平成24年度第4回講座:~長野県飯田市に見るその実践

岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾
岩崎育英奨学会 政経マネジメント塾 平成24年度シリーズ

【第4回講座】地域発展の戦略と人材育成 ~長野県飯田市に見るその実践

講師
牧野 光朗氏 [飯田市長(長野県)] 尾久土 正己氏 [和歌山大学観光学部教授] 金丸 弘美氏 [食環境ジャーナリスト]
放送予定日時
平成25年3月 2日(土) 6:00~7:00他 ※以降随時放送

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平成24年度シリーズのご感想・ご質問の受付は終了いたしました。


左から、金丸弘美氏、牧野光朗氏、尾久土正己氏

牧野 光朗

飯田市長

飯田市生まれ 早稲田大学政治経済学部卒
日本開発銀行(現日本政策投資銀行)入行
同フランクフルト主席駐在員等を経て、2004年10月飯田市長に就任 現在3期目

尾久土 正己

和歌山大学観光学部教授
天文学者

大阪教育大学大学院修了
佐賀大学大学院博士課程修了
学生自主創造科学センター センター長

金丸 弘美

食環境ジャーナリスト
総務省地域力創造アドバイザー
内閣官房地域活性化伝道師

高知県農業創造人材育成事業総合アドバイザーなど「食」に関する著書、講演活動等多数

講義内容

金丸:
こんにちは。

牧野:
こんにちは。

尾久土:
こんにちは。

金丸:
今、全国を回ると「地方は疲弊(ひへい)している」とか言われてますけれども、その中でやっぱり地域の創造力とか人材育成が一番重要だと言われてますよね。

牧野:
はい。

金丸:
その中で飯田市というのは観光誘致という今までの概念を変えて農家で修学旅行を誘致したり、ワーキングホリデーで人材をつくったり、再生エネルギーをいち早く取り入れて中小企業のマッチングで新しい創造的な事業をつくられたりと、今までの市町村と違った方向で新しいものをつくっていらっしゃる。すごく画期的だなと思います。それを飯田市はどのように行っておられるのかということで、今日は地域発展の戦略と人材育成についてのお話を伺っていきたいと思っております。

牧野:
はい。よろしくお願いします。

金丸:
牧野さんは2004年に飯田市長に選出されて、昨年10月に3期目をスタートされました。今までもきっちりつくられていらっしゃいましたけれど、尾久土(おきゅうど)先生は和歌山大学観光学部の教授ということで、まずは観光と市長さんがどういうふうなマッチングを飯田市の中でされたのかということ、あるいは交流のきっかけを教えてください。

牧野:
実は、尾久土先生と私は市長になる前からの知り合いです。私が市長になる前は今の日本政策都市銀行、当時は日本開発銀行という名前でしたが、その日本開発銀行に勤めているとき、1990年代アメリカの西海岸でITを中心とした産業と地域が結びついて、新しい運動を起こそうという動きがありました。スマートバレー、ジョイントベンチャーウェイという運動だったのですが、それを日本側に持って来ようという動きがありまして。実はそのときにスマートバレー・ジャパンという大きなネットワークをつくっていこうという運動がありました。たまたまその運動の中に2人がいたんです。入ってたのか巻き込まれたのかよく分からないのですけれど。

尾久土:
そうですね。巻き込まれたという感じですね。

牧野:
私はいろんな地域づくりのお手伝いをずっとしていたのですが、たまたまそのときにみさと天文台の台長さんをされていた尾久土先生と知り合いました。先生は天文台を中心とした地域づくり、人材育成をされていたので、ぜひ一緒に地域のお手伝いをしませんかということでお願いをしたのがきっかけだったんです。

尾久土:
そうですね。富山に行きましたよね。

牧野:
そうですね。

ナレーション:
銀行マンと天文台の台長という、まったく職種の違うおふたり。尾久土教授は天文台のインターネットシステムを地域に提供。牧野市長は行政と農家を結んだインターネット事業というITと地域を結びつけた、それぞれの地域づくりをきっかけに知り合いました。その後、尾久土教授は和歌山大学の教授に。その和歌山大学に国立大学初の観光学部ができる際に飯田市長となっていたのが、牧野市長だったのです。

尾久土:
私が大学教授になって少し経ったころに、うちの大学の教員から「牧野さんという人を知っているか?」と言われました。「よく知っているよ」と言うと「市長になってるよ」という話になりました。「え? 確かドイツに行ったはずなのに…」という感じでしたが、それでコンタクトして「会いましょう」ということで会いましたら、飯田市という所は観光で非常に頑張っているということが分かりました。そして、私たちは今から観光学部を立ち上げるということでしたので、それで意気投合しました。意気投合するのは、本当は学長でないといけないのですが、先に私が意気投合しまして。そのあとに学長をこちらに連れてきました。観光学部を立ち上げる和歌山大学としてはフィールドスタディの現場として飯田市を利用したいということで、包括協定を結びました

金丸:
それで天文学から観光学部と人材教育と農業体験ツアーみたいなことがマッチングするんですか?

尾久土:
そうですね。私が対象としている観光というのは、そういう天文台とか博物館、美術館、そういったものが地域の人たちの想像力を高める場になったりというものです。自分が天文台長をやっていたという経験もありまして、今までは教育学とか理学の方向からやっていたのですけども、観光学部があるのなら観光学の立場から、そういう社会教育施設を運営する方法を考えたいと思いました。観光学部の方はほとんどが文系の方なので、理系の頭でいろいろなテクノロジーを駆使して今は頑張っているところです。

金丸:
ぼくも農業体験ツアーというのを前に取材させていただいたんですけれど、一応かたちとしてはグリーン・ツーリズムと言っていますが、ヨーロッパの形態とはかなり異なっています。

年130校が修学旅行で農家450件も民泊して、しかも経済効果が今10億円。「農家に泊まって修学旅行を誘致する」というのを東京で聞いても全く意味不明なんです。「そんなことできるの?」みたいな。それでどういうシステムかといいますとワーキングホリデーをやっているということですが、ワーキングホリデーとは普通は海外でお金をもらって語学研修をするようなことを言います。それがこちらではお金は来る人が払って、体験して、年間で1,500人以上の人が喜んでいます。信じられないと思いました。
実際、視察に行ったらそのようなことが行われていて「なるほど」と思いました。今までの観光というのはただ物を見るだけだったのですが、日常に触れ合うということと、実際に体験して地域を知るということに喜びを感じるという新しい展開があるんだと初めて知ったんですね。

尾久土先生はその新しい観光について、実際に学生たちが行って、全く新しい概念が生まれてきたのではないかと思うのですが、そのへんはどうでしょうか?

尾久土:
飯田フィールドスタディということで夏休みなどを通じてこちらの農家民泊をやったり、いろんなメニューに参加したり、それからこちらで頑張っている方々、あるいは実践されている方々の生の声を聞いて帰ってくるんですけれども「飯田どうだった?」と言ったら、ほとんどの学生が言うのは「すごかった」と。「何がすごいのか?」と言ったら「いや、すごいんだ」と言うんですね。「もうちょっと詳しく言え」と言ったら「すごすぎて、なぜ飯田がこんなにすごいのかよく分からない」と言うんですよ。

牧野:
なるほど。

尾久土:
普通、自分たちの地元で考えたら起こり得ないことが進んでいるそうです。「それはやっぱり人だよね」という話をしたら「どうして飯田の人はそんなに積極的に動くんですかね?」ということをぼくにも言うんですけど「ぼくも分からないので、一緒に考えようよ。これは教科書のどこかに答えが載っていることではないので、じっくりと何回も飯田に通いながら、なぜ飯田の人たちはあんなにアクティブに動いているんだろう? ということを一緒に考えていこうよ」ということを今言っているところです。

金丸:
たしかに何度か行かないとあれは分からないですね。

尾久土:
そうですね。

金丸:
市長はその当時、修学旅行誘致でぼくらが取材に行ったとき千葉の方から学校の先生が来ていて、体験したら子どもたちは喜ぶ、泊まったらもっと喜ぶだろうということでした。ところが市長は当時「泊まることなどできませんよ」と言っていたのに例外があって、何もなくなって、それで公民館で話し合って「そんな先生がいたから、泊める事をやってみようか?」ということで、それを行政が支援して、そういう制度を1回やってみようということでやられたと思うんですけども。その当時の施策というのはなかなか難しかったと思うんですけれど。

牧野:
そうですね。結構その前からの流れがあると思うんですね。例えば飯田は「りんご並木と人形劇の町」と言われますけれど、人形劇の町になってから今年でもう35年です。ですから、35年前から人形劇の町としてやっていこうということを地域全体で考えてきているわけですけど、そのときももちろん「なぜ人形劇なんだ?」という議論がありました。とにかく全国の人形劇人たちがこの地域に集まってきて、ここで何日か泊まって、そして公演をやってもらうということになりました。その受け入れをしなければいけないという中で、公民館がその受け皿として非常にうまく機能したのです。この地域でのそのような地域活動の1つのベースになっているのは、実は公民館活動、これがあると思うんです。

これは地域の皆さん方が地域を知る、まさに学びの場であったり、あるいは地域文化を創造して発信していく場であったり、いろんな機能を持っていると思うんですけど、少なくともそこに参加をするということが、住民の皆さんにとって当たり前のように今は地域の中に浸透しているということがあると思います。ですから公民館活動をベースにしていろんなことをやっていこう、ということをやっている中で日本最大の人形劇の町になってしまいました。

それと同じように今先生から話がありましたグリーン・ツーリズム、エコ・ツーリズムという体験教育旅行が平成8年から始まるわけですけれど、最初のときはみんな「まさか、こんな所に泊まりたいなんて思わないだろう」ということで、言ってみればたかをくくっていたわけです。「とりあえずやってみようか」ということでやってみたら、たくさんの人が来るようになるわけですよ。そうすると、受け入れる農家の皆さん方が足りなくなってしまうんですよね。職員の皆さんが農家を回って「なんとか受け入れをやってくれないか?」と頼み込みに行くわけです。それも飯田市だけでは足らなくなって、周辺町村の方まで行って農家の皆さんを回って「なんとかしてくれないか?」と言いました。

まさかこういうことにそんなニーズがあるとは思いませんでした。先ほど先生からお話しがあったのですが、そんなにすごいことだとは思わなかったという感覚なんですね。だって私たちにとって当たり前の農家の生活にも関わらず、実はそれが他の地域の皆さん、特に大都市に住んでおられるような皆さんから見ると、すごいことなんだということを知ってしまったわけです。

農家の皆さん方は本当にご苦労されて「そんなにおっしゃるのなら受け入れよう。それでいつ来るんですか?」と聞いたら「明日飯田市に来るんですけど、いいですか?」と(笑)なんでそんなことを今やっているんだ、という話ですよね。そのぐらいドタバタしながら、それでもそのようなニーズにちゃんと応えられるような体制をつくってきました。

当時は本当に大変だったという話を私もお聞きしていますけれど、地域の皆さん方がそういうことを一緒になって考えてやっていくうちにこれがまた広がっていって、先生がおっしゃるように450件、それぐらいの皆さん方が受け入れができる体制まで持っていきました。

金丸:
先生から見られたらどうなんですか? 観光としては。

尾久土:
観光の世界というのは、昔はもともと温泉旅館とか団体旅行とか、いわゆる慰安旅行、あるいは神社仏閣、そういう所を回るということでした。飯田に来て思うのが、もちろんいろんなコンテンツ、観光資源はあるんですけれど、かと言って、例えば南アルプスの麓(ふもと)と言うんですが、そんなに山が見えるわけでもありません。それからリンゴ畑もあるけれども「リンゴ畑はほかの場所にもあるよね」と。それから「農家が合掌造りになっていて、立派な家に泊まれるのかな?」と思ったら普通の農家であるということで、何も特殊なものがないんですね。どこにでもあるものを使って、ようするに人間力で観光をつくっているというのがすごいと思います。

今までの観光というのは人間力ではなくて、そこにもともとあった一級の、いわゆるパンダ、動物園で言えば「パンダがいるから人が来る」みたいなことです。飯田の場合は「めずらしい」ではなくて「楽しい」、あるいは「自分たちが勉強になる」という新しい動きなのかなとは思っています。

金丸:
しかも、メニューアイテムが163ぐらいありますでしょう? 磯釣り、乗馬、カヌー、トレッキング、田植えがあります。しかも田植えについては、そこの何本かを刈るのではなくて、丸ごと全部刈るということです。そういうことは全国を見ても初めてで、丸ごと村がメニュー化されているという発想は前代未聞ですよね。

尾久土:
そうですね。観光の定義には次のような言い方があります。「非日常を体験する」。ところが飯田は日常を提供しているんです。

金丸:
なるほどね。

市長にお聞きしたいのですが、先ほど農家民泊、それから学校体験の迎え入れ、公民館活動が核となったという話ですけど、公民館活動というものが核になって130校も誘致できるような修学旅行になったという話を各地でお話しするんですが「なぜ公民館にそんなことができるの?」という話に必ずなります。

もう1つ、最近ものすごく話題になっていますけれども、太陽光のファンド方式で公的な所に太陽電池を入れる、それも公民館活動の中心になったということです。
それから、ここではレジ袋の廃止をかなり徹底的にやっていらっしゃって、二酸化炭素削減を商店街にまで促しています。これもどうも公民館活動から始まったとお聞きしました。ここの地域の力は公民館が核となっているようですが、飯田の公民館というのはどういうものですか?

牧野:
そうですね。これは同じ言葉なのですが、地域によってかなり受け止め方が違うところになっていると思います。私も気がついたのですが、他の地域でやっている公民館の話と飯田でやっている公民館の話というのは、どうも違うらしいんです。

他の地域で公民館は「箱」なんですね。1つの館としての公民館ということで、どちらかというとカルチャーセンターみたいなイメージで捉えられている所が多いように思います。公民館には公民館主事という方がいらっしゃるんですが、言ってみれば、その方は館を管理する管理人みたいなイメージを持たれています。ところが飯田の場合「私は今、公民館をやっているんだよ」という言い方をするんですが、これは公民館活動そのものなんです。箱じゃないんです。まさに活動そのもののことを言っているんです。そこにいる公民館主事といえば、それは館を管理するというのではなくて、むしろ公民館活動を事務局としてどのようにマネージしていくか、まさに地域づくりの核としてどのようにして地域をつくっていくかということを考える人そのものです。それが飯田市の場合、若い皆さんのキャリアパスになっているわけです。

若い皆さん方が地域に入って行って、公民館活動の中心として公民館主事をやります。5~6年主事をやってきて、そこで地域の何たるかを学んで、地域活動というのはどのようなものかというのを学んで市役所に帰ってきて、政策立案をする、そういうやり方をしています。つまり、それぐらい地域にとっての学びの場として公民館があります。

そこから、例えば人形劇のような文化的な活動が発信されたり、今先生からお話がありました再生可能エネルギーとしての太陽光発電の設置プロジェクト『おひさま進歩のプロジェクト』が出てきたり、さまざまな地域づくりや産業づくりの、まさに孵卵(ふらん)器みたいな役割を果たしているものなんです。

金丸:
なるほど。尾久土先生、これはまさに人材教育なんですけど、そういうところをやっぱりここの市は非常に目配りをしていらっしゃって、サポートも十分していらっしゃるように見えるんですが、そのへんはどうですか。

尾久土:
こちらでいろんな人とお付き合いをしていると「あしたは公民館があるんだよ。忙しい忙しい」と言って、忙しいと言いながら楽しそうな顔をしておられます。

人材養成を考えたときに、やっぱり自ら学ぶ、あるいは語り合う、そういう場が必要です。カルチャーセンターとか普通の学校みたいなものというのは教えてはくれるのですが、自分で考えたり、つくり出すという場ではないんですね。それが飯田の場合はカルチャーセンターではなくて、公民館活動をやってる人たちの役割分担というのは住民中心なんです。つまり、自治組織みたいなものが公民館活動になっています。当然、自然発生的にいろんなものが創造され、生まれてくる、そういう理想的なシステムができあがっているのかなと思います。

ただ、これは特殊なものではありません。飯田にしかない自然環境でやっているわけではなく、ただ単に「公民館は箱じゃなくて活動だ」ということさえ理解すれば、全国どこでもできるものです。

金丸:
やっぱり大きいのはそこに自分たちのノウハウが形成されて、自分たちで自主的運営ができるということですね。

尾久土:
そうですね。市から任されているというところ、そこが一番大きいのではないでしょうか。市が箱を管理して、そこで「使っていいよ」ではなくて、もうそこを任せています。任されたら、やっぱり住民も「じゃあ自分たちでものを考えようか」というふうになるんだと思います。

金丸:
飯田市には90ぐらいの中小企業があって、そのマッチング事業を今積極的にやっていらっしゃいます。今までは東京の大手メーカーさんとかに出すという形態だったものを「地域それぞれに力があるじゃないか」ということで、その力と力を組み合わせれば新しい創造があるのではないかということですね。

牧野:
そうですね。

金丸:
その中に水力発電やLEDの開発とかがあり、地域の新しい主体的なものづくりというところまでやっていらっしゃいます。

牧野:
そうですね。ようは、自分たちが持っているものをちゃんと見直していきたいということで、その地域の中にあるものをちゃんと自分たちとして認識しているかどうかということです。

まさに今言った産業づくりの中で、自分たちはこのようなものをつくっている、しかし、それらがばらばらにあったわけです。外から注文があったものを聞いて、それを正確につくって納期に間に合わせる、というようなところで産業づくりをしてきたわけです。ところが今はこれだけ海外にどんどん進出して行って、日本の国際競争力も危ぶまれるという中において、そういったビジネスのやり方だともう食べていけなくなってしまうという中で「じゃあどうするんだ?」ということを考えたときに、もっと自分たちが持っているものを見直そうじゃないか、ということになりました。見直して、組み合わせあるいは組み方によって新しい付加価値をつけていくことができるのではないか? という考え方です。例えば、精密部品から航空宇宙プロジェクトへの参入とか、今お話がありましたLED防犯灯や小出力発電機のような環境産業、そういったものにアプローチしていくプロジェクトが始まっているわけです。

それは地域づくりも同じなんですけど、自分たちが何を持っているかということをちゃんとまず認識して、つまり、ないものねだりをしても駄目なわけですよ。あるもの探しをして、それをどうやって使っていくかということを真剣に考えようということです。これは産業づくりでも地域づくりでも私は同じだと思います。それがちゃんとできていれば、先ほども尾久土先生から話があったように「何かすごいことをやっているぞ」ということになるわけです。でも、やっていることは当たり前のことなんですよね。ただみんなそれを認識していないだけなんですよ。「ある」ということを認識していないだけです。

金丸:
尾久土さんにお聞きしますけれども、今の「あるもの探し」、そこの中の新しい視点づくりだと思うんですけど、それは人材の今までの地域の問題の中で、どういうところにあるというふうに思ってらっしゃいますか?

尾久土:
「ないもの探し」は簡単というか、教科書を学べば教科書に載ってないものはないわけですから。それで、あるもの、地域の教科書というのはあまりないわけですよね。ですから日本全国の方、自分たちの地域にどういうものがあって、それが全国の中でどこがすごいのかということは知りようがないわけです。

例えば、われわれ大学の教員がよく「地域に来てください」とか言われます。和歌山でもいろんな自治体にわれわれが行って「先生、アドバイスをください」と言われるのですが、やっぱりわれわれは中にいる人ではないですから、教科書的なことは言えるんですけどもそこで「そうですか」と言ってもほとんど役に立ちません。その地域地域に何があるんだというようなものは、本当は自分たちしか分からないですね。だから、今必要なのは各地各地のテキストづくりというか、教科書はやっぱり東京中心の教科書がつくられていて、日本全国の教科書、あるいは世界の教科書はあるけど地域の教科書づくりというものが今は求められているのだと思います。

金丸:
今回も3期目になって今後の展開がものすごく楽しみなんですが、今後の施策というのはどういうところに力を入れていかれるんでしょうか。

牧野:
自分の市政経営を考えるときには2つの視点を持っていまして、1つは環境の視点。これは、これからのどのような政策を考えるときにも非常に重要になってくると思います。今の環境を考えて、経済においても環境と経済をどうやって調和させていくかという考え方、これはもう東日本大震災以来、日本じゅうにかなり広まっている考え方だと思います。

それとともにもう1つの考え方というのは、やっぱり人なんですね。環境という視点と人の視点。人の視点についても今は東日本大震災以来人と人との結びつき、あるいは人と地域の結びつき、あるいは地域と地域の結びつきということで「絆(きずな)」と、今年の漢字ひと文字ということで言われましたけれど、そういった人と人とのつながりというものもすごく重視されるようになってきていると思うんですね。東日本大震災になってから人々の価値観がそういう方向にかなりシフトしてきたという感じがするんですけど、その前から飯田というのは実はもうそういった環境と人というものにかなり重点を置いて、これから地域づくり産業づくりというものをどういうふうにやっていったらいいか? ということを地域の中で議論してきた、そういった地域だと思います。

特にこの人口減少、少子化・高齢化という非常に大きな構造的課題が今日本全国の地方にあります。なぜこのようになってしまったかということを考えると、やはり私たちの地域もそうなんですけど、若い皆さん方が高校を卒業すると大都市圏にどんどん出て行ってしまうんですね。そしてなかなか帰って来なくなっています。それで、地域としては少子化・高齢化という状況に拍車がかかってしまっています。

やはり若い皆さん方、いったんは外に出て行ってもいいんですけれど、ここに帰ってきて子育てはここでやる、そういった人材のサイクルを構築していくというのが私は非常に重要になると思っています。

私は総務省で定住自立圏構想(ていじゅうじりつけんこうそう)の委員をさせていただいてますけど、これはずっと私が言っていることなんですね。大都市圏と地方圏の間でそういった人材のサイクルをどうやって構築していくか、これを考えないといけません。そのためには地方として、ちゃんと若い皆さん方が帰ってこられるような、受け皿になる産業をつくっていかなければいけません。また、ちゃんとそこに住み続けるつもりになれるような地域をつくっていかなくてはいけません。なにより、いったんは離れても帰ってこようと思う人をつくっていかなければいけない、これが非常に重要だと思うんですね。特に最後の人づくりのところというのは、今まで行われている高校までの教育を見ていったときに、果たしてちゃんと地域のことを子どもたちに教えてきたのだろうか? 子どもたちはちゃんと学ぶことができたのだろうか? ということだと思うんです。これはもうどこの地方に行っても言えると思います。

ナレーション:
地域のことを教える・学ぶ・知る―この考えから生まれたのが、牧野市長が提唱する「地育力」。

牧野:
もともと「地育力」という言葉は私が市長になってから使うようになって、大分地域の中でも浸透してきた言葉なんです。地域で育てる力、まさに地域の子どもは地域で育てると、そういう考え方が大分地域の中で浸透してきていると思うんですね。

これは、言ってみればどうやって育てるかという中で、さっき「あるもの探し」ということを言いましたけれども、まさに飯田にある資源を生かして、飯田の価値と独自性ということを学ぶわけですよね。自分の中でそれを誇りに思う、そういう人を育てていく、そのための力ということで提言しています。

ナレーション:
人づくりに力を入れる牧野市長がさらに提案したのは、全国の大学に声をかけ形成した「知のネットワーク」。尾久土教授の和歌山大学も参加する「学輪IIDA」と呼ばれる組織です。

牧野:
先ほど体験教育旅行で修学旅行誘致の話がありました。これは小学生や中学生が中心でやっていたんですが、大学こそそういった、この地域を学んでもらうのに良い素材を飯田は提供できるのではないかと考えて、フィールドスタディというかたちでこのプログラムを大学生向けに開発していったんですね。そうしましたらそれこそ30大学以上の皆さん方が、自分の大学の学生さんや大学院生さんを送ってこられて、学んでもらえるようになりました。それを最初は飯田市と特定の大学との1対1でやりました。和歌山大学ともまずは1対1で協定を結ばせていただくというかたちでやらせてもらったんですけど、よく考えたら、これだけいろんな大学の人がいらっしゃるんであれば、これをネットワークさせればさらにすごいことになるんじゃないかと考えたんですね。

一番最初の話に戻るんですけど、まさにスマートバレー・ジャパンのやり方、その運動というものを、この大学のネットワークで活かせないか、そのように考えました。そういうことをすることによって、大学のまさに専門的な知識、技術というものを地域に活かしていくことができるということで、なんと今は27大学の先生たちが70人以上集まってくれまして、この「学輪IIDA」という、「知のネットワーク」と呼んでいますが、これに参加してくれるようになりました。

金丸:
なるほど。

先生はその中でどういうことを提唱し、またどういうふうなことを新しくつくっていこうとしていらっしゃるんでしょうか。

尾久土:
われわれ大学にとっては一番最初にこういう先進市と協定するときには自分たちの利益を考えるわけです。

金丸:
当然です。

尾久土:
そのときに「ああ、こんなに良い学びのフィールドはないな」と思いました。ですから、どちらかというと飯田からもらうばっかりと言いますか、学ぶばっかりというのを最初考えるわけです。それで飯田に入って来ていろいろ見ているうちに、本当に飯田からもらうばっかり、教えてもらうばっかりでいいのか? ということになってきたときに、これだけ大学がいっぱい集まってきたら、これはバーチャルですけども、日本で有数の先端の大学になっているわけです。研究施設ができたようなものなんですね。ということは、ここの集まった教員たちが飯田で最先端の研究成果を挙げてこそ、集まった意義があるんじゃないかと思います。

金丸:
なるほど。

尾久土:
せっかく集まったんだったら飯田の人たちとわれわれが世界のどこでもやっていないことをやっていけたらいいのかな、と思いました。その1つとして、わたしは飯田の博物館のプラネタリウムをわたしたちが世界最先端の技術として使っているデジタルドームシアターの技術でよみがえらせて、新しい学びの場として改革できるんじゃないか、という事業を共同研究で一緒にやっています。

金丸:
それは古い物があって、それをリニューアルして新しい学びのプラネタリウムにされたということですか。

尾久土:
そうです。20年ぐらい前になるでしょうか。

牧野:
そうですね。20年以上前ですね。

尾久土:
博物館ができたときにプラネタリウムができたのですけども、プラネタリウムというのは20年ほど経つと実は使えなくなります。多分もうやめるのかな、というような時期だったと思います。

牧野:
まさにそうなんですね。地域から見ますと、すごい知恵袋がいきなりできたという感じなんですよ。

今お話があったように、もう20年来の一番の課題、飯田美術博物館の最大の課題だった物がプラネタリウムなんですよ。いわゆる仕分けというやり方でやると、間違いなくもう廃止なんです。どう考えても1億円も投資してこれを更新するということは、地域にとってメリットを生み出すのは難しいと言われると思うんです。だけど私は「そこでやめてしまって本当にいいのだろうか?」と思いました。そうではなくて、もっとこれをうまく使うために何か良い方法はないかな、とずっと悩んでいたんですね。それはもう教育委員会もずっと悩んでいたんです。そうしたら、この知のネットワーク、学輪IIDA、ネットワークのことを考えていたら「そういえば、プラネタリウムの専門家がいるじゃない」と思いました。それで尾久土先生に「どうでしょう? なんとかなりませんか?」と言ったら「任せてください」という話になったんですね。

尾久土:
ちょうど私たちは、実験室レベルですけれどもハイビジョンの4倍の解像度のカメラシステムを使って、360度のドームに実写の風景を映し出すという研究をやっていたんです。それで、その話を聞いた瞬間に、観光で頑張っている飯田市、多彩な歴史・文化がある飯田市、それをもういきなり実践の場で使えるのなら協力しましょう、ということで、われわれが開発していたシステムと同じタイプのものをこちらに入れていただきました。今3年目なんですけども、学芸員さんあるいは住民と一緒に今度で10本以上のオリジナル番組をつくっています。

つくっていくうちに私が感動したのは、最初は学芸員と和歌山大学が一緒にやっていたんですが、どちらかというと和歌山大がプロデューサー、地元のことは学芸員さんがよく知っていますので知恵袋というかたちで一緒に番組をつくっていました。ところが、今つくっている、まさに天竜峡(てんりゅうきょう)の番組なんですけども、住民がプロデューサーなんです。

住民が自分たちの地域をPRする番組をつくりたいということで、自分たちで天竜川地域を歩いたり取材して、そうするとどんどん自分たちでも魅力が分かってくるんですね、大きなスクリーンですから。当初の私の目的は、プラネタリウムに行けば地域のことが分かるということでした。多くの博物館、海外に行けばそうですが、博物館というのは地域の顔ですから、そこの博物館に行けば飯田のアウトラインが分かるという場所にできたらいいなと思っていたのですけども、今回の番組づくりを見ていて「プラネタリウムで公民館運動をしようよ」というところに入ってきたのかな、と思いました。

金丸:
なるほど。つまり、その映像というのはほかの人に見せるというよりも、地域の人が探した資源を自分たちのために発表する場であり、自分たちを発見する場でもあるということですね。

尾久土:
そうです。360度が映るんですね。360度投影して、中に入ってこうやって見ているうちに、普段は狭い視野で地域を見ていたのが360度のカメラで撮るという活動を一緒にやっていると、多分今までのこういう視界とは違って、広がってくるんじゃないかな、と思いました。

金丸:
それで映像化することによって「うちの地域って、相当すごいんじゃないか?」ということですね。

尾久土:
そうです。相当すごいということに気づいてきたりとか、あるものがいっぱい見え出すんですね。

金丸:
それはつまり、あちこちいろいろとこれはどうしようもないと思っていた建物が、知的な人たちとの連携のネットワークで再生するとか、新しい価値観を生むというのがたくさんありますね。

尾久土:
何かギコギコと音がしますね。

牧野:
ちょうど今、ギコギコという音が聞こえてきましたけれど、まさに天竜峡は100年前に長野県内でも上高地(かみこうち)と並ぶ一大名勝地として賑わっていた地域なんです。それが、言ってみれば時代の流れの中で取り残されてきてしまったようなところがあったんですけれど、今尾久土先生からもお話があったように若い皆さん方も入って、この地域をもう一度再生をしていこうという動きが出てきているんですね。これを私たちは「天竜峡100年再生構想」と言っているんですけど、100年前の栄光を2~3年で取り戻そうといったところでそんな簡単にはいきません。けれど、100年あればなんとかなるんじゃないか、と思っています。

金丸:
なるほど。

牧野:
ええ。だったらその方向に向かって一歩ずつみんなで頑張ろうよ、そういう考え方なんですね。そこに今尾久土先生が入ってくれて、ドーム映像を使った番組づくりをやってくれています。

尾久土:
住民から見た天竜川と言いますか、その番組をつくるということなので、もうプロデューサーは住民というかたちでやっていったら、歌までつくっていただきました。「その歌はだれが歌うんですか?」と言ったら「いや、住民みんなで歌うんだ」と。ここの女将(おかみ)さんも実は歌に参加したりとか、中学生が歌ってくれるというので撮影に行ったんです。そうすると、最初の歌声の瞬間にもう涙が出そうになりました。みんな一生懸命で、子どもたち60人の声を聞いたときには「これが地域の力なんだ」と思ったんです。この子たちがオリジナルの歌を一生懸命に覚えて歌って、それがプラネタリウムで映って、次の世代に伝えられていくということです。だから「地域のことを学ぶ」と言ったら地理や歴史、ようするに社会でやらないといけないのかな、と思っちゃうかもしれませんが、全ての学校の授業の中で地域のことを考えたり、地域とつながっていくというものはポイントで入っていけるのかな、と思いました。

金丸:
今は地方の人口が下がって、高齢化が増えて「地域に産業がない」とか「若者がいない」とか言っているんだけど、どうも中央で話されているような感じがするんですね。

牧野:
そうですね。

金丸:
これからは地方が地方をもう1回探して、地域のノウハウの連携が必要だというのと、やっぱりプログラムとかテキスト化して、地域が主体的につくった創造性を中央政界に持って行くというふうな、逆の流れをつくっていかなければいけないと思うんです。それがこれからの地域づくりだと思うんですけど、そのへんはどうでしょうか。

尾久土:
地方分権という話なんですけども、今市長が言われていたように教科書が全国共通の教科書しか持っていないというのが非常に寂しいな、と思います。やはり地方分権の中で地域の教科書、地方の教科書というものをつくっていかないといけないと思います。そして作り手も、コンサルタントに頼んで書いてもらうんじゃなく、つくるベースとしての公民館や博物館というものを活用していく必要があるのかなと思っています。

それからもう1つは、一時カリスマというのが非常に注目されて、飯田でもたくさんのカリスマの方がいらっしゃるんですけども、そうすると「あそこはカリスマがいるから成功したんだよね」と。「うちにはカリスマがいないし」あるいは「カリスマを真似しようとしても、あそこではできたんだけど、うちはできないでしょ?」という話になるんですけども、じゃあどうしてこの地域でカリスマが生まれたのか? カリスマが生まれた環境は何だったのか? ということを考えてみれば、例えば飯田の場合は公民館であるということです。

だからこれから地域を考えるときに、成功例の結果の部分「こういう事業が行われています」「こんな事業をしたら人がたくさん来ました」みたいなところをいくら学んでも、人も環境も違うわけですからうまくいきません。もっとベースで「どうしてそういうことができたのか?」という根本のところ、そこをシェアしていかないと広がっていかないのかな、と思います。

金丸:
飯田市への注文ということであれば、できれば国の政策にもう少し情報を積極的に出していただきたいなと思います。

というのは、ぼくも飯田に行くまで農業体験ツアーというものについて見たことも聞いたこともないし「そんなものが現実にあるわけ?」みたいな感じでした。しかも、その公民館運動に関しても、今尾久土先生が言われたように若い人が主体になるって、全国を見てきたけど、若い人をそういう運営管理者に置くということ自体がほとんどないですよね。

牧野:
ないですね。

金丸:
それは革命的ですよね。その革命的な話が、やっと今分かってきて、これはもっと大々的に声をあげてもらいたいなと思います。

牧野:
今私たちがやっている活動というのが実はモデルになるということは、ここ数年で分かってきたことだと思うんですね。定住自立圏の話をしているときに、実は自分たちがそのモデルになるんだということを、ある意味で発見してしまったわけですよ。気がついちゃったんですね。

最近私は職員の皆さんにも言っているんですけど、やっぱり全国のモデルになり得るものがたくさんこの地域には取り組みとしてあるんだから、そういった自覚と責任を持っていかなければいけないということです。今までは、言ってみれば「なんで当たり前のことをしているのに、みんなそんなに「すごいすごい」と言うのかな?」という感覚の方が強かったんですね。けれど、やっぱりそこは私たちも学んでいかないといけないと思うんです。何がすごいのか? まさに今尾久土先生からも話があったように、私たち自身もどういうすごさなのかというのは自分たちで知らなくてはいけません。そうやって自分たちが自分たちのやっていることをちゃんと知ることによって、それを今度は人に話してしっかりと発信できるようになると思うんですね。

そういう中で、特に今一番私自身の中で課題だと思っているのは、やっぱり若い皆さん方、それもこの地域で育ってきている小学生、中学生、高校生、ここにどうやってそれをちゃんと教えていくかということだと思うんですよ。まさに、学校教育と社会教育をどうやって融合させていくかという、これが非常に大きな課題になっていると思うんです。

どこの地域でも小学生ぐらいまでは地域の活動に参加していると思うんです。祭とか、いろんなイベントとか。ところがそれが中学になると部活や塾だという話で、地域とだんだん疎遠になっていきます。極めつけは高校です。ほとんど地域とまるで関係ないよというようなところで高校生活が行われてしまっています。だけど、中学校のときには中学校で学べる事柄ってやっぱりあると思うんですよね。高校では高校で学べる事柄ってあると思うんですよ。それこそ、小学校、中学校、高校、そして大学と、地域で学び地域で育っていくという、まさに地育力の軸を通していくということが、私は今のこの地域にとって非常に大きな人づくりの課題だというように思っています。

金丸:
ぼくは高知県の農業人材育成事業を3年前からやっていて、農水省の地産地消拡大推進委員会をやってるんですが、その中で提唱したのがノウハウを持っている所の合宿です。高知県はそれをやりますと言ってくれて、食材のテキスト化とワークショップもやると言ってくれました。ぼくらの合宿には1泊2日で、馬路(うまじ)村農協などどんな農家の70歳のおばあちゃんも20個の質問を持ってこないと参加できないということにしました(笑)

牧野:
(笑)

尾久土:
(笑)

金丸:
40人ぐらい参加するんですけど、20個の質問って800になるわけですよ。そうしたら最初はおばあちゃんも「先生、何を質問すればいいの?」と。「いや、馬路村ってみんな働いているけど、給料はいくらもらってるか聞きたくない?」と言ったら「そら、聞きたい」とかね(笑)

牧野:
(笑)

尾久土:
(笑)

金丸:
「馬路村のポン酢っていくら利益が上がって、原料いくらかっていうの、聞きたくない?」「そりゃ聞きたい」と。「あるやん!」みたいなことで、そこから面白いことが生まれてきました。どうも中央主導ではなくて地域主導の方が結構面白いということが分かってきました。

だから飯田市にぜひ情報を発信してほしいというのは、せっかく尾久土さんたちと地域連携が生まれているので、これを大きく反映させて地域連携の中の地域力をつくってもらいたいなと思っています。

それで、いよいよ最後になってきたんですけど、地域主権を実現するべくそれぞれのお立場から総括的なご意見をいただきたいということなんですが、もう大体方向はきまったかと思います。

牧野:
出ましたね(笑)

尾久土:
そうですね。

金丸:
やっぱり今までのチャンネルを変えて、地域で見つけたものをきちっとまとめ上げて発信するのがこれからの地域主権じゃないかというふうに思いました。
それぞれ市長の方からひと言と尾久土さんからひと言お願いします。

牧野:
やはりこれからの地域づくり産業づくり・人づくりを考えていったときに、産業づくりも人づくりも一番は「人」なんですよね。その人づくりというものをどういうふうに考えていくかということだと思うんですけど、地域で学び、そして自分はこの地域で生まれ育ったことを誇りに思うという気持ちを持った人というのは必ず、自分自身もそうだったんですけど、やっぱり自分の子どもはこの地域で育てたいなと多分思ってもらえると思うんですよね。そういうふうに思うような地域にしていかなきゃいけないし、そういう人づくりをしていかなきゃいけないと思うんですよ。

いうなれば20世紀の高度成長からバブルのときの人づくりっていうのは、簡単に言いますと頭が良くて、行儀が良くて、人の言うことを聞いてそのままそれをする、マニュアル的と言えばマニュアル的だし、型にはまったと言えば型にはまった人を大量につくることに学校教育というのはすごく頑張ってこられました。それは高度成長しているときにはすごくうまく機能していたというふうに思うんですけど、人口減少、少子化・高齢化でこのままいったら地域が衰退してしまうというときの人づくりというのは、むしろ発想が豊かでラフかもしれないけれど創造力に富んでいて、もういろんなことを体験する中でいろんな発想ができる、わたしは「デザイン力がある」とか「デザイン的思考がある」という言い方をよくするんですけど、まさにそういう人がこれから地域をつくっていく、産業をつくっていくというふうになっていかなければいけないというふうに思っています。

ぜひそういった地域の人づくりのモデルを飯田でつくっていければと、そんなふうに思っています。

金丸:
ありがとうございます。

尾久土:
とにかく画一化された人をいくらつくったってこれはもうこれからの時代全く役に立ちませんので、それぞれの人がユニークな考えを自分で考えていくようにします。ただそのときに、これも先ほど言われたんですけど、まとめ上げる人「これとこれを組み合わせたらこんなものができるよね」って絵が描ける人たち、そういう人たちをつくれるよう、われわれ大学人は学生教育をやっていかないといけないなと思います。

模範解答を書ける、成績が良い学生をいくらつくったところでこれからの時代、われわれが経験がしたことがない事がどんどん起こっていくわけですから、むしろ雑多なものの中から新しい絵が描ける、そういう人材をつくりたいですね。和歌山大学あるいは全国の大学、特に学輪IIDAのネットワークを通じてわれわれはそういう練習をしていって、地域に貢献していきたいと思っています。

金丸:
今、市長から「デザイン力」というお言葉がありました。

牧野:
はい。

金丸:
これからのデザインというのは地域主体で地域のものをどう発信できるかということだと思いますが、そのへんの市長の考えるデザインというのを教えてください。

牧野:
そうですね。デザインといいますと、これまでは工業デザインとかあるいはいわゆるデザイン画みたいなかたちで非常に狭く捉えられていた部分があると思うんですけど、本来の意味はもっと広くて、まさにさっき申し上げた創造力とか創造性に直接かかわる、そういったものだと思うんですね。特に地域にそれを照らした場合、かなり地域文化と密接にかかわるものだというふうに思っています。今までは、例えば産業づくりの世界だと技術ということにはすごく焦点が当たっていたんですけど、デザインという考え方については日本はあまり焦点を当ててきませんでした。ところがおとなりの韓国はそういったところに力をそそいできたがために、今世界で大変な競争力を有するものになってきています。それは自動車にしろ、エレクトロニクス、例えばスマートフォンとかそういった物にしろ、そうだったと思うんですね。

ところが日本の場合は、やはり本来は地域の文化とそういうふうに密接に結びついた産業などもあって、そういったものの方が実は残っているんですよね。例えば飯田は水引産業はもう300年の歴史を持っていますけど、これなんかは冠婚葬祭の文化と結びつくことによってずっとこの地域に残って、まさに今全国70%のシェアを持つほどの産業で今でもあり続けています。地域文化と結びついたようなところから出てきている産業というのは息が長くて続く、というものを私たちは学んできているわけですね。

ですからそういった意味で、まさにこの経済と文化を融合させていくわけです。実は文化経済自立都市というものをわたしたちの地域の将来像に挙げているんですけど、この文化と経済を融合させていくということは、実は今までのこの地域の中で本当は今までずっとしてきたんだけど、われわれはそこのところをもう一度見つめ直す必要がある部分として、あるんじゃないかと思っています。

尾久土:
それこそアップルコンピュータのiPhoneだ、iPadだという物も、電話じゃなくてあれは文化をつくったんですね。

金丸:
なるほど。

尾久土:
文化をつくったから売れているわけです。機能がいっぱいあるとか性能が早いとかいう物じゃなくて、あれを使ってどう新しい文化を創造するかということを提案したために、世界中でヒットしたんです。

ですから今後、いろいろ情報発信をしていくときに、個々の結果の部分「こういう事業がこういうふうに行われています」っていう、個々の部分だけを発信しても、それは性能を言っているようなもので、スペックを伝えているだけです。そうじゃなくて、それによって生まれた新しい文化、あるいはそれを生み出した従来の文化、そういうものを発信していくことによって世界に通用する文化になっていくのかなと思います。

金丸:
その組み込みを今やっていらっしゃる再生エネルギーとか住民の暮らしやすい町並みづくりとかでやっていらっしゃいますが、新しいチャンネルをうまく組み替えた上で文化を融合させて、そのプロセスも含めて見せていく経済圏をつくっていくのはデザインということでよろしいですか?

牧野:
そうですね。技術と技術を切り離すようなかたちで、みんな切り離して切り離して考えてきました。さっき言ったように「型にはめる」というのはそういうことなんですね。型にはめて「これはこれ、これはこれ」ってしたんだけど、これからは融合させていきます。まさにその中で自分たち独自の文化というものを築いていく、これがやはり地域にとって必要になっていくんじゃないかなとわたしは思っています。

金丸:
それぞれご感想をいただきたいんですが。私は尾久土先生から「公民館活動が実は若手を送り出すんだ」とか、あるいは「コンサルタントに頼むんじゃなくて自分たちが自分たちを発見して、表現していくんだ」とか、それから市長の方から「公民館活動の中で自分たちが主体的に政策を挙げていくっていうスキルをつくってきたんだ」ということで、これは今までの考えから、あったようでなかった、気付くようで気付かなかった、これは本当に新しい地域力だな、というのが感想だったんですが。尾久土さんの方から感想をお願いしたいです。

尾久土:
わたしも今回の機会を得るまで、なんとなく思っていたんですけども、3人でお話ししていくうちに、やっぱりそうだったんだな、という感じでした。飯田がなぜすごいかということを「こうかな? ああかな?」とずーっと悶々と考えていたことがある程度まとまったので、このまとまったことが本当に正しいかということを今度は検証するために、学輪IIDAのネットワークやうちの学生の力を借りて、もう1回ポイントを絞って飯田を見てみたいと思います。

金丸:
市長、最後に。

牧野:
いやもうおふたりとこういったかたちでお話をさせていただいて、私自身もあらためて自分たちの地域を自分たちでつくっていくということの意義を感じたように思います。これからもぜひこういったネットワークをわたしとしては大切にさせていただければと思います。そしてぜひほかの地域のいろんな治験等も教えていただきながら、地域としてしっかりとわたし自身も学んでいきたいと、そんなふうに思いました。

金丸:
どうもありがとうございました。