディ

岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾
岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾 平成25年度シリーズ

【第5回講座】ミーティングマネジメントとケーススタディ

講師
野田 稔氏(明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科 教授)
場所
鹿児島県 [「リバティークラブ」4Fホール(鹿児島市千日町15-15 リバティーハウス)]
放送予定日時
平成26年4月26日(火)12:30~13:30(60分)
平成26年4月22日(火)26:15~26:45(30分:ミーティングマネジメント編)
平成26年4月23日(水)25:30~26:00(30分:ケーススタディ編)他 ※以降随時放送

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野田 稔

明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授
株式会社リクルートホールディングス リクルートワークス研究所 特任研究顧問

1957年東京生まれ
1981年一橋大学商学部卒業 株式会社野村総合研究所入社
1987年一橋大学大学院修士課程修了
2000年野村総合研究所経営コンサルティング一部長
2001年多摩大学経営情報学部助教授
株式会社リクルート新規事業担当フェロー
2008年明治大学大学院グローバル・ビジネス研究科教授
専門は組織論、経営戦略論、ミーティングマネジメントなど
また人材マネジメント分野の開拓者でもある
著書: 二流を超一流に変える「心」の燃やし方(フォレスト出版)、野田稔のリーダーになるための教科書 (別冊宝島) (宝島社)、「組織論再入門―戦略実現に向けた人と組織のデザイン」(ダイヤモンド社)等

講義内容

ミィーティングマネジメント

野田:
まず一番最初に私のほうから、おそらく皆さんがお聞きになったことのない言葉を申し上げます。ミーティングマネジメントです。皆さんは社会に出られて会議やミーティング等、たくさんされていると思いますが、会議のない日というのはないかも知れません。ちょっとした打ち合わせを含めると、お仕事の中で人と人が会って話をしない日というのは、ないのではないでしょうか。必ずそういう時間をお持ちだと思います。

さて、このミーティングのやり方について、明確にトレーニングを受けたという実感がある方はおられますか? では、学んだ気がしない、何となく慣れて来ただけだという方はいかがでしょう? 全員ですね。ありがとうございました。今日はそのほんの一端ではありますが、いくつか味わっていただいて、皆さんのお仕事の役に立てれば良いなと思っております。また、その技法を使って、後半にはケーススタディ、実際に議論をして問題をいくつか解いていただき、ミーティングマネジメントの雰囲気を味わっていただこうと思っております。

まず、ミーティングの達人についてです。実際に議論をすることがうまい人がいます。うまくみんなの意見をまとめて、うまく人を導いて、会議の中で非常に建設的な意見を言って、皆さんに貢献できる人がいます。どんな人なのか観察をしてみました。

まず、話題の豊富さということが上げられます。議論をする上においてもやはり話題があるということは重要です。話題の豊富はどんな人かというと、好奇心が旺盛ですね。ミーティングの達人になろうと思ったら、まず日常生活から好奇心旺盛になることが重要だと思っております。私はよく学生に「おもしろがり力」ということを言っております。一見つまらなそうなことの中にも面白さというのは発見することができます。面白くなるとそれを今度は調べてみたくなるものですから、そうすると、どんどん話題が広がってきます。たとえこの講義がつまらなくても、是非おもしろがっていただければと思います。

2番目の特徴は、建設的であるということで、これは結構重要かも知れません。相手の話を頭から否定しません。「ああ、この人の言っていることは間違っているな」と思っても、1回は聞いてみます。もしかしたら相手の言っていることのほうが正しいかも知れないと、素直にまず受け入れてみるという姿勢が、話の達人にはあると思います。相手の意見を聞いて、「駄目だ」というのではなくて、「なるほど、確かにこういう観点からするとその意見もある。でも……」というように。相手の意見をベースにして、上にさらに意見を乗せていきます。否定をしないで議論を積み上げます。

それから、何と言っても聞き上手です。話し上手より聞き上手、口は一つだけど耳は二つとも良く言います。聞き上手というのは、本当の宝物になります。相手の意見をちゃんと目を見て聞いて、「なるほど」と頷いて、ちょっと相手が言いよどんだら、「それで?」と水を向けてあげると、相手は気持ちよく話すことができます。これが達人のワザとして必要なことです。

みんながお互いに引き出しあって、みんなが意見を言えるということも、達人のワザの一つです。そして最後に、みんなの意見を集約して結論に導くのですが、この時に重要なことは「全体最適」を考えるということです。自分にとって良いか悪いかではなく、全体にとって良いか悪いかを常に考えられるか、それが真の達人になれるかどうかの分かれ目です。しかも、全体にとって良いように話をまとめた達人は、後々絶対に見返りがあると思います。私利私欲に走ることなく、全体にとって正しいことに常に目を向けることも達人のワザの一つだと思います。

これらが達人になるコツだと私は思っておりますが、ちょっと具体的に皆さんにやっていただきたいことがあります。もう皆さんはお手元にどんどん書いていただいていますが、その通りです。メモ魔になるということが達人への一つの道であります。私は特にそうですが、人間は忘れっぽいものです。

これからお話する「ミーティングマネジメント」のルールを、2つご紹介します。雑談とミーティングは違いますから、目的をもって結論に向かって、みんなを動かしていく技法について、頭の中に入れておいていただきたいと思います。

それから3番目は、先ほども申し上げましたが常に「Win-Win」を考えようということです。中には、なかなか意見を言えない方もいますが、そういう人の意見で大きくミーティングが前進することもあるのです。意見を言えた方もハッピーですし、ミーティングの仲間もみんなハッピーになれます。互いに気を配りあうこと、相手の意見を封じ込めたり叩きつぶすのではなく、むしろ引き出すほうが議論の達人であります。お互いに相手の意見を引き出して、「Win-Win」の関係を結んでいく。そして全体のために議論の結論を導いていく、というのが良いと思います。

今日は具体的にいくつかのお話をいたしますが、まずファシリテーションとロジカルシンキングから、お話を進めたいと思います。

ところで、良いミーティングとは何でしょうか。これは、私が教える大学院のクラスで、ミーティングマネジメントの一番最初にやるワークですが、良いミーティングの条件をそれぞれ出してもらいました。そうしたところ、次のようなものが出ました。

まずアジェンダ、会議のテーマ、議題のことですが、これが明確であること。これが最も多く出ました。言い方を変えると、議題の不明確なミーティングは、どんなに努力をしても結論が出ない、結果が出ないということであります。今日は一体何のために会議をするのか? 何が結論なのか? ここを全員で共有するところから始めなければならない、という意見が最も多く出ました。その結果、判断が下せるのです。結論の出ない会議は面白くありません。

長い時間の会議で悩んでおられるのか、短時間という意見が出ました。「では短時間というのは、あなたたちにとってどのぐらいのことですか?」と皆さんに聞きました。私にとって15分の会議は十分に長いですから、15分という答えを想定していましたが、3時間という答えが出ました。「3時間で短いのですか? では、いつも何時間やっているのですか?」と聞いてみると、「まあ6時間ぐらい」と言われるのですね、それは辛そうだなと思いました。慣れて来ると、ミーティングは短時間化できます。だんだん慣れて行って、そこに向けてチャレンジしていくといいですね。

それから、全員発言できるような会議であること。議論するポイントが明確であること。やはり参加者自身がそのミーティングに満足できることが大切です。ミーティングの目的は共有されていなければなりません。

あと面白かったのは、必要なメンバーに絞り込まれていること、と言われた地方公共団体の方がおられました。よほど大勢来るのだなと思いました。必要な人だけでやりましょう。

それから、メンバーの納得も大切だけれども、会議参加者以外の納得のいく結論が導けると良いという意見。これは高度なことです。会議というのは、そこに出ない人のことも考えてあげなければいけないという概念ですが、これは重要だと思いました。そのためには、意思決定のプロセスが納得いくものでなければいけません。どういうプロセスで意思決定したかを後で説明できなければなりません。また、どういう基準で決断したかを明確に説明できなければいけません。「何となくです」とか「一番年上の人が頑固だったから、仕方なくこうなってしまった」というのは駄目です。

それから、参加者が事前に準備をして来ること、これもそのとおりですね。他には建設的発言で先に進む、次に進めるという議論が出ること、下手に蒸し返さない。活発に議論ができる雰囲気、利害に中立なファシリテーター、しっかりと行動につながる、人の話を聞き理解するといった意見が出ました。

これはなかなかいい議論ができたと私は思っておりまして、是非こんなチェックポイントを皆さんも会議をする時に使ってみてください。「そういえば全員発言できてないな」、「発言のない人に促してみようかな」というようなことです。
では具体的にこれを進めるための技術の話になりますが、これは非常に簡単です。私は「板書道」と言っております。板書と言いますのは、今ここにホワイトボードがございます。このホワイトボードを非常に私はよく使います。お客様のご意見をとにかく、どんどん書いていきます。ここで躊躇をしてはいけません、かっこいいことを書こうなんて思っては駄目です。もうとにかく、聞いたことを、とにかく書けばいいのです。

このボードの一番左下のところに今日の議題、「本日のアジェンダ」を書きます。1、何々、2、何々と書いておきます。終わったら、消してもいいですしチェックをしてもいいです。右上のところには、必ず今日の日付を書いて、何番目のボードかを書きます。1面を消したら、2に変わっていきます。先ほども言いましたように人間の記憶は非常にあやふやなものです。人の言った意見を忘れるどころか、自分が何を言ったかも忘れてしまいます。ですから、書いて残しておくことがとても大切になるのです。

誰が書くのかというと、通常は書記役で、その会議で一番若い方がその役を担うことになると思います。これは、トレーニング上はとてもいいことですが、私は、本当に意思決定をしなくてはならない会議の場合には、むしろ議長が書きなさいと言っております。それはなぜかというと、ここに書かれたものだけが正式に議論として残ってしまいます。ということは、書いた人が責任をとらざるを得なくなるわけです。その会議で責任をとれるのはその会議の長ということになりますから、私はむしろ会議のリーダーがリードをしながら書いてください、と言います。これがミーティングの基本技術で今日覚えていただきたいことの1つ目です。

2つ目は、コントロールされた議論という考え方です。これはなかなか難しいと思いますが、やっていくうちにだんだん慣れてきます。常にファシリテーター、リーダーを中心にハブとスポークのように議論するべきであるという考え方です。

誰かリーダーを1人決めます。その人が、「誰かこれについて意見はないですか?」と投げかけます。そうすると、「僕からいいですか?」と言って誰かが意見を言います。普通はそれに対して他の人がいきなり発言するところですが、それを禁じてしまいます。誰かが発言をしたら、必ずファシリテーターが1回それを咀嚼します。「なるほど、今のあなたの意見は要するに賛成ということですね」それで「他の意見はないですか?」とファシリテーターが言って初めて、他の人が意見を言うのです。要するにメンバー同士で勝手に議論をさせないという方法です。

なぜ、このようなことをやるかと言いますと、通常議論というのは誰かが発言をすると他の人がそれに対して意見を言い、また別の人がそれに対して意見を言います。ファシリテーターはそっちのけで、みんなが次々に意見を言い合ってしまい、どちらの方向へ行くのかわからなくなるわけですね。あっちへ行ったりこっちへ行ったり、些末なことについて意見が出たり、何をやっているかわからなくなります。ですから、1回すべてファシリテーターが受けとって、議論の道筋を明確に進めていくというやり方を、特に会社の幹部の方々が集まる役員会などでやらせていただいております。

慣れていくと、ファシリテーターがいなくても、メンバー同士でそういう議論ができるようになってきます。すなわち、前の人の言った議論をちゃんと踏まえて、「誰々さんはこう言いました。でも私はそれに対して、こういう観点から反対です。」という意見が言えるようになってきます。そうなれば、もうこのハブ・アンド・スポークをやらなくても結構です。前の人の意見を受けて、次の人がそれに積み重ねるという建設的な議論ができるようになるまで、ハブ・アンド・スポークでトレーニングするということです。まずこの2つだけで結構ですので、やっていただくと、ずいぶん違ってくると思います。

ただこの2つ目をやるときに必要なのがファシリテーターの存在です。一番重要な心構えは何かと言いますと、いい気持ちで誰かが話しているときは、全員がいい気持ちとは限らないということです。

ちなみに今は、私が話しておりますので、私がこの中でたぶん一番いい気持ちです。聞いている皆さんよりもずっといい気持ちなのですけれども、聞いてるほうはそれほどでもないのですね。会議でもそうです。滔々と弁じているほうは気持ちいいのですが、聞いているほうは「長いな」と思うわけです。ファシリテーターはその聞き手の心の代弁者にならなければいけません。ですから、本当にファシリテーターは大切です。誰かが長話をしていたら、「ごめんなさい、ちょっと長いので要点をかいつまんでいただけますか?」とか、「人の話は遮るな」と言いますけれども、ファシリテーターだけは遮ってもいい、いや遮らなければいけないのですね。それから論旨が明確でない場合は「ごめんなさい、私はあなたの意見がよくわからなかった。賛成ですか?反対ですか?」と。それは、聞き手の代弁者としての発言になるわけです。ですから、相手に理解をさせる、議論を進めていくための発言を大切にするという役割になります。当然、発言をしない人にも発言してもらう工夫をします。それから、時間でメリハリをつけていくことが必要になります。

ちなみに、無言の人や、反論ばかりをする人など、困った人が会議に出てきます。その人たちに対しては、もちろん毅然たる態度をとっていただきたいのですが、同時に思いやりも持っていただきたいのです。なぜあの人は沈黙しているのだろうか、なぜあの人は否定的、消極的な意見しか言わないのだろうか、その気持ちにファシリテーターは寄り添い、心の中の小骨のようなものを抜いてあげるという優しさ、思いやりも必要になります。

繰り返しますが、ディスカッションというのはリーダー、ファシリテーターが管理するものです。スケジュール管理、平等の管理、ルール決め、色々なことをやらなければなりません。ルールは皆さんで決めていただければ良いですが、私はいくつか事前に言うことにしています。例えば、「会議中だけはメンバーは対等にしよう」という約束です。ですから「会議中メンバー間では、さん付けで行きましょう」という話をします。「批判は要りません、意見を出してください。反論は大歓迎ですが、その場合には論拠と代替案を出してください」、「会議中の電話は受けません。携帯は必ず留守電にしてください」、「毎回、アウトプットを何か決めましょう」など、いくつかのルールを皆さんなりに作っていただければよろしいかと思います。

あとは具体的にテクニックがいくつかありますが、今日は時間の関係もありますので簡単にご説明します。まず、まとめに入ったときのテクニックですが、2×2のマトリックスで分類するといいと思います。重要か重要でないか、解決が容易か、それとも難しいかで、それぞれのアイデアを相対的に並べていきます。当然、解決が短期でできて、しかも重要な案件からこなしていくのが一番です。逆に解決が困難で、それほど重要でないものに手をつけても効率が悪いので忘れてしまったほうがいいですね。なかなか判断に困るのが、それほど重要ではないけれど簡単に解決できそうな問題と、とても重要だけど時間がかかりそうな問題との優先順位付けです。この2×2のマトリックスというのは非常に便利ですので、いろんな軸を作りながら考えていただくといいと思います。

ちなみに欧米の方はTフォームというのを好みます。YesかNoを、Tフォームに並べていきます、二分法が好きなのですね。ところが、日本人が二分法をやると決まりません。二分法と基本的には同じことですが、この2×2でやると、アナログ分類ができるのですね。ですから私は日本人には、こちらのほうが合っていると思っていまして、「どんなものでも2×2で分類してみれば最後はまとまりますよ」と言っております。

まとめの時のもう一つのテクニックが、「一言で言うと」というまとめ方です。「一言で言うと」「誰にどんな価値をどんな方法で提供するかを一言で言うと……」等、をトレーニングするためには、3秒間で自己紹介をするというのが良いです。これは今日はやりませんが1回やってみてください。3秒間で自分を表わします。ちなみにもう一つ難しいのは3時間自己紹介をし続けることです。3時間人を飽きさせないのはなかなか難しいですが、逆に3秒間で自己紹介するのも難しいのですね。是非そのようなトレーニングも帰られてからやってみてください。
また、逆炉端焼き方式と言っておりますが、ポストイットを使いながら、みんなの意見を収斂するやり方もあります。発想を広げる方法というのもあります。「そもそも」という言葉を議論の中に入れていくのも便利なやり方です。発想をするときに、「クニハキレイ法」(※)といった頭の使い方もあります。それぞれ、これは皆さんが実験していただければいいことでありまして、一つ一つ是非試していただければよろしいのではないかと思っております。

愉快なファシリテーションと言うものもあります。グラフィック・ファシリテーションという手法です。先ほど私は、「文字で書きなさい」と言いましたが、これをなんと漫画で描く人がいます。絵も会議を進める手法として、なかなか良いです。ですから、漫画のうまいメンバーがいた場合は、みんなの意見を聞きながら、インスピレーションをわかせて、絵をどんどん描いてもらいましょう。それもファシリテーションをする上で非常に有効な手段になります。
さて、それではお話ばかり聞いていてもつまらないと思いますので、ここで一つロジカルシンキングの実習をしてみたいと思います。最近よく聞かれるこのロジカルシンキング、論理的思考力という意味ですが、これは何のためにあると思われますか?

大脇:
自分のイマジネーションといったものを表現するための一つの方法だと思います。

野田:
最初から正解が出てしまいました。その通りです。実はロジカルシンキングというと論理をたてて考える仕組みを身につけることによって、自分の考えが深まるという思考だと思われる方がとても多いのです。確かにその一面もありますが、大脇さんがおっしゃったように、実は自分の頭の中にあるもやもやした考え方を、人に説明しやすくする手法なのです。

人にわかりやすく説明するということは、当然ながら自分ではもっとわかりやすくなるわけです。自分はこんなことを考えていたのだ、と頭が整理されます。ロジカルシンキングというのは表現法の一つなのですね。人間の頭は放っておけば同じところをぐるぐると回ります。これでは人にも説明できませんし、自分でも何を考えているのかよくわかりません。これを整理するための手法がロジカルシンキングです。特に、人にわかりやすく自分の考えを説明するための手法として生み出されたものです。ですから、頭が整理されて、人に伝わりやすくなります。

ロジカルシンキングで考えが深まるというのではなく、ベテランの直感力のほうがずっと優れているのです。しかし、残念なことに直感は人に説明できません。「なぜそのように決めたのですか?」という時に、「直感だ」というのでは説明になりません。ロジカルシンキングそのものは、考えを深めるものではありませんが、整理をすることができますし、さらに言うならば直感を裏付けることもできます。

ロジカルシンキングにもいくつかの作法があります。色々な本も出ておりますので是非勉強していただきたいと思いますが、今日はツリー構造を描いて物事の説明をしていく、ツリー図、樹状図というやり方をお話しようと思います。本物のロジカルシンキングを身につけると、人にわかってもらいやすくなります。そしてシンプルに物が言えるようになります。整理されて物が言えるようになりますので、複雑ではなく簡単に物が言えます。そのように考えていただければと思います。

樹状図とはどういうものかと言うと、木のように下に行くに従って広くなっていく、そういう形にするということです。例えば、結論があるとします。なぜこの結論になったかと言うと、例えば、「3つの理由があるからなのです」となります。理由1、理由2、理由3、で、その理由1の裏には、2つ理由がさらに隠れていて、理由1の1、1の2があります、というようなものです。この理由3の下にも実はいくつかの理由が隠れていて、3の1、3の2、3の3とあります。「だからこういう結論になるのです」というように、ツリー図を描くことで構造を明らかにすることができます。つまり、ややこしい問題をこのような構造に書き直していくという手法です。

ですから、説明をするときには、「何々は何々をすべきだと思います。その理由は全部で3つあります。まず最初の理由は何々でありますが、なぜこれが言えるかと言うと、これとこれがあるからです。2つ目の理由は何々です。そして3つ目の理由は何々ですが、それがなぜ言えるかと言うと、さらに3の1、3の2、3の3があるからです。だから、やはり、これはこうするべきです。」と、このような説明の仕方をすると、非常にわかりやすいわけですね。複雑な問題を、簡単な構造にまとめて、それをプレゼンテーションに持っていくこと。これがロジカルシンキングの作法の1つ目になります。

さて、よくロジカルシンキングで言われる、「ミッシー」(MECE:Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive)という言葉を聞いたことがおありかと思います。重複も漏れもないことを、ミッシーといいます。例えば、理由の1と2の間には重複もなければ、足りないものもないという状態に作る必要があります。理由の1と理由の2が同じことをいっているのならば、2つも要らないことになりますから、重複も漏れもないようにすることで、さらにわかりやすくできます。

ここから演習をしてみたいと思います。「あなたは、新規事業の開発室長です。今日の午後、幸運にもCEOと直接話をする時間をとることができました。しかし時間は5分しかありません。あなたは今、検討中のA事業を早急に展開すべきと考えています。」

ということは、結論は「A事業を展開すべき」ということになります。お分かりでしょうか。樹状図の結論のところに入るのは、「A事業を展開すべき」という結論です。そのA事業ですが、いろいろとあります。例えば今後急成長することが市場調査の結果わかったとか、元々あった自社技術をベースにできるため技術の優位性があるということがわかっているとか、確かに競合他社は存在するけれどもいずれも小規模会社なので、自社が本格的に参入をすれば今ならば優位が保てるということがわかったとか、逆に市場が成長しているこのタイミングで参入しておかないと、自社よりも大きな業者がいい市場ポジションをとってしまった後では入れなくなるとか、実は物流網の整備が成功の一つだということがわかっていたが、ここで買収によって新たな物流拠点が獲得できるとわかったので、競争優位になるとか、元々このA事業というのは差別性のある事業でCEOに前から言われていた「我が社の収益性を改善せよ」というこの大きな命題にあっているということがわかったとか、今これらを説明するのに大体3分ぐらいかかっています。呑気なCEOというのは世界中に1人もおりません。ですから、これは30秒で報告をしてください。よろしいでしょうか。今から5分差し上げますのでテーブルごとに議論をして、樹状図を描いて30秒間のプレゼンテーションをやってください。

はいスタート。繰り返しますが、A事業に今すぐ参入すべき、というのが結論です。そのためには、どんな理由づけをしてあげたらCEOがうんと言ってくれるかです。さあ大丈夫でしょうか。

よろしいでしょうか。では、どのチームでも結構ですので、ちょっとプレゼンをしてみてください。はい、お願いします。皆さん拍手。

A:
はい、まず結論から申し上げますと、A事業を早急に展開するために、3つの要素があります。まず1つが収益、そして、時間・タイミング、それから優位性というこの3点がこのA事業を展開するためには必要であるということです。

野田:
そうですね。

A:
まず収益性についてご説明しますと、差別性のある事業であって、まず高い収益を見込めるということ、それからタイミングについては、これは急成長をしている事業で「今、今でしょう」と今入る事業であると。それから競争優位性については、技術力と、それから小規模の事業者しかいないということ、それから物流についての買収があるということを描いております。

野田:
はい、素晴らしい。もう要素が全部入っていますね。要素は全部入っていましたけれども、残念ながら55秒かかってしまいました。構造はもう完璧で素晴らしかったです。どなたか30秒以内でチャレンジしませんか? 手が挙がりました、そちらのチームお願いします。はい、皆さん拍手。

B:
A事業を早急に展開すべきでございます。というのは、当社の技術を使った高い収益性のある事業であることが第1、そしてマーケティングで市場性を考えたときに、当社の今の環境に対して非常に競争優位性があるということです。そしてそれに付加する新しい事業も、今のところタイミングよく導入ができるということで、この事業を早急に展開すべきだと考えます。

野田:
はい、わかりました。ありがとうございます。30秒でしたが、ただ残念なことに物流という言葉が抜けていましたね。ではお願いします。

C:
A事業を早急に展開すべきということで要点が3つございます。まずは市場のところで、市場が急成長しており大きなライバルはまだ少ないということ。それから自社の優位性ということでは物流網の整備ですとか、元からあった技術的なところを優位としているところ、そして3点目が収益性、こちらは十分に高い収益性が見込めるということで、是非やるべきだと思います。

野田:
はい、わかりました。ありがとうございます。(拍手)今のも30秒ぐらいでしたね。皆さんよろしいかと思います。

構造化して見ると、このようになります。最初のチームが本当に明確に言っていただいたので、その通りですが、結論はA事業に早急に参入すべきであるということで、理由は3つあります。自社に優位性があることと、事業に高い収益性が望めることと、絶好のタイミングであるということです。優位性に関して見ると、技術優位、物流優位、規模優位。今はまだ小規模の競合しか出てないので、規模優位があるということ、そしてタイミング的に言うと、市場成長が開始されるところであり、しかも大手が参入する前である、ということです。

私自身はこんなふうにまとめて見ました。「A事業に今すぐ参入すべきです。理由は3つあります。我が社には技術優位性、先行者に比べての規模の優位性があり、かつ、この事業の成功の要因である物流網の整備が可能です。2つ目の理由は、そもそもA事業は高い収益性が望める事業であり、我が社全体の収益性向上に大きく寄与する可能性が高いということ。そして3つ目の理由はタイミングです。市場がまさに成長をしようとし、かつ大企業が参入していない今こそが参入のタイミングです。社長、是非事業化をご検討ください。」いかがでしょうか?

今日勉強したのは、色々とあるものを、構造化して説明していくということです。これによって自分の頭も整理されるということになります。これは日々のトレーニングです。自分の頭の中をいつも整理しようと思っていると、自然にできて来ると思います。今日はきっかけですので、面白いと思ったら、このような物の考え方や、構造化されたミーティングなど、色々なものに皆さんがチャレンジしていただければ、1年後には見違えるようになっている、と私は信じております。

※「クニハキレイ法」
ク:組み合わせてみる
ニ:似たものを考える
ハ:反対のものを考える
キ:キーワードは何か考える
レ:連想してみる
イ:因果関係を考える